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9章 お人形さんで遊びましょう
9-2 先のことを考える
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バージは迎えの馬車が来ていたので、冒険者ギルドで別れた。
寮に戻ると、部屋のかけ湯場でカラダを洗ってから、第三食堂で夕食。
部屋では、まずは急ぎの砦の書類を片付ける。
ゾーイはベッドに横になって図書館から借りた魔法書を読んでいる。
砦の書類はそこまで多くない。
毎日少しずつこなしているということもあるが、補佐もあの二人が処理できる書類は送らないようにしている。あまりにも甘やかすと仕事をしなくなるからなー。
今、弟の家庭教師ルイ・ミミスは一週間に二日ほどの授業をしている。
クリスからの話では王都でも仕事をしているようだし、家庭教師をしていた妹ちゃんは王都にいるんだし、アミールの家庭教師はやめても良いような気がするんだが?
他の誰かに後任を譲ってもいい気がする。
クリスにはそれを本人に言うのはやめようね、と柔らかく言われてしまった。
はて?
公爵の仕事が忙しいのなら、家庭教師なんてしている余裕なんかあるのだろうか?
家庭教師は趣味なのか?
生きがいなのか?
確かに、それなら奪ったら可哀想だな。
さすがに、彼が王都のどこぞかの家庭で家庭教師やったら、親や生徒に恐縮しまくられる。
公爵を家庭教師にできる家がどこにある。。。ハーラット侯爵家か。。。知っていて妹ちゃんの家庭教師にしていたぐらいだからなあ。
メルクイーン男爵家からルイ・ミミスに支払っている報酬は申し訳ないと思うくらい格安でございます。
おそらく週一のハーラット侯爵家の方が限りなく多額の報酬を支払っていると思います。。。
さて。
机に向かっている間に、魔法で情報を集めよう。
魔法学園二学年の定期試験の内容と、卒業論文についてだ。
学園長に問い合わせても良いが、試験はやんわりと受けるのを止められる気がする。
どうすれば一学年の今、二学年の定期試験も受けられるだろう。
この学校には飛び級という制度はないが、病気や怪我等で定期試験を受けられなかった者に対して救済措置がある。後から試験を受けられるのである。
同じ試験問題ではないし、この二回目の試験は最高得点で八割計算になってしまうようだが。
成績が悪かった者も追試のような意味合いで受ける。
それでも、相当点数が悪かった者は補講がある。補講を受けると加点扱いにして何とか卒業させるというものである。さすがに貴族の子弟なので、補講を受ける学生も少ない。
二学年の最終の定期試験はもうそろそろである。秋休み前に採点も順位発表もすべてが終わる。
もちろん一学年の定期試験も同時期にやる。
なので、同じ時間にやる定期試験は受けられない。
最終定期試験が難しければ、救済措置の試験を受ける人数が多くなるのでは?
そうすれば、そこまで個別に受ける人物を確認しないのでは?
皆、同じマントだし、教師には見分けがつかんだろ。
受けられればこっちのものだ。
別に俺は首席で卒業なんて狙ってないし。
八割計算でも問題ない。
二学年の学生と同等程度の点数を取ることができれば、その学力は充分と判断されるのではないか?
、、、定期試験に潜り込もうなんて考えている馬鹿は俺ぐらいのものだろうね。
二学年の選択科目はかなりあるので、ある程度は時間割も重ならないようにばらけている。まずそれらの試験をこっそりと受けてみるか?
で。
次は卒業論文かあ。
来年のために聞いておきたいという殊勝な学生を装って教師に近づくという手がある。
勘が鋭い教師であってはならないと思っていたが、逆に堂々と副担任に聞くのはどうだろう。
それも一つの手のような気がしてきた。
つまり、俺が言いたいのは学力が卒業できるほど充分であれば、卒業させても問題ないでしょう、ということになる。
実際の卒業は二学年終了後でも良いが、一年間世界を放浪させてもらいたい。
俺、長い人生で自由に歩き回れそうなのはその一年くらいなものだよ。
後はずっと砦にいる生活になりそうだからね。
ふと視線を感じた。
いつのまにかゾーイに凝視されていた。
怪しまれてるなー。
「なあ、ゾーイはもう卒業論文、何を書くのか決めているのか?」
「ああ、それ。俺の場合は論文を書くより、魔法を発表した方が良いかなと思っている」
「発表?」
卒論発表会みたいなものか?
いや、論文を書くより、と言ったから、成果発表の方か。
「ああ、俺は派手な攻撃魔法をお披露目するという感じになるかな。魔法学園の卒業のための魔法発表会は王都の闘技場でやっている。年によって魔法の出来不出来はあるんだが、あの会場で発表する者はすでに魔法を一定レベル習得しているから、その発表で卒業できる実力があるとみなす。他には卒業生首席と一学年首席による魔法のエキシビジョンマッチや様々な催し物もある」
「へー、、、あの王都の南の方にある大きい、、、闘技場ってことは客も入るのか」
「観客席はいつも満員だって聞いたよ。卒業生の家族がかなり来るようだし、すぐに席のチケットはなくなるようだよ」
「へー、、、絶対に出たくないな」
教えてくれてありがとう。
おとなしく論文書く方が良いんじゃないか?
衆人環視で魔法の発表なんて、どれだけ肝が据わっているんだ、発表する卒業生。。。
ゾーイ、お前もしっかり貴族の子弟なんだな。その発表をわざわざ選ぶなんて。
卒論にするようなテーマって何かないかなー。
使える魔法より使いたい魔法の方が勉強しがいがあるかな。
「空間転移魔法、、、」
安全に、遠距離を瞬間的に移動できるのならば。
もしも、魔法陣を設置できる場所があるのなら。
いや、双方向で必要なければ、魔法陣は一つでいい。
「そうだな。せっかく調べるなら、それがいいか」
「空間転移魔法陣でもハーラット侯爵家に見せてもらうのか?」
「いや、ハーラット侯爵家より冒険者ギルドの方が詳しい者がいる。明日、冒険者ギルドに行ったときに本部長にとりあえず質問できるかどうか尋ねてみる」
「、、、もしや総本部のズィーか?」
「まあ、向こうが俺に何か話したいことがなければ、あっさり断られるだろうけど」
「、、、あっさりねえ」
ゾーイが何かを含む返事をした。
討伐ポイント訂正の件があるから、そこまで拒否されることもないという考えもある。
「じゃあ、簡素化を計画している書類はどうなっているか聞こう。それなら話の流れ的に悪くないだろ」
俺が張り切って提案してみたら、ベッドでゾーイが頭を抱えていた。
「可哀想だな、冒険者ギルド。リアムはこうやって話の主導権を得るんだな」
「えー、何それー。別に相手の弱みにつけこんでいるわけじゃないぞー。確認するためにも必要なことじゃないか」
「うんうん、リアムはリアムのまま育っていけばいい。俺はどんなリアムでもリアムの味方だぞ」
「俺は悪党か?」
俺の言葉に、ゾーイは微笑んだだけだった。
「やあ、元気そうだねー、二人とも」
笑顔で冒険者ギルドのクジョー王国本部にいる、総本部のお偉いさんであるズィーである。
今日も目がほっそいな。
見えているのかな?
「ご無沙汰しております。ズィーさんもお元気そうで」
「呼び捨てにしてくれない。遠慮することないのにー」
、、、細目の笑顔が胡散臭いですよ、ズィーさん。
冒険者ギルドの応接室。
バージは放課後に家の予定があるとかで、今日は別行動。
俺とゾーイがズィーに会うことになった。
翌日、冒険者ギルドに話を持っていって、二日後に会えることとなった。
ズィーって忙しいんじゃなかったのかな??
俺たちが座っても、本部長と職員の二人はなぜかソファーの後ろに行って立ったままだ。
じっと俺が見ていると。
「お気になさらず」
視線を前のズィーに戻すように、本部長に手でジェスチャーされる。
「ははは、で、いきなり本題に入るけど、書類の簡素化なんだけどね」
「あ、はい」
さすが仕事ができる男。
謎の世間話や自慢話をしたりしない。
「総本部では無理だという結論が出ちゃったんだけど」
「何だ、そりゃーーーーっっ」
いきなりの結論に、俺が大声で叫んでしまった。
寮に戻ると、部屋のかけ湯場でカラダを洗ってから、第三食堂で夕食。
部屋では、まずは急ぎの砦の書類を片付ける。
ゾーイはベッドに横になって図書館から借りた魔法書を読んでいる。
砦の書類はそこまで多くない。
毎日少しずつこなしているということもあるが、補佐もあの二人が処理できる書類は送らないようにしている。あまりにも甘やかすと仕事をしなくなるからなー。
今、弟の家庭教師ルイ・ミミスは一週間に二日ほどの授業をしている。
クリスからの話では王都でも仕事をしているようだし、家庭教師をしていた妹ちゃんは王都にいるんだし、アミールの家庭教師はやめても良いような気がするんだが?
他の誰かに後任を譲ってもいい気がする。
クリスにはそれを本人に言うのはやめようね、と柔らかく言われてしまった。
はて?
公爵の仕事が忙しいのなら、家庭教師なんてしている余裕なんかあるのだろうか?
家庭教師は趣味なのか?
生きがいなのか?
確かに、それなら奪ったら可哀想だな。
さすがに、彼が王都のどこぞかの家庭で家庭教師やったら、親や生徒に恐縮しまくられる。
公爵を家庭教師にできる家がどこにある。。。ハーラット侯爵家か。。。知っていて妹ちゃんの家庭教師にしていたぐらいだからなあ。
メルクイーン男爵家からルイ・ミミスに支払っている報酬は申し訳ないと思うくらい格安でございます。
おそらく週一のハーラット侯爵家の方が限りなく多額の報酬を支払っていると思います。。。
さて。
机に向かっている間に、魔法で情報を集めよう。
魔法学園二学年の定期試験の内容と、卒業論文についてだ。
学園長に問い合わせても良いが、試験はやんわりと受けるのを止められる気がする。
どうすれば一学年の今、二学年の定期試験も受けられるだろう。
この学校には飛び級という制度はないが、病気や怪我等で定期試験を受けられなかった者に対して救済措置がある。後から試験を受けられるのである。
同じ試験問題ではないし、この二回目の試験は最高得点で八割計算になってしまうようだが。
成績が悪かった者も追試のような意味合いで受ける。
それでも、相当点数が悪かった者は補講がある。補講を受けると加点扱いにして何とか卒業させるというものである。さすがに貴族の子弟なので、補講を受ける学生も少ない。
二学年の最終の定期試験はもうそろそろである。秋休み前に採点も順位発表もすべてが終わる。
もちろん一学年の定期試験も同時期にやる。
なので、同じ時間にやる定期試験は受けられない。
最終定期試験が難しければ、救済措置の試験を受ける人数が多くなるのでは?
そうすれば、そこまで個別に受ける人物を確認しないのでは?
皆、同じマントだし、教師には見分けがつかんだろ。
受けられればこっちのものだ。
別に俺は首席で卒業なんて狙ってないし。
八割計算でも問題ない。
二学年の学生と同等程度の点数を取ることができれば、その学力は充分と判断されるのではないか?
、、、定期試験に潜り込もうなんて考えている馬鹿は俺ぐらいのものだろうね。
二学年の選択科目はかなりあるので、ある程度は時間割も重ならないようにばらけている。まずそれらの試験をこっそりと受けてみるか?
で。
次は卒業論文かあ。
来年のために聞いておきたいという殊勝な学生を装って教師に近づくという手がある。
勘が鋭い教師であってはならないと思っていたが、逆に堂々と副担任に聞くのはどうだろう。
それも一つの手のような気がしてきた。
つまり、俺が言いたいのは学力が卒業できるほど充分であれば、卒業させても問題ないでしょう、ということになる。
実際の卒業は二学年終了後でも良いが、一年間世界を放浪させてもらいたい。
俺、長い人生で自由に歩き回れそうなのはその一年くらいなものだよ。
後はずっと砦にいる生活になりそうだからね。
ふと視線を感じた。
いつのまにかゾーイに凝視されていた。
怪しまれてるなー。
「なあ、ゾーイはもう卒業論文、何を書くのか決めているのか?」
「ああ、それ。俺の場合は論文を書くより、魔法を発表した方が良いかなと思っている」
「発表?」
卒論発表会みたいなものか?
いや、論文を書くより、と言ったから、成果発表の方か。
「ああ、俺は派手な攻撃魔法をお披露目するという感じになるかな。魔法学園の卒業のための魔法発表会は王都の闘技場でやっている。年によって魔法の出来不出来はあるんだが、あの会場で発表する者はすでに魔法を一定レベル習得しているから、その発表で卒業できる実力があるとみなす。他には卒業生首席と一学年首席による魔法のエキシビジョンマッチや様々な催し物もある」
「へー、、、あの王都の南の方にある大きい、、、闘技場ってことは客も入るのか」
「観客席はいつも満員だって聞いたよ。卒業生の家族がかなり来るようだし、すぐに席のチケットはなくなるようだよ」
「へー、、、絶対に出たくないな」
教えてくれてありがとう。
おとなしく論文書く方が良いんじゃないか?
衆人環視で魔法の発表なんて、どれだけ肝が据わっているんだ、発表する卒業生。。。
ゾーイ、お前もしっかり貴族の子弟なんだな。その発表をわざわざ選ぶなんて。
卒論にするようなテーマって何かないかなー。
使える魔法より使いたい魔法の方が勉強しがいがあるかな。
「空間転移魔法、、、」
安全に、遠距離を瞬間的に移動できるのならば。
もしも、魔法陣を設置できる場所があるのなら。
いや、双方向で必要なければ、魔法陣は一つでいい。
「そうだな。せっかく調べるなら、それがいいか」
「空間転移魔法陣でもハーラット侯爵家に見せてもらうのか?」
「いや、ハーラット侯爵家より冒険者ギルドの方が詳しい者がいる。明日、冒険者ギルドに行ったときに本部長にとりあえず質問できるかどうか尋ねてみる」
「、、、もしや総本部のズィーか?」
「まあ、向こうが俺に何か話したいことがなければ、あっさり断られるだろうけど」
「、、、あっさりねえ」
ゾーイが何かを含む返事をした。
討伐ポイント訂正の件があるから、そこまで拒否されることもないという考えもある。
「じゃあ、簡素化を計画している書類はどうなっているか聞こう。それなら話の流れ的に悪くないだろ」
俺が張り切って提案してみたら、ベッドでゾーイが頭を抱えていた。
「可哀想だな、冒険者ギルド。リアムはこうやって話の主導権を得るんだな」
「えー、何それー。別に相手の弱みにつけこんでいるわけじゃないぞー。確認するためにも必要なことじゃないか」
「うんうん、リアムはリアムのまま育っていけばいい。俺はどんなリアムでもリアムの味方だぞ」
「俺は悪党か?」
俺の言葉に、ゾーイは微笑んだだけだった。
「やあ、元気そうだねー、二人とも」
笑顔で冒険者ギルドのクジョー王国本部にいる、総本部のお偉いさんであるズィーである。
今日も目がほっそいな。
見えているのかな?
「ご無沙汰しております。ズィーさんもお元気そうで」
「呼び捨てにしてくれない。遠慮することないのにー」
、、、細目の笑顔が胡散臭いですよ、ズィーさん。
冒険者ギルドの応接室。
バージは放課後に家の予定があるとかで、今日は別行動。
俺とゾーイがズィーに会うことになった。
翌日、冒険者ギルドに話を持っていって、二日後に会えることとなった。
ズィーって忙しいんじゃなかったのかな??
俺たちが座っても、本部長と職員の二人はなぜかソファーの後ろに行って立ったままだ。
じっと俺が見ていると。
「お気になさらず」
視線を前のズィーに戻すように、本部長に手でジェスチャーされる。
「ははは、で、いきなり本題に入るけど、書類の簡素化なんだけどね」
「あ、はい」
さすが仕事ができる男。
謎の世間話や自慢話をしたりしない。
「総本部では無理だという結論が出ちゃったんだけど」
「何だ、そりゃーーーーっっ」
いきなりの結論に、俺が大声で叫んでしまった。
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