【完結】復讐のウェディング〜新郎新婦に忘れられない思い出を♪〜

第４話 新事実

side:田中愛咲美


「私たちの復讐はまだ終わっていない。既に作戦は練ってあるわ。あの時、結婚式を盛り上げてくれたハインツさんにも協力してもらうの」

ハインツさん、あの屈強な体格と意外なほど繊細なパフォーマンスで、会場を沸かせたドイツ人モデル。彼の存在が今の状況にどう繋がるのか想像もつかない。

「隼人が結婚詐欺で訴えられるとなると、美緒は新たなカモ、つまり金づるを探している可能性が高い。ハインツさんは日本語も得意だったし、、、いえ、ここはあえてカタコトの日本語を使って貰うほうが良いかもしれない。ハインツさんに美緒と接触して貰うのよ。
詳細はハインツさんと直接話して決めるつもりよ。でも、愛咲美さんにも役割があるわ。」

橘さんは真剣な眼差しで私を見た。彼女の言葉に緊張が走る。どんな役割を私に課すつもりなのか。一体これからどんな展開が待ち受けているのだろう、、、


カフェの窓から夕暮れの街並みがゆっくりと変化していくのが見える。 オレンジ色の光が街を包み込んでいく。  その光景はまるでこれから始まる出来事を予感させるかのように、静かに、そして確実に、私の心を焦らせていく。


◇　◇　◇


翌日

私はさっそく橘さんが計画した作戦を実行するべく、レンタカーを借りて、窓から伊藤美緒の住んでいるマンションをじっと見つめる。ハインツさんは運転席で落ち着かない様子で体を揺らしている。  

果たして彼女は本当にここに住んでいるのだろうか？一抹の不安が胸をよぎる。今日は一日、この場所で粘るつもりだ。

そして待つこと数時間。  マンションの玄関から伊藤美緒が出てきた。  黒いコートを羽織り、足早に歩を進めようとしたその時だった。

複数の男たちが美緒に近づいた。  彼らは美緒を言葉巧みに説得しているようにも見えるが、その声は明らかに脅迫めいている。  そして突然、一人が美緒を殴り倒した。

驚きを隠せないまま、私はハインツさんを見る。

ハインツさんは車から降りようとするが、私はそれを制止する仕草をする。  男たちは美緒を無理やり車に押し込もうとしている。もしかして誘拐？

いえ、男たちの会話から断片的に聞こえてきた言葉は、金、貢いでいた、借金、、、

これは誘拐ではなく、何者かによる強引な債権回収のようだった。  美緒は複数の男から金をせびられていた、あるいは借金があったのだろう。  男たちの粗野な言葉は、私の背筋を凍らせた。  彼らは美緒を車に押し込み、そのまま走り去るつもりのようだ。


美緒にはある意味で天罰が下ったのだと思っている。だから彼女がどうなるかは、もはや私にとってはどうでも良い。しかし、目の前で起こっているのは明らかに犯罪行為だ。

このまま見て見ぬふりをするのは私の良心が痛む。

咄嗟にスマートフォンを取り出し110番に通報する。

警察に通報しながら同時に、ハインツさんに合図を送る。ハインツさんは私の指示を理解したのか、静かにエンジンをかけ男たちの車を追跡し始める。

レンタカーは思ったよりも加速が良い。男たちの車は古いセダンでスピードはそれほど出ていない。ギリギリ見失わない距離を保ちつつ、男たちの車のナンバーを警察に伝える。

警察からの指示に従い男たちの車の位置情報を逐一報告する。

 街の風景が次第に郊外へと変わっていき緊張感が高まり、私の心臓は激しく鼓動する。

 不穏な空気の中、私はハンドルを握るハインツさんの横でただひたすらに祈るしかなかった。


しばらく走り男たちの車は古びた雑居ビルの前に停車し、美緒は男たちに引きずられるようにビルの中へと消えていった。

これ以上私たちが介入できる余地はない。あの男たちの暴力性を見る限り、むやみに近づけば危険だ。

すでに警察に通報済みなので到着を待つしかない。

ハインツさんのスマホで撮影した写真と動画を確認する。最新のスマートフォンのおかげで、数百メートル離れた距離からでも驚くほど鮮明な写真と動画を撮影することができた。

 男たちの車のナンバープレート、美緒が男たちに引きずられるようにビルに連れ込まれる瞬間が鮮明に記録に残されている。

警察のサイレンの音はまだ聞こえない。 

 雑居ビルは薄暗く不気味な雰囲気を漂わせている。  

この場所で私たちはただじっと待つしかない。  

不安な気持ちを抱えながら、私は警察の到着を待った。





つづく。