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7章 愚者は踊る
7-17 F級魔導士の評価 ◆グルガン視点・バージ視点◆
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◆グルガン・ゲート視点◆
ギリギリギリと爪を噛む。
急に学園長から、時間外にする必要がある課題等を学生に課すときは、許可を取れと通達があった。
事後の届出でもなく、許可。
今まで、こんなことはなかったのに。
自分の教員部屋で名簿を見る。
一年三組の名簿である。
リアム・メルクイーン。
メルクイーン男爵家三男の、砦の管理者。
魔物販売許可証の書類を国に通したことでも有名だ。
だが、そんなものは男爵が部下にでも書かせたのだろう。親が子に箔をつけさせるために、金でやらせたに決まっている。
「くそっ」
下位貴族のクラスの学生は教師に何も口答えできない、はずだった。
黙って、粛々と、私の講義を受けていれば良いのだ。
それなのに。
一週間後、一年三組の魔法理論の講義。
何事もなく全員出席している。
放課後のレポート課題は序の口だった。これから徐々にハードルを上げていく手筈だったのに。
「先週のレポートでは優秀なものが数点ほどありましたね。急な課題でも、日々研鑽している貴族だけあってさすがです。それでは提出されたものから三点ほど紹介していきましょう」
紹介していくと、それぞれ書いたグループに拍手をしていく。
「、、、という点が評価できますね。このレポートを提出してくれたのはバージくんとリアムくんです」
この学園では教師は姓を呼ばず、名前でくんづけで呼ぶ。姓で呼ぶと学生の実家の爵位を気にすることになるからである。けれど、下位貴族のクラスではどうでもいいことであるが。
他の者たちと同じように、バージだけは立ち上がって周囲に礼をする。
ただ、あの学生は。
「リアムくんの考察も貴族とは思えない視点で一考に値します」
教室の端の通路側にいつも座っているリアムがようやく顔を上げ私を見た。
胡散臭いものを見るかのような顔で。
「さすがは王都で神童と呼ばれただけのことはありますね。F級魔導士なのに」
ニヤリと私は彼を見た。
この学園でF級魔導士という事実を知るのは教職員のみ。
学生たちが知ったらどうなるか、楽しみだ。
誰も騒がない。
静かだ。
事実を受けとめるのに時間がかかるんだな。
再び、私は彼を見た。
アクビをした。。。
まだ、自分を見ている私に気づいて。
「他に何か?」
それがどうしたんだと言わんばかりの態度で尋ねてきた。
そう、このときの私は考えが足りていなかった。
ただ苛立ちをぶつけたかっただけだ。
F級魔導士と言われ、慌てふためく姿を見たかっただけだ。
しかし、ほんの少し冷静になって考えると。
この学園は貴族の子弟のC級以上の魔導士しか入学できない。
F級魔導士がこの教室にいるということは、それはユニークスキルを持っていると他ならないということを周囲に広めただけだ。
本来、ユニークスキル持ちはA級とB級魔導士のクラスである一組に入れる。
今回は本人の希望もあって三組に入ったと説明されていたが。。。
反対に、私は彼の価値を高めることを言ってしまったのだ。
魔法理論の講義を終えると、私は足早にこの教室から去っていった。
◆バージ視点◆
「、、、教会には困ったもんだな」
私はポツリと呟いた。
振り返って後ろを見たが、彼の姿はすでにない。
魔法理論の講義が終わり、休憩時間に入った。
今日は、あの教師は課題も何も言っていかなかった。
「寄付金目当てか。このクラスなら子爵か男爵だろ。払えるもんじゃない。彼も嫌な神官に当たったものだな」
近くにいた他の学生が私の独り言を会話にしてしまった。
周囲にいた学生も加わってくる。
「ただ、F級はないだろ」
「誓約魔法を使えるF級魔導士なんかいない。誓約魔法を使えるとされているのはB級以上の魔導士だ」
「、、、それ、正規の級だったら、このクラスにはいないってことじゃないか?」
「けど、彼が誓約魔法を使っているのをうちの担任たちは見ていたじゃないか。途中でのクラス替えは講義についていけないからか?」
「一学年の最初の方の講義なんて、どこのクラスも似たり寄ったりだろ」
私の周囲にいたのは男子学生たち、口々と言いたいことを口にした。
「メルクイーンって王都の社交界で挨拶したことないんだけどな。知ってるか?」
「いや、実は知らない」
「うーん、田舎の領地なのかなー?」
勝手に言いたい放題しているな。
彼も教室にいないことだし、言わせておこう。
リアム・メルクイーン。
本人が言わないので私も何も言わないが、メルクイーンと聞いてピンと来なかったら、そいつはそれだけの人物なのだろう。
メルクイーン男爵家は辺境の領地だ。それもそのはず、魔の大平原を押さえる極西の砦と言えば有名だ。
ただ、名前だけ言われると即座に思い出すか、と言われるとキツイところがある。
せめて男爵家の、砦の、とか言われると、ああ、となるのだが。
貴族の自己紹介というのは家を紹介するようなものだからなあ。当たり前のように家の爵位を言うところがある。
そして、成人している学生たちが挨拶をしたことがないという事実が、メルクイーン男爵家が王都の社交界出席を免除されていることを如実に表している。
メルクイーン男爵家は冒険者の一族だ。
彼も両脇に剣をぶら下げているのを、マントが翻ったときに垣間見える。
だけなら良かったのだが。
たまに制服のマントを羽織っていないこともある。。。
特に昼の休憩後に。
平然と冒険者の格好で教室に入ってきたことがあったので、こっそりと指摘すると、ああ、忘れていた、と収納鞄らしき腰の鞄からマントを取り出していた。
彼はC級冒険者の銅色プレートを首から下げている。
魔導士の級は金で買えると言われているが、冒険者の級は金で買えない。実力を示す。
この学園に来る学生が冒険者ギルドにA級冒険者にしろと圧力を加えようと、冒険者ギルドの方がこの大陸全土に広がる大組織だ。圧力を加えたクジョー王国の貴族の方が痛い目を見ることになる、からやらないようにと最初に忠告される。
学園にある訓練場は特に行事でもなければ、休憩時間や放課後は学生が自由に使っていいことになっている。
魔法実技の後でもなければ、残っている学生もいないので、のびのびと鍛錬できる。
もし上級生とか上位クラスの学生がいたら、時間をズラすけど。
昼の休憩時間、昼食後に時間が余ったので訓練場に足を運んだ。
が、私が訓練場に入ろうとしたら、爆音が響いた。
上級生が魔法の訓練をしているのだろうか。凄い威力の魔法なら、一度は見てみたいという好奇心に勝てなかった。こっそりと観覧席の方に回る。
訓練場にいたのはリアム・メルクイーン。
彼が双剣で戦っていた。
相手は黒い小さい獣?従魔かな?
小さいから戦い辛いのかな?と思ったが。
アレはちっちゃい爪で剣がとめられているのかな??
「まだまだだなー、リアムー。カラダがなまっているよー」
「仕方ないだろっ、数時間しかいられないせいで、魔の森は奥の方へ行けないんだから」
「そっだねー。たまにはA級魔物と遭遇しないと腕がなまるよねー」
「会えてB級魔物って、運がない。ホントにA級魔物とでも会わなきゃ稼げないじゃないかっ」
彼は大声も出せたんだなー。
あの従魔、喋ってるし、強いよー。
会話しながらのあの剣戟、怖いよー。
観覧席で腰を抜かしていたわけじゃない、決して。
よっこらせっと立ち上がろうとしたら。
剣が目の前を通過した。
椅子の背に剣がぶっ刺さっている。。。
「、、、あ。クラス委員か。すまない、王子の手先かと思った」
彼は笑いながら、観覧席につながる壁をひょいっと飛び越えてこちらにやって来た。
黒い従魔も彼の肩にのっている。興味深そうなクリクリな目を私に向けている。
手を差し出されてしまった。
腰は抜けてないぞ、断じて。
よっこらせっと。
「王子の手先、、、いやいや、王子とは会ったこともないから」
「意外と一学年違うだけで会わないもんなんだな、学園って。同じ敷地にいるのになあ」
深い意味はないよね??
砦が王子にちょっかいかけられているという噂はこの王都でよく耳にする。
「私の名前はバージ・テンガラットだ」
「知ってるけど?」
首を傾げられてしまった。
「これからはクラス委員ではなく、バージと呼んでくれ」
「ああ、、、バージ、よろしく」
「私もリアムと呼んでいいか?」
「好きに呼んでくれたらいい」
リアムは剣を椅子から抜いて、鞘に戻していた。
その動作も格好良いものだった。
二人で教室に戻ろうとする。
「あ、リアム、マント羽織らないと」
気づいたので彼に言っておく。
ギリギリギリと爪を噛む。
急に学園長から、時間外にする必要がある課題等を学生に課すときは、許可を取れと通達があった。
事後の届出でもなく、許可。
今まで、こんなことはなかったのに。
自分の教員部屋で名簿を見る。
一年三組の名簿である。
リアム・メルクイーン。
メルクイーン男爵家三男の、砦の管理者。
魔物販売許可証の書類を国に通したことでも有名だ。
だが、そんなものは男爵が部下にでも書かせたのだろう。親が子に箔をつけさせるために、金でやらせたに決まっている。
「くそっ」
下位貴族のクラスの学生は教師に何も口答えできない、はずだった。
黙って、粛々と、私の講義を受けていれば良いのだ。
それなのに。
一週間後、一年三組の魔法理論の講義。
何事もなく全員出席している。
放課後のレポート課題は序の口だった。これから徐々にハードルを上げていく手筈だったのに。
「先週のレポートでは優秀なものが数点ほどありましたね。急な課題でも、日々研鑽している貴族だけあってさすがです。それでは提出されたものから三点ほど紹介していきましょう」
紹介していくと、それぞれ書いたグループに拍手をしていく。
「、、、という点が評価できますね。このレポートを提出してくれたのはバージくんとリアムくんです」
この学園では教師は姓を呼ばず、名前でくんづけで呼ぶ。姓で呼ぶと学生の実家の爵位を気にすることになるからである。けれど、下位貴族のクラスではどうでもいいことであるが。
他の者たちと同じように、バージだけは立ち上がって周囲に礼をする。
ただ、あの学生は。
「リアムくんの考察も貴族とは思えない視点で一考に値します」
教室の端の通路側にいつも座っているリアムがようやく顔を上げ私を見た。
胡散臭いものを見るかのような顔で。
「さすがは王都で神童と呼ばれただけのことはありますね。F級魔導士なのに」
ニヤリと私は彼を見た。
この学園でF級魔導士という事実を知るのは教職員のみ。
学生たちが知ったらどうなるか、楽しみだ。
誰も騒がない。
静かだ。
事実を受けとめるのに時間がかかるんだな。
再び、私は彼を見た。
アクビをした。。。
まだ、自分を見ている私に気づいて。
「他に何か?」
それがどうしたんだと言わんばかりの態度で尋ねてきた。
そう、このときの私は考えが足りていなかった。
ただ苛立ちをぶつけたかっただけだ。
F級魔導士と言われ、慌てふためく姿を見たかっただけだ。
しかし、ほんの少し冷静になって考えると。
この学園は貴族の子弟のC級以上の魔導士しか入学できない。
F級魔導士がこの教室にいるということは、それはユニークスキルを持っていると他ならないということを周囲に広めただけだ。
本来、ユニークスキル持ちはA級とB級魔導士のクラスである一組に入れる。
今回は本人の希望もあって三組に入ったと説明されていたが。。。
反対に、私は彼の価値を高めることを言ってしまったのだ。
魔法理論の講義を終えると、私は足早にこの教室から去っていった。
◆バージ視点◆
「、、、教会には困ったもんだな」
私はポツリと呟いた。
振り返って後ろを見たが、彼の姿はすでにない。
魔法理論の講義が終わり、休憩時間に入った。
今日は、あの教師は課題も何も言っていかなかった。
「寄付金目当てか。このクラスなら子爵か男爵だろ。払えるもんじゃない。彼も嫌な神官に当たったものだな」
近くにいた他の学生が私の独り言を会話にしてしまった。
周囲にいた学生も加わってくる。
「ただ、F級はないだろ」
「誓約魔法を使えるF級魔導士なんかいない。誓約魔法を使えるとされているのはB級以上の魔導士だ」
「、、、それ、正規の級だったら、このクラスにはいないってことじゃないか?」
「けど、彼が誓約魔法を使っているのをうちの担任たちは見ていたじゃないか。途中でのクラス替えは講義についていけないからか?」
「一学年の最初の方の講義なんて、どこのクラスも似たり寄ったりだろ」
私の周囲にいたのは男子学生たち、口々と言いたいことを口にした。
「メルクイーンって王都の社交界で挨拶したことないんだけどな。知ってるか?」
「いや、実は知らない」
「うーん、田舎の領地なのかなー?」
勝手に言いたい放題しているな。
彼も教室にいないことだし、言わせておこう。
リアム・メルクイーン。
本人が言わないので私も何も言わないが、メルクイーンと聞いてピンと来なかったら、そいつはそれだけの人物なのだろう。
メルクイーン男爵家は辺境の領地だ。それもそのはず、魔の大平原を押さえる極西の砦と言えば有名だ。
ただ、名前だけ言われると即座に思い出すか、と言われるとキツイところがある。
せめて男爵家の、砦の、とか言われると、ああ、となるのだが。
貴族の自己紹介というのは家を紹介するようなものだからなあ。当たり前のように家の爵位を言うところがある。
そして、成人している学生たちが挨拶をしたことがないという事実が、メルクイーン男爵家が王都の社交界出席を免除されていることを如実に表している。
メルクイーン男爵家は冒険者の一族だ。
彼も両脇に剣をぶら下げているのを、マントが翻ったときに垣間見える。
だけなら良かったのだが。
たまに制服のマントを羽織っていないこともある。。。
特に昼の休憩後に。
平然と冒険者の格好で教室に入ってきたことがあったので、こっそりと指摘すると、ああ、忘れていた、と収納鞄らしき腰の鞄からマントを取り出していた。
彼はC級冒険者の銅色プレートを首から下げている。
魔導士の級は金で買えると言われているが、冒険者の級は金で買えない。実力を示す。
この学園に来る学生が冒険者ギルドにA級冒険者にしろと圧力を加えようと、冒険者ギルドの方がこの大陸全土に広がる大組織だ。圧力を加えたクジョー王国の貴族の方が痛い目を見ることになる、からやらないようにと最初に忠告される。
学園にある訓練場は特に行事でもなければ、休憩時間や放課後は学生が自由に使っていいことになっている。
魔法実技の後でもなければ、残っている学生もいないので、のびのびと鍛錬できる。
もし上級生とか上位クラスの学生がいたら、時間をズラすけど。
昼の休憩時間、昼食後に時間が余ったので訓練場に足を運んだ。
が、私が訓練場に入ろうとしたら、爆音が響いた。
上級生が魔法の訓練をしているのだろうか。凄い威力の魔法なら、一度は見てみたいという好奇心に勝てなかった。こっそりと観覧席の方に回る。
訓練場にいたのはリアム・メルクイーン。
彼が双剣で戦っていた。
相手は黒い小さい獣?従魔かな?
小さいから戦い辛いのかな?と思ったが。
アレはちっちゃい爪で剣がとめられているのかな??
「まだまだだなー、リアムー。カラダがなまっているよー」
「仕方ないだろっ、数時間しかいられないせいで、魔の森は奥の方へ行けないんだから」
「そっだねー。たまにはA級魔物と遭遇しないと腕がなまるよねー」
「会えてB級魔物って、運がない。ホントにA級魔物とでも会わなきゃ稼げないじゃないかっ」
彼は大声も出せたんだなー。
あの従魔、喋ってるし、強いよー。
会話しながらのあの剣戟、怖いよー。
観覧席で腰を抜かしていたわけじゃない、決して。
よっこらせっと立ち上がろうとしたら。
剣が目の前を通過した。
椅子の背に剣がぶっ刺さっている。。。
「、、、あ。クラス委員か。すまない、王子の手先かと思った」
彼は笑いながら、観覧席につながる壁をひょいっと飛び越えてこちらにやって来た。
黒い従魔も彼の肩にのっている。興味深そうなクリクリな目を私に向けている。
手を差し出されてしまった。
腰は抜けてないぞ、断じて。
よっこらせっと。
「王子の手先、、、いやいや、王子とは会ったこともないから」
「意外と一学年違うだけで会わないもんなんだな、学園って。同じ敷地にいるのになあ」
深い意味はないよね??
砦が王子にちょっかいかけられているという噂はこの王都でよく耳にする。
「私の名前はバージ・テンガラットだ」
「知ってるけど?」
首を傾げられてしまった。
「これからはクラス委員ではなく、バージと呼んでくれ」
「ああ、、、バージ、よろしく」
「私もリアムと呼んでいいか?」
「好きに呼んでくれたらいい」
リアムは剣を椅子から抜いて、鞘に戻していた。
その動作も格好良いものだった。
二人で教室に戻ろうとする。
「あ、リアム、マント羽織らないと」
気づいたので彼に言っておく。
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