解放の砦

さいはて旅行社

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3章 闇のなか

3-16 超胡散臭い家庭教師

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「キミがリアム・メルクイーンかあ。私はルイ・ミミス。アミールから聞いていると思うけど、家庭教師だ」

 にこやかな笑顔の自己紹介。刺繍が上品に入った上着は上質なものだ。侯爵家からの紹介の家庭教師だとは言っても、コイツも実は貴族だったりしないかな?

「うわあ、ホントに胡散臭いね」

 言葉に出してしまうのが、我らが砦の守護獣クロさんですよ。
 おっと、俺も思わず頷いていた。

 ちっこいクロは俺の肩にのっている。
 温かい昼食に釣られてやってきた。
 弁当はいつも冷えているからなー。この世界にはレンジがないから。。。あ、温める魔法はあった。なぜか弁当には使わなかった俺。いや、俺が作った弁当は、母上のための弁当だったから、温めなくても美味しい弁当に仕上げるようにしていたんだよー。魔の大平原で魔物と戦いながら食べるものだからねー。

 クロには家に向かう道すがら、弟の家庭教師についての事情を話した。
 ついつい胡散臭いと言ってしまうのは、子供の口だからかなー?他人に先入観を与えちゃいけねえと思いながらも、恐ろしいほど滑る滑る。

「失礼しました。ご存じの通り、私はメルクイーン男爵家三男のリアム・メルクイーンです。よろしくお願いします。ただ、御挨拶は昼食時にしようと思いましたので、それまではアミールの部屋で勉強の続きを」

 困ったことに、ルイ・ミミスが両手を広げて、俺を玄関で出迎えてくれた。アミールがその後ろにいる。出遅れたーという顔だ。いや、出迎えなくて良いからな。コイツとは食事をしながら話しましょう、ってことにしたんだからな。

「いやいや、キミと会うのに、こんな手間がかかるとは思わなかったよ。昼食作るのなら作業の邪魔しないから、その間も話をさせてほしいなー」

「何だろう、この人」

 ああ、ついつい声に出ちゃったよ。

「リアムと話がしたいっていう熱意は伝わるよー。まあ、僕の嫁にちょっかいを出すなら僕の爪が黙っちゃいないけどー?」

「砦の守護獣様に敵対するなんてそんな愚かなことはしませんよー」

 お互い冗談のような軽口なんだけどね。
 ちっこい姿のクロだと、キランと光った爪も可愛いサイズだ。

 クロの自己紹介もしていないのに、初見でコレが砦の守護獣だとわかったのだから、コイツはヤバい奴だ。
 俺に会うためにクズ親父たちを招待した昼食会を設定したのなら、手間がかかったよな、ホントに。

 作業の邪魔はしないと言うから台所に移った。
 どうせ断っても、台所について来るのだろう。
 アミールももちろんついて来る。

「、、、三人分の食事はすでに食卓に並んでいるようだけど?」

「それは(クズ)親父たちの夕食だ。アイツらにはそんなので充分だ」

「これでも美味しそうだけどね」

「リアムが作ったものは何でも美味いっ。うん、美味しそう」

 クロが食堂のテーブルの上に行ってしまう。ヨダレ垂らしてないよな?

「クロ、つまみ食いするなよー」

「残念残念、今日は何を作るのー?」

「簡単なサラダと、魔物卵の半熟とろとろオムライスだ」

「うおおー、兄上のオムライスー、大好きー」

 アミールが両手を挙げて大賛成している。
 きちんと卵に火を通した普通のオムライスならお弁当にできるが、卵が半熟状態では弁当には難しい。
 クズ親父たちがいないときに、母上と弟に食べさせたことがあり、お肉料理とともに人気メニューだった。
 ご飯は状態保存の収納鞄に入れたものがあるので、子供用三人分を用意、と思ったけど、ちょっと多めに料理しておこうかな。

 この土地の魔物は卵から孵ることがないので無精卵だ。どの魔物のものかよくわからないけど、魔の大平原に転がっている。魔の大平原に放置される物は次の日には消えてしまうので、これは新鮮卵だ。回収して収納鞄に入れておいて、卵料理に使う。

「リアムの甘い卵焼きも好きだけど、とろとろって響きも良いよねー」

 クロが台所の作業台にやってきた。
 炊いたご飯があるのなら、そこまで時間がかからない。それでいながら豪華に見えるメニューって良いよね。
 アミールとクロに野菜を適当にちぎってもらって、それを調味料で和えてサラダにした。
 その隙に小さく切った魔物肉とご飯を炒めて四つの皿に盛り、半熟オムレツを焼いてその上にのせる。ケチャップも瓶からスプーンで掛ける。

「できたぞっ、素早く食堂に移動っ」

「はいっ、兄上」

「はっ、ついつい料理しているところ眺めちゃった。話に来たのに」

 テーブルには人数分の子供用スプーンとフォークが可愛らしく並んでいる、ルイ・ミミスの席にも。
 アミールはクズ親父たちの席には大人用のを並べるのに不思議だな。

 井戸水は飲み水としても適しているので、そのままピッチャーで出しておく。ルイ・ミミスが飲むかどうかは知らんが、空のグラスは置かれている。
 クロは俺の横でテーブルの上にちょこんと座っている。

 オムレツに切れ目を入れて広げると半熟とろとろオムライスの完成である。

「おおーっ、確かにこれはお弁当では味わえない。至福」

 クロが器用に子供用スプーンを使ってオムライスを食べている。

「私にも用意してもらって悪いねー。一応私も昼食はお弁当を持って来ているんだけど」

 ルイ・ミミスは腰の鞄から平たい大きなお弁当箱を取り出した。収納鞄を持っているということは、本当に本業は家庭教師なのだろうか?
 彼の弁当は細かく仕切られており、それぞれに少ない量のオカズが綺麗に並んでいる。料亭の仕出し弁当かっ、と思うくらい豪華な弁当だ。侯爵邸の専属料理人が作ったものなのだろう。遠い僻地とはいえ侯爵の屋敷なのだから、それなりの貴族向け一流料理人を雇っているはずである。
 だが、クロは視線さえも投げない。おいしそー、ちょうだい、とか言わないんだな。
 クロは俺が作ったオムライスを頬いっぱいに頬張っている。

「子供一人分の量だから少しですし、口に合わなかったら残してもかまいません」

「いえいえ、遠慮なくいただきます」

 ルイ・ミミスは子供用のスプーンを使ってオムライスを食べる。
 違和感ありまくり。
 もしかして、その弁当にはスプーンが必要なものが入ってなかった?スプーンは持参してないの?フォークはありそうなのだが。

「魔物肉と魔物卵が使われているので最初から期待していましたが、期待以上ですね。本当に美味しいです」

「当たり前ー、僕の嫁が作った料理は美味しいに決まってるでしょー」

 なぜかクロが自慢してる。謙遜と言う言葉をクロは知らないらしい。

「お皿一杯食べたい欲望に駆られますが、魔物卵はお高いものですし、食べさせて頂けただけでも感謝します」

 うちはー、貧乏なのでー、普通の卵の方がー、買えないんですー、とはこの人に言わないけど。この街の市場で売られている卵は高い。前世で物価の優等生と言われていた卵が懐かしくなるくらいには。
 他の土地から来た人には、魔物肉も魔物卵も高いって思われるよね。砦では冒険者ギルドに買い取ってもらえない存在だっただけだ。

「ふふっ、これを食べた後だと、この料理の味が悲しくなってしまいますねえ」

「俺を持ち上げても何も出ないぞ?」

 料理人が丹精込めて作った豪華弁当の方が美味いに決まっている。食材だって良いものを使っていそうだ。王都や自分たちの領地から取り寄せたものを使っていると聞く。

「、、、リアムさん、少し味見してみますか?どれでもいいですよ」

 え?良いの?あ、オムライスのお礼的な?
 わーい、魚っぽい切り身があるから食べてみよう。この家で魚を食べたことないからなー。
 ぱく。一口サイズで食べやすい。

「ん?」

 もぐもぐもぐ。
 マズくはないのだが。
 チョイスが悪かったのかな?この世界で食べたことのない物を口にしてしまったからかな?
 庶民なお口には合わなかったのかな?

「他のものも良いですよ」

「では、遠慮なく」

 肉なら大丈夫だろ。可愛らしいサイズで、ローストビーフみたいなお肉にタレがかかっている。

「んー?」

 何だろ。味付けは美味しいんだけど。
 ああ、素材か。素材の味が落ちるのか。王都や領地から運ぶって遠いからな。鮮度も落ちるのか。

「ははは、どう?」

 表情に出てしまったか?笑いながら聞かれた。

「味付けは美味しいんですが。保養地にある貴族の屋敷では、食材も王都やその領地から運ぶと聞いたことがあります。遠距離を運ぶとさすがに鮮度や味が落ちるのでしょうね」

 ルイ・ミミスにニッコリ笑われてしまった。
 そういやコイツも収納鞄を持っている。きっと状態保存の収納鞄だろう。だとしたら、侯爵家が輸送に収納鞄を活用していないわけがない。

 なら、何で素材の味が劣るんだろう。
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