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第十九話 止まった歯車
第十九話 止まった歯車
王都の南門。
本来なら、軍備資材を積んだ荷馬車が列をなすはずの場所。
だが今日は、空白が目立つ。
門番が眉をひそめる。
「南方からの鉄材、まだ届かぬのか」
「契約見直しの最中だと」
短い答え。
その一言で十分だった。
契約見直し。
それは実質、保留。
王宮では、軍務官が焦りを隠せずにいた。
「資材が揃わねば、予定通りの配備は不可能です」
アルヴィオンは机を叩く。
「代替先は」
「探しておりますが……保証条件が厳しく」
保証。
またその言葉だ。
「王家が担うと言ったはずだ」
「財務部が慎重姿勢を崩しません」
財務部は、国王直轄。
無謀な承認は通らない。
「殿下」
軍務官が慎重に言う。
「以前は公爵家の信用が背後にございました」
空気が固まる。
それを口に出すな、と言いたい。
だが事実だ。
信用は目に見えない。 だが、それがあるだけで物は動く。
今はない。
王宮の廊下。
文官たちの会話が途切れる。
「軍備改革、遅延らしい」 「保証が……」
声は小さい。 だが止まらない。
一方、カーディス公爵邸。
アデルフィーナは報告を受けていた。
「南方鉄材の出荷は保留中でございます」
執事が静かに告げる。
「契約通りでございます」
彼女は淡々と頷く。
「保証が存在しない以上、条件は再交渉」
「はい」
侍女が不安そうに問う。
「殿下がお怒りになるのでは」
アデルフィーナは小さく首を傾げる。
「怒りは契約を成立させません」
静かな声。
「条件が揃えば、動きます」
それだけ。
感情ではなく、条文。
夜。
王宮。
アルヴィオンは窓の外を見ていた。
灯りは変わらない。
だが進んでいるはずの改革が、進まない。
「なぜだ」
呟く。
「私は王太子だ」
だが名だけでは資材は届かない。
信用がなければ、動かない。
扉が叩かれる。
「殿下、港湾の件も一部遅延が」
「何だと」
「保証再設定が未了のため」
同じだ。
全て、同じ理由。
保証。
信用。
そして、その背後にいた存在。
アルヴィオンは歯を食いしばる。
「……戻るべきだったか」
小さな声。
誰にも聞こえない。
その頃、夜会帰りの馬車の中。
ミレイアは不機嫌だった。
「また招待が減ったわ」
カサンドラが唇を噛む。
「王宮が安定すれば、戻る」
だがその言葉は弱い。
「お姉さまは何もしていないのに」
ミレイアは言う。
「どうして、あちらが落ち着いているの」
落ち着いているからだ。
焦っていない。 叫んでいない。
それが逆に、強い。
カーディス邸。
アデルフィーナは書斎で書類を整える。
「南方は?」
「条件が整い次第、即出荷可能です」
「よろしい」
筆を置く。
「止まっているのは、歯車ではございません」
執事が目を上げる。
「信用です」
淡々とした声。
「歯車は、信用があれば自然に回ります」
窓の外で風が強まる。
王宮の歯車は、今。
軋み、そして止まりかけている。
だが彼女は動かない。
必要なものが揃えば、動く。
それだけ。
そして王太子は、初めて理解し始めていた。
称号では、歯車は回らない。
王都の南門。
本来なら、軍備資材を積んだ荷馬車が列をなすはずの場所。
だが今日は、空白が目立つ。
門番が眉をひそめる。
「南方からの鉄材、まだ届かぬのか」
「契約見直しの最中だと」
短い答え。
その一言で十分だった。
契約見直し。
それは実質、保留。
王宮では、軍務官が焦りを隠せずにいた。
「資材が揃わねば、予定通りの配備は不可能です」
アルヴィオンは机を叩く。
「代替先は」
「探しておりますが……保証条件が厳しく」
保証。
またその言葉だ。
「王家が担うと言ったはずだ」
「財務部が慎重姿勢を崩しません」
財務部は、国王直轄。
無謀な承認は通らない。
「殿下」
軍務官が慎重に言う。
「以前は公爵家の信用が背後にございました」
空気が固まる。
それを口に出すな、と言いたい。
だが事実だ。
信用は目に見えない。 だが、それがあるだけで物は動く。
今はない。
王宮の廊下。
文官たちの会話が途切れる。
「軍備改革、遅延らしい」 「保証が……」
声は小さい。 だが止まらない。
一方、カーディス公爵邸。
アデルフィーナは報告を受けていた。
「南方鉄材の出荷は保留中でございます」
執事が静かに告げる。
「契約通りでございます」
彼女は淡々と頷く。
「保証が存在しない以上、条件は再交渉」
「はい」
侍女が不安そうに問う。
「殿下がお怒りになるのでは」
アデルフィーナは小さく首を傾げる。
「怒りは契約を成立させません」
静かな声。
「条件が揃えば、動きます」
それだけ。
感情ではなく、条文。
夜。
王宮。
アルヴィオンは窓の外を見ていた。
灯りは変わらない。
だが進んでいるはずの改革が、進まない。
「なぜだ」
呟く。
「私は王太子だ」
だが名だけでは資材は届かない。
信用がなければ、動かない。
扉が叩かれる。
「殿下、港湾の件も一部遅延が」
「何だと」
「保証再設定が未了のため」
同じだ。
全て、同じ理由。
保証。
信用。
そして、その背後にいた存在。
アルヴィオンは歯を食いしばる。
「……戻るべきだったか」
小さな声。
誰にも聞こえない。
その頃、夜会帰りの馬車の中。
ミレイアは不機嫌だった。
「また招待が減ったわ」
カサンドラが唇を噛む。
「王宮が安定すれば、戻る」
だがその言葉は弱い。
「お姉さまは何もしていないのに」
ミレイアは言う。
「どうして、あちらが落ち着いているの」
落ち着いているからだ。
焦っていない。 叫んでいない。
それが逆に、強い。
カーディス邸。
アデルフィーナは書斎で書類を整える。
「南方は?」
「条件が整い次第、即出荷可能です」
「よろしい」
筆を置く。
「止まっているのは、歯車ではございません」
執事が目を上げる。
「信用です」
淡々とした声。
「歯車は、信用があれば自然に回ります」
窓の外で風が強まる。
王宮の歯車は、今。
軋み、そして止まりかけている。
だが彼女は動かない。
必要なものが揃えば、動く。
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称号では、歯車は回らない。
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