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8章 愚者は踊り続ける
8-16 役者は揃った?
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「国王陛下、素案はできているはずでは?最初に出しておけば、これほど痛い目には合わなくても済んだはずでしょう?」
ミルス公爵がヤレヤレといった感で切り出した。
おんやぁあー?
もしかして試したのかなー?俺は試されたのかなあ?
「、、、最初にこれを出していたら、ここにいる者でさえ納得しない者たちが多い。メルクイーン男爵領はただでさえ優遇されていると思っている者がいる。そこまで言うのなら領地替えはどうかと聞くと、拒否される。極西の砦を手に入れられないなら意味はないと言ってな」
はて?領地と砦は一体のはずだが?領地替えなら砦も一緒に他の貴族のものになるはずだが?
スッと紙が横から滑ってきた。
事の顛末の説明のようだ。すぐさま目を通す。
、、、なーんで、砦が俺個人の所有物になっているんだか、意味わかんなーい。
この文章自体はわかるよ。クリスが書いたのだろう。素晴らしくまとまっている。俺があの家を出発した後、腹黒侯爵が何をしたのか要約されて書かれていた。
あのクズ親父が良く認めたな。
今までの俺の労働の対価として支払われたらしいが。。。
まあ、メルクイーン男爵家には目ぼしい財産がないからなあ。って、砦の個人所有ってあり得るの?いや、元々アレは辺境伯個人の城か。
辺境伯は亡くなる前に国と話し合いの下で後任をメルクイーン男爵家を指定し、砦で守ること等を条件にすべてをメルクイーン男爵家に譲ったのである。
辺境伯には妻も子供もいなかった。
スッとまた腹黒侯爵から何か来た。
今度は豪華なファイルが。
中を開けると、砦の権利証だ。あの土地、建物や壁等の建造物はすべて俺の所有物になっているという書類である。ついでに言うと王印まで押されている正式な書類で、第三者の介入を許さない揺るぎないものだ。
閉じておこう。
「極西の砦はリアム・メルクイーン個人の能力で、あそこまで冒険者の環境も改善され、商売も軌道に乗っている。リアム・メルクイーンがいなければ、魔物販売許可証は取得できず、あそこで魔物肉や加工品の販売をされることがなければ、極西の砦が商売として成り立つことはなかった」
腹黒侯爵が言ったが。
そっかなー?
冒険者に必要な商売は、魔物の加工品でなくても砦で成功していたと思うけど。確かに規模は多少小さくなるとは思うが、魔物の加工品といえども湯水のようにお金が湧いて出て来る商売ではない。
「あー、でもそうか。砦の守護獣は辺境伯の誓約獣。他の貴族と領地替えが可能であったとしても、砦にいるのはメルクイーン男爵家の人間じゃないといけないのか。それなら、個人所有にしておいた方が後々のためか」
「は?」
皆の目がキョトンとなって、俺を見た。
国王だけでなく、すべてだ、すべての者。何でもわかっていそうな顔の腹黒侯爵でさえ意味がわかっていない顔をしている。
「リアム、説明をしてもらえるか?なぜいきなり砦の守護獣の話をした?」
「魔の大平原は奥地にS級以上の魔物がゴロゴロしている土地だ。アレらをレッドラインからあまり出て行かないように抑えつけているのが砦の守護獣だ」
へ?って顔している国の重役たちがいるが、魔の大平原ではS級以上の魔物は大量にいる。奥地から出て来ないだけで。
現在の魔の森にはさほどいない。だから、S級冒険者が一人か二人でもどうにかできる。
この違いを知らない人は意外と多い。
S級以上の魔物は湧いて出て来るとすぐに人里を襲おうとするというのは、魔の大平原と魔の海原、そして魔の砂漠の三つ以外のダンジョンの話である。
魔の○○と呼ばれるダンジョンには必ずS級以上の魔物がいる。見つからないからいないわけではなく、どこかにいる。賢くなればなるほど力をためて機を窺う。
砦には砦の守護獣がいるから、利口になったS級以上の魔物は奥地から出て来ない。
S級以上の魔物が束になったとしてもうちの砦の守護獣様たちには敵わないからだ。
「辺境伯は亡くなる前に、後任のメルクイーン男爵家にすべてを譲った。だから、俺が辺境伯の双剣も使っている」
「確かにそうだな」
国王も頷く。が、その先がわかっていないようだ。
「まさか」
一番先に気づいたのは冒険者ギルド総本部のズィーのようだ。
顔色が変わった。
「辺境伯の誓約獣が砦を守るのは、辺境伯がすべてをメルクイーン男爵家に譲ったからか。砦の守護獣がそこにいるのは、後任が誰でもいいってわけじゃないのか」
「、、、つまり、もし領地替えで他の貴族が砦に入ったとしても、砦の守護獣は違う領地になったメルクイーン男爵家についていってしまうということか?」
国王の顔色も変わった。国王の言葉で、ようやく重役たちもわかってきたようだ。
砦の守護獣がいれば、とりあえずS級以上の魔物が砦から出て行かない、と期待していても、他の貴族では裏切られる可能性は高い。
「辺境伯は砦を守ることを条件にしていたから、メルクイーン男爵家が領地替えされればそこで誓約が終了になる可能性は高い。つまり砦の守護獣はそこでお役目御免。自由になれば砦にいなくてもいい。そうなれば、抑えられていたS級以上の魔物が国中に溢れ出すんだろうなあ」
S級魔物は大災害を引き起こす。あの大量のS級以上の魔物たちが野に放たれたなら、クジョー王国は崩壊し、他の国々も無事ではないだろう。
この地も東の国のようになる危険性は非常に高い。
「あー、それはー、半分アタリだけどー、ちょっと違うよ、リアムー」
この場にはそぐわない間の抜けた声が響いた。
「クロ、、、」
ちっこいクロが俺の肩にのる。
おやおや、俺は呼んでないのに。
「だって、僕はリアムと誓約しているから、リアムの誓約獣なんだよー。リアムがいるところにこうやっているんだから、僕はリアムについていくに決まっているじゃん」
「、、、仮定の話だけど、もし俺と誓約していない場合で、メルクイーン男爵家がよその土地に行って他の貴族が砦に来た場合、砦の守護獣はS級以上の魔物を討伐してくれるのか?」
「必要なければ放っておくよー。だって、シロは魔の大平原が広がった方が好都合だったからさあ。面白いクバードと誓約したからシロも大人しく砦にいるけどー。後任のメルクイーン男爵家が砦を守っている間は砦に来るS級以上の魔物は何とかしてくれとクバードが頼んだから、僕もあそこにいるけど、別に砦にいる意味は他にはなかったからなあ」
シロ様は魔の大平原が広がった方が好都合だった?
初耳の事実だな。
どういうことなんだろう。
クロの方が自由と面白さを求めて、フラフラとどこかに行きそうなのに。
いつか人化シロ様になったときに尋ねてみようかな。
いつものシロ様だとツンツンシロ様だから正確に答えてくれるかどうかわからん。
クロの必要なければ、というのは恐らくお腹が空いていなければ放置ということだろう。今でさえ五年から十年に一度、S級以上の魔物を食べれば良いのだから。燃費が良すぎる砦の守護獣様だからなあ。
「後任の貴族に、ではなく、後任のメルクイーン男爵家に、って辺境伯が指定したのは何で?」
「クバードだって、さすがに人は見るよー。腹黒い貴族たちに可愛い僕たちを譲りたくなかったからさー」
「そうかそうか、はいはい。というわけで、砦がメルクイーン男爵家の物になっているのが最適だって話だな」
「砦はリアムの持ち物だって言ってるじゃーん。この腹黒侯爵が」
はいはい、腹黒侯爵って言っちゃったよ。そういう発言するのはハーラット侯爵家関係者のところだけにしようね。国王や国の重役たちが困っているじゃん。
その通りだから。
笑うわけにもいかないし、頷くわけにもいかない。
「一番良い着地点におさまったわけだ。砦の守護獣としては」
「クバードは後任が変なヤツなら、砦を僕らに譲ろうとしていたくらいだからねー。僕ら特に建物はいらないよー」
「多額の維持管理費もいるからなあ。クロは面倒なこと嫌いだろう」
「リアム、そういうことでもないと思うけど」
隣にいたゾーイがようやく声を発した。
腹黒侯爵とクリスの目が怖くなったので、どうも会談中は喋るなと釘を刺されていたようだ。
ミルス公爵がヤレヤレといった感で切り出した。
おんやぁあー?
もしかして試したのかなー?俺は試されたのかなあ?
「、、、最初にこれを出していたら、ここにいる者でさえ納得しない者たちが多い。メルクイーン男爵領はただでさえ優遇されていると思っている者がいる。そこまで言うのなら領地替えはどうかと聞くと、拒否される。極西の砦を手に入れられないなら意味はないと言ってな」
はて?領地と砦は一体のはずだが?領地替えなら砦も一緒に他の貴族のものになるはずだが?
スッと紙が横から滑ってきた。
事の顛末の説明のようだ。すぐさま目を通す。
、、、なーんで、砦が俺個人の所有物になっているんだか、意味わかんなーい。
この文章自体はわかるよ。クリスが書いたのだろう。素晴らしくまとまっている。俺があの家を出発した後、腹黒侯爵が何をしたのか要約されて書かれていた。
あのクズ親父が良く認めたな。
今までの俺の労働の対価として支払われたらしいが。。。
まあ、メルクイーン男爵家には目ぼしい財産がないからなあ。って、砦の個人所有ってあり得るの?いや、元々アレは辺境伯個人の城か。
辺境伯は亡くなる前に国と話し合いの下で後任をメルクイーン男爵家を指定し、砦で守ること等を条件にすべてをメルクイーン男爵家に譲ったのである。
辺境伯には妻も子供もいなかった。
スッとまた腹黒侯爵から何か来た。
今度は豪華なファイルが。
中を開けると、砦の権利証だ。あの土地、建物や壁等の建造物はすべて俺の所有物になっているという書類である。ついでに言うと王印まで押されている正式な書類で、第三者の介入を許さない揺るぎないものだ。
閉じておこう。
「極西の砦はリアム・メルクイーン個人の能力で、あそこまで冒険者の環境も改善され、商売も軌道に乗っている。リアム・メルクイーンがいなければ、魔物販売許可証は取得できず、あそこで魔物肉や加工品の販売をされることがなければ、極西の砦が商売として成り立つことはなかった」
腹黒侯爵が言ったが。
そっかなー?
冒険者に必要な商売は、魔物の加工品でなくても砦で成功していたと思うけど。確かに規模は多少小さくなるとは思うが、魔物の加工品といえども湯水のようにお金が湧いて出て来る商売ではない。
「あー、でもそうか。砦の守護獣は辺境伯の誓約獣。他の貴族と領地替えが可能であったとしても、砦にいるのはメルクイーン男爵家の人間じゃないといけないのか。それなら、個人所有にしておいた方が後々のためか」
「は?」
皆の目がキョトンとなって、俺を見た。
国王だけでなく、すべてだ、すべての者。何でもわかっていそうな顔の腹黒侯爵でさえ意味がわかっていない顔をしている。
「リアム、説明をしてもらえるか?なぜいきなり砦の守護獣の話をした?」
「魔の大平原は奥地にS級以上の魔物がゴロゴロしている土地だ。アレらをレッドラインからあまり出て行かないように抑えつけているのが砦の守護獣だ」
へ?って顔している国の重役たちがいるが、魔の大平原ではS級以上の魔物は大量にいる。奥地から出て来ないだけで。
現在の魔の森にはさほどいない。だから、S級冒険者が一人か二人でもどうにかできる。
この違いを知らない人は意外と多い。
S級以上の魔物は湧いて出て来るとすぐに人里を襲おうとするというのは、魔の大平原と魔の海原、そして魔の砂漠の三つ以外のダンジョンの話である。
魔の○○と呼ばれるダンジョンには必ずS級以上の魔物がいる。見つからないからいないわけではなく、どこかにいる。賢くなればなるほど力をためて機を窺う。
砦には砦の守護獣がいるから、利口になったS級以上の魔物は奥地から出て来ない。
S級以上の魔物が束になったとしてもうちの砦の守護獣様たちには敵わないからだ。
「辺境伯は亡くなる前に、後任のメルクイーン男爵家にすべてを譲った。だから、俺が辺境伯の双剣も使っている」
「確かにそうだな」
国王も頷く。が、その先がわかっていないようだ。
「まさか」
一番先に気づいたのは冒険者ギルド総本部のズィーのようだ。
顔色が変わった。
「辺境伯の誓約獣が砦を守るのは、辺境伯がすべてをメルクイーン男爵家に譲ったからか。砦の守護獣がそこにいるのは、後任が誰でもいいってわけじゃないのか」
「、、、つまり、もし領地替えで他の貴族が砦に入ったとしても、砦の守護獣は違う領地になったメルクイーン男爵家についていってしまうということか?」
国王の顔色も変わった。国王の言葉で、ようやく重役たちもわかってきたようだ。
砦の守護獣がいれば、とりあえずS級以上の魔物が砦から出て行かない、と期待していても、他の貴族では裏切られる可能性は高い。
「辺境伯は砦を守ることを条件にしていたから、メルクイーン男爵家が領地替えされればそこで誓約が終了になる可能性は高い。つまり砦の守護獣はそこでお役目御免。自由になれば砦にいなくてもいい。そうなれば、抑えられていたS級以上の魔物が国中に溢れ出すんだろうなあ」
S級魔物は大災害を引き起こす。あの大量のS級以上の魔物たちが野に放たれたなら、クジョー王国は崩壊し、他の国々も無事ではないだろう。
この地も東の国のようになる危険性は非常に高い。
「あー、それはー、半分アタリだけどー、ちょっと違うよ、リアムー」
この場にはそぐわない間の抜けた声が響いた。
「クロ、、、」
ちっこいクロが俺の肩にのる。
おやおや、俺は呼んでないのに。
「だって、僕はリアムと誓約しているから、リアムの誓約獣なんだよー。リアムがいるところにこうやっているんだから、僕はリアムについていくに決まっているじゃん」
「、、、仮定の話だけど、もし俺と誓約していない場合で、メルクイーン男爵家がよその土地に行って他の貴族が砦に来た場合、砦の守護獣はS級以上の魔物を討伐してくれるのか?」
「必要なければ放っておくよー。だって、シロは魔の大平原が広がった方が好都合だったからさあ。面白いクバードと誓約したからシロも大人しく砦にいるけどー。後任のメルクイーン男爵家が砦を守っている間は砦に来るS級以上の魔物は何とかしてくれとクバードが頼んだから、僕もあそこにいるけど、別に砦にいる意味は他にはなかったからなあ」
シロ様は魔の大平原が広がった方が好都合だった?
初耳の事実だな。
どういうことなんだろう。
クロの方が自由と面白さを求めて、フラフラとどこかに行きそうなのに。
いつか人化シロ様になったときに尋ねてみようかな。
いつものシロ様だとツンツンシロ様だから正確に答えてくれるかどうかわからん。
クロの必要なければ、というのは恐らくお腹が空いていなければ放置ということだろう。今でさえ五年から十年に一度、S級以上の魔物を食べれば良いのだから。燃費が良すぎる砦の守護獣様だからなあ。
「後任の貴族に、ではなく、後任のメルクイーン男爵家に、って辺境伯が指定したのは何で?」
「クバードだって、さすがに人は見るよー。腹黒い貴族たちに可愛い僕たちを譲りたくなかったからさー」
「そうかそうか、はいはい。というわけで、砦がメルクイーン男爵家の物になっているのが最適だって話だな」
「砦はリアムの持ち物だって言ってるじゃーん。この腹黒侯爵が」
はいはい、腹黒侯爵って言っちゃったよ。そういう発言するのはハーラット侯爵家関係者のところだけにしようね。国王や国の重役たちが困っているじゃん。
その通りだから。
笑うわけにもいかないし、頷くわけにもいかない。
「一番良い着地点におさまったわけだ。砦の守護獣としては」
「クバードは後任が変なヤツなら、砦を僕らに譲ろうとしていたくらいだからねー。僕ら特に建物はいらないよー」
「多額の維持管理費もいるからなあ。クロは面倒なこと嫌いだろう」
「リアム、そういうことでもないと思うけど」
隣にいたゾーイがようやく声を発した。
腹黒侯爵とクリスの目が怖くなったので、どうも会談中は喋るなと釘を刺されていたようだ。
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