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第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~

71時間目 これが運命でなければ

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突然の出来事に僕は我が目を疑う。
何度目を擦っても、そこにいるのは、元カノの優香だった。
僕らは家が近い。
今まで会わなかったのが不自然なくらいだった。
優香は家からも近いMISHIHANAミシハナに来ていたのか。
彼女は、昭和チックな趣味の持ち主だから、付き合っていた頃、カフェに行くことが度々あった。
三島さんは、空気が変わったのを察知したのだろう。
戸惑いながら、
「えっ……と、山内君と天野さんは、知り合い? なのかな?」
どう答えればいいのだろうか。
元カノ──なんて言えるはずがない。
二股というきっと、カナに被せられた罪。
優香は真実を知っているのかしらない。
あれから、僕らはお互いをなにも知らないのだから。
ふと、優香の制服を見ると、近所の女子校の制服を着ていた。
「……三島さん、その、僕と優香の関係は……仲がよかった先輩と後輩です」
別に嘘を言っているわけじゃない。
恋人という特別な関係にさえ、ならなければ、僕らはただ仲がよいだけの関係なのだから。
「……ゆぅ……や、山内先輩のいう通りです。私たちはそれ以外のなにでもありません」
山内先輩。
そりゃ、そうだよな。
二股の虚偽の罪を着せられ、愛していた優香の信頼を失った。
だから、僕は『山内先輩』と呼ばれて当然なんだ。
たとえ、その罪が嘘だとしても、過去は、それを消してくれない。
場の空気は完全に冷えきってしまった。
僕は普段なら、一瞬にして明るく変えることが出来たけれど、自身に関わってることは出来ない。
「……また、来ます。ごちそうさまでした」
優香は、その言葉だけ残してMISHIHANAからでていった。
「……と、とりあえず座ろうぜ」
「そうだねー」
僕は敦志たちについていくことしか出来なかった。
「……なに飲む?」
「ブラックコーヒーお願いします」
「俺も同じのお願いしますー! あ、あと新商品のアップルパイふたつ、お願いしますー!」
「……カフェオレでお願いします……」
僕が発した声は自分でも分かるくらい小さかった。
「優香ちゃんと、なにかあったのね?」
顔をずいっと近づけている花園さんに気がついたとき、思わず、うわっと声をあげてしまった。
「……そうだな。俺も言おうか迷ったんだけど、お前、天野? が来てから急にしおらしくなったというか、生気がなくなったというか、うーん、あんまり、うまくいえねぇけど、なんかいつもの裕太らしくねぇぞ。俺達でよければ、話してくれ」
「これでも、1年は一緒にいるからねー! 山内がよければ、話してよー」
敦志と三石みいしのことばを受けて、少し胸の奥が温かくなった。
「……わかった。話すよ」
「僕と優香は、付き合っていた。中学の頃、生徒会で彼女は書記をやっていて……それで、僕は会長候補だから、応援演説で推薦してほしいと頼んでから仲よくなった」
「それから、優香の方から告白してきた。『裕太君が好きです。私の初恋を奪ってくれてありがとうございます』って。それから、何度かデートにも行ったよ。すごく楽しかったし、このまま、この子の横で笑っていくものだと思っていた」
でも、その未来が訪れることはない。
「きっと、カナ……だろうね。誰かが僕が二股をしているって言い出したんだ。それを耳にした優香から別れようって。違うって言ったけれど、聞く耳を持ってくれなかった……そして、今にいたるかな」
敦志は、黙りこみ、三石は何度かうなずいている。
花園さんは、じっと僕の目を見ていた。
「うーん……裕太、悪くなくねぇか?」
「だよねー……。一番悪い人、それ言った人だよね。だから」
「裕太は」「山内は」
「「別にそこまで考えなくていいんじゃ」」
「ねぇか?」「ないのー?」
敦志と三石の息ぴったりな言葉に胸が熱くなる。
「そっか……。僕は」
「考えすぎだったのかな」
「そうね」
花園さんが突如、口を開く。
「あなた達からは見えなかったのかも知れないけど、優香ちゃん、山内君のこと目にした時、耳が真っ赤になっていたのよ。だから──」
「─まだやりなおせるわ。あなた達はきっと幸せになれる」
まだ、やり直せる。
僕は優香とまた、歩きたい。
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