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10章 秋休みは稼ぎ時
10-11 天使と悪魔
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俺はこの倉庫に来た意味を考えなければ。
コレもお仕事だからね。
作業服のようなものを着ているこの女性職員に話しかける。
ズィーさんの少ない頭髪を守らなければというわけではない。
「一つの箱の中身を見ても良いですか?」
「元に戻してくれるならいいぞー」
職員の了承を得て、彼女たちが使っていた魔法で一つの箱を手前のテーブルに引き寄せてみる。
問題なくテーブルにやって来る。
限りなく黒い。
箱に触ってみると、かなりというより恐ろしく頑丈だ。
何の素材でできている箱なんだろう。
積み上げても平気なのだから、相当な強度だ。
箱を開けるのも魔法だ。
これはその魔法を見たことがなければ、この箱を開けることができないので、防犯対策にもなっている。
この書類は一枚一枚はただの紙の価値しかないが、ここまで集積してしまえば情報としての価値は非常に高い。
だからこそ、魔法が使える彼女たちの受け皿となっている場所だ。
箱にはビッチリと書類が入っている。ファイルとかに挟まっているわけではなく、紙の書類が詰まっているだけだ。
それらをすべて空中に一面で並べる。
先程、ズィーさんが取り出した十数年前の某国で活動されていた冒険者の書類の箱の近くだから、少しずれた年代のその国で活動している冒険者の書類が集まっているようだ。
「冒険者ごとに時系列で並べているのか。国を移動して冒険者活動をする場合は元の国のまま管理するのか?」
「いや、移動した国か別枠で管理だ。冒険者ではなくなった者は最後の国で保管する」
「名前と冒険者番号で書類を見つけるのか」
「名前だけだと同姓同名が多数出るからなあ。国や活動時期、活動内容が一致する冒険者の書類を出してくれと言われることもある」
「そうか。なら、書類を検索しやすいように考える必要もあるな。けれど、冒険者番号が正確ならば、ソレが一番か」
「職員が見直しているとはいえ、たまに間違えた番号書いている場合があるんだよ。もう五年以上経っている書類だから無闇に訂正してくれとも言えねえしなあ。こっちが書き換えるわけにはいかない。名前や番号とか間違えた昔の書類を探すのが一番むずい。見つからないこともある。そういうのがイライラするんだよなあ」
だろうね。
最初の受付の時点で間違えないようにするのが最良か。
この倉庫は元のままの書類を保管することが義務のようだから、こちらで正しい情報に書き換えることはできないのか。
魔法で付箋的な物をつけるのはどうだろう。書き加えるわけでもないし、後からつけたものだと明白だ。
「貴重な意見をありがとう。書類を管理する上で、書類を探すときも、他に何か書類がこうだったら良いのに、とか意見はあるか」
「そうだなあー」
こういう人は話すと本音を言ってくれるので、こういう場ではありがたい。
オブラートに包まないので痛手を被る人はいるが、俺がこれらの書類を作った人間ではないのでちっとも心は痛まない。
かなりのご意見を伝えてくれた。後ろでうんうん頷く職員さんたちがいるので同意見と見える。後ろの彼女たちの反応で、どれほどの重要性なのか、彼女の個人的な意見なのかわかるな。
「アンタたちは冒険者だろ。書類のことをこんなに聞いてどうするんだ?」
自分の首を指さして、冒険者プレートのこと示している。
「ああ、書類を冒険者に書きやすいように変更する。ただし、職員が使えない書類になってもマズい。書類を残す意味も考え、後々活用もしやすい書類にしなければいけない等、課題も多い」
「冒険者がそんなめんどくせーことやるとは思わなかった。これも依頼なんだろ」
「もちろん依頼じゃなきゃ俺もやらない。冒険者が書き間違いして返戻し続けていると、こんな書類を作った冒険者ギルドを恨むようになる」
砦長室では口から文句が漏れていたけどね。
こんな書類を作るのは冒険者ギルドだけじゃないけどね。
「返戻って、アンタ冒険者だろ?冒険者ギルドの職員も兼任しているのか?」
首を捻った職員。
「彼はクジョー王国の砦の管理者だ」
「おおっ、白銀の辺境伯かっ。ん?ちっとも白銀じゃねえんだが」
そりゃそうだ。
あんな格好で冒険者してたら正気を疑う。漆黒の辺境伯の方はあの格好でガンガンに魔物退治をしていたようですが。色が黒だから、まだ可能だったことだ。
目がズィーさんのように細目になっちゃう。
ふと思い出す。あの衣装、この収納鞄に入れたままだったってこと。
うん、内緒にしておこう。秘密にしておこう。持っていることを知られたら、なんとなく嫌な予感がする。
年配の女性が黒い箱の後ろから出てきた。
「それはそれは。極西本部がお世話になっております。白銀の辺境伯殿が砦の管理者になる多少前のものから、書類が改善されて来たのをありがたく思っておりました。あそこは冒険者数も多いので、書類の数も多く、冒険者番号等の書き間違いも非常に多かったので助かりました」
そりゃ、冒険者番号がわかる魔道具の貸し出しをしてくれないからね、冒険者ギルドは。
自分たちの適当な記憶で冒険者番号を適当に書いてしまうんだよ、冒険者は。
そして、そんな冒険者の書類を砦に丸投げしていた極西支部。
「ん?極西本部?」
彼女は確実に本部と言った。
「言い間違いは誰にでもある。極西支部だ」
俺はズィーをじっと見る。
冒険者ギルドの一番のトップである総本部はここ、グレーデン王国の首都にある。
通常、冒険者ギルドの本部は各国の首都に一つずつあるものだと思っていた。
その認識が違っていたのか?
あそこは表向き、クジョー王国本部の管轄の極西支部なのだが。
魔の大平原が冒険者ギルドに重きを置かれていたら?
監視対象にしていたのなら?
直接、魔の大平原の状態を報告して、総本部の指示が来るようになっている可能性はある。
そして、魔の大平原の魔物が溢れたときに、犠牲者になる職員を最小限にして配置していたのなら。
「そうか、本部か」
「わあー、私の言葉を一切受け入れてくれないー」
ズィー、平坦すぎる言葉をありがとう。
「まあ、本部だろうと支部だろうと、職員が二人しかいない事実は変わらないが」
「あれー?暗にもっと増やせって言ってるー?あの二人は優秀だよー」
なんかズィーさん、失言が多すぎないか?
「あの二人は優秀、ねえ、、、」
あの二人が犠牲者ではなく、本部として本当に優秀な職員として活動しているのならば。
本部は各国の首都だけでなく、魔の〇〇ダンジョンにも設置すると考えるのが妥当な線だろう。
魔の○○と呼ばれるダンジョンが二つ存在するのは、現在ではクジョー王国だけだからなあ。
あの二人は総本部から何を指示されている?
「うわっ、ズィーが言葉で負けてる。あの百戦錬磨の苦情処理担当がっ」
「悪魔が負けるなんて、なんてこと」
ズィーさんは冒険者ギルド職員に悪魔って呼ばれているんですかい?
ズィーさんの細目の笑顔が黒くなり始めてますよ?大丈夫ですか?
「白銀の天使が舞い降りた」
小さい女性職員が口にした。
ん?
どこにそんなものが存在しているんだ?
「天は悪魔に打ち勝つ白銀の天使を我らに与えたもうた」
彼女たちの視線が俺を向いている気がするけど、白銀の要素、今の俺にはまったくないからね。
プッと吹き出すバージくん。
「あれ?天使という概念、この国にあるんですか?」
鳥魔法を使う鳥人間という認識じゃないの?
クジョー王国では天使は神の使いではないし、近隣諸国も神を信仰していても、翼を持つ天使の概念は確認されていない。
「、、、リアムが気にするところ、そこなの?」
「いや、ズィーさん、天使って鳥魔法を使う鳥人間じゃないかって思っていたんですが」
「、、、天使と鳥魔法を使う鳥人間という翼が生えている外見が一致している国はこの大陸で一か国だけだよ。グレーデン大国でもどこでも、天使というのは天の使いというだけで、姿は神とほぼ一致するかサイズを小さくしただけだし、神獣信仰がある国でもそうだよ」
一致している一か国はもちろんクジョー王国ではない。
今のは俺の失言だったか。
「リアムの大好物はラーメンだったよねえ」
ズィーさんが追及してきた。
コレもお仕事だからね。
作業服のようなものを着ているこの女性職員に話しかける。
ズィーさんの少ない頭髪を守らなければというわけではない。
「一つの箱の中身を見ても良いですか?」
「元に戻してくれるならいいぞー」
職員の了承を得て、彼女たちが使っていた魔法で一つの箱を手前のテーブルに引き寄せてみる。
問題なくテーブルにやって来る。
限りなく黒い。
箱に触ってみると、かなりというより恐ろしく頑丈だ。
何の素材でできている箱なんだろう。
積み上げても平気なのだから、相当な強度だ。
箱を開けるのも魔法だ。
これはその魔法を見たことがなければ、この箱を開けることができないので、防犯対策にもなっている。
この書類は一枚一枚はただの紙の価値しかないが、ここまで集積してしまえば情報としての価値は非常に高い。
だからこそ、魔法が使える彼女たちの受け皿となっている場所だ。
箱にはビッチリと書類が入っている。ファイルとかに挟まっているわけではなく、紙の書類が詰まっているだけだ。
それらをすべて空中に一面で並べる。
先程、ズィーさんが取り出した十数年前の某国で活動されていた冒険者の書類の箱の近くだから、少しずれた年代のその国で活動している冒険者の書類が集まっているようだ。
「冒険者ごとに時系列で並べているのか。国を移動して冒険者活動をする場合は元の国のまま管理するのか?」
「いや、移動した国か別枠で管理だ。冒険者ではなくなった者は最後の国で保管する」
「名前と冒険者番号で書類を見つけるのか」
「名前だけだと同姓同名が多数出るからなあ。国や活動時期、活動内容が一致する冒険者の書類を出してくれと言われることもある」
「そうか。なら、書類を検索しやすいように考える必要もあるな。けれど、冒険者番号が正確ならば、ソレが一番か」
「職員が見直しているとはいえ、たまに間違えた番号書いている場合があるんだよ。もう五年以上経っている書類だから無闇に訂正してくれとも言えねえしなあ。こっちが書き換えるわけにはいかない。名前や番号とか間違えた昔の書類を探すのが一番むずい。見つからないこともある。そういうのがイライラするんだよなあ」
だろうね。
最初の受付の時点で間違えないようにするのが最良か。
この倉庫は元のままの書類を保管することが義務のようだから、こちらで正しい情報に書き換えることはできないのか。
魔法で付箋的な物をつけるのはどうだろう。書き加えるわけでもないし、後からつけたものだと明白だ。
「貴重な意見をありがとう。書類を管理する上で、書類を探すときも、他に何か書類がこうだったら良いのに、とか意見はあるか」
「そうだなあー」
こういう人は話すと本音を言ってくれるので、こういう場ではありがたい。
オブラートに包まないので痛手を被る人はいるが、俺がこれらの書類を作った人間ではないのでちっとも心は痛まない。
かなりのご意見を伝えてくれた。後ろでうんうん頷く職員さんたちがいるので同意見と見える。後ろの彼女たちの反応で、どれほどの重要性なのか、彼女の個人的な意見なのかわかるな。
「アンタたちは冒険者だろ。書類のことをこんなに聞いてどうするんだ?」
自分の首を指さして、冒険者プレートのこと示している。
「ああ、書類を冒険者に書きやすいように変更する。ただし、職員が使えない書類になってもマズい。書類を残す意味も考え、後々活用もしやすい書類にしなければいけない等、課題も多い」
「冒険者がそんなめんどくせーことやるとは思わなかった。これも依頼なんだろ」
「もちろん依頼じゃなきゃ俺もやらない。冒険者が書き間違いして返戻し続けていると、こんな書類を作った冒険者ギルドを恨むようになる」
砦長室では口から文句が漏れていたけどね。
こんな書類を作るのは冒険者ギルドだけじゃないけどね。
「返戻って、アンタ冒険者だろ?冒険者ギルドの職員も兼任しているのか?」
首を捻った職員。
「彼はクジョー王国の砦の管理者だ」
「おおっ、白銀の辺境伯かっ。ん?ちっとも白銀じゃねえんだが」
そりゃそうだ。
あんな格好で冒険者してたら正気を疑う。漆黒の辺境伯の方はあの格好でガンガンに魔物退治をしていたようですが。色が黒だから、まだ可能だったことだ。
目がズィーさんのように細目になっちゃう。
ふと思い出す。あの衣装、この収納鞄に入れたままだったってこと。
うん、内緒にしておこう。秘密にしておこう。持っていることを知られたら、なんとなく嫌な予感がする。
年配の女性が黒い箱の後ろから出てきた。
「それはそれは。極西本部がお世話になっております。白銀の辺境伯殿が砦の管理者になる多少前のものから、書類が改善されて来たのをありがたく思っておりました。あそこは冒険者数も多いので、書類の数も多く、冒険者番号等の書き間違いも非常に多かったので助かりました」
そりゃ、冒険者番号がわかる魔道具の貸し出しをしてくれないからね、冒険者ギルドは。
自分たちの適当な記憶で冒険者番号を適当に書いてしまうんだよ、冒険者は。
そして、そんな冒険者の書類を砦に丸投げしていた極西支部。
「ん?極西本部?」
彼女は確実に本部と言った。
「言い間違いは誰にでもある。極西支部だ」
俺はズィーをじっと見る。
冒険者ギルドの一番のトップである総本部はここ、グレーデン王国の首都にある。
通常、冒険者ギルドの本部は各国の首都に一つずつあるものだと思っていた。
その認識が違っていたのか?
あそこは表向き、クジョー王国本部の管轄の極西支部なのだが。
魔の大平原が冒険者ギルドに重きを置かれていたら?
監視対象にしていたのなら?
直接、魔の大平原の状態を報告して、総本部の指示が来るようになっている可能性はある。
そして、魔の大平原の魔物が溢れたときに、犠牲者になる職員を最小限にして配置していたのなら。
「そうか、本部か」
「わあー、私の言葉を一切受け入れてくれないー」
ズィー、平坦すぎる言葉をありがとう。
「まあ、本部だろうと支部だろうと、職員が二人しかいない事実は変わらないが」
「あれー?暗にもっと増やせって言ってるー?あの二人は優秀だよー」
なんかズィーさん、失言が多すぎないか?
「あの二人は優秀、ねえ、、、」
あの二人が犠牲者ではなく、本部として本当に優秀な職員として活動しているのならば。
本部は各国の首都だけでなく、魔の〇〇ダンジョンにも設置すると考えるのが妥当な線だろう。
魔の○○と呼ばれるダンジョンが二つ存在するのは、現在ではクジョー王国だけだからなあ。
あの二人は総本部から何を指示されている?
「うわっ、ズィーが言葉で負けてる。あの百戦錬磨の苦情処理担当がっ」
「悪魔が負けるなんて、なんてこと」
ズィーさんは冒険者ギルド職員に悪魔って呼ばれているんですかい?
ズィーさんの細目の笑顔が黒くなり始めてますよ?大丈夫ですか?
「白銀の天使が舞い降りた」
小さい女性職員が口にした。
ん?
どこにそんなものが存在しているんだ?
「天は悪魔に打ち勝つ白銀の天使を我らに与えたもうた」
彼女たちの視線が俺を向いている気がするけど、白銀の要素、今の俺にはまったくないからね。
プッと吹き出すバージくん。
「あれ?天使という概念、この国にあるんですか?」
鳥魔法を使う鳥人間という認識じゃないの?
クジョー王国では天使は神の使いではないし、近隣諸国も神を信仰していても、翼を持つ天使の概念は確認されていない。
「、、、リアムが気にするところ、そこなの?」
「いや、ズィーさん、天使って鳥魔法を使う鳥人間じゃないかって思っていたんですが」
「、、、天使と鳥魔法を使う鳥人間という翼が生えている外見が一致している国はこの大陸で一か国だけだよ。グレーデン大国でもどこでも、天使というのは天の使いというだけで、姿は神とほぼ一致するかサイズを小さくしただけだし、神獣信仰がある国でもそうだよ」
一致している一か国はもちろんクジョー王国ではない。
今のは俺の失言だったか。
「リアムの大好物はラーメンだったよねえ」
ズィーさんが追及してきた。
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