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第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~
70時間目 運命があるなら
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カランと来客を知らせるベルが心地よい音を鳴らす。
平日は昼を過ぎると、お客さんはかなり減って、俺は基本的に手持ちぶさたになる。
こんな時間に女子高生らしき子が来るのはめずらしかったから、俺は声をかけた。
普通に接客だ。
身長ちっさ……。
ドアにいたのは、小柄な女の子。
人工的ではなく、きっと生まれつきなのだろう少しくせ毛の茶髪。
髪型はショートカットだが、前髪はみつあみをしている。
綿を連想させる白い肌。
くりくりとした大きな目。
瞳の中にはまるでライラックが入っているように澄んでいる。
服装はピンクのロングカーディガンに白いシャツ。
サイズが合っていないのか黒いブラの紐が見えている。
黒いスカートは膝下。
茶髪だから、ギャルのような感じを連想していたが、パッと見はおしゃれをした一国のお嬢様を連想させる。
「あ、の……?」
しまった。
ついまじまじと見てしまったから、少女は恥ずかしそうにコテンと首をかしげている。
「あぁ……。カウンターへどうぞ……」
「はい。失礼します」
驚いた。
他人の家じゃあるまいし、店に対して失礼しますという人を俺はあまり見たことなかったから、振り返ってしまった。
「どうかされましたか?」
言葉使いがとても丁寧だ。
少女はまた少し恥ずかしそうにコテンと首をかしげていると、
「あら? お客さん? 初めて見る顔ね」
二階から杏が降りてきた。
彼女は、まだ制服に着替えておらず、Tシャツに短パンというお客さんの前ではあまり見せられない格好だ。
まぁ、ここが店兼自宅なのだから、仕方がないのだけど、さすがにお客さんの前ではTPOをわきまえてほしい。
「あのっ……! 私、華春高校の天野優香と申します。その、お友達がここのカフェが大好きなので私も一度来てみたいなと思い、こちらに参りました」
少女──天野さんは、問わず語りで全てを話してくれた。
なるほど、この子の話し方の謎が解けた。
彼女が通っている華春高校は、全国から入学希望の女の子達が集まる女子高だ。
そこへの入学試験は悛烈を極め、毎年1000人以上の入学希望者がいるが、半数は筆記試験すら受ける事が出来ず、筆記試験を受かっても残っている生徒は100人程度。
超スパルタの女子高と有名だ。
オリンピックの代表選手を多く輩出し、卒業生は大手企業に100パーセント就職。
「ゆ、優香ちゃん……。凄いね!」
杏が、感心したように言う。
いや、本当に凄いよこの子。
「ありがとうございます。これでも、まだまだ未熟者ですので」
おじぎが凄く綺麗だ。
「と、とりあえずなに飲みたい?」
「おすすめはありますでしょうか?」
「カフェオレ飲めるかな?」
「飲めます」
「んじゃ、とびっきり美味しいの作ってあげるよ」
「ありがとうございます」
俺は厨房に戻って、コーヒーをカップにそそぐ。
「……ばか」
杏が、俺を肘でつついてきた。
頬も心なしか膨らんでいるように見える。
まさか、これは……!
初めて、俺の彼女が嫉妬したんですけど。
やっべ。テンションあがるって。
いかんいかん。
カフェオレに集中しよう。
ミルクをたっぷりといれて、出来上がったカフェオレを俺は天野さんに渡す。
「はい、お待たせ。シロップとか欲しかったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます」
俺はニコニコ顔で厨房に戻る。
「……」
杏が、怖い。
圧がスゴいんですけど。
彼女は、笑顔だが目が笑っていない。
しかも、おまけに黒いオーラが俺には見えて、ゴゴゴと効果音まで聴こえる。
「……今日は楓と寝てあげない。……ふんっ」
杏は不機嫌になったようだ。
「……ごめんて」
俺の平謝りは鼻で笑われてしまった。
──
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
手を合わせて、こちらにカップを返してきてくれた。
「喜んでもらえてよかった。また、来てね」
「はい。また、来ますね」
「……じゃあね」
杏はあれから、天野さんに嫉妬していたがさすがに大人の余裕というものを見せなければいけないと思ったのだろう。
そっけない態度ながらも、ちゃんとしている。
彼女が椅子から立ち上がった時、カランと音をたてて扉が開いた。
「いらっしゃいませー! おっ、高橋君じゃないか! 山内君も三石君も! 久しぶりだね!」
「お久しぶりです」
「久しぶりでーす! また、夏にバイト来ていいですか?」
「もちろん」
高橋君と三石君は挨拶をしたものの、山内君は目を見開いて、固まっている。
「……優香……」
「裕太……君……」
山内君と天野さんが、お互いの名前を呼んだのは同時だった。
平日は昼を過ぎると、お客さんはかなり減って、俺は基本的に手持ちぶさたになる。
こんな時間に女子高生らしき子が来るのはめずらしかったから、俺は声をかけた。
普通に接客だ。
身長ちっさ……。
ドアにいたのは、小柄な女の子。
人工的ではなく、きっと生まれつきなのだろう少しくせ毛の茶髪。
髪型はショートカットだが、前髪はみつあみをしている。
綿を連想させる白い肌。
くりくりとした大きな目。
瞳の中にはまるでライラックが入っているように澄んでいる。
服装はピンクのロングカーディガンに白いシャツ。
サイズが合っていないのか黒いブラの紐が見えている。
黒いスカートは膝下。
茶髪だから、ギャルのような感じを連想していたが、パッと見はおしゃれをした一国のお嬢様を連想させる。
「あ、の……?」
しまった。
ついまじまじと見てしまったから、少女は恥ずかしそうにコテンと首をかしげている。
「あぁ……。カウンターへどうぞ……」
「はい。失礼します」
驚いた。
他人の家じゃあるまいし、店に対して失礼しますという人を俺はあまり見たことなかったから、振り返ってしまった。
「どうかされましたか?」
言葉使いがとても丁寧だ。
少女はまた少し恥ずかしそうにコテンと首をかしげていると、
「あら? お客さん? 初めて見る顔ね」
二階から杏が降りてきた。
彼女は、まだ制服に着替えておらず、Tシャツに短パンというお客さんの前ではあまり見せられない格好だ。
まぁ、ここが店兼自宅なのだから、仕方がないのだけど、さすがにお客さんの前ではTPOをわきまえてほしい。
「あのっ……! 私、華春高校の天野優香と申します。その、お友達がここのカフェが大好きなので私も一度来てみたいなと思い、こちらに参りました」
少女──天野さんは、問わず語りで全てを話してくれた。
なるほど、この子の話し方の謎が解けた。
彼女が通っている華春高校は、全国から入学希望の女の子達が集まる女子高だ。
そこへの入学試験は悛烈を極め、毎年1000人以上の入学希望者がいるが、半数は筆記試験すら受ける事が出来ず、筆記試験を受かっても残っている生徒は100人程度。
超スパルタの女子高と有名だ。
オリンピックの代表選手を多く輩出し、卒業生は大手企業に100パーセント就職。
「ゆ、優香ちゃん……。凄いね!」
杏が、感心したように言う。
いや、本当に凄いよこの子。
「ありがとうございます。これでも、まだまだ未熟者ですので」
おじぎが凄く綺麗だ。
「と、とりあえずなに飲みたい?」
「おすすめはありますでしょうか?」
「カフェオレ飲めるかな?」
「飲めます」
「んじゃ、とびっきり美味しいの作ってあげるよ」
「ありがとうございます」
俺は厨房に戻って、コーヒーをカップにそそぐ。
「……ばか」
杏が、俺を肘でつついてきた。
頬も心なしか膨らんでいるように見える。
まさか、これは……!
初めて、俺の彼女が嫉妬したんですけど。
やっべ。テンションあがるって。
いかんいかん。
カフェオレに集中しよう。
ミルクをたっぷりといれて、出来上がったカフェオレを俺は天野さんに渡す。
「はい、お待たせ。シロップとか欲しかったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます」
俺はニコニコ顔で厨房に戻る。
「……」
杏が、怖い。
圧がスゴいんですけど。
彼女は、笑顔だが目が笑っていない。
しかも、おまけに黒いオーラが俺には見えて、ゴゴゴと効果音まで聴こえる。
「……今日は楓と寝てあげない。……ふんっ」
杏は不機嫌になったようだ。
「……ごめんて」
俺の平謝りは鼻で笑われてしまった。
──
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
手を合わせて、こちらにカップを返してきてくれた。
「喜んでもらえてよかった。また、来てね」
「はい。また、来ますね」
「……じゃあね」
杏はあれから、天野さんに嫉妬していたがさすがに大人の余裕というものを見せなければいけないと思ったのだろう。
そっけない態度ながらも、ちゃんとしている。
彼女が椅子から立ち上がった時、カランと音をたてて扉が開いた。
「いらっしゃいませー! おっ、高橋君じゃないか! 山内君も三石君も! 久しぶりだね!」
「お久しぶりです」
「久しぶりでーす! また、夏にバイト来ていいですか?」
「もちろん」
高橋君と三石君は挨拶をしたものの、山内君は目を見開いて、固まっている。
「……優香……」
「裕太……君……」
山内君と天野さんが、お互いの名前を呼んだのは同時だった。
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