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10章 秋休みは稼ぎ時
10-25 広場の騒ぎ
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「ラーメン屋は無事かっ」
窓からラーメン屋の屋台が並ぶ一角を見ようとするが、ここからじゃかなり遠い。
夜だから暗い。
提灯はあるが、そこまでの明るさはない。前世のような祭りで屋台が賑わう通りと比べたら照明がものすごく少ないので暗いのである。
「さすがはリアム様、ブレない」
従者くん、お褒めの言葉をありがとう。
他人が喧嘩していようと仲裁に入る俺ではない。
だが、この広場にいるラーメン屋が巻き込まれているなら、話は別だ。
テッチャンご夫婦は無事かっ?
まだ救いなのは、広場全体が騒然としているわけではなく一部分らしいが、大の男同士が喧嘩すれば、腕や肘が違う者にぶつかったり、食べている物やテーブルやイスを破壊する。
そして、被害に遭った者も酒に酔っている者が多い。
正常な判断ができず、ケンカへと参戦し、積極的に加害者となっていく。
ケンカに参加できない者はとりあえず避難するしかない。
とりあえず広場から離れた者は良いのだが、屋台で買った食事ももったいないから持っていこうとして、近くの人とぶつかり服を汚したりして余計に混乱が大きくなる。
だが、それに乗じて、盗みを働こうとする輩もいるようだ。
コレは本当に偶発的な騒ぎか?
「従者くんは馬車に待機。俺はラーメン屋に向かう。他の者は自由参加っ」
従者くんは戦闘要員じゃないからねえ。
馬車で御者さんとのんびりしていてね。
御者さんもさっさと広場の端、つまり馬車置き場に移動したい気持ちが表情から垣間見れるよっ。
俺は馬車から降りると、ゴウさん、ゾーイ、バージも降りてきた。おや、バージも行くの?え?従者くんと二人きりの方が怖い?
用事が終わったら馬車のところに戻るから、と御者さんに言って、馬車を広場の出入口から移動してもらう。
さて。
「リアムが困ったときは、クロ参上っ」
じゃじゃーん。
俺の肩の上でポーズを決めたクロがいた。
、、、走り出そうとしたゴウさんが困っているじゃないか。
一時停止。
「もう、リアムったらー、困ったら僕を呼んでねー、っていつも言っているじゃないかー」
「この騒然とした群衆を一瞬でどうにかできるのか?」
ちっこいクロが両手を上げる。
「威圧っ」
ぐしゃっ。
「、、、」
広場で騒いでいた者たちが一斉に地面と仲良くなった。
多少巻き込まれた者たちもいそうだけど。
大事の前の小事だ。
やむを得ない。
野次馬根性で近くにいたお前らが悪い。犠牲になってくれ。
広場にある脆くなっていたテーブルやイスも潰れた気がするけど、、、まあ、ケンカで壊されたことにしておこうか。
クロも成長したなあ。
部分的に威圧ができるようになった。
しみじみ。なでなで。
地面に平伏した者たちは何が何だか状況を把握できていないようだが、冷たい地面にお顔を冷やされて、多少は冷静になったのではないか?
ある程度、距離があるので、俺たちのことは視界にも入っていないだろう。
この広場は超広いから。
「どうー?リアムー、一瞬でどうにかしちゃったよー」
「はいはい、偉い偉い。クロ様、素晴らしい」
「感情がこもってない気がするけど、野菜チップスで手を打とうではないか」
「テッチャンさんたちの無事を確認してからなー」
お供えが必要だったか。
ラーメン屋台が集まっている場所に行くと、すぐに見つかる。
この周囲の屋台の店主たちは持ち場を離れず、遠くから騒ぎを見ていて、飛び火しそうならさっさと店仕舞いして帰ろうとしていたらしい。
「テッチャンさん、ご無事でしたか」
「ああ、リアム、もしかして、アレをやったのキミたち?」
「ふはは、僕を崇め奉るのを許そうではないか」
クロにそう言われて、拝むテッチャンご夫婦がいる。ノリが良いな。
んで。
「こんな騒ぎ、よくあるんですか?」
「ここまでの騒ぎは少ないよ。数人の殴り合いのケンカはしょっちゅう見かけるけど、ここまで大きくなったのははじめて見たね」
テッチャンの言葉に、屋台の店主夫婦も頷いている。
「何かあったんですかね?」
「このぐらいじゃ国の警備隊とかは動かないからねえ。原因はわからないけど、些細なことなんじゃないか?肩がぶつかったのだの、自分の席を取ったのだの。夜遅くなって、酔っ払いが増えるとこの辺はかなり物騒になるからねえ」
「うちらも夜の八時前後には帰り支度をはじめますから」
店主の奥さんが心配そうな顔をしながら言った。女性だと暴力沙汰は怖いよな。
この広場の屋台は夫婦でやっているところが多い。
ちなみに、こういう場の屋台は一人ででも簡単にできると思ったら大間違いである。
二人以上でやらなければならない決まりはないが、トイレとか両替とかちょっとしたものが足りなくて買い物とかがある場合、一人だと屋台がガラ空きになってしまう。
誰も見ている者がいない屋台なんて盗み放題だ。
隣に他の屋台があるから大丈夫、こんなに大勢の客の目がいるから大丈夫、なんてことはない。自分の屋台は自分の持ち物だろうと借り物だろうと、自分が責任を持って管理しなければならない。
見ておいてくれ、と誰かに言っても、本当に見ているだけだ。屋台ごと盗まれても何もしない。
本当にどうしようもなくこの場から離れるので見ておいてほしいのなら、ロープで相手の屋台と結んでおいて、いくかばのお金を渡しておかなければならない。
善意だけで盗みを阻止してくれる者はこの国にはほぼいない。
皆無とまでは言わないが。
「治安が悪いとは言っていたけど、こういう治安の悪さなんですねえ」
陰湿なものかと思ったら、派手なケンカだ。
喧嘩両成敗。
まあ、こうなってしまうと、当事者自身でさえ原因はわからなくなっているだろう。
地面に伏した者たちは立ち上がった者から適当に解散し始めた。
「表面上はね。遅くなると、ここの客以外にも屋台と店主夫婦共々消えたという話も聞くからねえ」
何それ?都市伝説?
というわけではなく、殺されたり連れ去られたりされるのだろう。
大都市とはいえ安全は確保されていない。
そういう人たちは新聞の記事にもならない。
「自衛するしかないってことなんですねえ。あ、おかもちの納品ってここでいいですか?」
「ああ、いいよー、おかもちだからね。はい、確かに三セット受け取りました」
テッチャンさんが収納鞄にさっさと詰める。
外見はどう見たっておかもち。おかもちだからね。おかもち以外のなにものでもない。
「おかもちの持ち込みでこれだけ安くなるんなら、前回もそうすれば良かった」
「あれらは主にA級魔物の素材でできてますからねえ。丈夫で長持ちはしますよ。ちなみに建物が崩れても持ち堪える耐久性抜群」
「あれはあれで凄いものだったんだねっ。大切にするよっ」
大切にしなくても壊れないけどね。
「砦とラーメン屋をつなぐものなら、それだけの価値はあるっ」
「ありがとー、リアムくん、そう言ってくれてー」
テッチャンご夫婦との会話についていけてないのが、ゴウさん。
ゴウさんから見ても、おかもちはおかもちだ。
コイツら何を言っているんだろう、と思う気持ちもわかるよー、説明しないけど。
「この屋台に盗難防止はしてもらったけど、この二人が何か身を守れるのって何かないの?」
奥さんが聞いてきた。
ふむ。美味しいラーメン屋には無事でいてもらいたい。
たとえ一か月間のお付き合いであったとしても。
「あー、じゃあ、この屋台の周囲二、三メートルを安全地帯にしてしまいましょうか?」
「安全地帯?」
この場にいる全員が疑問符を浮かべる。
先程の喧騒にも関わらず、もう広場は通常営業に戻っている。
騒ぎが収まれば、商魂たくましい者は屋台を再開する。
壊された残骸、こぼれた食事等はそのままだが、怪我した者たちもブツブツ言いながらも去っていった後だ。
「簡単に言うと、暴力禁止エリアが出来上がるってことです。危険であれば、屋台のそばに逃げ込めば、攻撃を受けることはありません。ただし、自分たちも暴力を振るうことができなくなります」
「私たちが他人に暴力を振るうことなんてないわよ」
「相手が盗みをしても、無銭飲食をしても、ですよ。ただし、屋台から少し離れて取っ捕まえるのはアリですが」
「けれど、暴力から守られるところがあると安心できる」
屋台の店主さんが強く頷いている。
「あー、あと、言葉の暴力に対しては防御できませんので」
「そこまでのものがあったら、世の中は本当に平和になるだろうね。でも、どうやるの?魔法?魔道具?」
ゴウさんが聞いてきた。
窓からラーメン屋の屋台が並ぶ一角を見ようとするが、ここからじゃかなり遠い。
夜だから暗い。
提灯はあるが、そこまでの明るさはない。前世のような祭りで屋台が賑わう通りと比べたら照明がものすごく少ないので暗いのである。
「さすがはリアム様、ブレない」
従者くん、お褒めの言葉をありがとう。
他人が喧嘩していようと仲裁に入る俺ではない。
だが、この広場にいるラーメン屋が巻き込まれているなら、話は別だ。
テッチャンご夫婦は無事かっ?
まだ救いなのは、広場全体が騒然としているわけではなく一部分らしいが、大の男同士が喧嘩すれば、腕や肘が違う者にぶつかったり、食べている物やテーブルやイスを破壊する。
そして、被害に遭った者も酒に酔っている者が多い。
正常な判断ができず、ケンカへと参戦し、積極的に加害者となっていく。
ケンカに参加できない者はとりあえず避難するしかない。
とりあえず広場から離れた者は良いのだが、屋台で買った食事ももったいないから持っていこうとして、近くの人とぶつかり服を汚したりして余計に混乱が大きくなる。
だが、それに乗じて、盗みを働こうとする輩もいるようだ。
コレは本当に偶発的な騒ぎか?
「従者くんは馬車に待機。俺はラーメン屋に向かう。他の者は自由参加っ」
従者くんは戦闘要員じゃないからねえ。
馬車で御者さんとのんびりしていてね。
御者さんもさっさと広場の端、つまり馬車置き場に移動したい気持ちが表情から垣間見れるよっ。
俺は馬車から降りると、ゴウさん、ゾーイ、バージも降りてきた。おや、バージも行くの?え?従者くんと二人きりの方が怖い?
用事が終わったら馬車のところに戻るから、と御者さんに言って、馬車を広場の出入口から移動してもらう。
さて。
「リアムが困ったときは、クロ参上っ」
じゃじゃーん。
俺の肩の上でポーズを決めたクロがいた。
、、、走り出そうとしたゴウさんが困っているじゃないか。
一時停止。
「もう、リアムったらー、困ったら僕を呼んでねー、っていつも言っているじゃないかー」
「この騒然とした群衆を一瞬でどうにかできるのか?」
ちっこいクロが両手を上げる。
「威圧っ」
ぐしゃっ。
「、、、」
広場で騒いでいた者たちが一斉に地面と仲良くなった。
多少巻き込まれた者たちもいそうだけど。
大事の前の小事だ。
やむを得ない。
野次馬根性で近くにいたお前らが悪い。犠牲になってくれ。
広場にある脆くなっていたテーブルやイスも潰れた気がするけど、、、まあ、ケンカで壊されたことにしておこうか。
クロも成長したなあ。
部分的に威圧ができるようになった。
しみじみ。なでなで。
地面に平伏した者たちは何が何だか状況を把握できていないようだが、冷たい地面にお顔を冷やされて、多少は冷静になったのではないか?
ある程度、距離があるので、俺たちのことは視界にも入っていないだろう。
この広場は超広いから。
「どうー?リアムー、一瞬でどうにかしちゃったよー」
「はいはい、偉い偉い。クロ様、素晴らしい」
「感情がこもってない気がするけど、野菜チップスで手を打とうではないか」
「テッチャンさんたちの無事を確認してからなー」
お供えが必要だったか。
ラーメン屋台が集まっている場所に行くと、すぐに見つかる。
この周囲の屋台の店主たちは持ち場を離れず、遠くから騒ぎを見ていて、飛び火しそうならさっさと店仕舞いして帰ろうとしていたらしい。
「テッチャンさん、ご無事でしたか」
「ああ、リアム、もしかして、アレをやったのキミたち?」
「ふはは、僕を崇め奉るのを許そうではないか」
クロにそう言われて、拝むテッチャンご夫婦がいる。ノリが良いな。
んで。
「こんな騒ぎ、よくあるんですか?」
「ここまでの騒ぎは少ないよ。数人の殴り合いのケンカはしょっちゅう見かけるけど、ここまで大きくなったのははじめて見たね」
テッチャンの言葉に、屋台の店主夫婦も頷いている。
「何かあったんですかね?」
「このぐらいじゃ国の警備隊とかは動かないからねえ。原因はわからないけど、些細なことなんじゃないか?肩がぶつかったのだの、自分の席を取ったのだの。夜遅くなって、酔っ払いが増えるとこの辺はかなり物騒になるからねえ」
「うちらも夜の八時前後には帰り支度をはじめますから」
店主の奥さんが心配そうな顔をしながら言った。女性だと暴力沙汰は怖いよな。
この広場の屋台は夫婦でやっているところが多い。
ちなみに、こういう場の屋台は一人ででも簡単にできると思ったら大間違いである。
二人以上でやらなければならない決まりはないが、トイレとか両替とかちょっとしたものが足りなくて買い物とかがある場合、一人だと屋台がガラ空きになってしまう。
誰も見ている者がいない屋台なんて盗み放題だ。
隣に他の屋台があるから大丈夫、こんなに大勢の客の目がいるから大丈夫、なんてことはない。自分の屋台は自分の持ち物だろうと借り物だろうと、自分が責任を持って管理しなければならない。
見ておいてくれ、と誰かに言っても、本当に見ているだけだ。屋台ごと盗まれても何もしない。
本当にどうしようもなくこの場から離れるので見ておいてほしいのなら、ロープで相手の屋台と結んでおいて、いくかばのお金を渡しておかなければならない。
善意だけで盗みを阻止してくれる者はこの国にはほぼいない。
皆無とまでは言わないが。
「治安が悪いとは言っていたけど、こういう治安の悪さなんですねえ」
陰湿なものかと思ったら、派手なケンカだ。
喧嘩両成敗。
まあ、こうなってしまうと、当事者自身でさえ原因はわからなくなっているだろう。
地面に伏した者たちは立ち上がった者から適当に解散し始めた。
「表面上はね。遅くなると、ここの客以外にも屋台と店主夫婦共々消えたという話も聞くからねえ」
何それ?都市伝説?
というわけではなく、殺されたり連れ去られたりされるのだろう。
大都市とはいえ安全は確保されていない。
そういう人たちは新聞の記事にもならない。
「自衛するしかないってことなんですねえ。あ、おかもちの納品ってここでいいですか?」
「ああ、いいよー、おかもちだからね。はい、確かに三セット受け取りました」
テッチャンさんが収納鞄にさっさと詰める。
外見はどう見たっておかもち。おかもちだからね。おかもち以外のなにものでもない。
「おかもちの持ち込みでこれだけ安くなるんなら、前回もそうすれば良かった」
「あれらは主にA級魔物の素材でできてますからねえ。丈夫で長持ちはしますよ。ちなみに建物が崩れても持ち堪える耐久性抜群」
「あれはあれで凄いものだったんだねっ。大切にするよっ」
大切にしなくても壊れないけどね。
「砦とラーメン屋をつなぐものなら、それだけの価値はあるっ」
「ありがとー、リアムくん、そう言ってくれてー」
テッチャンご夫婦との会話についていけてないのが、ゴウさん。
ゴウさんから見ても、おかもちはおかもちだ。
コイツら何を言っているんだろう、と思う気持ちもわかるよー、説明しないけど。
「この屋台に盗難防止はしてもらったけど、この二人が何か身を守れるのって何かないの?」
奥さんが聞いてきた。
ふむ。美味しいラーメン屋には無事でいてもらいたい。
たとえ一か月間のお付き合いであったとしても。
「あー、じゃあ、この屋台の周囲二、三メートルを安全地帯にしてしまいましょうか?」
「安全地帯?」
この場にいる全員が疑問符を浮かべる。
先程の喧騒にも関わらず、もう広場は通常営業に戻っている。
騒ぎが収まれば、商魂たくましい者は屋台を再開する。
壊された残骸、こぼれた食事等はそのままだが、怪我した者たちもブツブツ言いながらも去っていった後だ。
「簡単に言うと、暴力禁止エリアが出来上がるってことです。危険であれば、屋台のそばに逃げ込めば、攻撃を受けることはありません。ただし、自分たちも暴力を振るうことができなくなります」
「私たちが他人に暴力を振るうことなんてないわよ」
「相手が盗みをしても、無銭飲食をしても、ですよ。ただし、屋台から少し離れて取っ捕まえるのはアリですが」
「けれど、暴力から守られるところがあると安心できる」
屋台の店主さんが強く頷いている。
「あー、あと、言葉の暴力に対しては防御できませんので」
「そこまでのものがあったら、世の中は本当に平和になるだろうね。でも、どうやるの?魔法?魔道具?」
ゴウさんが聞いてきた。
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