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15 乳歯
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「――――エリオ!」
その姿を目にしたシューゼが突然、カーテンの中から現れる。
と、シューゼはエリオを見つけて走り出しながら、カバンから取り出した銀時計をエリオに向かって投げた。
「シューゼ!!」
エリオの手は、先ほどまで頼りにしていた父の手を驚くほどあっさりと放すと、銀時計を大切そうに受け取る。その時、遅れてその場にいた騎士たちがシューゼを取り押さえた。
「貧民!? なぜここに……!? リリエ、危険だ。その時計を――――」
そう言って銀時計をエリオから奪おうとする、父ガッシュ。しかし、エリオの元に無事辿り着いたのは、銀時計だけではなかった。
ガブリ――――エリオの頭に乗っていたネズミが、ガッシュの手を噛んだ。
「――――なあっ!? ネ、ネズミ! ネズミが!!」
ガッシュは、腕をぶんぶんと振るう。しかし、ネズミはなかなかガッシュの手を離さない。
すると、押さえつけられたシューゼが言った。
「銀時計を、開いて……!!」
「……え?」
「約束通り迎えに来た……! 後は、君次第だ。エリオ……!!」
シューゼがそう告げると、騎士が「うるさいぞ!」とシューゼの顔を地面に叩きつける。
その傍ら、エリオは困惑しながらも銀時計を開くと、目を丸くする。
「……お父様、親不孝な娘でごめんなさい」
そして、そう呟くと、
「だけど――――友達が待ってるから」
と、強く言い切った。
次の瞬間――――辺りは爆風に包まれた。
▼ ▼ ▼ ▼
「なにかあったか?」
慌ただしく扉が開かれる。と、外で警備していたはずの騎士が結婚式場内に転がり込んできて、どこかの夫人が悲鳴を上げた。そして、10秒も経たないうちに騒めきが広がった。
騎士は鎧のところどころが焦げていて、扉の向こうにも火がちらっと見えた。
「ジーク様」
ギルがジークを庇うようにして前に立つ。と、それから騎士に「何があった」と尋ねた。
「ひ、貧民です! 貧民が突然現れ、エリオ様を攫っていきました!!」
その言葉を聞いた瞬間、ざわめきと悲鳴がより一層大きくなる。しかし、当の婚約者であるジークは、どこか余裕そうだった。
「ほぅ、凄いな。貧民のくせに……」
「感心している場合ではありません。このままでは、結婚式も――――」
「――――ああ。ギル、取り戻してきなさい」
すると、ジークはニヤリと笑って、
「そのほうが、結婚前のゴタゴタに加えて、この結婚式での失態、そしてホールデム家の騎士が令嬢を取り戻したという2点で、さらに恩が売れる」
そう、言った。こんな時でさえ、ジークは最大限にこの機会を利用しようとしているのだ。
「……さあて、何を取ってやろうかな」
ギルは呆れて物も言えず、そう呟いたジーク横顔をキッと睨んだ。
▼ ▼ ▼ ▼
「――――シューゼ、この時計……!!」
シューゼに手を引かれながら、エリオが聞いた。その手には、銀時計が握られていた。
「銀時計に、どうして魔石が埋め込まれて……。魔石を持ってたの?」
「いや、ポッポがサプライズでね。エリオがネックレスの魔石を使わせてくれたから、元々飛行船に使う予定だった小さな魔石をどうせ余るんならって。おかげで、助かった!」
そんな会話をしていると、ピィーッ――――シューゼたちが馬に乗って走り出した直後、警笛が辺りに鳴り響く。
「誰か、そいつを捕まえろ!!」
すると、次の瞬間、どこに隠れていたのか、街中から軽装重装問わず騎士がワッと現れた。
事態を把握しきれていないうちに何人かはすり抜けられたが、そのうちに2人の前には騎士が立ちはだかる。出口までは、まだもう少しあった。
「シューゼ!」
「エリオ、銀時計を!」
「――――! 分かった!」
エリオが銀時計に魔力を流し込むと、魔石がピカッと光って爆風が巻き上がる。と、砂煙は騎士たちからシューゼを隠した。
「うわっ!!」
騎士たちが混乱する中を、潜り抜けていくエリオとシューゼ。そうして門にたどり着くと、今度は門番2人がシューゼたちの前を阻んだ。
「シューゼ、ごめんなさい。体力的に、次が最後になる……」
息を切らしながらエリオが、銀時計を構える。しかし、その時、シューゼは手を前に出してそれを静止した。
「僕に任せて!」
そう言うとシューゼはカバンの中から何かを取り出して、門の前の騎士たちに投げつける。――――その正体は、忍び込んだ台所で見たトマトだった。
「ぐあっ!」
「なっ、血!?」
隣の仲間の顔にトマトが衝突し赤い液体が飛び散ると、思わずもう一方の騎士はそちらに顔を向けてしまう。が、直後、その騎士の顔にもべちゃっとした何かが張り付いた。
「――――うわっぷ!」
騎士は覆われた視界に張り付いた何かを手に持ってみる。と、それは肉だった。
「に、肉……!?」
トマトが目に染みて悶えている仲間の横で、騎士は顔を上げる。――――が、しかし、そこにもうシューゼたちはいなかった。
「どこに――――」
そう呟いた次の瞬間、騎士の顎を痛烈な痛みが襲う。それは、シューゼの頭突きだった。
騎士はドサッと倒れ込み、シューゼが「行こう!」と言った。
「ちょっと待って」
しかし、エリオはそう言って騎士の懐をゴソゴソと漁ると、何かをドレスにしまった。
貴族街の門からポッポの家までは、そう遠くはなかった。
ポッポの家に行けさえすれば、ガレージにはあの飛行船がある。それが、シューゼの希望でもあった。――――しかし、
「――――シューゼ、危ない!」
その瞬間、シューゼはエリオに引っ張られて道端に倒れる。と、その目の前を――――大きな剣の刃が、通り過ぎた。
「チッ、邪魔しないでもらえますかね。リリエ様」
ブルルルルッ――――馬がこちらを威圧するように、喉を鳴らす。
ポッポの家まで、後少し。だが、2人の前に現れたのは、シューゼに痛みを覚えさせた騎士。
「ギル・ホールデム……ッ!!」
その人であった。
「――――な、なんだぁ!?」
結婚式前の貴族行列も終わり、各区画を行き交いできるようになっていた貧民街には、多かれ少なかれ人が行き交っていた。
そんなところに突然、貧民の子供とドレスを着た花嫁、さらには馬に乗った貴族騎士まで現れるものだから、3人の周りにはすぐに群衆が集まってきた。
「ギル、命令です。ここを通しなさい」
エリオが言った。しかし、ギルは睨むのをやめないまま、
「できません」
と、返す。
「あたしは、貴族。貴族の命令を聞くのが、騎士の役目でしょう?」
「ええ。ですが――――あなたを連れ戻せというのは、ジーク様の命令です。あなたとあなたの夫であれば当然、夫であるジーク様の指示が優先されます」
「……っ! これだから嫌、貴族っての……!!」
エリオが憤りを感じていると、ギルが馬から降りる。そして、剣を構えた。――――が。
「襲いかかってこない……?」
そうシューゼが呟くと、
「……あら、怖気付いた?」
と、続けて煽る、エリオ。しかし、ギルは動じない。
「俺の役目は、お前たちの足止めだ。時間がかかればかかるほど、そっちの門から騎士がやってくるだろう」
「そういうこと……!」
その時、シューゼが小さな声でエリオに言った。
「2人で一緒に走ろう。どのみち、もう止まれない」
エリオは頷く。ここを突破する以外に道がないのは、エリオも分かっていた。
「行くよ!」
ひと塊になってギルの左側に向かって走り出す、シューゼとエリオ。すると、ギルは2人に向かって剣を振るった。
「エリオ!」
「うん!」
その瞬間、エリオが銀時計に最後の魔力を送り込む。と、あたりには土煙が巻き上がり、さっきと同じように2人を隠した。――――かに、思われた。
しかし、逃さんと言わんばかりに、爆煙の中からギルの左手が現れる。と、それはシューゼの胸ぐらを掴んで煙の中から引っ張り上げ、街道に叩きつけた。
「シューゼ!」
土煙の幕が晴れると、エリオの目には煤のついた剣が映し出される。それを見て、エリオは察した。
「わざと魔石を使わせたの……!? 剣を振り下ろすフリをして……。そして、爆発の直前で剣を盾代わりにして、魔石から自分を守った……!」
「……魔石の爆発は、すでに式場で見てますからね」
ギルは地面に投げ捨てたシューゼの胸ぐらを改めて掴み、持ち上げる。その時、シューゼの口から血が垂れた。
その姿を目にしたシューゼが突然、カーテンの中から現れる。
と、シューゼはエリオを見つけて走り出しながら、カバンから取り出した銀時計をエリオに向かって投げた。
「シューゼ!!」
エリオの手は、先ほどまで頼りにしていた父の手を驚くほどあっさりと放すと、銀時計を大切そうに受け取る。その時、遅れてその場にいた騎士たちがシューゼを取り押さえた。
「貧民!? なぜここに……!? リリエ、危険だ。その時計を――――」
そう言って銀時計をエリオから奪おうとする、父ガッシュ。しかし、エリオの元に無事辿り着いたのは、銀時計だけではなかった。
ガブリ――――エリオの頭に乗っていたネズミが、ガッシュの手を噛んだ。
「――――なあっ!? ネ、ネズミ! ネズミが!!」
ガッシュは、腕をぶんぶんと振るう。しかし、ネズミはなかなかガッシュの手を離さない。
すると、押さえつけられたシューゼが言った。
「銀時計を、開いて……!!」
「……え?」
「約束通り迎えに来た……! 後は、君次第だ。エリオ……!!」
シューゼがそう告げると、騎士が「うるさいぞ!」とシューゼの顔を地面に叩きつける。
その傍ら、エリオは困惑しながらも銀時計を開くと、目を丸くする。
「……お父様、親不孝な娘でごめんなさい」
そして、そう呟くと、
「だけど――――友達が待ってるから」
と、強く言い切った。
次の瞬間――――辺りは爆風に包まれた。
▼ ▼ ▼ ▼
「なにかあったか?」
慌ただしく扉が開かれる。と、外で警備していたはずの騎士が結婚式場内に転がり込んできて、どこかの夫人が悲鳴を上げた。そして、10秒も経たないうちに騒めきが広がった。
騎士は鎧のところどころが焦げていて、扉の向こうにも火がちらっと見えた。
「ジーク様」
ギルがジークを庇うようにして前に立つ。と、それから騎士に「何があった」と尋ねた。
「ひ、貧民です! 貧民が突然現れ、エリオ様を攫っていきました!!」
その言葉を聞いた瞬間、ざわめきと悲鳴がより一層大きくなる。しかし、当の婚約者であるジークは、どこか余裕そうだった。
「ほぅ、凄いな。貧民のくせに……」
「感心している場合ではありません。このままでは、結婚式も――――」
「――――ああ。ギル、取り戻してきなさい」
すると、ジークはニヤリと笑って、
「そのほうが、結婚前のゴタゴタに加えて、この結婚式での失態、そしてホールデム家の騎士が令嬢を取り戻したという2点で、さらに恩が売れる」
そう、言った。こんな時でさえ、ジークは最大限にこの機会を利用しようとしているのだ。
「……さあて、何を取ってやろうかな」
ギルは呆れて物も言えず、そう呟いたジーク横顔をキッと睨んだ。
▼ ▼ ▼ ▼
「――――シューゼ、この時計……!!」
シューゼに手を引かれながら、エリオが聞いた。その手には、銀時計が握られていた。
「銀時計に、どうして魔石が埋め込まれて……。魔石を持ってたの?」
「いや、ポッポがサプライズでね。エリオがネックレスの魔石を使わせてくれたから、元々飛行船に使う予定だった小さな魔石をどうせ余るんならって。おかげで、助かった!」
そんな会話をしていると、ピィーッ――――シューゼたちが馬に乗って走り出した直後、警笛が辺りに鳴り響く。
「誰か、そいつを捕まえろ!!」
すると、次の瞬間、どこに隠れていたのか、街中から軽装重装問わず騎士がワッと現れた。
事態を把握しきれていないうちに何人かはすり抜けられたが、そのうちに2人の前には騎士が立ちはだかる。出口までは、まだもう少しあった。
「シューゼ!」
「エリオ、銀時計を!」
「――――! 分かった!」
エリオが銀時計に魔力を流し込むと、魔石がピカッと光って爆風が巻き上がる。と、砂煙は騎士たちからシューゼを隠した。
「うわっ!!」
騎士たちが混乱する中を、潜り抜けていくエリオとシューゼ。そうして門にたどり着くと、今度は門番2人がシューゼたちの前を阻んだ。
「シューゼ、ごめんなさい。体力的に、次が最後になる……」
息を切らしながらエリオが、銀時計を構える。しかし、その時、シューゼは手を前に出してそれを静止した。
「僕に任せて!」
そう言うとシューゼはカバンの中から何かを取り出して、門の前の騎士たちに投げつける。――――その正体は、忍び込んだ台所で見たトマトだった。
「ぐあっ!」
「なっ、血!?」
隣の仲間の顔にトマトが衝突し赤い液体が飛び散ると、思わずもう一方の騎士はそちらに顔を向けてしまう。が、直後、その騎士の顔にもべちゃっとした何かが張り付いた。
「――――うわっぷ!」
騎士は覆われた視界に張り付いた何かを手に持ってみる。と、それは肉だった。
「に、肉……!?」
トマトが目に染みて悶えている仲間の横で、騎士は顔を上げる。――――が、しかし、そこにもうシューゼたちはいなかった。
「どこに――――」
そう呟いた次の瞬間、騎士の顎を痛烈な痛みが襲う。それは、シューゼの頭突きだった。
騎士はドサッと倒れ込み、シューゼが「行こう!」と言った。
「ちょっと待って」
しかし、エリオはそう言って騎士の懐をゴソゴソと漁ると、何かをドレスにしまった。
貴族街の門からポッポの家までは、そう遠くはなかった。
ポッポの家に行けさえすれば、ガレージにはあの飛行船がある。それが、シューゼの希望でもあった。――――しかし、
「――――シューゼ、危ない!」
その瞬間、シューゼはエリオに引っ張られて道端に倒れる。と、その目の前を――――大きな剣の刃が、通り過ぎた。
「チッ、邪魔しないでもらえますかね。リリエ様」
ブルルルルッ――――馬がこちらを威圧するように、喉を鳴らす。
ポッポの家まで、後少し。だが、2人の前に現れたのは、シューゼに痛みを覚えさせた騎士。
「ギル・ホールデム……ッ!!」
その人であった。
「――――な、なんだぁ!?」
結婚式前の貴族行列も終わり、各区画を行き交いできるようになっていた貧民街には、多かれ少なかれ人が行き交っていた。
そんなところに突然、貧民の子供とドレスを着た花嫁、さらには馬に乗った貴族騎士まで現れるものだから、3人の周りにはすぐに群衆が集まってきた。
「ギル、命令です。ここを通しなさい」
エリオが言った。しかし、ギルは睨むのをやめないまま、
「できません」
と、返す。
「あたしは、貴族。貴族の命令を聞くのが、騎士の役目でしょう?」
「ええ。ですが――――あなたを連れ戻せというのは、ジーク様の命令です。あなたとあなたの夫であれば当然、夫であるジーク様の指示が優先されます」
「……っ! これだから嫌、貴族っての……!!」
エリオが憤りを感じていると、ギルが馬から降りる。そして、剣を構えた。――――が。
「襲いかかってこない……?」
そうシューゼが呟くと、
「……あら、怖気付いた?」
と、続けて煽る、エリオ。しかし、ギルは動じない。
「俺の役目は、お前たちの足止めだ。時間がかかればかかるほど、そっちの門から騎士がやってくるだろう」
「そういうこと……!」
その時、シューゼが小さな声でエリオに言った。
「2人で一緒に走ろう。どのみち、もう止まれない」
エリオは頷く。ここを突破する以外に道がないのは、エリオも分かっていた。
「行くよ!」
ひと塊になってギルの左側に向かって走り出す、シューゼとエリオ。すると、ギルは2人に向かって剣を振るった。
「エリオ!」
「うん!」
その瞬間、エリオが銀時計に最後の魔力を送り込む。と、あたりには土煙が巻き上がり、さっきと同じように2人を隠した。――――かに、思われた。
しかし、逃さんと言わんばかりに、爆煙の中からギルの左手が現れる。と、それはシューゼの胸ぐらを掴んで煙の中から引っ張り上げ、街道に叩きつけた。
「シューゼ!」
土煙の幕が晴れると、エリオの目には煤のついた剣が映し出される。それを見て、エリオは察した。
「わざと魔石を使わせたの……!? 剣を振り下ろすフリをして……。そして、爆発の直前で剣を盾代わりにして、魔石から自分を守った……!」
「……魔石の爆発は、すでに式場で見てますからね」
ギルは地面に投げ捨てたシューゼの胸ぐらを改めて掴み、持ち上げる。その時、シューゼの口から血が垂れた。
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