解放の砦

さいはて旅行社

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2章 そして、地獄がはじまった

2-11 副砦長になりたいって言われてもね

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 ナーヴァルの右脚の肉は、S級魔物に食い千切られて抉られたらしい。
 S級魔物に襲われて、その程度で済んだのはナーヴァルだからこそか。
 リージェンがその魔物を仕留めそこなったと嘆いていたが、S級魔物と遭って生きて帰ってきただけでもめっけものだ。S級以上の魔物は段違いの化け物だ。それより強い砦の守護獣っていったい?深く考えちゃいけねえ。

「どうですか、ナーヴァルさん」

「どうもこうも、何だこの補助具。この右脚の感覚、今までと全然変わらないぞ。この動きができるなら魔の大平原の奥地に行っても問題ない」

 ナーヴァルに砦近くの魔の大平原で走ってもらっていた。
 さすがA級冒険者。本気になったら速い速い。
 砦周辺にいるE級、F級冒険者が目を見開いている。呆けて小さい魔物を取り逃がすなよー。
 そして、ナーヴァルに自分の得物の大剣を振り回してもらう。右脚も補助具でしっかり支えられているようだ。

「あ、あそこにD級の魔物がいるので、ちょっと倒してき」

 俺が言い終わる前に、ナーヴァルは走っていってサクッと一振り。
 瞬殺。
 ナーヴァルは倒したD級の大きな魔物を軽々担いで戻ってきた。
 今日の砦のお肉はこれで決まりだな。ちょうどそこにいるのでE級、F級冒険者に解体してもらって厨房に運んでもらおう。

「ナーヴァルさん、大丈夫そうですね」

 調整は必要なさそうだな。使っていくうちに多少の調整が必要になるくらいだろう。
 ナーヴァルは右脚に補助具を装着してもらった。魔法の力で筋力や動き等を補助する。本当にこの世の中は便利だ。

「コレ、高いだろう。いくらだ?」

「いえ、俺が砦にある材料で作ったので、実質無料です。ただ魔の大平原の奥地にはコレで行くことは不可能ですよ」

「そうなのか?」

「一週間に一度は魔力を込めないと、ただの重い道具になってしまいます。いつもより重く感じ出したら、魔力の充填時期です。魔の大平原でもせいぜいC級冒険者の遠征についていくくらいでしょうね。魔の大平原では魔導士も魔力を消費したくないでしょうから」

「ああ、そうだな。俺の補助具に魔力を込めるぐらいなら、攻撃魔法をぶっ放した方が効率が良い」

 ナーヴァルはA級魔物を倒すくらいの攻撃魔法に必要な魔力量という認識な気がする。もちろんそんなに魔力が必要な補助具ではない。ただ、魔の大平原ではそのほんの少しの魔力の量で生き残れるかどうかを左右するときがある。

「俺が砦にいるときは俺が魔力を込めますよ。いないときは他の魔導士に頼んでください」

「ああ、わかった。ところで、これに対する坊ちゃんに支払う対価はいくらなんだ?」

 ナーヴァルが俺に問う。

「え?」

「え?」

 お互いが疑問符で応酬する。

「この国の人間には人助けでも対価が必要だって言ったのは、坊ちゃんだぞー」

「魔法の技術を安売りするつもりはないんですが、砦にあった材料を使っているし、クロ、シロ様、母上にも砦にあるものは何でも自由に使っていいと許可を得ているので、先程言った通り実質無料なんですよね」

「じゃあ、俺以外にこの補助具を作ってほしいと言われたら、お前はタダで作るのか?」

「いえ、作りませんよ。母上のためになる人材だからこそ作るのであって、ナーヴァルさんが砦長になってくれたからこそ、、、そうですね、砦長を引き受けてくれたお礼だと思ってください。本来、A級冒険者が引退した場合でもあの報酬で受けてくれる方は少ないでしょうから」

「ふむ、そういうことなら喜んで受け取ろう。坊ちゃんのために砦長として頑張って実績を上げることにしよう。七歳の坊ちゃんにはお礼に酒を一杯というわけにはいかないからなー」

「タダより高いものはない」

 ついついボソッと言ってしまった。砦長として働いてもらうのだから働いてもらわないといけない。

「、、、坊ちゃん、何でうちの国の言葉、、、こっちにはそんなことわざないだろ?」

「ふっ、この砦にある書物やら何やらで勉強しているんです。ナーヴァルさんもささやかな違和感を放置するから、この国で超怖い冒険者だと認識されちゃうんですよ」

「アイツよりかはマシだ」

「あー、結婚詐欺師」

 俺たちは砦に目をやる。なぜか弟アミールと一緒に、最上階の見晴らし台にいるA級冒険者。
 アミールは人質のつもりか?果たして誰に対する人質なのか?謎は深まる。俺に対しての人質だと母上でなければ俺は動かない。母上は息子を遊んでもらっているという認識しかないと思う。
 アミールが俺の視線に気づいて、両手で手を振ってくれている。俺もアミールに手を振り返すと、より一層ブンブンと両手を振る。見晴らし台から落ちるなよ。
 その隣のイケメンは仏頂面だ。

「アイツもなかなか役に立つんだぞ」

「リージェンさんは主に戦闘で役に立つんですよね。。。あの生活面や書類を見ていると、副砦長の事務処理が滞りなくできるかというと難しい気がします」

「その通り過ぎて反論できない」

 ナーヴァルはリージェンとつきあいが長すぎて、俺に嘘がつけないようだ。

「副砦長は砦長よりやや低い報酬です。今の砦ではA級冒険者が納得する金額は出せません。うちのクズ親父は領民の税金をこちらに回さないのですから」

 つい言ってしまったが、今やナーヴァルは砦長である。砦の財政状況も把握していてもらいたい。無尽蔵に男爵家からお金が回ってくると思ってしまったら大間違いで、すべては母上の懐から出ているものである。

「、、、坊ちゃん、もしかして母親のリーメルさん以外は家族仲悪いのか?」

 ナーヴァルの顔が曇る。
 あ、もしかして自分の報酬が支払えるのか気にしたのか。

「今、砦は独立採算制にできるように改革してます。母上の魔物討伐がすべて砦の運営費に回っていますが、それをしなくても済むように、冒険者の宿泊料金や経費の見直し等を積極的に行っています。砦の壁自体はもうしばらくすると大規模な改修工事が必要なんですが、できるだけ安く済むように俺が魔法で直してますし、ナーヴァルさんの報酬は心配しなくても問題なく」

「いや、そういうことじゃなく、お前が父親のこと話したとき目が怖くなっていたぞ。そんな表情、この砦で見せたことなかっただろ」

「クズ親父もクソ兄貴たちも冒険者ではないので、この砦には関係ないですからね。砦ではアイツらのことを話しませんから」

「、、、そうか。だが、メルクイーン男爵家は、いや、記憶違いかもしれないな。確認しておこう」

 何をだろう?ナーヴァルが独り言のように呟いた。

「本当なら一週間前のようなこともありますし、砦に常駐のA級冒険者がいることはありがたいことなんですが、A級冒険者を護衛として雇うお金は今の砦にはありません。砦周辺に現れる魔物の討伐だけではA級冒険者が稼ぐ金額には程遠いですし」

「それなら、護衛として雇わず、アイツを副砦長として雇えば都合が良いじゃねえか。その副砦長の報酬で飲むのなら、俺も何とかアイツに副砦長の仕事をやらす」

「一応誓約内容を考えているんですが、リージェンさんがナーヴァルさんと一緒に仕事をしたいと考えているのなら副砦長は少々違うんですよね。砦長が昼の顔なら、副砦長は砦長が休んでいる夜の顔であり、いないときの代理。砦長より神経を使うといっても過言ではありません」

「アイツがこの砦にいたいと願うなら、それを飲まないといけないということだろう」

「副砦長ではなく補佐という立場であれば、ナーヴァルさんとともに行動することはできますが、現役A級冒険者を補佐として雇うことはありません。そして、俺たちもナーヴァルさんではなくリージェンさんを砦長として雇うのは難しいですね」

「お?A級冒険者だからで、俺に声を掛けたわけじゃないのか?」

「もちろんそれもありますが、ナーヴァルさんを砦長にしたのはあの仲間たちをまとめている手腕も含めてのことです。リージェンさんが目立ってますが、あの三人もこの国の人から見たらけっこう怪しいことしてますから」

「じゃあ、新しい仲間との確執も」

「新しい仲間の方々には、彼らの取説を渡しておきましたので大丈夫ですよ。A級冒険者が人間関係に疲れてよそに移動されるのは困りますからね」

「まさか、こんな分厚い」

「手帳サイズですよ。収納鞄に入れても、そんなに嵩張りませんよ」

 彼らの取扱いに困ったときに読んでくださいと、仲間全員に渡しておいた。さっと読める分量にしておかないと、いつ魔物に襲われるかわからない場所でしか読まないからな。

 で、いつのまにか魔の大平原の俺たちのそばに、期待に満ちた目で立っているリージェン氏がいた。
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