その捕虜は牢屋から離れたくない

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1章 敵国の牢獄

1-50 どちらも危険

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「楽とは?」

 引きつった笑顔でクーリミオンが俺に聞く。

「うーん、上下どちらも餌を狙っているからなあ。まだ、あの部屋に戻る方が近いが」

 けど、あの部屋の存在をラウトリス神官にも知られてしまう。
 教会側の人間があの部屋を知ったらどうするのか憶測の域を出ない。うーん、秘密にしておきたいところだ。
 となると、階段を上ることになるが、楽ではないなあ。
 ここからでは黒ワンコ化してないのが、まだまだ多く残っている。

 しかも、時間が悪い。
 闇は夜の活動を好む。

「戦闘は必須だと?」

「先ほども言ったがお前は戦力に含んでないから、大丈夫だぞ」

「言われれば言われるほど不安になるっ。何だ、これっ」

 それはお前が素直に俺の言葉を受け取らないからだ。
 俺が階段を上ってラウトリス神官を抱えるセリムの横に立つと、クーリミオンも慌てて階段を上る。

「上で良いのか」

 セリムが確認する。
 俺の行動ですぐさま察してくれるのでありがたい。

「ああ、上に向かう。けど、その状態のラウトリス神官は旨そうな匂いを辺りに撒き散らしているからなあ。困ったもんだ」

 俺の肩までよじよじ登って来たエセル一匹が俺に耳打ちする。エセルは他の者には見えていないし声も聞こえないので、普通に提案してくれてもいいのだが。返事はしないが。
 気遣いには素直に感謝するけどね。

「うーん、仕方ないか。来いっ、黒ワンコっ。先着二匹までっ。早い者勝ちだっ」

 俺は光の先に向かって言う。

 わんわんっ。

 尻尾ふりふり嬉しそうな黒ワンコが二匹、俺の足元に現れた。
 他の黒ワンコたちが悲しそうに光の端にウジョウジョ映る。
 クーリミオン、見なかったことにしろ。ヒッと後退ったことは忘れてやるから。
 黒ワンコの方は誰にでも、たとえ魔力が皆無であろうと見えるからな。

 二匹いないとさすがに無理だろう。
 欠損部位が多過ぎる。
 右腕すべて、左手首まで、左足が腿のところまで、内臓一部が消えている。
 痛覚さえも奪われている。
 放っておけば。

 人体の欠損を補えるのは聖女の魔法ぐらいだ。現時点で聖女様はどこの国でも確認されていないらしい。
 普通の治療魔法は傷を塞ぐだけだ。切られた部位が新鮮なまま残されていればつながるかもしれないが、闇に食べられてしまった部位は元には戻らない。

「黒ワンコ、ラウトリス神官と契約しろ。欠損部位を補完しろ」

 わんっ。

 俺の命令に了承の意の元気のいい鳴き声を発する。
 すぐさま、かぷりとラウトリス神官に噛みつくと同時に黒ワンコ二匹は消える。

 さすがに服や靴までは復元しなかったが、ラウトリス神官に手足が戻る。
 ラウトリス神官は自分の状態がわかっているようだが、まだ動けないようだ。

「うわっ、何、あの黒ワンコ。欠損部位を治せるのか?」

 クーリミオンはなくなっていたはずのラウトリス神官の手足をマジマジと見る。

「違う、治したわけではない。言葉の通り、欠損部位を補完しただけだ」

「それでも人には有効だと思うけどなあ。あんなに数がいるんだし」

 クーリミオンは親指で指し示す。
 お前はこの環境にもう慣れたのか。

 光の端っこでまだまだ目を光らせているもんねえ。
 契約してない人間がまだいるじゃないかって。

「やめておいたら?人外を肉体に宿すなんて、非常事態じゃなければやらない方が安全だ。人外は人の言葉を話すが、人を真に理解することはないし、俺たちも彼らを理解することはできない」

「そ、そうか?」

 きゅーんとパタパタと尻尾を振って、クーリミオンに媚びる一匹がいる。
 ううっ、と目を一回固く閉じるクーリミオン。
 見た目は可愛いからな。その姿は俺のせいだが。猫でも良かったが、猫だと収拾がつかなくなりそうなので泣く泣くやめた。イメージが大事なので、ここは忠犬である。色が黒のままなのは仕方ない。元の色だ。

「要検討でっ」

「元はここの化け物だからなあ。制御できる力がなければ、契約はやめておいた方が良いぞ」

 血のきちんとつながった皇族でもなければ。
 産み出した血が数代前の皇帝のものだから、一応皇族であれば命令は聞く。
 皇族でなければ契約したとしても従わせられるかどうかは己の力量加減による。

 ナナキ氏は普通に大丈夫だが、他のヤツらは自己責任。
 ラウトリス神官は非常事態なので仕方ない。
 両手片脚を失っただけではない。内臓の一部が消えているということはすでに死ぬ一歩手前だったのだから。
 血が流れていないから、そこまで悲惨そうに見えないようだが。

「元はここの化け物?じゃあ、まだ悪寒がするのは?」

「お前も狙われているからだろう。人間は餌だ」

「、、、手っ取り早く黒ワンコ化できないのか?」

「、、、コツコツと頑張って一匹ずつ黒ワンコ化している最中だ。報酬も出ないのになあ」

 俺も闇を吐き出すぞ。
 報酬といえば、勝手に長距離空間魔法陣の部屋はもらうが。
 それぐらい許されるだろ。
 もうあの部屋は俺の許可なく出入りできませーん。

「うぇっ、ここから戻ったら、報酬の件は皇弟に掛け合うからっ」

「俺も一つや二つずつなら対応可能だが、さすがに数が増えれば増えるほど対処は難しくなる。クーリミオン看守、この意味わかるな?」

「はーい、わかりますー。クロウ様っ、頑張ってくださいー、応援してますー」

 無責任な応援はやる気が出ないなあ。

「クロウ、俺にできることがあれば言ってくれ」

 全面的に信頼している視線を向けられるのもまた困るんですけど。

「セリムは動けないラウトリス神官を地上に戻すことを最優先にしてくれ」

「わかった」

「ええっ、俺のこともちょっとはかまってよ」

 クーリミオン、お前の方がセリムより魔法は得意だろうがよ。
 自分の身は自分で守れ。

「セリム、後のことはこちらでなんとかする」

「超カッコイイーっ、クロウ様ーっ」

 一応睨んでおくか。
 クーリミオンが静かになった。

 最初から沈黙しておいてくれ。

「疑似神剣」

 俺は謎の空間から剣を取り出す。
 鞘がない剣は神々しく輝いている。

「はあっ?」

 反応がイチイチうるさいな。

「いやいや、何だよ、疑似神剣って」

「俺、神聖魔法と呼ばれるものはさほど使えないんだよ。けど、武器は必要だろ。リンク王国で宮廷魔導士団の上級魔導士の研究を手伝ったときに出来た産物がコレ。ちょどいいだろ」

「ちょうどいいけどっ、リンク王国っ、何ヤバイもんを作ってくれてるんだーーーっ。しかも、何で研究成果物を王宮で管理してなくてクロウが持っているんだよっ」

「いや、その上級魔導士が意図して作った剣じゃなくて、いらんと捨てたから、俺が貰っておいた」

「リンク王国の魔導士ーーーっ、馬鹿なのかーーーーっ」

 クーリミオンが叫ぶ。
 地下の螺旋階段に大声が響く。

 リンク王国の宮廷魔導士団は、なぜか研究目的とズレたものを多く作り出す不思議な集団だ。目的から外れたものは捨ててくれと言われるので、俺がもれなくすべてもらっていた。
 それ自体を研究成果として発表する気はまったくないらしい。偶然できた産物を発表しても恥ではないと思うのだが。貴族の価値観は結局最後までわからなかった。

「もういいか?クーリミオン看守」

「くっ、他にも変なもの持ってそうで怖いっ」

「じゃあ、せっかくだから疑似神盾小型版を貸してあげよう」

「ああっ、さっそく変なものが出て来たぁー」

 何で泣きそうになるの?
 闇属性のものに対して、一番有効な盾じゃないか。
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