その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-49 廃墟巡礼者

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「廃墟巡礼者?」

 看守クーリミオンが首を傾げた。

 時間は少々遡る。
 ラウトリス神官が地下の螺旋階段を嬉々として下りる前。
 俺とセリム、クーリミオンは大教会に向かう最中の広場を歩いていた。

「そう、廃墟や崩壊寸前の建物をこよなく愛し、それらを巡るのが趣味な者どものことだ」

「へえ、そのワケわからん趣味を持つのがラウトリス神官なわけねえ。あー、だから、この古い大教会を嬉々として掃除できるのかー」

「、、、お前のその解釈は少し間違っていると思うが、」

 大教会はまだ廃墟でも崩壊寸前でもない。ごく一部がそうであるだけで。そうならないために大修繕を行なうのだから。
 ついでに言うと保全されている遺跡は廃墟ではない。似て非なるものである。

 俺もいつか各地の遺跡巡りや廃墟巡りをしてみたいからラウトリス神官の気持ちは多少わかってしまうが、自ら危険に突っ込んでいこうとは思わない。自分で対処できるものだけが鉄則。捜索隊に迷惑かけちゃうからね。

「興味あるものへの好奇心というのは隠し切れるものではない」

 言葉を続けた。

「ふーん、まあ、そうかもな」

 クーリミオンが同意したので、ついつい、お前もな、と言ってしまいたくなった。
 口が滑らなくて良かったぜ。

「だが、大人になっても分別がつかないのなら、少年の心など焼却炉で燃やしてしまえ」

 面倒だから。
 他人を巻き込むのは勘弁してほしい。
 ねえ、ラウトリス神官?

 少年の心を許されるのは、親か自分がそれに対して大枚はたけるときだけだ。
 わがままは金で解決する、金で責任を取るとも言う。

 ラウトリス神官を救う判断を皇弟がしたのは、大教会の聖職者二人にはまだ利用価値があるからだろう。
 彼らに恩を売っておけばという考えと、ラウトリス神官以外の神官が配属された場合の面倒を鑑みてというところか。

 まさか、俺が厄介ごとを放り込んできたからだとは言うまい。

「少年の心だろうと、大人な心だろうと、クロウならどんなクロウでも受け入れるから、俺にはありのままを見せてほしい」

 にこやかに爽やかに、急に口説かないでほしい。
 驚くじゃねえか。
 しかも、いつもと違い、きっちりとした白い騎士の制服。
 銀髪とリンク王国の騎士の制服って見事に調和する。さすが色素薄い至上主義の国の制服だ。
 世の中って、やっぱり服装は大切だよね。視界に入る印象は重要だよねえーっ。叫びたくなるよ。

 牢屋にいるあの姿で見慣れていたのに、超イケメンじゃねえか。

「セリム、その制服、超似合ってるぞ」

 ぱあっと華やぐその表情。
 眩しい。
 光の魔法なんて使ってもないのに。
 セリム、一度自分の顔をしっかり鏡で見てみたら?
 そのイケメン顔、平民で平凡顔な俺と釣り合いとれないと思うけどねえ。

 目を覚ます気はないのかい?

 こんな俺でも妻にはお前はイケメンじゃー、自覚しろー、クロウだけ年齢を重ねないのはズル過ぎるーと言われ続けていたが。良い妻だ。

「ありがとう、クロウ。どんな服でも着こなせたら一番だけどね」

「確かにセリムなら帝国の軍服も似合いそうだな」

 俺の呟きと視線にものすごく嫌そうな顔をしたのは、もちろんクーリミオン。
 クーリミオンは怠け者と言われているが、軍人だから一応ガタイは良いのである。
 セリムとの身長差はさほどない。

 ニヤリんっ。

 嫌がるクーリミオンを巻き込んで着せ替えしてみたり遊んでいたりしていたので、夕食後に出発したはずなのに遅くなったのは、ラウトリス神官は知らぬことである。






「うわ、、、神官の手足が消えてる?」

 俺たちの後ろから来たクーリミオンが、階段に寝転ぶラウトリス神官の状態を見た。
 この螺旋階段では後ろにいるから安全なわけでもわけでもないが。

 あー、ラウトリス神官の綺麗なお顔が涙でぐちょぐちょ。現在は放心状態。
 ラウトリス神官の綺麗な顔立ちが好きなシエルド様でも、自分がそういう顔にするのは許せるのだろうな。他者に勝手にされるのは許さない性分をお持ちだが。

「というか、地下に行くはずなのに、何で俺たち階段上って来たの?」

 それは長距離空間転移魔法陣の部屋に、俺が大教会のどこかに設置した魔法陣からこっそり飛んできたから。
 その部屋がここより階下にあっただけの話である。
 さすがクーリミオン、魔法陣を踏んだことも気づかないとは。

 んー、本当に気づかなかったのかな?
 目を瞑れとは言ったけど。。。
 え?本当に?本気で気づいてないの??

 ま、とりあえず今はいいや。クーリミオンを二度見したい気持ちを抑えて。

「クーリミオン看守、それは今、疑問にすることではない。今、対処しなければならないのは、ラウトリス神官を安全な場所に移すことだ」

 クーリミオンにもセリムにも、ついでにラウトリス神官にも見えていないが、ここにはすでにちまちまと足を動かしてやってきた五匹のエセルたちもいる。

「あ、ついでに言うなら手足だけじゃなく、内臓も少し齧られちゃっているかなあ。ヤバい状況だね」

 クーリミオンに補足。
 確実に餌認定されちゃってますね。
 気づかない内に内部もヤられてるので、生きていて良かったね。

「アンタの口調がヤバい状況のようには聞こえない」

「えー?緊迫感のある口調で言ったら、本気でヤバそうな感じにならないか」

「、、、それもそうだな。アンタは軽口の方が安全だ。ところで、俺、(お前らに)剣は必要ないと思って城に置いてきちゃっているんだが」

 てへっ、じゃねえぞ。
 お前は本当に看守か?
 実は魔導士なのか?剣がなくとも戦えるのか?
 お前の言外に、(お前らに)というのがはっきり見えたぞ。

 俺たちなら言葉でどうにかできるのか?
 別に魔法や剣が使えるからといって脱獄しないけど。

「というわけで、俺は無力だ。というか、敵が何であるかまったくわからない俺にはどうしようもないんだが」

「元から戦力として期待してないが?」

 ハッキリキッパリ。

「あ、それ聞いて安心した。皇弟にはお前ら二人を見守れとしか言われてないから、俺は何と言われようと見守りを続行するぞ」

 コイツの見守るは、ただ注意深く見てるだけー。
 何かあった場合に手を貸すこともない。不必要な助力は足を引っ張るだけなのは多々あることなので、今回監視役として選ばれたのはそういう理由からだろう。

 推測されるもう一つの理由は、クーリミオンが常識的におかしいことを周囲に伝えた場合に、誰も信じないから。特に他の看守たちが。
 ある意味で、皇弟の人選は素晴らしいものだが、帝国としてはそれでいいのだろうか。
 疑問は残る。
 俺に都合がいいので、あえて何も言いませんが。


 俺はセリムに向かって詠唱を始める。あまり使わない魔法って準備していないから詠唱が俺には必要だ。

「光の祝福よ、我が騎士に降り注げ。闇に浸食されぬように」

 ラウトリス神官の眩しい光のなかで、優しい光がセリムに舞い散る。

「これは」

「これで、ラウトリス神官を餌にする闇に侵されることはないっ。というわけで、セリムっ、ラウトリス神官を捕獲っ」

 捕獲はおかしいか。でも、少年の心のまま好奇心に負けたヤツには捕獲でもいい気はするが。

「保護しろっ」

「了解っ」

 セリムが機敏に動く。
 階段を上って、ラウトリス神官をお姫様抱っこした。

 何かあった場合に備えて、セリムが剣の柄に手で触れていたのを知っているし、慎重に足を運んでいたことも知っている。
 にもかかわらず、クーリミオンは緊張感もなくダラダラと後をついて来ただけだ。
 この螺旋階段は後ろも非常に危険なのに。
 おいしそうにお前を見ているぞ。本人には言わんけど。

「えー、そんな安心安全な魔法があるなら俺にもかけてくれればいいのにー」

「見守るだけのヤツには必要ないだろ?」

「手厳しいっ」

 とはいえ、コイツは普通に自分で防御魔法を使えそうだ。

「クロウ、上に行けばいいのか、それとも下に?」

 セリムが俺に指示を仰ぐ。

「どっちが楽かなあ?」

 俺がボソリと呟いた言葉に、ラウトリス神官とクーリミオンの肩がびくりと揺れた。
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