解放の砦

さいはて旅行社

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1章 説明が欲しい

1-8 収納鞄は便利な鞄、けど超お高い

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「おお、リージェン、お前が荷物の中身を並べているなんて、、、成長したな」

 わー、街から砦に戻ってきたナーヴァルがほんのり涙ぐんで感動しているー。
 並べているだけで感動されるなんて、どれだけリージェンの評価は低いんだよ。

「リアムに言われてねー。渋々やっておいたよ」

 渋々、って言わない方が心証良いはずなんだけどね。。。
 でも、横を見ると。
 他の仲間三人も笑顔でうんうん頷いている、ってどれだけ、以下略。

 リージェンの部屋で、ナーヴァルが街で購入してきた荷物を割り振っている。
 食料、水等は各自持っていなければいけないものを振り分け、他は荷物の分担の割合を見て決めている。一か月の五人分の荷物となるとかなり多いが、この辺は長年の付き合いで決まったものがあるようだ。かなり素早い。
 リージェン以外はすぐに収納鞄に詰めていく。リージェンの収納鞄はそこに転がったままだが。。。

 A級冒険者なので、それぞれ状態保存ができる収納鞄を持っている。超高額だが、B級以上からは収納鞄は必携の代物だ。一か月や二か月の冒険はざらにあるし、その間の日々消費される食料や水だけでも半端な量じゃない。そこに討伐した魔物や採取物が加わるとなると、荷物持ちが数人いたとしても対処できないだろう。
 C級のときにコツコツ貯金して収納鞄を購入できるかどうかで、今後の運命が別れると言っても過言ではない。
 かなりの物を詰め込める収納鞄があれば、パーティに荷物持ちがいらなくなる。C級まではほとんどの冒険者が収納鞄を持っていないので、討伐した魔物や採取した薬草等を持つための荷物持ちが必要ではあるが、親や先祖から引き継いだ収納鞄があればどんなに古い物でも使用した方が良い。魔物を討伐証明部位だけでなく、すべてを持ち帰ることができれば冒険者ギルドに買い取ってもらえる。
 魔物をすべてを持ち帰れるかどうか、その金額の差は大きい。そして、その差は年々膨らんでいく。収納鞄の金額を差し引いてもだ。

 お金を貯めることができないC級冒険者はほとんどC級のままだ。
 誰かが手を差し伸べてくれることなんてない。
 反対に手を差し伸べてくれる人がいたら怪しいぐらいだ。

 冒険者はF級からだが、一般的にはC級冒険者になることができれば、冒険者として生計が立てられると言われている。
 ただし、怪我や病気などがなければ。
 生活の保障がない冒険者は仕事ができなくなれば、即座に生活が立ち行かなくなる。
 武器や装備等はともかくとして、収納鞄が手に入れられるほど金が貯められるかが、金銭面での大きな試練である。それがクリアできれば、後はしっかりとした計画を持って老後資金をためられるだろう。
 そもそも、まず自分に合うある程度の武器や装備等を手に入れられないのなら、冒険者はやめておいた方が無難である。

「じゃあ、坊ちゃん、これが昨日の魔物の買取表とポイント表だ」

「拝見させていただきますね」

 俺はナーヴァルから書類を受け取る。四人は各部屋から持って来た椅子に座っている。俺がリージェンの部屋の備え付けの椅子に座り、リージェンはベッドに腰掛けている。
 渡された書類は、昨日戻ってきた彼らが冒険者ギルドに納めた魔物の買取の内訳が書かれた明細表である。そして、それに関わる魔物討伐にポイントがつくので、本来ならば活躍した者や仕事の分担割合が多い者にポイントを多く割り振るが、彼らは基本的に等分である。まあ、約一か月も遠征に出ていれば、誰が活躍したかというのは平均化されてしまうだろう。特にパーティ内でレベル差がなければ、魔物討伐ポイントは等分するのが揉めない。このポイントは冒険者のランクを昇級する目安に使われる。
 彼らは報酬も基本的に等分である。
 面倒なことが一切ない、にも関わらず、なぜ俺にこの書類を見せているかというと。

「あー、面倒だな」

「書類はどこの国でもホントに面倒だ」

 彼らはブツブツ言いながらも、書類を書き始めた。

 C級以下の冒険者ならば、冒険者ギルドがまとめて書類の提出や、魔物の買取手数料に含まれているので納税までやってくれるが、A級冒険者、B級冒険者はそうもいかない。活動する国や冒険者ギルドに活動報告書等の提出する書類が極端に増える。書類代行を頼む冒険者もいるくらいだ。
 経費が書かれている領収書や出金伝票があれば、魔物等の売上から引いてから税金を計算することも可能だ。

「今回の出発前にもらった領収書から経費関連は計算してますので、ここの買取価格を記入してー」

 俺は小さい手でナーヴァルに書類を指し示す。
 彼らはあまり計算が得意ではない。
 俺も電卓とまではいかなくとも、そろばんは欲しい。そこまでそろばんソックリでなくてもいいから、俺でも同じくらいの大きさの丸い石を組み合わせて作れるかな?
 俺も暗算は微妙に不安な人間だ。

「ナーヴァル、書いたよー」

 リージェンがピラリと文章の書かれた書類を渡す。やり始めたら、この子はサクサクやるのだ。多少雑でも。
 ナーヴァルが俺にそのままその書類を流す。

「そうですね。大部分は良いかと思いますが、この言い回しはもう少し婉曲にして、表現を変更した方が良いですね。あとは日付が間違ってます」

 各々出してきた書類もチェックする。
 一歳児がする書類チェック。

 提出書類は各地で異なる。
 彼らは砦にいるランクの低い者たちに素直に教えを乞うこともできず、だからといって同じAランクの冒険者たちはちょうど同じ時期に砦に戻ってくることはほぼない。S級以上の魔物が魔物の群れとともに砦に向かっている等でもなければ、一同が砦に揃うことは本当に少ない。

 母上も書類は苦手だ。
 砦にある簡素な執務室の机に、書類がたまっている。。。
 俺は机の上によじ登り、こっそりと書類チェックをして、母上から頼まれましたという体で冒険者たちに訂正をお願いしていた。

 だいたいの冒険者たちは、母上からの頼まれごとという俺の言葉を鵜呑みにしたが、ナーヴァルたちだけが怪しんだ。どういう訂正?との質問に事細かに答えた俺。ナーヴァルとリージェンに笑顔で確保された。
 だって、訂正してもらわずに砦から出発してしまうと、次に書類を訂正してもらえるのって約一か月後だ。しかも、そういう書類が母上の机に積もり積もっているのだ。

 というわけで、俺が書類についてのアドバイスをする代わりに、彼らが砦にいるときは俺の面倒を見てくれる。主にカラダの鍛え方、魔法、剣の振り方等。子供にできることは限られているが、カラダの土台を作っておくことは悪いことではない。
 すべては初歩から。魔法や剣などは前世ではまったく扱わなかったものですし、教えを乞わないと全然できませんー。砦の冒険者の皆様は、彼らが子供好き、世話好きなんだと誤解してますが、誤解はさせておいたままにしております。それが皆の平和のため。

 俺自身は書類の代筆まではできない。まだのたくった汚い文字しか書けない状態ではさすがに無理だろう。
 ほどほどに読める文字が書けるようになったら、ひな型を作ろう。必要事項を埋めるだけで出来上がれば、事務的な作業も素早く終わる。
 そうすれば、冒険者たちの休憩時間も増えて、一石二鳥だ。
 母上も書類のチェックが楽になれば、一石三鳥か。

「で、リージェンさんはいつ、この床に並んだ荷物を鞄に詰めるの?」

 素朴な疑問を一つ聞く。

「、、、明日ー?」

 リージェンのその返事に、ナーヴァルが無言でリージェンの収納鞄に詰め始めていた。。。
 リージェンさん、本気でナーヴァルさんを嫁にもらった方が良いんじゃないの?
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