解放の砦

さいはて旅行社

文字の大きさ
137 / 291
6章 男爵家の後始末

6-9 いやはやいやはや ◆クトフ視点◆

しおりを挟む
◆クトフ視点◆

 夜、転送の魔道具である二段戸棚を確認する。
 リアムは厨房に置くと思ってこの形にしたが、俺の部屋に置くので他の誰も使わない。

 俺以外使わないと思っていたけど、クロ様が俺の部屋に街の住民からのリアムへのお供え物、、、もとい差し入れを持ってくるようになった。
 クロ様のお供え棚が、シロ様のお供え棚の隣に復活した。
 ただし、リアム用の棚として。

 クロ様が毎日王都にいるリアムの元に通っているという噂は砦の冒険者だけでなく街の皆にも耳に入っている。
 さすがは砦の守護獣様、何でもできるのですねと評判だったのだが、クロ様にリアムへの差し入れを渡す者が出てきてしまった。クロ様もご一緒に食べてくださいと渡すのがほとんどであるが。
 見つかると物を押しつけられるのが嫌になってきたということで、クロ様のお供え棚が現れたのである。

「これ、送っておいてー」

「クロ様が直々に持っていかれる方がリアムも喜ぶと思いますけど」

「僕が持っていこうとすると、僕のお腹のなかになっちゃうからなー。食材はリアムが料理してくれるから食べたいのであって、別にこのままだと体内に入れたくないからねー」

 はい、クロ様の体外にある物はリアムの元に持っていけないということが判明しました。
 そして、俺の部屋に差し入れの品を置くと、さっさと消える。
 何でクロ様にバレたんだろう。。。
 リアムの方の戸棚を見たのかな。

 戸棚は小さい。そこまで大きくない。
 転送の魔道具に戸がついているのは、物を入れたら一回閉じる。転送先が物を出さないと、転送元は次の物を送れないのである。
 夜、戸棚に入るだけ物を詰めても、基本的に翌朝にならないとなくならない。その後に再び物を入れてもなかなか取り出してもらえない。つまりはリアムは朝に一回、戸棚を確認することが多いようだ。

 というわけで、俺も考えました。
 リアムが作った収納鞄が砦では売られている。
 小さいサイズの鞄で、大きめのリュックサイズの容量が詰められる。
 特に俺には必要ないと思っていたが、二年後には俺が使えば良い。
 多少の状態保存ができて重い荷物を移動させるときには便利である。収納鞄は重さを感じさせないので、食材の移動には良いんじゃないかなと思い始めていたところだ。

 安くはないが手を出せる金額なので購入して、中にクロ様が置いていった差し入れを詰め込み、手紙を収納鞄の上に置いて送ることにした。コレなら一度の転送ですべてが送れる。
 ということを毎日やることになった。
 何でこんなにもリアム宛に差し入れがあるんだろう。
 それだけリアムが人気で感謝されているってことなんだろうけど。

 リアムはリアムで、空で返すはずの収納鞄に王都で購入した調味料や見慣れない食材等を入れて来る。
 そして、たまについている手紙には差し入れの食材を送るだけじゃなくて、その食材をクトフが料理したのを入れてくれてもいいんだよー、たまにはクトフの料理が食べたいなー、クトフ様ー弁当作ってくださいー、せめて冒険者弁当プリーズ等々書かれている。要求は一つのみだな。一貫しているよ。


 クロ様のお供え棚から溢れている差し入れは、収納鞄にも入らなくなるので、クロ様に断ってから、注意書きをお供え棚に置いた。

 手紙、書類等は受け取りません。
 置くのは一人一品のみ。
 お供え棚にのせられない物はお持ち帰りください。

 今後、問題が生じたら文章を加えていこう。
 ナーヴァル砦長が書類を持ってこの辺うろついていたから、書いておいてやったぞ、リアム。感謝しろっ。
 まあ、クロ様もお供え棚に置かれた書類を一回ナーヴァルの頭に投げ落としたと言っていたし。。。

 このお供え棚にのせた物はクロ様がリアムの元まで持っていくと思われている。
 物を抱えたちっこいクロ様がけっこう目撃されているので、信憑性が高くなっている。
 実際、俺の部屋に持ってくるけどっ。
 持っていける物、分量は限られていると、是非この文章から読み取ってください。

 二段戸棚を作ってもらっておいて良かったと思う反面、作ってもらっていなければこんな苦労をすることもなかったんだなとも思う。
 他の誰にも言わなければ、自分だけの特権だと思っていた。


 うんうん。
 リアムが奴隷たちに通信の魔道具を渡していたとはねー。

 ビッシュたちが魔の大平原への侵入者をよく捕まえて来る。砦長に渡している。
 侵入者たちは誓約魔法で守られている砦を通過せずに、壁をよじ登って侵入するようになった。
 搦め手はやめたのか?
 魔物が蔓延っている魔の大平原に忍び込む輩がいるのが、砦の冒険者には不思議だとか馬鹿なのかとしか思えないのだが。どこぞの誰かに依頼されなければ、そんなことやらないよな。

 けれど、なぜか毎回ルー、レイ、ロウの三人が動いている。
 彼らが普段なら来ないはずの外壁付近に侵入者を見つけて、リアム様のためーと奇声を上げてフルボッコにしているそうな。。。
 リアム、外壁に強化の魔法以外もかけていかなかった?
 侵入を防ぐのは難しいから、感知するような魔法をかけたでしょ。
 リアムが侵入者を感知すれば、あの三人に連絡して急行させているということで正解でしょ。

 そのときの三人はビッシュたちが追い付けないスピードで魔の大平原を駆け抜けていくそうな。
 ビッシュたちが三人に辿り着いたころにはすべてが終わっており、コイツら砦長に渡して置いてー、と後始末を頼まれる。

 ビッシュたちも彼ら三人が砦の冒険者を傷つけられないということを知っている。
 だから、彼らに倒される者は砦の冒険者ではない。
 魔の大平原に行く者は絶対に冒険者として入場許可をもらい砦を通らなければならないのは砦が決めた独自のルールではなく、この領地での絶対的なルールである。一般人が勝手に入らないように決められた規則である。
 今でこそ、リアムの誓約魔法で一般人は入って来れないが、紙の誓約書だったときは一般人も砦から魔の大平原に入ってしまうことが物理的にできていた。けれど、その捜索は砦の冒険者をさらに危険に晒した。
 ゆえに砦の冒険者以外の者が魔の大平原に入った場合、不法侵入者として袋叩きにされてポイされても文句は言えないのである。顔見知りの街の住民ならまだしも、、、街の住民はそんな無謀なことはしないけどね。
 魔の大平原に行ってから砦の入場許可を取り消された者も、魔の大平原にいるのは許されている。

 砦長もそのことはわかっている。
 が、何で、あの三人が的確に動くのかということまではわかっていないようだ。


 俺がD級冒険者の料理人だから、砦に入れない彼ら三人と直接会う機会はないだろうとリアムは思っていたのかな?
 あの三人のことを頼んでおきながら事前に教えてくれなかったので、わがままを手紙に書いてみた。

 リアムとの通信の魔道具が欲しいんだけどー、と。
 数日間音沙汰がなかったので、奴隷の三人にはあげたのに、俺にはくれないんだー、と書いた。

 リアムから返事があった。

 通信の魔道具の材料求む。
 高すぎて王都では材料に手が出せないから、極西の砦で揃えてくれ、と書かれていた。

 そうですね、王都は何もかも高いって言ってましたね。。。
 忘れてました。
 俺、この地から動いたことないもので。
 俺から必要なものを聞いておけば良かった。




 と反省したのに、綺麗に打ち消された。

「これらはどうですか?」

「、、、良いんじゃないでしょうかね」

 なぜか俺はビッシュたちに連れ去られて、C級冒険者担当エリアに拉致された。
 ビッシュたち五人は指示されただけのようである。犯罪の片棒を担ぐなよ。

 そこにいたのはルー、レイ、ロウである。なんでずっと魔の大平原にいるのにコイツらキラキライケメンなんだろう。怖いよ。リアムが普通に生活費を渡しているのに、ビッシュたち貢いでない?

 彼らは魔物から取り出した魔石を並べている。
 普段の彼らは解体をしない。転送の魔道具で討伐した魔物は砦の方にそのまま転送されているのだが。

「でも、リアム様が身につけるのなら、この色の方が似合うのでは?」

「いや、高品質のこの魔石の方が長持ちする」

「しかし、この魔石の方が小さいから、指輪でも可能だ」

「リアム様とお揃いの指輪なら俺も欲しい」

「そりゃ俺もだ」

「もう一つ腕輪をするとなると、俺たちの腕輪を外そうとか思っちゃったりしないか?」

「収納鞄に入れっぱなしに?放置プレイか?それはそれでいいかも」

「リアム様は指輪はしていないだろ」

「いや、砦の守護獣様の指輪をしている」

「ああ、中指か。他の指はまだ空きあるな」

 ごにょごにょごにょ。

「クトフ料理長、この小さい魔石でいかがですか?」

 三人が一つの魔石を差し出した。
 ようやく話がまとまったか。
 話がまとまってから、連れてきてほしかったな。
 聞かなくてもいい会話を聞いた気がするよ。

 確かに魔石は買うと高価だよ、ここでも。
 王都ではもっとバカ高いってことだけど。
 リアムはこの三人に魔石調達を頼んだということらしい。。。
 手紙に書いておけ、そういうことは。

 そういうところだぞ、お前は。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

処理中です...