男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

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7章 貴方に縋る

7-25 後悔しない選択 ◆グジ視点◆

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◆グジ視点◆

「はい、終了」

「え?」

 妹の服の上から兄ちゃんが手を翳して、三分も経っていないのだが。
 兄ちゃんが布団を妹にかけ直している。
 なんとなーく妹の顔色が良くなったようにも見えなくもない?
 なんとなーく妹の呼吸が穏やかになったように感じなくもない?

 この部屋暗いから、よくわからないのだが。

 治療魔法というのはこういうものか?
 疑うわけではないが、魔法特有の光とか音とか何かないのか?
 劇的な変化というのはないのだろうか。
 急に起き上がって、身体が軽くなったわっ、とか宣言するとか。

「ああ、案外治療魔法というのは地味なものだよ。伝説で語り継がれているような光とともに一瞬でそこにいる全員の怪我が治るとか言うのは本当に伝説級の治療魔法だ。たいていの治療魔法は手で触れて、怪我なら地味に傷がジリジリと塞がっていくし、病気なら、、、見た目はあまりすぐには変わらないかもしれないなあ」

「そういうものなのか」

「妹さんもしっかり目覚めて、体調の変化を自覚するのは明日以降だろう。そもそも、魔力硬化症が治っても、今まで寝たきりの生活で筋力が衰えているのは自分の努力でどうにかするしかない。栄養のある物を食べて、徐々にカラダを動かして、普段の生活に戻っていってもらうしかない」

 俺は妹の顔を見る。
 弱音は吐かない妹だったが、五年前に何もないところでコケることが多くなり、頭痛、手足のしびれを感じることが増えていた。
 この街の診療所の医者も、まだ動けるときに診せに行った隣町の医者も同じ見解だった。

 魔力硬化症。
 不治の病であり、治せるのは治療魔導士のみだと。

 つまり、諦めろ、ということだ。

 ソイ王国では治療魔導士は王都で王族か貴族が囲っているか、戦場に送り出されているかのどちらかだ。
 北寄りのこの街では徴兵もされないが、一旗揚げたい者は戦場に行ってしまう者もいる。戦場に行ってこの街に帰ってきた者はいない。本当に一旗揚げて王都や都会で豪華な暮らしをしているのなら良いが、家族にも一つの連絡もないということはそういうことではない。

 王都や戦場で治療魔導士を説得したとしても、この街に治療しに来ることは国が許さない。

 それでも、諦めきれなかった。
 俺が冒険者になると言ったら、十二人も一緒に冒険者になってくれた。
 十三人で妹を治すために。
 お金の工面と、他国へ行く手段である。
 皆の家族も応援してくれた。


 背中に抱えていた荷物も妹の部屋まで持ってきてしまっていた。

「薬は無駄になったな」

「いや、この子は先天的に魔力を滞らせやすい体質のようだ。二、三年は大丈夫だが、初期症状が出たときは飲んだ方がいい。ああ、瓶に状態保存の魔法をかけておいてやる。これで錠剤を瓶から取り出さなければ大丈夫だ」

「、、、この瓶の薬がなくなったらどうするんだ?」

 風邪のように飲んでいたら、このぐらいの一瓶なんてすぐになくなるんじゃないか?
 不安が顔に出たのか。

「いや、さすがに戦争が続いていたとしても、お前らが魔力硬化症には薬があることをこの街の医師に伝えておけば、長くても五年もしない内に薬を仕入れる伝手ぐらいできる。医師もこの病気以外に他国に特効薬がないか、学ぶキッカケにはなるだろう」

 兄ちゃんの口調が優しかった。
 五年も放置しなければどうにかなると言ってくれているのだろう。

 物音が玄関から聞こえると、すぐにやってきた。

「あら、、、グジ、帰っていたの?」

「母ちゃん、ただいま」

「おかえりなさい」

 母ちゃんの変わらない表情にホッとする。
 そんな時間もつかの間だった。
 母ちゃんの興味がすぐに兄ちゃんに移ったことに気づく。

「グジ、もしかして」

「頭領のお母様ですか?娘さんの治療は済んでおります。ご安心を」

 兄ちゃんがキラッキラな笑顔でご対応してくれた。
 今日の兄ちゃんは金髪だ。ソイ王国に入国してから銀髪のままだったが、この街の手前で金髪のカツラを被った。
 いつも思うのだが、兄ちゃんは荷物をどこに隠しているのだろうか?

 それは置いておいて、金髪にするのはおそらくこの街に迷惑をかけないようにという兄ちゃんなりの配慮だろう。
 この国でも銀髪は見たことがない。

 でもさあ、兄ちゃん、この国でも絵本や物語に出て来る王子様として描かれているのは金髪なことが多いんだ。
 ヒロインを救う王子様。

「あらあらまあまあ」

 母ちゃんが喜んでいる。ものすごく。
 息子でもわかるぐらいに。

「こんな遠くまで悪かったわねー。グジ、アンタ、この方をちゃんとウィト王国まで送っていくんでしょうね」

「そりゃ」

「いえ、私はすぐにはウィト王国に戻りません。頭領にはこの街でしばらく妹さんを支えてもらいたいですし、」

 俺の言葉を兄ちゃんは遮った。
 まるで、ついて来てもらったら困るかのように。

 そして、そのまま母にも俺にした説明を繰り返した。
 劇的には良くならない。
 リハビリの重要性。
 薬のこと。
 栄養のある物を、最初は柔らかい物から、慣れてきたら日常の食事に変えていくこと。

「この頃はおかゆも大変そうだったから、、、本当に間に合って良かった」

 母の言葉でしんみりとした空気になった。
 にもかかわらず。

「それでは、俺はアクセサリー店に行ってきますので」

「は?」

「え?約束したから、見に行ってくる」

「兄ちゃん、アクセサリー店の場所知らないだろ。俺が案内するから」

「いや、大丈夫だ。大まかな場所なら説明されなくてもだいたいわかる」

「兄ちゃん、夕飯にはうちに戻ってくるよな。寝る部屋も用意しておくから」

 そんなに広い部屋ではないが。
 それでも。
 兄ちゃんは柔らかな笑顔を浮かべていた。

「そうよー。今日は豪華にお祝いよー。期待しててねー」

「ありがとうございます」

 兄ちゃんは母ちゃんに深々と礼をして、この家を去っていった。
 兄ちゃんは一切頷かなかった。
 肯定の言葉を言わなかった。

 引き止めたいのに、引き止められないもどかしさ。
 このまま街から出ていってしまうのだろうか。

「グジ、アンタ、あの人をこのまま行かせていいの?」

「母ちゃん、」

「家業なんて、アンタが継がなくてもあの子が元気になるなら何の問題もないわよ。反対にあの人は一回離れたら二度と会えないような人なんでしょう」

「、、、そ、そんなこと」

 言われてみれば、その通りだろう。
 ウィト王国の貴族だろうと推測しても、正確な名前も知らない。ウィト王国でも会えるわけではない。
 しかも、彼がウィト王国に戻らなければ、どこでいつ会えるのか。

 恩も何一つ返してない。

「アンタが後悔しない道を選びなさい」

 妹の部屋に置いてしまった荷物をそのまま手にした。

「母ちゃん、親父によろしく言っといて」

「たまには手紙を書くのよー。便りがないのが良い便りなんて思ってあげないからねー」

 俺はバタバタと駆け出す。
 母が玄関先で見送ってくれた。
 兄ちゃんには迷惑じゃないかと思ったが。
 確かに婚約者はいるし、俺なんて眼中にはないだろう。
 けれど、俺が支えたいのだ。
 どんな形であっても。

 妹が不治の病ではなかったとしても、命の恩人だ。
 俺にとっても、仲間にとっても恩人だ。

 だから。

「兄ちゃんっ」

 アクセサリー店に駆け込むと。
 ごくごく普通に仲間とその従妹に対応されている兄ちゃんの姿が。。。

「どうしたんだ、頭領。俺、何か忘れ物でもしたのか?」

 手に何点かアクセサリーを持っているなあ。
 普通に買い物してねえ?

「これはどうですかあ?長い髪にするとき似合うと思いますよぉ」

 髪飾りを勧められている。

「、、、兄ちゃん、何を買う予定なんだ?」

「精巧な細工の物も多いから、髪留め以外にも何かあればと思って」

 と言う兄ちゃんの顔が優しいものになった。
 その手に持っているのは、マントの留め具だ。自分用の物ではなさそうだ。
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