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第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~
69時間目 過去なんて
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百合の家は、かつての俺達が知っている場所には無かった。
アイツは、引っ越していて、俺達が住んでいる場所から数キロ離れた郊外に住んでいた。
「……この辺、来たことねェわ……」
「そう、だね。中学卒業前までは前の家に居たからね」
「そうだよなァ……」
「……」
はい、会話途切れた。
俺、マジで会話へたくそすぎだろ……。
一文喋ったらその次話せねェってコミュ症にもほどがある。
地元から数年出てないから、見慣れない風景に目が惹かれる。
青々とした草を生やした田んぼの数々。
ガハガハとオッサン達の笑い声が酒を飲みながら、一日の疲れをとっていることを知らせているラーメン店。
あんまり、俺達が住む地域では見当たらない。
とことことこ……。
百合は、俺より数歩前に進む。
えっちらおっちら。
俺は、ダルそうに足を引きずりながら、歩く。
不良っぽい歩き方が自然と身に付いてしまった。
「ここ」
百合は、振り返り、鼻をスンと鳴らした。
そこには、長屋の2階建ての割りと大きな家だった。
少し年季が入っていて、ところどころの壁が剥がれている。
「入って」俺には鼻を鳴らすその行為にそんな意味が込めてあると理解したから、百合に続いて入る。
百合の家は外見と同じくどこか懐かしい感じの和風の雰囲気が感じられる。
一階部分のリビングやら、浴室やらを無視して二階にあがる。
その先には扉があり、ここから先が百合の部屋なんだなと思った。
ちなみに、ここに来るまで会話のリレーが繋がったことはない。
俺達どうなってンの?
百合がゆっくりと扉を開ける。
そこには、和風の雰囲気は無く、フローリングが広がっていた。
部屋の中には、ベッドに勉強机、そして本棚にクローゼットだけというシンプルな内装だった。
だが、部屋に入った途端に、空気がほこりっぽくなり、嫌な空気に一瞬だけ顔をしかめた。
おまけに、漫画本は散乱しており、お世辞にも綺麗な部屋とは言えなかった。
「……好きにどこでもいいから座って」
「お、おう」
俺は、急に百合に話しかけられたことによって、自分でも分かるほど動揺した。
俺は、ベッドに腰かける。
ギシリというスプリングが軋んだ音と同時に床に座った百合が口を開いた。
「……僕は、ずっと不安だったんだ」
百合から発された言葉には、後悔が刻まれていた。
「心結に自分はふさわしい人間なのかなって……」
「僕は、心結のことは本気で好きだったし、彼女も僕のことを好きでいてくれていたはずだ」
〝だった〟と〝はず〟が過去形なのは、今はその想いが無いからだろう。
「でもっ……!」
「忘れられないんだ……! 心結の事を記憶から消そうとしても消せないし、むしろ、忘れようとすればするほど、鮮明に笑顔が浮かび上がってくる。外に出れば、心結に似ている人なんてごまんと居るから、その人の横に男がいたら心結なんじゃないかって思って見に行かなきゃ安心できないようになって……。結局、外に出るのもやめた」
部屋がほこりっぽいのは、百合がこもっていたから。
それを俺は改めて知らされる。
薄々と気が付いてはいた。
今の、百合はニートなんだと。
「心結に似た子がヒロインの小説や漫画を読んで、自分が主人公になった気でいる日々を過ごしてきた……。そして、その生活を続けるのも虚しくなって死のうとした。けど、その日、僕は睡蓮の名字を見つけた」
全てが繋がった。
なんで、こいつが家の前にいたのか。
俺に用があったンだ。
「……そして、今だ。僕はどうすればいいんだ。心結をまた傷つけた……。最愛の人をどれだけっ……傷つければ……いい、んだぁ……」
嗚咽混じりの百合の声にかけるべき最適の言葉が見つかった。
「なァ、百合」
百合が顔をあげる。
「俺はお前らのジレンマを捨てるって言ったよなァ。だから、それに最適な言葉を渡してやる。この言葉を聞いて、どう思うかはお前次第だ」
「敦志っていうバイトの後輩から聞いたンだが、お前と似たような過去を持っているヤツがいる」
「自分の力量を知らず、慢心で自分に酔ってて、挙げ句の果てには他人からの嘲笑に耐えきれず自暴自棄になって暴行を起こした。それだけじゃなく、恋という感情に振り回されて、相手が拒絶しているのにも関わらず、それに気がつかないで遂にはストーカー扱いされたヤツがいるんだよ。ソイツも、『もう誰とも関わらない、恋なんてしない』って言っていつまでもそれを覚えてて自身を鼓舞していたよ」
「でもな」
「それって、スッゲェ他人から見ると哀れなンだよ。覚えていても何もない過去にすがって生きているだけって可哀想じゃねェか。だから、俺は言ってやった」
それは、過去の後悔を背負っている人への魔法の言葉だと思っている。
それを聞いたからって、すぐに過去に対して向き合ったり、決別したりすることは出来ないだろう。
そりゃ、そうだ。
過去って今までの自分なンだから。
「過去なんて、覚えていても意味がねェンだよ。ただ、自分が苦しいだけだろ」
百合の驚いた顔を初めて見た。
口をぱくぱくさせて、何かを言おうとしていることは分かった。
だが、驚き、もしくは、心に刺さったからか言葉がでないのだろう。
「……ぉくは……」
「僕は、向き合ってみるよ」
俺は百合の顔を見て、安堵した。
今日初の安心感が体に染み渡る。
─百合は、もうこの世界には居ない─
俺はもう話すことはないと思い、部屋からでることにした。
視界の端に映ったのは、中学の頃、もう居ない百合が撮った俺と神谷さんが桜の木の下でいる写真がノートパソコンのデスクトップ画面に映し出されている。
結局、恥ずかしくてお前は映らなかったンだよな。
そして、今、過去にすがって生きていた百合はもう、居ない。
俺が玄関からでようとした時、確かに聴こえた。
「また、遊びに来て」と。
その声はさっき見た百合の張りつめていない自然な顔が何度も俺の頭に流れていた。
アイツは、引っ越していて、俺達が住んでいる場所から数キロ離れた郊外に住んでいた。
「……この辺、来たことねェわ……」
「そう、だね。中学卒業前までは前の家に居たからね」
「そうだよなァ……」
「……」
はい、会話途切れた。
俺、マジで会話へたくそすぎだろ……。
一文喋ったらその次話せねェってコミュ症にもほどがある。
地元から数年出てないから、見慣れない風景に目が惹かれる。
青々とした草を生やした田んぼの数々。
ガハガハとオッサン達の笑い声が酒を飲みながら、一日の疲れをとっていることを知らせているラーメン店。
あんまり、俺達が住む地域では見当たらない。
とことことこ……。
百合は、俺より数歩前に進む。
えっちらおっちら。
俺は、ダルそうに足を引きずりながら、歩く。
不良っぽい歩き方が自然と身に付いてしまった。
「ここ」
百合は、振り返り、鼻をスンと鳴らした。
そこには、長屋の2階建ての割りと大きな家だった。
少し年季が入っていて、ところどころの壁が剥がれている。
「入って」俺には鼻を鳴らすその行為にそんな意味が込めてあると理解したから、百合に続いて入る。
百合の家は外見と同じくどこか懐かしい感じの和風の雰囲気が感じられる。
一階部分のリビングやら、浴室やらを無視して二階にあがる。
その先には扉があり、ここから先が百合の部屋なんだなと思った。
ちなみに、ここに来るまで会話のリレーが繋がったことはない。
俺達どうなってンの?
百合がゆっくりと扉を開ける。
そこには、和風の雰囲気は無く、フローリングが広がっていた。
部屋の中には、ベッドに勉強机、そして本棚にクローゼットだけというシンプルな内装だった。
だが、部屋に入った途端に、空気がほこりっぽくなり、嫌な空気に一瞬だけ顔をしかめた。
おまけに、漫画本は散乱しており、お世辞にも綺麗な部屋とは言えなかった。
「……好きにどこでもいいから座って」
「お、おう」
俺は、急に百合に話しかけられたことによって、自分でも分かるほど動揺した。
俺は、ベッドに腰かける。
ギシリというスプリングが軋んだ音と同時に床に座った百合が口を開いた。
「……僕は、ずっと不安だったんだ」
百合から発された言葉には、後悔が刻まれていた。
「心結に自分はふさわしい人間なのかなって……」
「僕は、心結のことは本気で好きだったし、彼女も僕のことを好きでいてくれていたはずだ」
〝だった〟と〝はず〟が過去形なのは、今はその想いが無いからだろう。
「でもっ……!」
「忘れられないんだ……! 心結の事を記憶から消そうとしても消せないし、むしろ、忘れようとすればするほど、鮮明に笑顔が浮かび上がってくる。外に出れば、心結に似ている人なんてごまんと居るから、その人の横に男がいたら心結なんじゃないかって思って見に行かなきゃ安心できないようになって……。結局、外に出るのもやめた」
部屋がほこりっぽいのは、百合がこもっていたから。
それを俺は改めて知らされる。
薄々と気が付いてはいた。
今の、百合はニートなんだと。
「心結に似た子がヒロインの小説や漫画を読んで、自分が主人公になった気でいる日々を過ごしてきた……。そして、その生活を続けるのも虚しくなって死のうとした。けど、その日、僕は睡蓮の名字を見つけた」
全てが繋がった。
なんで、こいつが家の前にいたのか。
俺に用があったンだ。
「……そして、今だ。僕はどうすればいいんだ。心結をまた傷つけた……。最愛の人をどれだけっ……傷つければ……いい、んだぁ……」
嗚咽混じりの百合の声にかけるべき最適の言葉が見つかった。
「なァ、百合」
百合が顔をあげる。
「俺はお前らのジレンマを捨てるって言ったよなァ。だから、それに最適な言葉を渡してやる。この言葉を聞いて、どう思うかはお前次第だ」
「敦志っていうバイトの後輩から聞いたンだが、お前と似たような過去を持っているヤツがいる」
「自分の力量を知らず、慢心で自分に酔ってて、挙げ句の果てには他人からの嘲笑に耐えきれず自暴自棄になって暴行を起こした。それだけじゃなく、恋という感情に振り回されて、相手が拒絶しているのにも関わらず、それに気がつかないで遂にはストーカー扱いされたヤツがいるんだよ。ソイツも、『もう誰とも関わらない、恋なんてしない』って言っていつまでもそれを覚えてて自身を鼓舞していたよ」
「でもな」
「それって、スッゲェ他人から見ると哀れなンだよ。覚えていても何もない過去にすがって生きているだけって可哀想じゃねェか。だから、俺は言ってやった」
それは、過去の後悔を背負っている人への魔法の言葉だと思っている。
それを聞いたからって、すぐに過去に対して向き合ったり、決別したりすることは出来ないだろう。
そりゃ、そうだ。
過去って今までの自分なンだから。
「過去なんて、覚えていても意味がねェンだよ。ただ、自分が苦しいだけだろ」
百合の驚いた顔を初めて見た。
口をぱくぱくさせて、何かを言おうとしていることは分かった。
だが、驚き、もしくは、心に刺さったからか言葉がでないのだろう。
「……ぉくは……」
「僕は、向き合ってみるよ」
俺は百合の顔を見て、安堵した。
今日初の安心感が体に染み渡る。
─百合は、もうこの世界には居ない─
俺はもう話すことはないと思い、部屋からでることにした。
視界の端に映ったのは、中学の頃、もう居ない百合が撮った俺と神谷さんが桜の木の下でいる写真がノートパソコンのデスクトップ画面に映し出されている。
結局、恥ずかしくてお前は映らなかったンだよな。
そして、今、過去にすがって生きていた百合はもう、居ない。
俺が玄関からでようとした時、確かに聴こえた。
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その声はさっき見た百合の張りつめていない自然な顔が何度も俺の頭に流れていた。
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