解放の砦

さいはて旅行社

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5章 必要とされない者

5-24 ニヨニヨニヨ

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 ニヨニヨなクロの後ろに、すまなさそうな顔のシロ様が立っていた。

「リアム、私はまだこの砦周辺から動けない。私が守れないのは不本意だが、クロに守ってもらってくれ」

 まだ、とシロ様が言った。
 シロ様が動けるのならば、たぶんクロとの誓約に待ったをかけてくれていただろう。

「成人後に我々との誓約の説明をするつもりだった。それはリアムが砦に戻って来たときでも遅くはない。本誓約でもクロだけでは本当の意味では成立しない。誓約すれば、クロを召喚できるようになるから危険なときは呼び倒してやれば良い」

「リアムならいくらでも呼んでかまわないよー。砦にはシロがいるからねー」

「リアム、必要なくなったらクロをすぐに砦に帰してもらって構わないからな。一週間は移動だから仕方ないが、王都に着いたらさっさと砦に戻せ」

「でっもー、お昼ご飯は毎日リアムの手料理食べるー」

 ニヨニヨニヨニヨニヨニヨニヨニヨニヨニヨニヨニヨ。
 クロのニヨニヨがとまらないのだが?

「くそっ。私があと数か月は行けないと知っていて」

「ようやくリアムとの昼食を独り占めできるー」

 クロがちっこい両手を合わせて喜んでいる。
 ニヨニヨの理由はソレなのか。
 ふむふむ、シロ様は数か月後には来れるのか。必要な情報はもっと垂れ流してください。

 まあ、学園でのボッチ飯は確定だ。ユニークスキルを持っていたとしてもF級魔導士と一緒に食事をしたいと思う貴族の子弟はいないだろう。そして、辺境の地の男爵の三男などどうでもいい存在でしかない。
 クロがいた方が寂しくないし、賑やかな食事になる。

 結局のところ移動手段が馬車や馬だとしても、金がかかるし時間がかかる。
 クロに頼めば、入学式に間に合う上に、金もかからない。
 それがより高い対価を支払うことになったとしても、結局のところクロは別の機会を待つだけなのだろう。
 それならば。

「仕方ない。クロ、よろしく」

「まかせてー、リアムー。超巨大化して連れてくー?それなら一週間もかからないよー。一日か二日で着くよー」

「いや、目立たないようなサイズでお願いします。一週間で大丈夫です」

「そう言うと思ったー」

 いざとなったら考えるが。馬車で一か月の距離を一日二日?深く考えたらダメだっ。
 世の中には従魔とかいるのだし、馬以外に扱う者もいるから街道でもそんなに目立たないだろう。
 乗っているのは大抵冒険者だし。。。

 クロが超巨大化して王都に向かったら、、、完全に反乱分子だと思われてもおかしくないんじゃないか?
 たぶん、クロなら王都の軍隊にも勝てる気がするけど。S級以上の魔物に勝てる砦の守護獣に勝てる人間なんて存在しない。

「けど、寮の厨房でも借りれなければ、オムライスなんて作れないぞ。昼食がお弁当になる可能性は高いぞ」

 学園で料理できなければ、王都には魔の森があるのだから、ダンジョンで料理すればいい話だが、夜になる。
 実は、魔の森にはF級冒険者から入れる。
 そうしないと、魔法学園の学生たちが入れないからである。彼らは魔導士であったとしても、ダンジョン初心者が多い。

「リアムが作る昼食なら何でも大歓迎だよー」

「、、、ラーメンでも?」

「せめて一週間に一度でお願いしやっす」

 クロが真顔で答えた。
 そんなに作り過ぎた感は俺にはないんだけど。
 あー、でも、王都の貴族相手のテッチャンの店でラーメンを手に入れようとすれば高額の品になってしまうだろう。
 今のうちに二年分の麺と濃縮スープのセットを大量発注しておこうかな。

 テッチャンたちが砦から去った約二か月後に、とんこつラーメンもしっかり転送してもらった。
 やっぱり味は超濃かったが、それはそれで美味しかった。麺を食べた後、スープにご飯を投入したよ。
 クトフはチーズやら何やらどうにかできないか試行錯誤していたが、こればかりは食べ慣れるしかない。病みつきになるまで。

「寮で食事が出されるのなら良いけど、出されなきゃ考えないとなー。さすがに昼食はつかないだろうけど」

 寮があるといっても、王都で学園の近くに屋敷を持っている貴族は通いだろう。となると、お抱え料理人が昼食時にいる可能性もある。だが、そんな金持ち貴族ばかりではない。普通の学生には学食があるのだろうか。
 貴族相手の学食ならそれなりにお高いだろう。

 考えることは山ほどあるが。
 旅の同行者がいることで、俺はほんの少しだけ気が楽になった。




「何だってーーーーーーーーーっっっっ」

 叫び声が砦中に響いた。
 発生源、砦長室のナーヴァル。
 俺がユニークスキル持ちだとわかり、王都の魔法学園に二年間通わなければならないことを伝えたからだ。

「ど、どどどうするか?」

 慌てすぎじゃねえ?
 ナーヴァルだって今まで砦長として仕事しているじゃないか。
 俺が確認作業をできないだけで、何とかなると思うけど。迷惑被るのは国や冒険者ギルド等だけどね。。。

 返戻の書類が増えるのは仕方ないが、図太い対応をすれば向こうが折れる。ナーヴァルの顔なら可能だ。

「ナーヴァル、一つずつしっかりと仕事をこなしていけば問題ない」

「そうは言っても、坊ちゃん」

 凶悪な顔がより凶悪になっているぞ。
 俺を脅しても王都行きはなくならないぞ。

「と、ところで坊ちゃんのユニークスキルって何だ?」

「はて?そういえば聞き忘れてた。ただどんな能力でも魔法学園に通わなければならないのは変わらないからなあ」

 一週間前、、、余裕をもって十月半ばあたりに、俺の誕生日前に出発すれば、クロなら大丈夫だろう。
 入学式前に、王都の冒険者ギルドに行って、魔の森の情報を得ていたい。できれば、何度かは足を踏み入れておきたい。
 当面の生活費はそちらで稼げば何とかなる。

 C級冒険者の活動拠点が変わるってだけだ。あ、冒険者ギルドで活動拠点を二年間ほど変更するって言っておかないと。
 そういや光の矢のスクロールも大量に作っておこう。リージェンが夜勤になったので夜の魔物の心配は減ったが、意外と消費量があるからな。
 あと、仕方ない。弟の家庭教師ルイ・ミミスにも連絡を入れておくか。


 ナーヴァルが騒いでいる隙に、厨房に行ってクトフに報告する。ついでにおかもち型の転送の魔道具でラーメンの麺と濃縮スープセットを発注しておくのを忘れない。
 そういや、王都辺りの食材はあまり美味しくないと聞く。せめて魔物でも狩っておくか。

「クトフ、できればうちの奴隷たちをたまに気にかけてくれるとありがたい」

「あー、でも、彼らはビッシュたちに任せても大丈夫だと思うけど」

「ビッシュたちも美容に力を入れて、砦で美人の冒険者と評判になってきているからなあ。いつ、うちの奴隷たちに愛想が尽きるのかわからん。砦からの世話人がいないとアイツらの生活の質が落ちるだろうし、そうすると魔物の討伐数にも影響が出ると思うし」

「美人と評判になっているのは、イケメンな彼らのせいでもあると思うけど?とりあえず気に掛けておくから、その代わり、おかもち作って」

「へ?おかもちを?まあ、良いけど」

 俺の同意にクトフが目を細めた。

「転送の魔道具のおかもちだよ。コレと同じの」

「何で?」

「リアムと連絡を取る用の」

 えー、それ、クトフが言っちゃうの?
 絶対ナーヴァルが悪用するよ。
 すべての書類をおかもちに突っ込んでくれるよ。

「それだと砦の書類が俺に回って来るよー。学園に通いながら仕事もしなきゃいけないのー?」

「もしものときのためだよ。たぶん、リアムへの差し入れとかも街の人たちは普通に砦に持ってくる気がするし」

 えー、シロ様へのお供え棚のようにですかねえ?
 ないない。
 手紙とかはありそうだけど。

「はっ、こっちの食材を送ってもらうこともできるのかっ。でも、やっぱり心配だから魔物を収納鞄に入れていこう」

「そういうことでも良いから、出発前に作ってね」

 なんか圧が有無を言わせない。
 クトフ、強くなったなあ。
 じーん。
 友人の成長を嬉しく思う。

「けど、おかもち型はやめるよ。間違ってラーメン屋への発注書が来たら、面倒だ」

「、、、絶対にないとは言えないから、形は任せるよ」

 小さめの扉付き二段ボックスになりました。
 このくらいなら厨房でも邪魔にならないし、俺の方でも寮の部屋の机の上にでも置けるだろう。
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