解放の砦

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12章 蛇足なのか、後始末なのか

12-オマケ3 長兄と公爵3 ◆ルーカス視点◆

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◆ルーカス視点◆

 あまり砦には足を運ばない私だが、たまには買い物に来てみた、せっかくだから。
 三階にある砦長室に顔を出したが、リアムはいない。
 残念だと思ったら四階にいるという。

「こちらに呼びましょうか?」

 補佐の一人が提案してくれるが、挨拶だけで呼ぶのも悪い。
 今の私はただの家庭教師なのだから。
 部屋の場所だけ聞いて、足を運ぶ。

 ノックをすると、すぐに扉が開いた。

「ルーカス・ミルス公爵、少々お待ちください。リアム様に確認してきます」

 ゾーイの従者くんだった。
 家庭教師ルイ・ミミスの格好で会っていたなー、そういえば。話の中に従者くんと出て来なくても、ゾーイの後ろに控えていることが多いから。
 公爵姿のときに会っているから、顔でわかると言えばわかるんだろうけど。
 そこまで化粧を変えているとかない。服装もあっさりしているだけだし。

 この部屋は前室がある。奥まで見えないようにしている造りだ。
 従者くんが戻って来て、部屋に入れてくれた。
 入室拒否されたら心が痛むけど。

「広いなー、この執務室」

 砦長室も広いがそれを上回る広さだ。
 ああ、そうか、ここはこの城の主人のための執務室として用意された部屋なのか。
 本来、一人で使う部屋なのだろうけど、執務机は三つあるし、ソファやら、棚やら、調度品も揃っている。
 あれ?机はバージ用のもあるの?バージ、冬は王都に来る代わりにこちらに来ることになっているけど、リアムに仕事させられるの?こき使われる予定なの?
 王都に行くのとどちらが幸せなんだろう?

「砦に来るなんて珍しいな、ルイ・ミミス。弟の勉強はどうした?」

「そこまで久々というわけでもないけど、しばらくぶりだね。リアムはやっぱり王都より砦にいる方がしっくりくる。今日の家庭教師は休みだよ」

「だったら、公爵の姿で来れば大歓迎してやったぞ」

 リアムの黒い笑みは砦で金を落とせと言っている。この格好で来て正解かなー。物欲はそこまでないんだよねー。
 私がソファに座ると、従者くんが紅茶をいれてくれる。
 向かいにリアムが座ると、ゾーイもやって来た。

「で、どうした、今日はわざわざ」

「いやー、挨拶でもと思って来たんだよ。メルクイーン男爵領に戻ってきてもキミには一度も会ってないからさー」

「、、、確かに俺はあの家には帰らないから会うこともないんだが、会う必要もないだろう?」

 今日のリアムは鬼畜仕様かな?

「ひどいなー。必要なくとも世間話するくらいいいじゃない」

「ふむ、バカ兄貴がクトフの料理教室に参加したのもお前の差し金か?」

「クリスが侯爵家に持ち帰ったチラシをピラリと渡しただけだよー。家事の腕前を上げてもらいたかったんでしょ」

 リアムが私を見た。

「、、、ミルス公爵、会話というのは価値観が似通っていなければ、相手にものすごい苦痛を強いるんだぞ。知っているか?」

 うわっ、マジで鬼畜だ。

「相手がそれでもなぜ我慢するのか、それは相手の位が高いとか、上司、得意先、付き合い上で外せない相手等々の理由がある。お前は家事なんかしなくていい身分で良かったな」

 本当に機嫌が悪いなあ。
 私が公爵だとしても、このメルクイーン男爵領では男爵優位なので関係ない。リアムは気を使わなくてもいい。。。まさか、アレで王都では気を使って話していたのか???

「えー、そんなにジャイールが料理教室に参加したことが嫌なの?リアムが料理教室の会場に行かなければ、会うことはないでしょう」

 リアムが顔をしかめた。
 言葉に出す、表情に出すのだから、改善を要求されている。
 極西の砦の上客でもなければ、このままでは私と付き合い切れんと言ったところか。

「ミルス公爵、恐れながら横から発言致しますが、今の時点でリアムの兄弟の家事の腕前が上がったところで、リアムには何の影響もありません。それをするなら、せめてリアムがすべての家事を押しつけられたときにやるべきことだったかと」

 ゾーイが説明した。
 つまり、彼らがなぜミルス公爵と呼び方を変えたのか、そこにも意味がある。
 ゾーイはリアムの感情を理解したから、呼び方を公爵にしてしまったし、丁寧な言葉遣いにしているようだ。

 お前の価値観は家庭教師の格好をしていても相容れないと、リアムに言われてしまった。

「ジャイールが今から努力しても無駄だと?」

 リアムが深いため息を吐いた。

「無駄だとは言わない。彼らの生活には必要なことだろう。けれど、家事を学ぶならここでなくてもいいことだ。今まで散々蔑ろにして放置してきた砦に彼らには来てほしくないと俺が思うのは狭量か?」

 ここまで言わないとわからないのか、とリアムの目が言った。
 何も知らない部外者が引っ掻き回すな、と。

 あまりにも上から目線の行為と、私の行為はリアムの目には映ったのか。

「彼らはキミに歩み寄ろうとしているが、キミはすべてを拒むと言うのか?」

「、、、ミルス公爵、俺には貴方が幸せな環境で育ったようにしか思えません。たとえ、貴方が跡継ぎ争いに巻き込まれた上で、こんな僻地にいるのだとしても」

 柔らかく笑顔を浮かべられた。
 やんわりと拒否の姿勢を示された。
 コレは頑なな言葉より、強い拒否を表しているかのように見えた。

 リアムが立ち上がってしまったのだから、そうなのだろう。
 これは立ち去るしかない。

「今日は帰るよ」

「お気をつけてお帰りください」

 あくまでも礼儀正しく。
 他人の感情に疎くとも、コレはわかる。
 今、一線を引かれてしまったことに。




「そりゃ、そうでしょう。昔、言いませんでしたっけ。リアムに家族の話題は地雷だって」

 街の外れの保養地にある侯爵邸でクリスをつかまえて話をした。
 クリスもリアムに似てきてない?辛口だよ。

「それに話を聞いていると、リアムが怒るのも無理はない気がする」

「そうかな?ただの世間話の範疇じゃない?」

 答えると、クリスがため息を吐いた。

「さすがは王弟殿下。その会話が貴方にとって世間話の範疇なら、何も話されない方が良い。言いたくはないが、これ以上リアムを傷つけてもらいたくないから言うしかないが、貴方の会話はリアムに喧嘩を売っている」

「ジャイールに砦の料理教室を勧めることが?実際はリアムの功績を私が説明するより、補佐が説明するのを聞いてもらうためだったのだけど」

「、、、そうだとしても、貴方の会話はリアムの味方ではなく、ジャイールの味方に立ったように聞こえる」

「え、嘘?」

 どこが?

「わかってないなら、考えろ。貴方は恵まれた側の人間だ。冒険者とは違い、貴族の会話にはすべてに裏がある。家庭教師として長年あの家にいる貴方が、感情的にリアムの嫌いな家族の方に流れていっても無理はないと思えてしまう」

「クリスだって、私が王都でリアムと会っていたこと知っているのだったら」

「私に言い訳をしても始まらないし、無意識の感情で話していることならなおさら始末が悪い」

「クリス、私を王弟殿下と呼んでおきながら、敬意が感じられないなあ」

「当たり前ですよ。敬意なんて微塵もありませんから。王位を継がない、国や貴族に対する権力を持たない公爵に誰が擦り寄ると思うんですか?」

 辛辣極まりない。

「誰かが貴方の望む通りにすべてをお膳立てしてくれていたことにまずは気づいてください。貴方一人の力でできることなんてたかが知れているのですから。今でさえ貴方の指示がなくても、領地では滞りなく業務は進んでいるのでしょう。それは貴方がその体制を作ったのではなく、誰かが作ってくれたということ。リアムは家族の協力もなく、ただ一人で砦で戦っていたんだ」

 言うだけ言って、クリスは侯爵邸を出ていった。
 ただ一人って言っても違うんじゃないか?砦長、副砦長、補佐たちがリアムを支えているのだし、砦の冒険者たちだっている。
 家族の協力はなかったとしても、砦では関係ないのではないか?


 クリスとはもう少し話したかったが致し方ない。
 クリスの目的地は砦なのだろうから。
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