解放の砦

さいはて旅行社

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9章 お人形さんで遊びましょう

9-9 地獄には道連れを

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「で、何これ?」

 テッテレー。

 俺はバージに見せる。
 翌日の朝、学園にて。

「ずるいぞ、バージ。リアムお手製の人形をもらえるなんて」

 悔しそうなゾーイは人形と称したが、マスコットだ。手のひらの大きさもない小さな可愛らしいサイズだ。
 アンナのようにぬいぐるみサイズの人形を作る気にはなれん。

「バージマスコットだぞー。俺が夜なべして作ったんだ。感謝しろ。肌身離さず持ってろよ」

「可愛らしいけども。何のために肌身離さず持ってなきゃいけないんだ?」

「バージが狙われたときのためにだよ。物理的にも呪い的にも魔法的にも」

「、、、ありがたく頂戴します」

 バージの顔が渋々といった感じだが、意図がわかって対策グッズを両手で受け取った。
 バージマスコットにする意味があったのかというと、、、まあ、内部に魔石を簡単に入れられるというだけである。布もこだわらなければ、この王都でもお安く購入できる。

 アクセサリー類にしてしまうと魔石が見えてしまうので、周囲からどのような対策がとられてしまったのか見えやすい。

「ま、バージ自身はこれで安全だが、テンガラット子爵家を守るためにはまずはハーラット侯爵と会い、国王に要求を飲ませないといけないな」

「リアム、普通の子爵家は間に伯爵家や侯爵家を入れてようやく国王へ必要な話を持っていける程度だぞ。しかも、返事が来ないことの方が多いくらいだ」

 子爵家、男爵家は直接国王と会話することがない。
 パーティのときに挨拶ができれば良い方らしい。
 まあ、貴族の会話の順番なんて知らんけど。

「うちは男爵家だけど、仕方ない。話す必要があるんだから、仕方ない」

「仕方ないを二度も言った」

「リアム、おはようっ」

 ババンっ、と教室の扉を開けたのはラーラの侍女二人だ。
 ラーラは扉に触ってもいない。

「お兄様が今日の放課後、時間を作ってくれたわよ」

「、、、会いたいという要望の意志すら、まだ腹黒侯爵に伝えていないのに」

 決心がつかなくて、というより、会いたくないという気持ちが強すぎて、昨晩は現実逃避のバージマスコットをちくちくと作ってしまった。
 仕方ないから、今日学園でラーラに会い、約束を取り付けてもらおうと思っていた。

「リアムは私に言わなくとも、直接お兄様方に話ができるイヤリングをもらったのでしょう?」

「あー、あれ。あれってどっちがどっちにつながっているかわかりにくいからなあ。永久の闇に葬られた」

 永久の闇→収納鞄。

 イヤリングの左右がそれぞれクリスか腹黒侯爵につながる通信の魔道具なのである。
 ちなみに、相手がどういう状態であろうと問答無用で繋がってしまうはた迷惑な、持っていたくない通信機器である。。。
 まあ、あの式典ではそういう通信の魔道具が必要であったとは思うけど。。。

「お兄様が泣いているわよ。いくら話しかけても応答がないって。愛を語りたいのにって」

「闇に葬って正解だったな」

 収納鞄に入っている間、どんなに騒いだところで音が鞄の外にもれることもない。
 万能だな、収納鞄。

「だから、マックレー侯爵に先手を取られて悔しがっているわよ。うちに飲みに来ないと会話しなーいって拗ねてるわよ」

「あー、面倒」

 マックレー侯爵と飲んだから、自分とも飲めと。
 となるとゾーイを連れて行くことは確定、バージはどうするか。
 当事者だから、連れて行った方が良いのだが。

「けど、仕方ない。俺とゾーイ、バージの三人で伺う」

「えっ、私もっ?」

 驚愕の声で叫んだが、バージくんのために動いているんだからね。
 確かにバージくんの精神衛生上、連れて行くのは躊躇っちゃうんだけど。
 ラーラとはわりと気軽に話しているが、侯爵家令嬢と侯爵は違う。
 子爵ではなく子爵家の者が直接侯爵と話せるのは、侯爵によほど気に入られていないと難しいという話である。
 傘下である侯爵とさえ伯爵を通すのに、傘下でもない侯爵と話すのは相当に難しいわけだ。

 俺が知ったことではないが。

「わかったわ。お兄様に伝えておくわね」

 講義開始の予鈴が鳴り響く。ラーラ様は教室を去っていった。

「ゾーイ、お前も教室に戻ったら?」

「本鈴一分前に移動すれば充分間に合う」

 、、、そういうことにしておくか。教室間はかなり広いが。

「、、、というわけで、三人で地獄に行こう」

「地獄に道連れにされるのか」

「バージくんー、俺たちがテンガラット子爵家のために動いていることを忘れないでねー」

 バージくんにはしっかり認識してもらわないとね。。。

「うう、、、ありがたいと思っている」

 バージがバージマスコットをギュッと握っている。魔法学園のマントの部分がクシャクシャになるぞ。

 それを見ているゾーイが悔しそうなのだが。
 自分のマスコットをもらって嬉しいのか?
 人形には人形をと思って作ってしまったが、後から思うとつくづく微妙だなー。
 けど、アクセサリー類にしたら、それはそれで周囲が厄介な気がするのはなぜだろう。

 ゾーイはたまにイヤーカフを羨ましそうに見ている。ゾーイとは寮の部屋でも一緒にいるのでクトフとの会話も筒抜けだ。反対にこそこそと話している方がゾーイには悪いと思ってしまうのだが。




 さて、夜になったので、地獄、、、ハーラット侯爵家のお屋敷に向かった。
 王都の中央地区にあるハーラット侯爵家のお屋敷は玄関も超豪華。

「、、、なぜ、ラーラ様がここに?」

「面白そうだから来たわよ」

 いい笑顔ですね。
 悪役令嬢みたいですよ。

 ちなみに、ラーラ様は東地区のお屋敷に住んでいる。金持ちは良いねー。

「けれど、なぜ三人とも冒険者の格好なのかしら?」

「魔の森に行って来た帰りだからですよ」

 にこやかに答えておく。
 マックレー侯爵のときと同じことをしておいた方が良いだろ、きっと。
 腹黒侯爵もマックレー侯爵も面倒な人たちだ。
 この国で侯爵とつく人は基本的に面倒なのかな。
 とすると、クインザー侯爵も面倒なのかー。だろうね。今回の件の発端の人物だからね。

「二人はいらなかったのにー」

 ハーラット侯爵がわざわざ玄関先まで迎えに来やがった。
 男爵を玄関まで迎える侯爵なんていませんよー。
 おとなしく応接間で待っていてくれれば良いのに。

「リアムがいるところにはついていきますから」

 ゾーイがハーラット侯爵の前に立って宣言する。

「それって、ストーカーって言わない?」

「本人が同行を了承しているのなら、ストーカーじゃないでしょう」

 ゾーイとは一緒に行動しているんだし。

「リアム、脅されているんじゃないのか?私の愛は受け入れないのに、ゾーイ・マックレーのストーカー愛を受け入れるなんて」

 、、、腹黒侯爵はゾーイの行動を調べ尽くしているんですかね?
 そっちの方がストーカー紛いで怖い気がしてきましたが。

「お兄様、玄関で話していては、話が進みませんわ。客間にいろいろと用意していますから、そちらに移動しましょう」

 ラーラが俺たちへ場所移動を促す。
 ところで、一言も口を開いていない者がいるんですけど。

 大丈夫?
 さすがに腹黒侯爵でもとって食いはしないから。
 まあ、気に入らない者は腹黒侯爵に秘密裏に消されているけど。


 というわけで、マックレー侯爵家にお呼ばれしたときと同じようにするということで、ここでも野菜チップスを取り出す。
 そうすると、自動で現れるのが、この黒い毛の塊。

 パリパリパリ。

 無心で食べ始めるな。

「野菜チップス好きだねー。お昼も野菜チップスの方が良いのか?」

「リアムー、お昼はリアムのオムライスだよー。リアムの野菜チップスは永遠に食べていられる」

 お昼以外は食べ続けていたいと?
 却下だな。
 お供えの野菜も無尽蔵に湧いて出てくるわけではない、はずなのだが。
 が、微妙にそれに近い状態ではあるけど。。。野菜が使ってもなくならない。
 個人へのお裾分けレベルを完全に超えている。

 皆、気持ちはありがたいけど、クロを甘やかすなよー。

「リアムのお手製の野菜チップスか、どれどれ」

 と言って手を伸ばす腹黒侯爵の目的の野菜チップスを横から取るな、ゾーイ。
 水面下での激闘を始める前に、お皿をわけてあげましょう。

 クロの目が大皿でくれ、と言っている。
 お口はパリパリと音を立てているので忙しいらしい。

「私にももらえるかしら」

「ラーラ様も庶民的なものを食べるんですねー。そういや、今日はクリス様の姿が見えませんね」

 ふと聞いた。
 顔だけは癒しのクリス様がいないのは残念だ。
 腹黒侯爵に夜も働かされているのだろうか。
 この家はとことんブラックだからな。

「クリス兄様は今日も砦に行っているわよ」

 今日も、って言ったよ、ラーラ様。
 うん、その情報は聞かなかったことにしよう。
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