【完結】擦れた桜章~自衛官だった私は、牢獄から日本の終わりを記録する~

@ヤマト

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83話 合理性と情と

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9月1日 0000 山荘

佐藤と我々3人は
会談を続けていた。

目の前のスマートフォンの動画と
我々生き残りとの証言があれば
あの老人を排除できるかもしれない。

陸 和平(ルー・ホーピン)

名前も今まで知らなかったその老人は
姿こそ見せないものの、今までその戦略で
散々に我々を苦しめてきた
あまりにも強大な敵だった。

それが本人のあずかり知らぬところで
破滅に近づかせる事が出来る事は
なんとも痛快な話だった。

佐藤は静かに語り始めた。

「14旅団は奇襲を受けたにも拘わらず、
すぐに対応し善戦を続けていた」

「本来なら初めからルー・ホーピンにとっては
余力を持ち、確実に勝てる戦争だった。
何年もかけて入念に準備していたからな。」

「だが予想外の抵抗にルー・ホーピンは余程
腹を据えかねていたんだろう」

「だから、わざわざ自分がでてきて
虐殺を見届けたんだろう。
自分の墓穴を掘るとも知らずにな」

「日本は負けたが
ルー・ホーピンは尋常ではない被害を出した。
その上でその高い軍事功績は
向こうの総書記に警戒されている」

「ネタを渡せば中国政府は

喜んで失脚させるだろうよ」

「分かるか? アンタらの戦いは
決して無駄ではなかった
例え負けたとしても投げ打ってきた
命は無駄ではなかったんだよ……」

佐藤の言葉は我々に染みていく。

戦争の時、我々の命は恐らく無価値だった。
勝つ事も出来なかった。

それが戦争が終わった今、命に価値が生まれ始め
考えてもいなかった形で敵を追い詰めようとしていた。

それも長く携わってきた軍事とは全く違う形で。
皮肉なものだなと思う。

「それで、一つ提案なんだがな」

佐藤が全員を見渡し言葉を切った。

「アンタら、ここに家族を置いて
先に亡命しないか?」

「家族については後で俺の仲間が
迎えに行く形でな」

それは我々にとって
衝撃的な提案だった。

「そんな事は出来ない!!」

私は間髪容れずに言った。

道中で西日本政府の現状を
私は見ていた。

こんな所に自分の家族を
置いていく事は考えられない事だった。

「落ち着けよ、国境越えは命懸けだ。
正直子供連れは足手まといになる」

「アンタらも戦争を経験しているなら
分かるはずだ」

「家族連れで逃げる事が
できる程、甘くないぞ」

佐藤の言っている事は
至極正論だ。

だが、受け入れる事は出来なかった。

佐藤はチッと舌打ちをした。

「アンタら今自分の立場
わかってんのか!!」

「いいか!!
この国の命運を左右するかもしれないんだ
家族と国防どっちが大事なんだ!!」

「この状況で家族を選ぶってなら
アンタらの国防ってのは
そんなに甘いのか!!あぁ!?」

並々ならぬ思いがあるであろう
佐藤の言葉が我々に突き刺さる。

家族か国防か
これまで何度も対峙してきた事だ。
座ったまま両手を握り絞める。

その時紀伊三尉が静かに佐藤に問いかけた。

「今…この場でご家族を残せば
国境は固められてしまうかもしれません」

「二度と家族に会えないかもしれません
佐藤さん、あなたはその責任をとれますか?
その覚悟がありますか?」

佐藤は少し考えて「いや」とだけ答えた。

「かつて私は同じ質問された時
私は責任を取ると言いました。
だから我々は今ここにいます」

「命を懸けるというのであれば
せめて死ぬ時に後悔がないようにしてあげたい。
ダメでしょうか?」

その言葉を聞き
佐藤は目を逸らして少し考え込み
佐藤は「甘ぇよ…」とポツリと
こぼしたが降参する様に両手を上げた。
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