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11章 善意という名を借りた何か
11-13 最愛の妹 ◆ハーラット侯爵視点◆
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◆ハーラット侯爵視点◆
扉を閉め、人避けの魔法をかける。
王子や取り巻きは気を失ったままだ。このまましばらく寝ていてもらおう。
取り巻きたちは顔が崩れても、カラダがボロボロになろうとも、王子がラーラを抱いたという第三者としての証言を得られれば何の問題もない。
それにコイツらは他の後始末をしてもらわないと困る。
「お兄様、お願い。私を抱いて」
ラーラが赤い顔でねだる。
「最初から私のものにしておけば良かった」
最愛の妹。
だからこそ、月並みの幸せを。
私とではなく他人と歩むことができればと願っていた。
お互い歪んでいるリアムがいれば、私が妹を欲しがらなくて済むと思った。
けれど、私の願いとは裏腹に、最愛の妹を欲望に埋める。
「洗浄」
魔法で中を洗う。
「お兄様、ごめんなさい」
「ラーラ、違う。この王子の不幸をお前が背負うことはないんだ。お前は私の子供を産んでくれ」
ラーラが汚れているわけではない。
綺麗に洗わなければ、この男の子供が生まれたとしたら、ラーラもともに呪術の不運を背負わなければならない。その代償は大きい。それはこの男だけが背負えば充分だ。
王子にも取り巻きにも両手首にくっきりと黒い線が見えた。
「はい、お兄様。喜んで」
「そして、王子の子供として育ててくれ」
酷なことを言う。
けれど、ラーラは晴れやかな顔になった。
「ハーラット侯爵家の王家乗っ取りですね。お兄様の子供だとは誰にも言えませんが、一生一緒に可愛がりましょう」
「ラーラ、お前が妹で良かった」
ラーラの手を取り、口づけを交わした。
そして、ドレスを脱がせてやる。
私は最愛の妹に捕まった。
王子と結婚させるせいで、私とは一生結婚できない。
兄妹として支えていくように他人には見えるだろう。
それでも、一生そばにいる。
それは誓約にこそしないが、誓いだ。
「ずっとそばにいる」
「はい」
生きている限り。
兄妹として。
共犯者として。
そして、最愛の恋人として。
ラーラと甘く激しい時間を過ごした後、国王陛下に王子と取り巻きのしたことを報告した。
王子は動けないよう拘束されている。意識がないので拘束されていることもわからないだろうが。
「、、、ラーラ嬢には気の毒なことをした」
「レオナルド王子とラーラの婚礼の儀式を早急に」
「、、、それは、、、いいのか?」
国王が反対に尋ねてくる。
それはハーラット侯爵家が王子の後ろ盾になるということだからだ。
「子供さえできてしまえば、王子は亡くなってもかまいませんよね」
そこまで甘く考えられても困るが。ここまでのことをしでかしておいて。
侯爵家の令嬢との結婚でも、本来は婚約の誓約からする。王族の結婚なんて最低でも二年はかかる大行事だ。
だが、子供ができるとなると時間的な猶予はない。
「、、、できれば、傀儡としてでも生かしてもらえると私は嬉しく思う」
「まあ、国王陛下が生きている間は善処しますよ」
「はは、、、できれば、妻も生きている間は我慢してほしいが」
「私がレオナルド王子を意のままに動かしてもかまわないと約束してくれるのならば」
国王は王子を溺愛している。
けれど、落としどころとしては、そこまでだということも国王はわかっている。
目を細くして国王は私を見た。
「息子が生きていれば、いつか己を冷静に見つめることができるときが来ると信じている」
それは王子への願い。
「しかし、王子がしたことはしっかりと償わなければなりません」
「伯爵家令嬢一人、子爵家令嬢一人と男爵家令嬢の二人か。王子の取り巻きが五人いたな」
国王陛下の従者が耳元で伝えている。
「ああ、四人になっていたのか。ちょうど良い、そいつらに家が合うように宛がえ」
再び何かを伝えている。
「全員、婚約者がいると?自分たちの仕出かしたことだ。貴族の令嬢を犯したのなら、責任を取らなければなるまい」
「貴族の家は純潔を望むって言いますよね」
一応言っておいてやる。
「取り巻き自身が汚しただけのことだ。元々あった婚約の解消も致し方あるまい。すでにカラダの関係を持っている方を優先させるしかない。男側からの離縁はどんな理由があっても不可能だと伝えておけ」
国王に言われてしまえば、そのようにしか動かない。
対抗する力を持たない貴族は言いなりだ。裏では限りなく文句は言うだろうけど、国王にとっては何の関係もないそよ風だ。
「しかし、貴族の娼婦なんて都市伝説、王子もどこから聞いたんでしょうね」
「こんなことになるなら、産まれたときに正室の一人でも良いから婚約の誓約だけはさせておくべきだった」
怖いこと言っているな、この父親は。
正妻となる女性が清く正しく美しく成長してくれる保証もどこにもないのに。
確かに勃たなければこういう事態になることはなかったが。
この親は息子がこんな風に育つなんて想像できなかっただろう。
他の者たちは甘やかされて育った王子を見ていて、いつかこうなることは想像ついていたが。
だから、あえて国王には言わない。
リアムがどれだけの恨みを王子に持っているかを。
卒業生と在校生の首席がおこなうエキシビジョンマッチにおいて、たとえ国王とリアムの約束があろうとも。
王子は報復されることは、予測がつく。
それは戦いの場ということで、リアムが王子に牙を向けても合法だ。
国王はリアムが王子に手を出さないということは約束しなかったのだから。
どんな報復をしてくれるのだろう。
期待だけが積もる。
ハーラット侯爵家の護衛に守られた客室で、ラーラを休ませていた。
侍女たちも連れて来て、世話をさせている。
温かい飲み物を飲んで落ち着いたようだ。
「お兄様、」
「ラーラ、体調はどうだ?」
「大丈夫ですわ」
「これからは一人で出歩かないようにな」
「もちろんですわ。王子に襲われたら大変ですもの」
「ラーラに嫌われなければ、一回だけの夢で終わらなかったのに。残念だな」
「あら、お兄様は私が何度も抱かれても許せるの?」
「ありえない仮定のことは考えるだけ無駄だ。彼は自分でそれを選択したのだから」
「それもそうね」
国王だけでなく王子も国政に携わっている。
これからも淡々と仕事をこなしていってもらう。
それが彼の役目になる。
一切の自由もなく。
いや、自由はあるか。我々の邪魔にならない程度には。
「王子とラーラとの結婚が発表されたよ」
「あら、早いわね」
「とりあえずあのビラのことは肯定も否定もしないことになった。王城での国王の会見も結婚の発表だし、それ以上の枚数、結婚のビラを号外で配ることになった」
あのビラのことを何か言うための会見だと思ったら、王子の結婚の発表。
国民も何だと思っただろう。
「彼らの外堀を埋めてしまうのね」
「一か月後に結婚式だから忙しくなる。ただし、体調には気をつけて。流産でもしたら大変だからね」
「そうね、お兄様が守ってくださるのでしょう」
「当たり前だ。お前は生まれたときから私の光なのだから」
「リアムにはどう伝えるの?」
「後ろ盾がハーラット侯爵家になったのだから、意図は伝わりそうだが、変に曲解されると困るから王子を傀儡にして操るから安心してとでも言っておくか」
「それって、、、王子がまた変なことをしたら、ハーラット侯爵家が裏で動いていると思われるわよ」
「おおっと、そのときは王子を人身御供として差し出そう。奴隷にでもしてくださいってね。まあ、王弟殿下が結婚して子供が生まれたら、そのときはそちらを王太子にしても良いんだが、あの人は結婚自体しなさそうだな」
「お兄様と同じくらいモテそうなのに」
「おや、可愛いこと言っちゃってくれるな、我が妹よ」
私と妹は笑った。
扉を閉め、人避けの魔法をかける。
王子や取り巻きは気を失ったままだ。このまましばらく寝ていてもらおう。
取り巻きたちは顔が崩れても、カラダがボロボロになろうとも、王子がラーラを抱いたという第三者としての証言を得られれば何の問題もない。
それにコイツらは他の後始末をしてもらわないと困る。
「お兄様、お願い。私を抱いて」
ラーラが赤い顔でねだる。
「最初から私のものにしておけば良かった」
最愛の妹。
だからこそ、月並みの幸せを。
私とではなく他人と歩むことができればと願っていた。
お互い歪んでいるリアムがいれば、私が妹を欲しがらなくて済むと思った。
けれど、私の願いとは裏腹に、最愛の妹を欲望に埋める。
「洗浄」
魔法で中を洗う。
「お兄様、ごめんなさい」
「ラーラ、違う。この王子の不幸をお前が背負うことはないんだ。お前は私の子供を産んでくれ」
ラーラが汚れているわけではない。
綺麗に洗わなければ、この男の子供が生まれたとしたら、ラーラもともに呪術の不運を背負わなければならない。その代償は大きい。それはこの男だけが背負えば充分だ。
王子にも取り巻きにも両手首にくっきりと黒い線が見えた。
「はい、お兄様。喜んで」
「そして、王子の子供として育ててくれ」
酷なことを言う。
けれど、ラーラは晴れやかな顔になった。
「ハーラット侯爵家の王家乗っ取りですね。お兄様の子供だとは誰にも言えませんが、一生一緒に可愛がりましょう」
「ラーラ、お前が妹で良かった」
ラーラの手を取り、口づけを交わした。
そして、ドレスを脱がせてやる。
私は最愛の妹に捕まった。
王子と結婚させるせいで、私とは一生結婚できない。
兄妹として支えていくように他人には見えるだろう。
それでも、一生そばにいる。
それは誓約にこそしないが、誓いだ。
「ずっとそばにいる」
「はい」
生きている限り。
兄妹として。
共犯者として。
そして、最愛の恋人として。
ラーラと甘く激しい時間を過ごした後、国王陛下に王子と取り巻きのしたことを報告した。
王子は動けないよう拘束されている。意識がないので拘束されていることもわからないだろうが。
「、、、ラーラ嬢には気の毒なことをした」
「レオナルド王子とラーラの婚礼の儀式を早急に」
「、、、それは、、、いいのか?」
国王が反対に尋ねてくる。
それはハーラット侯爵家が王子の後ろ盾になるということだからだ。
「子供さえできてしまえば、王子は亡くなってもかまいませんよね」
そこまで甘く考えられても困るが。ここまでのことをしでかしておいて。
侯爵家の令嬢との結婚でも、本来は婚約の誓約からする。王族の結婚なんて最低でも二年はかかる大行事だ。
だが、子供ができるとなると時間的な猶予はない。
「、、、できれば、傀儡としてでも生かしてもらえると私は嬉しく思う」
「まあ、国王陛下が生きている間は善処しますよ」
「はは、、、できれば、妻も生きている間は我慢してほしいが」
「私がレオナルド王子を意のままに動かしてもかまわないと約束してくれるのならば」
国王は王子を溺愛している。
けれど、落としどころとしては、そこまでだということも国王はわかっている。
目を細くして国王は私を見た。
「息子が生きていれば、いつか己を冷静に見つめることができるときが来ると信じている」
それは王子への願い。
「しかし、王子がしたことはしっかりと償わなければなりません」
「伯爵家令嬢一人、子爵家令嬢一人と男爵家令嬢の二人か。王子の取り巻きが五人いたな」
国王陛下の従者が耳元で伝えている。
「ああ、四人になっていたのか。ちょうど良い、そいつらに家が合うように宛がえ」
再び何かを伝えている。
「全員、婚約者がいると?自分たちの仕出かしたことだ。貴族の令嬢を犯したのなら、責任を取らなければなるまい」
「貴族の家は純潔を望むって言いますよね」
一応言っておいてやる。
「取り巻き自身が汚しただけのことだ。元々あった婚約の解消も致し方あるまい。すでにカラダの関係を持っている方を優先させるしかない。男側からの離縁はどんな理由があっても不可能だと伝えておけ」
国王に言われてしまえば、そのようにしか動かない。
対抗する力を持たない貴族は言いなりだ。裏では限りなく文句は言うだろうけど、国王にとっては何の関係もないそよ風だ。
「しかし、貴族の娼婦なんて都市伝説、王子もどこから聞いたんでしょうね」
「こんなことになるなら、産まれたときに正室の一人でも良いから婚約の誓約だけはさせておくべきだった」
怖いこと言っているな、この父親は。
正妻となる女性が清く正しく美しく成長してくれる保証もどこにもないのに。
確かに勃たなければこういう事態になることはなかったが。
この親は息子がこんな風に育つなんて想像できなかっただろう。
他の者たちは甘やかされて育った王子を見ていて、いつかこうなることは想像ついていたが。
だから、あえて国王には言わない。
リアムがどれだけの恨みを王子に持っているかを。
卒業生と在校生の首席がおこなうエキシビジョンマッチにおいて、たとえ国王とリアムの約束があろうとも。
王子は報復されることは、予測がつく。
それは戦いの場ということで、リアムが王子に牙を向けても合法だ。
国王はリアムが王子に手を出さないということは約束しなかったのだから。
どんな報復をしてくれるのだろう。
期待だけが積もる。
ハーラット侯爵家の護衛に守られた客室で、ラーラを休ませていた。
侍女たちも連れて来て、世話をさせている。
温かい飲み物を飲んで落ち着いたようだ。
「お兄様、」
「ラーラ、体調はどうだ?」
「大丈夫ですわ」
「これからは一人で出歩かないようにな」
「もちろんですわ。王子に襲われたら大変ですもの」
「ラーラに嫌われなければ、一回だけの夢で終わらなかったのに。残念だな」
「あら、お兄様は私が何度も抱かれても許せるの?」
「ありえない仮定のことは考えるだけ無駄だ。彼は自分でそれを選択したのだから」
「それもそうね」
国王だけでなく王子も国政に携わっている。
これからも淡々と仕事をこなしていってもらう。
それが彼の役目になる。
一切の自由もなく。
いや、自由はあるか。我々の邪魔にならない程度には。
「王子とラーラとの結婚が発表されたよ」
「あら、早いわね」
「とりあえずあのビラのことは肯定も否定もしないことになった。王城での国王の会見も結婚の発表だし、それ以上の枚数、結婚のビラを号外で配ることになった」
あのビラのことを何か言うための会見だと思ったら、王子の結婚の発表。
国民も何だと思っただろう。
「彼らの外堀を埋めてしまうのね」
「一か月後に結婚式だから忙しくなる。ただし、体調には気をつけて。流産でもしたら大変だからね」
「そうね、お兄様が守ってくださるのでしょう」
「当たり前だ。お前は生まれたときから私の光なのだから」
「リアムにはどう伝えるの?」
「後ろ盾がハーラット侯爵家になったのだから、意図は伝わりそうだが、変に曲解されると困るから王子を傀儡にして操るから安心してとでも言っておくか」
「それって、、、王子がまた変なことをしたら、ハーラット侯爵家が裏で動いていると思われるわよ」
「おおっと、そのときは王子を人身御供として差し出そう。奴隷にでもしてくださいってね。まあ、王弟殿下が結婚して子供が生まれたら、そのときはそちらを王太子にしても良いんだが、あの人は結婚自体しなさそうだな」
「お兄様と同じくらいモテそうなのに」
「おや、可愛いこと言っちゃってくれるな、我が妹よ」
私と妹は笑った。
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