48 / 191
1章 敵国の牢獄
1-48 少年の心
しおりを挟む
「戸締りを確認して来ますので、教会長は先にお休みください」
「ああ、すまないね。今日は工事関係者も多くお見えになったから、先に休ませてもらうよ」
「おやすみなさい」
私は眠そうな顔の教会長の額にキスを落とし、上着を羽織って廊下に出る。
もちろん事後である。
想いが通じたあの日から毎晩のように教会長とは愛を確かめ合っている。
今日は教会長を巻き込む気はない。
この大教会の内部構造はしっかり把握していたと思っていたのだが、私が知らなかった場所に隠し部屋や地下があった。
地下への出入口を何か所か用意しているのは、この大教会が広いせいだろうか。
光の魔法で照らして、地下に向かう。
懺悔室がある小さな空間を抜けると、出入口にはキープアウトのテープが張られている。
テープがあれば普通に出入口だとわかるのだが、今まで全く気付かなかった。
未知の領域だ。
光で照らすと、螺旋階段が続いている。
先はどこまでも暗い。
「工事が始まったら行けなくなるだろうし、工事終了後は普通にただの綺麗な階段になってしまうわけだから」
アッシェン大商会主導の工事だから古き良き風情は残されるだろうが、廃墟寸前の建物の良さはなくなる。
下がまさしく崩れそうなほどの状態なら是非とも見ておきたい。
光魔法があるのだから、足元さえしっかり照らしておけば怪我をすることもないだろう。
魔導士クロウが工事関係者に忠告していたのは、工事中に地下には倒壊の恐れがあること。
工事の際の振動や不注意による手順の誤りによるものと見られる。
ただひっそりと歩く分には、クロウの魔法が地下を支えているというのだから大丈夫なはずだ。
螺旋階段を一段一段下がっていく。
幅も広く、天井も高く造られており、圧迫感など感じられない
空気が冷たくなっていくように感じる。
自分の足音だけが響く。
ゴクリと唾を飲む。
階段をかなり下りてきた。
ゆるい螺旋階段がひたすら続いているものだと思っていたが。
光すらも届かない空間が、螺旋階段の横に見える。
もしかしたら。
自分の考えを否定したいがために首を横に振るが。
己の光魔法が照らさなかっただけで、暗闇が支配する空間を何回も通り過ぎていたのではないか?
フッと、魔法が途絶え、浮かんでいた光球が消えた。
暗闇が辺りを支配する。
自分がいる足場の階段ですら怪しく思える。
自分の足をとめてしまえば、何の物音も聞こえないはずなのに。
ジリジリと何かが近づいてくる気がするのは暗闇での恐怖心からか。
魔法の持続時間が過ぎたのだろうか?
少し短い気がするが、自分が気づかぬ内に意外と時間が経っていたのか?
「ライトっ」
光の魔法を出そうとするが。
うまく光がカタチにならない。
魔力が手のひらに集まろうとして霧散する。
「灯よ、我が足元を照らせ」
詠唱を行なう。
が、それでも魔力が光とならない。
私にとっては簡単な魔法なのに。
失敗したことなんて、魔法を練習し始めた幼い頃以来だ。
手が震える。
冷や汗が流れる。
「ともしびよ、」
一言一言丁寧に言葉を紡ぐ。
闇は闇なのに、より深い闇を近くに感じる。
お願いだ。
光を。
息を深く吸い込む。
魔法は精神状態で成功の可否が変わるものだ。
そう、私は。
このときまでは光がつけば、もう大丈夫だと思っていた。
「我が前方を照らせっ」
眩しいほどの光が前方を照らした。
自分の全魔力を使い果たしたわけではないが、かなりの疲労度だ。
かなりの眩しい光。
螺旋階段は光で満たされている。
ここまでの光量は必要ないが、ほんの少し安心した自分もいる。
これで大丈夫。
何も問題ない。
息を整える。
一回落ち着くと、自分の反省点が見えてくる。
光の魔法が使えると慢心して、ランプさえも持って来ないのはいささか軽率だった。
大修繕するとはいえ、大教会内だからと安心し切っていた。
「まったく、私もまだまだ未熟だな」
朽ち果てているような崩れそうな場所にはまだまだ到達していないが、今日はこの辺で戻った方が良さそうだ。
来た階段を振り返ろうとしたとき。
眩しい眩しい光のなかに、ぽっかりと暗い空間があるのに気づいてしまった。
そう、光の魔法が消える前に光が届かない暗闇の空間があったことに気づいていた、あの場所。
今、あまりにも眩しい光のなかに、際立って闇を色濃く映す。
出入口に扉らしきものはない。
ただ、ひたすら暗く、何もかも飲み込んでしまいそうな。
目の錯覚か?
それはジリジリと出入口からこちらに少しずつ少しずつ近づいて来ているかのような感覚になる。
「まさか」
そんなはずはない。
眩し過ぎて、そう感じるだけだ。
けれど、この眩い光のなかで障害物もないのに存在し続けるあの暗闇は何だ?
呪い?邪教?それとも?
足首に触れられたような感触がして、動かそうとした。
「ひっ」
けれど、視線の先には自分の左足がない。
痛みも何もないのに、左足が見えない。
気づくと同時に、平衡感覚を失い倒れる。
階段から転げ落ちていかなかったのは幸い。
階段にしがみついているような状態になってしまった。
なんとか四つん這いの状態でも階段の上によじ登ろうとしてみたが。
上からも階段に使われている石と石の継ぎ目から黒いモノが染み出ているような気がする。
見えなければ幸せだったか?
気づかなければ、上へと手を伸ばしていたか?
「な、、、」
今度は階段についている右手に触れられたような感触がした。
ハッキリと見た。
黒いモヤが自分の右手を覆うのを。
その一瞬にして右手が消える。
「っ」
すでに声が出にくくなっていた。
喉がカラカラになっているのに気づく。
じわりじわりと追い詰められていくのを感じる。
上に逃げようとしても、下に逃げようとしても。
自分が獲物として追い詰められている立場だとようやく悟る。
地下では単独で行動するなと魔導士クロウが言った理由。
そんな、と思いたい。
倒壊の恐れなどではなく、それならそうと言っておいてくれれば。
いや、もし事前にそんな真実を聞かされていても、私はここに来ることをやめていただろうか。
子供を怖がらせ近寄らせないための作り話だと内心で一笑していたのではないだろうか。
「た、たすけて」
小さく掠れた声で、助けを乞う。
誰に?
今、ここには自分以外には他に誰もいないのに。
神に救けを求めても、自分が行動しなければ救われないことを私は知っている。
それでも、求める。
お願いだ。
誰か、誰か私を見つけてくれ。
右手首、右腕とじわじわと闇が浸食していく。
それは絶望。
すでに上からも下からも挟まれて、逃げ道は存在しない。
このまま消えたくない。
せっかく。
「うわあぁぁーーーーっ」
泣け叫ぶ。
浅はかな考えで行動してしまった後悔を今さらしても意味がないことを知りながら。
誰か。
誰か。
誰か。
「あー、こーんな眩しい光を出していてもダメなんだなあ」
自分とは違う声が聞こえた。
階段を上って来たのは。
「だが、それもそうか。ただの光じゃ攻撃にはならないか」
その誰か。
「、、、クロウ様」
「ラウトリス神官、お前は一体何歳になるんだ?神官学校では、過ぎたる好奇心は身を滅ぼすと習わなかったのか」
しっかり私の姿を見て、今の現状を把握しているはずなのに、ものすごく呆れた顔をされていた。
「ああ、すまないね。今日は工事関係者も多くお見えになったから、先に休ませてもらうよ」
「おやすみなさい」
私は眠そうな顔の教会長の額にキスを落とし、上着を羽織って廊下に出る。
もちろん事後である。
想いが通じたあの日から毎晩のように教会長とは愛を確かめ合っている。
今日は教会長を巻き込む気はない。
この大教会の内部構造はしっかり把握していたと思っていたのだが、私が知らなかった場所に隠し部屋や地下があった。
地下への出入口を何か所か用意しているのは、この大教会が広いせいだろうか。
光の魔法で照らして、地下に向かう。
懺悔室がある小さな空間を抜けると、出入口にはキープアウトのテープが張られている。
テープがあれば普通に出入口だとわかるのだが、今まで全く気付かなかった。
未知の領域だ。
光で照らすと、螺旋階段が続いている。
先はどこまでも暗い。
「工事が始まったら行けなくなるだろうし、工事終了後は普通にただの綺麗な階段になってしまうわけだから」
アッシェン大商会主導の工事だから古き良き風情は残されるだろうが、廃墟寸前の建物の良さはなくなる。
下がまさしく崩れそうなほどの状態なら是非とも見ておきたい。
光魔法があるのだから、足元さえしっかり照らしておけば怪我をすることもないだろう。
魔導士クロウが工事関係者に忠告していたのは、工事中に地下には倒壊の恐れがあること。
工事の際の振動や不注意による手順の誤りによるものと見られる。
ただひっそりと歩く分には、クロウの魔法が地下を支えているというのだから大丈夫なはずだ。
螺旋階段を一段一段下がっていく。
幅も広く、天井も高く造られており、圧迫感など感じられない
空気が冷たくなっていくように感じる。
自分の足音だけが響く。
ゴクリと唾を飲む。
階段をかなり下りてきた。
ゆるい螺旋階段がひたすら続いているものだと思っていたが。
光すらも届かない空間が、螺旋階段の横に見える。
もしかしたら。
自分の考えを否定したいがために首を横に振るが。
己の光魔法が照らさなかっただけで、暗闇が支配する空間を何回も通り過ぎていたのではないか?
フッと、魔法が途絶え、浮かんでいた光球が消えた。
暗闇が辺りを支配する。
自分がいる足場の階段ですら怪しく思える。
自分の足をとめてしまえば、何の物音も聞こえないはずなのに。
ジリジリと何かが近づいてくる気がするのは暗闇での恐怖心からか。
魔法の持続時間が過ぎたのだろうか?
少し短い気がするが、自分が気づかぬ内に意外と時間が経っていたのか?
「ライトっ」
光の魔法を出そうとするが。
うまく光がカタチにならない。
魔力が手のひらに集まろうとして霧散する。
「灯よ、我が足元を照らせ」
詠唱を行なう。
が、それでも魔力が光とならない。
私にとっては簡単な魔法なのに。
失敗したことなんて、魔法を練習し始めた幼い頃以来だ。
手が震える。
冷や汗が流れる。
「ともしびよ、」
一言一言丁寧に言葉を紡ぐ。
闇は闇なのに、より深い闇を近くに感じる。
お願いだ。
光を。
息を深く吸い込む。
魔法は精神状態で成功の可否が変わるものだ。
そう、私は。
このときまでは光がつけば、もう大丈夫だと思っていた。
「我が前方を照らせっ」
眩しいほどの光が前方を照らした。
自分の全魔力を使い果たしたわけではないが、かなりの疲労度だ。
かなりの眩しい光。
螺旋階段は光で満たされている。
ここまでの光量は必要ないが、ほんの少し安心した自分もいる。
これで大丈夫。
何も問題ない。
息を整える。
一回落ち着くと、自分の反省点が見えてくる。
光の魔法が使えると慢心して、ランプさえも持って来ないのはいささか軽率だった。
大修繕するとはいえ、大教会内だからと安心し切っていた。
「まったく、私もまだまだ未熟だな」
朽ち果てているような崩れそうな場所にはまだまだ到達していないが、今日はこの辺で戻った方が良さそうだ。
来た階段を振り返ろうとしたとき。
眩しい眩しい光のなかに、ぽっかりと暗い空間があるのに気づいてしまった。
そう、光の魔法が消える前に光が届かない暗闇の空間があったことに気づいていた、あの場所。
今、あまりにも眩しい光のなかに、際立って闇を色濃く映す。
出入口に扉らしきものはない。
ただ、ひたすら暗く、何もかも飲み込んでしまいそうな。
目の錯覚か?
それはジリジリと出入口からこちらに少しずつ少しずつ近づいて来ているかのような感覚になる。
「まさか」
そんなはずはない。
眩し過ぎて、そう感じるだけだ。
けれど、この眩い光のなかで障害物もないのに存在し続けるあの暗闇は何だ?
呪い?邪教?それとも?
足首に触れられたような感触がして、動かそうとした。
「ひっ」
けれど、視線の先には自分の左足がない。
痛みも何もないのに、左足が見えない。
気づくと同時に、平衡感覚を失い倒れる。
階段から転げ落ちていかなかったのは幸い。
階段にしがみついているような状態になってしまった。
なんとか四つん這いの状態でも階段の上によじ登ろうとしてみたが。
上からも階段に使われている石と石の継ぎ目から黒いモノが染み出ているような気がする。
見えなければ幸せだったか?
気づかなければ、上へと手を伸ばしていたか?
「な、、、」
今度は階段についている右手に触れられたような感触がした。
ハッキリと見た。
黒いモヤが自分の右手を覆うのを。
その一瞬にして右手が消える。
「っ」
すでに声が出にくくなっていた。
喉がカラカラになっているのに気づく。
じわりじわりと追い詰められていくのを感じる。
上に逃げようとしても、下に逃げようとしても。
自分が獲物として追い詰められている立場だとようやく悟る。
地下では単独で行動するなと魔導士クロウが言った理由。
そんな、と思いたい。
倒壊の恐れなどではなく、それならそうと言っておいてくれれば。
いや、もし事前にそんな真実を聞かされていても、私はここに来ることをやめていただろうか。
子供を怖がらせ近寄らせないための作り話だと内心で一笑していたのではないだろうか。
「た、たすけて」
小さく掠れた声で、助けを乞う。
誰に?
今、ここには自分以外には他に誰もいないのに。
神に救けを求めても、自分が行動しなければ救われないことを私は知っている。
それでも、求める。
お願いだ。
誰か、誰か私を見つけてくれ。
右手首、右腕とじわじわと闇が浸食していく。
それは絶望。
すでに上からも下からも挟まれて、逃げ道は存在しない。
このまま消えたくない。
せっかく。
「うわあぁぁーーーーっ」
泣け叫ぶ。
浅はかな考えで行動してしまった後悔を今さらしても意味がないことを知りながら。
誰か。
誰か。
誰か。
「あー、こーんな眩しい光を出していてもダメなんだなあ」
自分とは違う声が聞こえた。
階段を上って来たのは。
「だが、それもそうか。ただの光じゃ攻撃にはならないか」
その誰か。
「、、、クロウ様」
「ラウトリス神官、お前は一体何歳になるんだ?神官学校では、過ぎたる好奇心は身を滅ぼすと習わなかったのか」
しっかり私の姿を見て、今の現状を把握しているはずなのに、ものすごく呆れた顔をされていた。
844
あなたにおすすめの小説
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが
ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク
王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。
余談だが趣味で小説を書いている。
そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが?
全8話完結
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。
ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と
主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り
狂いに狂ったダンスを踊ろう。
▲▲▲
なんでも許せる方向けの物語り
人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる