男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

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9章 理想と現実と、嫌がらせ

9-1 死出の旅 ◆キュジオ視点◆

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◆キュジオ視点◆

「ソニア嬢、馬車はガロン伯爵家が出してくれたのか」

 俺はソニアに聞く。
 実際はソニア・ガロンではなく、隣国デント王国のリーフ王女に。
 どこで誰が聞いているのかわからないので、俺は彼女をソニアと呼び続ける。

 王城内にある親衛隊の宿舎の前に迎えに来てくれた。
 荷台部分に俺の荷物や食料等を載せる。
 本日、俺は休暇の二日目。一日目は必要な物をこの王都で揃えた。マイア様もかなりいろいろな荷物を持たせてくれたが、俺は貴族ではないので必需品が違うのである。

「ええ。けれど、キュジオ隊長、本当に御者を頼んでもよろしいのですか?」

「ガロン伯爵家の御者を連れて行って、危険な目に遭わせるのも忍びない。馬車が無事ならこの国にまた戻って来ることもできるだろう。俺なら道中の御者も護衛もできる」

 伯爵家の御者はすでに帰ってもらった。

 危険な旅だ。
 御者を守るのも難しい。死を覚悟してデント王国までついて来てくれる御者もいないだろう。
 俺も自分の身を守ることだけで精一杯だ。
 どこでどんな災難が降ってくるのかもわからない。
 死ぬための旅と言っても過言ではない。

 それでも、この旅を決めたのは。

「マイア様から最強の盾の魔剣を預かりましたけど、、、私が持って行ったところで私が扱えるわけもないのですが」

 俺もソニアもほんの少しだけ期待している。
 もしかしたら、オルトが来てくれるのではないかと。
 けれども、ソニアも俺も口にしない。
 言ったら最後、オルトは来ないような気がして。

 マイア様から俺は一体の魔法の盾を、ソニアはオルトの魔剣を預かった。
 二センチほどの小さい魔法の盾は、徽章のように俺の詰襟についている。
 デント王国に向かうのはマイア様の密命として、国境を越える許可証もいただいた。

「なら、俺が持って行く」

「え?」

 布で巻かれた魔剣をソニアからひょいと横から奪い取ったのは、スレイ・フラワーだった。

「俺も行く」

 意志が固そうな表情で言われた。
 スレイは自分の剣とともに、剣帯に魔剣を差し込む。二刀流みたいな感じになったが、彼が両手で剣を扱ったところは見たことがない。

「スレイ、お前」

「シンから聞いた。闘技大会でのリハーサル時にオルがキュジオ隊長に話していたことを」

「シンに聞かれていたのか」

 闘技場での会話だから、聞こうと思えば誰だって聞き耳を立てることはできるが、たいていの者は雑談しているとしか思っていなかっただろう。

 スレイは自分の荷物を勝手に荷台へと結び付けている。
 食料等を買い足さなくてはならないようだ。デント王国で簡単に補給できるとは思えないし、その事情までスレイが知っているとは思えない。

「で、そのシンは?」

 もしかして、二人分追加?
 周囲を窺う。
 シンが話していたのなら、サイも増えるのか?三人分追加なのか?

「いや、アレでもシンは伯爵家の跡継ぎだ。軽率な行動はできない。俺もキュジオ隊長も平民だ。ウィト王国がデント王国から責められても、知らぬ存ぜぬで通せる」

 そういうことだ。
 俺がソニアについて行くのも親衛隊隊長という地位もあるのだが、平民であることも大きい。
 平民が何をやっても、平民がやったことだからと、ウィト王国は突っぱねられる。

 ウィト王国が正式に交渉しに行くのならそれなりの身分がある者が行くということは他国もわかっていることなのだから。

「ここで議論していても仕方ないし、時間もない。デント王国との国境までも距離があるから、何かあればその間に降ろせばいいか」

「絶対に降りない」

 スレイはどういう意図でこの馬車に乗るのか?

 俺だけでは戦力が足りない。
 オルトはああ言ったが、最強の盾か最強の剣がいなければ、デント王国フリント女王に確実に勝てるとは言えない。
 今のスレイが加わったところで、どうなるものでもない。
 せめて数年後のスレイなら話は多少変わったかもしれないが。

 ギリギリの時間設定なので、ソニアに馬車へと乗り込んでもらう。
 押し問答をしている時間はない。
 とにかく移動を開始しなくては。

「乗るなら、さっさと乗れ」

「俺も御者席に座って、馬車の操作を覚える。護衛役は俺よりキュジオ隊長の方がいい。そのくらいは弁えている」

 スレイも御者席に座る。
 馬車を走らせる。
 王城の門を出る。

「死ぬかもしれないんだぞ」

「ああ、知っている。けれど、この国に居続けたところで、オルには会えない」

 それが本音か。
 もし生きて帰れたとしても、スレイはこの国には戻らないかもしれない。

 スレイにとって、この件はウィト王国を出国するための口実か。
 オルトと生きて会えたときに胸を張って再会するために、俺やソニアを手伝うというくらいのものか。
 ならば、途中で逃げてもらってもかまわない気がする。
 スレイにはデント王国とは何の繋がりもないのだから。

 今の俺も何の繋がりもないと言っても過言ではないのだが。
 育ててもらってもいないし、誰も知らない、公表していない事実なのだから。
 俺もソニアも仕方なしにデント王国へ決着しに行くようなものだ。

「じゃあ、デント王国でオルに会えなかったとしたら、探しに行くのか」

「帝国に行けば、いつかは会える」

「、、、確かにそれは。けれど、オルはイーティ・ランサスに会いに行くために帝国に行くんだぞ。それでいいのか、お前は」

「ああ、俺はオルのそばにいられるだけでいい。後の行動は会えてから考える」

 それは悲痛な叫び。
 想いが実らないということでもある。
 それでも、そばにいたいと思ってしまうのだから始末に負えない。

 どこかで区切りをつける方法もあるし、自分を選んでもらえないのなら違う道を選択するのが人の常なのに。
 けれど、スレイはオルトが他の誰かを選んだとしても、茨の道を進むというのか。

 いや、なぜそういう道を進むのか、本当はよくわかっている。
 スレイは端からオルトを手に入れられるとは思っていない。オルトに選ばれるとは露ほども思っていない。
 憧れでも、尊敬でも、どんな感情であったとしても。

 どんなにバーレイ侯爵家で虐げられているとはいっても、オルトはこの国では貴族で最強の盾。
 スレイは父親が騎士団の団長であったとしても騎士爵は一代のみ。たとえ、将来、スレイが騎士団の団長なり得る才能を持っていたとしても、平民である身分差は埋まらない。

 だから、当初から手に入るとさえ思っていない。
 横でともに戦うことだけを選んだ。

 俺と同じ思想の持ち主だ。

「スレイ、その魔剣、オルを助けるためだったら力を貸してくれると思うぞ」

「皇帝の影ルイジィのような魔剣なんだろう。難しいんじゃないか?」

 あ、その会話もシンに聞かれていたわけね。
 頑固爺ルイジィ魔剣。
 ルイジィ本人が聞いたらどう思うのだろうか?

「ルイジィがアルティ皇子を助けるためならどんな策でも厭わない感じじゃないのか?その魔剣は主人に会うためなら何だってやるさ」

「魔剣ってそういうものなのか?」

「いや、全然。他はまったく違う。オル大好きなのが、その魔剣の特徴ってヤツだ」

「へえ、それじゃ俺と同志なのか」

 うん?
 どうやら頑固爺魔剣も同志という括りが気に入ったようだ。
 オルト大好きな仲間なわけだから、コイツらは気が合うのかもしれない。

「、、、キュジオ隊長の赤い魔剣はどんな特徴を持っているんだ?」

「オル曰く、俺にソックリだってよ」

「へえ?」

 よくわからないって顔されても、俺もよくわからないから説明しようもない。

 馬車をデント王国へ向けて走らせるが、休憩を入れて馬を適度に休ませる。そうしないと効率が悪くなる。
 休憩は人のための休憩ではなく、馬のための休憩である。

 途中の街での休憩では一人増えたために、食料等を多めに買い込む。
 国境を越える前に、必要な物は買い込んでおくに限る。
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