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5章 必要とされない者
5-30 謝罪をしたのは
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「ぅぶわっ、」
変な声が聞こえた。
「ナーヴァル?」
「坊ちゃん、装備は?」
「いや、もう今日は魔の大平原には行かないから」
半袖Tシャツにズボンなだけだが、何か変、、、というほど変な組み合わせになりようもないのだが。
腰には収納鞄と双剣はつけているが、他の装備は外している。
あっさりし過ぎているのだろうか?
だが、調整日の砦の冒険者たちはもっとひどい格好でブラついている者もいると思うが。
短パンだけっていうヤツもたまにいる。その格好で三階には上がるなよ。
夕食の時間まではまだ少しあるので砦長室に来た。
「坊ちゃん、王都に行く準備はできたのか?」
「ああ、元々成人したら砦に来る予定だったのだから、すでに部屋はある程度は片付いていたから何の問題もない」
「、、、そうか」
ナーヴァルは視線を俺に向けない。横を向いたままだ。
俺、変な格好なのか?
服に何かシミとか汚れとかついているとか?
髪の毛にハネがある、、、くらいなら言うよな。
「ナーヴァルの挙動が変なのはー、リアムがいつもより薄着になっているからだよー。だから、気にしなくて良いよー」
リージェンが説明した。
魔の大平原に出るときも上着は着ているし、いろいろと装備もしているからなー。家に帰るときもだいたいそのままだし。
魔の大平原には冬がない。
年中暖かいからなあ。
砦もその影響で暖かい。街の方に面している側の部屋は多少冷えることもあるが。
ただ、半袖Tシャツの装備なしで魔の大平原を駆け抜けようとするヤツは魔物を舐めているとしか思えん。
そこにいるリージェンだ。
普段着のままで戦斧を振り回している姿をよく見る。急ぎだからといって、砦のそばだからって、皆マネしちゃいかんよ。危険だからね。
リージェンだからできることだよ。
「家に帰るときは上着を着るから大丈夫だ。風邪を引かないようにする」
「、、、うん、そうなんだけど、そうじゃないんだよねー。ま、いいけど」
さすがに、すぐには風邪は引かないだろうけど。
上級治療薬を飲んでしまったし、肉体は完全回復である。体内の魔力は回復してないけど、それは仕方ない。
「明日、リアムも王都に出発かー。ナーヴァルから聞いた?王都で信頼できる店」
「ああ、下町にある店を教えてもらった。東の門からは離れているが、腕が良く、値段が安いのが一番良い」
魔剣のメンテナンスは必要ないが、二年間もいるのなら防具などの装備品等については必要になる。
まったく知らない店に何も知らずに入って冒険するよりは、素直に聞いておいた方が良い。
「東の門近くに魔法学園も冒険者ギルドもあるからねえ。魔法学園は貴族の子弟たちだし、冒険者も身近で済ませようとする者も多いから、意外とあの辺は高いんだよ。飲食店や総菜や弁当売りも日用雑貨も下町の方が安いよ」
「貴族が多いところは基本的にすべてが高くなるからなあ。テッチャンさんが開いたラーメン屋も貴族御用達の店が並ぶ通りに入っているから、行くことはないんだろうな」
「あー、でもテッチャン、奥さんとともに王都の店が順調に行くまでいるって手紙きてたし、一度くらいは様子を見に行ってくれないかなー」
「、、、リージェン、その手紙に返事したのか?」
「いや、手紙を全員に見せたけど、誰も返してない」
そういう奴らだよ、お前ら。
ああ、でも、返事しても王都にいるのなら、テッチャンに手紙が届くのはだいぶ先か。
遠い国のラーメン屋にあの転送の魔道具であるおかもちは存在しているのだから。テッチャンたちがおかもちを持っているわけじゃないからなー。
醤油や味噌は砦の客に細々と受け入れ始めている。
ほんの少量を料理に使い、隠し味や風味付けに良いという評価だが。俺たちにとっては外国用でも普通に使うと味が濃いという評価になっている。
「テッチャン宛の手紙なら届けてやるぞ」
その方が王都のラーメン屋に行く口実にもなる。それなら、休憩に近い時間で顔を出すこともできる。
「えー、めんどい。ナーヴァル書いてー」
「うっ、仕方ない。書いておくか」
ナーヴァルが机に向かって書き始めた。きっと長文にはならないだろうな、と思ったがけっこうな文字数を書いているようだ。内容は見ないが。
「皆、お待たせー。隣に準備できたよー」
クトフが補佐三人に手伝ってもらって、隣の応接室に料理を運んでいたようだ。
参加者は当初の予定通りだ。砦長室にいる者たちとクトフである。
ちょうど夕食の時間にクトフをお借りして申し訳ないなあ、厨房の皆様には。
俺はクトフの料理を楽しんだ。
宴もたけなわの頃、クリスがやって来た。
「、、、酒も入っていないのに、こんなに盛り上がれるのも凄いね」
と言って、差し入れの酒を箱でテーブルに置く。
「クリスー、この席は酒なしって言われているんだ」
俺にね。ナーヴァルが恨めしそうにクリスに言う。
「後で飲めば良いじゃない。ナーヴァルと補佐二人はもう仕事上がるんだろ」
「わー、ずるい。俺たちの分はー」
「一本残しておいてやるから、夜勤が終わったら飲め」
「えー、二本ー。一人一本ずつほしいー。クリスが持ってくるのは良いお酒だからさー」
わちゃわちゃ。
皆が酒に集中しているなか、クリスが俺に目で合図した。
とりあえず、応接室の外に出る。
「昨日はすまなかった」
「あー、」
クリスの謝罪は昨日の件のことだが。
「けど、クリス様が謝ることはないと思うけど」
「いや、リアムのことだから、ハーラット侯爵家の関係者全員、砦を出入り禁止ぐらいするかなと思って」
「あー、」
考えていましたね、昨晩は、確かに。
「その反応はやっぱり気づいていたよね」
「そりゃー。直接会っていないだけですからねえ。クリス様とも多少顔立ちが似ているのに、まったく気づかれないと思う方がおかしいと思いますが」
「それなのに、わざわざホテルの客室までとって断行してしまったんだよ」
「苦労しますね」
「お互い兄にはね」
クリスは俺を見た。
「キミが出した五千万はここの外壁を修繕するために貯めたお金だろう。キミの実力はすでにわかっているはずなのに、あんなにも試すことはするなと言ったのに。。。代わりに私がその五千万出しても良いだろうか」
その申し出はありがたいが、それは無償ではないものだろう。
見返りが何かしら必要になる。
彼らにとって五千万はたいした額ではない。
クリスにとっては兄の尻拭いだという意味合いしかないものだとしても。
それでも、受け取るわけにはいかない。
俺がこの砦を守るためには。
俺は首を横に振る。
「非常にありがたい申し出ですが」
「断られる気はしていた。けれど、修繕費に関わらず必要ならいつでも言ってくれ。キミの頼みならいつでも用立てる」
「ありがとうございます」
俺が礼を言うと、クリスはこの場から去っていった。遠くに離れていた護衛たちも一緒に去っていく。
クリスは謝罪したが、それは今回の件の張本人の謝罪ではない。
そもそも、誰かがバカ兄貴に金を貸さなければ、今回の騒ぎはなかった。
「クリス様はとめていてくれていたのかあ」
クリス様ではとめられない人物だということも知っていたからなあ。
クリス様は自分が死なないために、彼に追従することを選んだ人間だ。
本当は意見を言うことすら嫌なはずだ。
クリス様はイエスマンとしてあの家に存在する。
ハーラット侯爵家の兄弟は、侯爵と弟のクリス、そして妹ちゃんしか生き残っていない。
病気、不慮の事故、魔物の襲撃等、どれをとっても表面だけ見れば殺されたわけではない。
ただ、事実がわからないように隠蔽するのはそこまで難しいことではない。
権力を持つ高位の貴族ほど、容易くやってのける。
変な声が聞こえた。
「ナーヴァル?」
「坊ちゃん、装備は?」
「いや、もう今日は魔の大平原には行かないから」
半袖Tシャツにズボンなだけだが、何か変、、、というほど変な組み合わせになりようもないのだが。
腰には収納鞄と双剣はつけているが、他の装備は外している。
あっさりし過ぎているのだろうか?
だが、調整日の砦の冒険者たちはもっとひどい格好でブラついている者もいると思うが。
短パンだけっていうヤツもたまにいる。その格好で三階には上がるなよ。
夕食の時間まではまだ少しあるので砦長室に来た。
「坊ちゃん、王都に行く準備はできたのか?」
「ああ、元々成人したら砦に来る予定だったのだから、すでに部屋はある程度は片付いていたから何の問題もない」
「、、、そうか」
ナーヴァルは視線を俺に向けない。横を向いたままだ。
俺、変な格好なのか?
服に何かシミとか汚れとかついているとか?
髪の毛にハネがある、、、くらいなら言うよな。
「ナーヴァルの挙動が変なのはー、リアムがいつもより薄着になっているからだよー。だから、気にしなくて良いよー」
リージェンが説明した。
魔の大平原に出るときも上着は着ているし、いろいろと装備もしているからなー。家に帰るときもだいたいそのままだし。
魔の大平原には冬がない。
年中暖かいからなあ。
砦もその影響で暖かい。街の方に面している側の部屋は多少冷えることもあるが。
ただ、半袖Tシャツの装備なしで魔の大平原を駆け抜けようとするヤツは魔物を舐めているとしか思えん。
そこにいるリージェンだ。
普段着のままで戦斧を振り回している姿をよく見る。急ぎだからといって、砦のそばだからって、皆マネしちゃいかんよ。危険だからね。
リージェンだからできることだよ。
「家に帰るときは上着を着るから大丈夫だ。風邪を引かないようにする」
「、、、うん、そうなんだけど、そうじゃないんだよねー。ま、いいけど」
さすがに、すぐには風邪は引かないだろうけど。
上級治療薬を飲んでしまったし、肉体は完全回復である。体内の魔力は回復してないけど、それは仕方ない。
「明日、リアムも王都に出発かー。ナーヴァルから聞いた?王都で信頼できる店」
「ああ、下町にある店を教えてもらった。東の門からは離れているが、腕が良く、値段が安いのが一番良い」
魔剣のメンテナンスは必要ないが、二年間もいるのなら防具などの装備品等については必要になる。
まったく知らない店に何も知らずに入って冒険するよりは、素直に聞いておいた方が良い。
「東の門近くに魔法学園も冒険者ギルドもあるからねえ。魔法学園は貴族の子弟たちだし、冒険者も身近で済ませようとする者も多いから、意外とあの辺は高いんだよ。飲食店や総菜や弁当売りも日用雑貨も下町の方が安いよ」
「貴族が多いところは基本的にすべてが高くなるからなあ。テッチャンさんが開いたラーメン屋も貴族御用達の店が並ぶ通りに入っているから、行くことはないんだろうな」
「あー、でもテッチャン、奥さんとともに王都の店が順調に行くまでいるって手紙きてたし、一度くらいは様子を見に行ってくれないかなー」
「、、、リージェン、その手紙に返事したのか?」
「いや、手紙を全員に見せたけど、誰も返してない」
そういう奴らだよ、お前ら。
ああ、でも、返事しても王都にいるのなら、テッチャンに手紙が届くのはだいぶ先か。
遠い国のラーメン屋にあの転送の魔道具であるおかもちは存在しているのだから。テッチャンたちがおかもちを持っているわけじゃないからなー。
醤油や味噌は砦の客に細々と受け入れ始めている。
ほんの少量を料理に使い、隠し味や風味付けに良いという評価だが。俺たちにとっては外国用でも普通に使うと味が濃いという評価になっている。
「テッチャン宛の手紙なら届けてやるぞ」
その方が王都のラーメン屋に行く口実にもなる。それなら、休憩に近い時間で顔を出すこともできる。
「えー、めんどい。ナーヴァル書いてー」
「うっ、仕方ない。書いておくか」
ナーヴァルが机に向かって書き始めた。きっと長文にはならないだろうな、と思ったがけっこうな文字数を書いているようだ。内容は見ないが。
「皆、お待たせー。隣に準備できたよー」
クトフが補佐三人に手伝ってもらって、隣の応接室に料理を運んでいたようだ。
参加者は当初の予定通りだ。砦長室にいる者たちとクトフである。
ちょうど夕食の時間にクトフをお借りして申し訳ないなあ、厨房の皆様には。
俺はクトフの料理を楽しんだ。
宴もたけなわの頃、クリスがやって来た。
「、、、酒も入っていないのに、こんなに盛り上がれるのも凄いね」
と言って、差し入れの酒を箱でテーブルに置く。
「クリスー、この席は酒なしって言われているんだ」
俺にね。ナーヴァルが恨めしそうにクリスに言う。
「後で飲めば良いじゃない。ナーヴァルと補佐二人はもう仕事上がるんだろ」
「わー、ずるい。俺たちの分はー」
「一本残しておいてやるから、夜勤が終わったら飲め」
「えー、二本ー。一人一本ずつほしいー。クリスが持ってくるのは良いお酒だからさー」
わちゃわちゃ。
皆が酒に集中しているなか、クリスが俺に目で合図した。
とりあえず、応接室の外に出る。
「昨日はすまなかった」
「あー、」
クリスの謝罪は昨日の件のことだが。
「けど、クリス様が謝ることはないと思うけど」
「いや、リアムのことだから、ハーラット侯爵家の関係者全員、砦を出入り禁止ぐらいするかなと思って」
「あー、」
考えていましたね、昨晩は、確かに。
「その反応はやっぱり気づいていたよね」
「そりゃー。直接会っていないだけですからねえ。クリス様とも多少顔立ちが似ているのに、まったく気づかれないと思う方がおかしいと思いますが」
「それなのに、わざわざホテルの客室までとって断行してしまったんだよ」
「苦労しますね」
「お互い兄にはね」
クリスは俺を見た。
「キミが出した五千万はここの外壁を修繕するために貯めたお金だろう。キミの実力はすでにわかっているはずなのに、あんなにも試すことはするなと言ったのに。。。代わりに私がその五千万出しても良いだろうか」
その申し出はありがたいが、それは無償ではないものだろう。
見返りが何かしら必要になる。
彼らにとって五千万はたいした額ではない。
クリスにとっては兄の尻拭いだという意味合いしかないものだとしても。
それでも、受け取るわけにはいかない。
俺がこの砦を守るためには。
俺は首を横に振る。
「非常にありがたい申し出ですが」
「断られる気はしていた。けれど、修繕費に関わらず必要ならいつでも言ってくれ。キミの頼みならいつでも用立てる」
「ありがとうございます」
俺が礼を言うと、クリスはこの場から去っていった。遠くに離れていた護衛たちも一緒に去っていく。
クリスは謝罪したが、それは今回の件の張本人の謝罪ではない。
そもそも、誰かがバカ兄貴に金を貸さなければ、今回の騒ぎはなかった。
「クリス様はとめていてくれていたのかあ」
クリス様ではとめられない人物だということも知っていたからなあ。
クリス様は自分が死なないために、彼に追従することを選んだ人間だ。
本当は意見を言うことすら嫌なはずだ。
クリス様はイエスマンとしてあの家に存在する。
ハーラット侯爵家の兄弟は、侯爵と弟のクリス、そして妹ちゃんしか生き残っていない。
病気、不慮の事故、魔物の襲撃等、どれをとっても表面だけ見れば殺されたわけではない。
ただ、事実がわからないように隠蔽するのはそこまで難しいことではない。
権力を持つ高位の貴族ほど、容易くやってのける。
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