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第6章 二人の愛と少年の嘆き

86時間目 遼太郎にっき①

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──────

【8月16日】
敦志たちと久しぶりに遊んだ。
三人だけで集まったのは本当に久しぶりだ。
敦志は夏休み、色々あったらしい。
山内やまうちはバイト漬けの日々だった。
俺は、たまにバイトをやって基本的にゴロゴロしていた。
休み、最高。
MISHIHANAみしはなに行くと、三島みしまさんが花園はなぞのさんにプロポーズをしたと聞いた。
あの二人はこれからも幸せになるだろう。

──────

「ふぅ……」
俺は2年生になってからつけている日記を見返す。
今は夏休み終盤、もうすぐ2学期が始まる。
この日から、色々な事があった。
俺は、ひとつずつ、思い出すように目を閉じた。

※※※

「おはよー! 敦志! 山内!」
カランと扉が開くと同時にベルが鳴った。
ここ──MISHIHANAは俺たちの行きつけの場所になっている。
「おう、おはよう。遼太郎」
「おはよう。三石みいし
俺が到着する頃には二人はもう店内に着いていた。
相変わらず、行動が早くてそこは尊敬する。
「おっ、三石君おはよう。なに飲んでいく?」
俺に話しかけてきたのは、店長の三島さん。
俺は、一年の頃、ここでバイトをさせてもらっていた。
もちろん、今年の夏休みも何度かバイトでシフトをいれさせてもらっている。
「おはようございます! 三島さん。それじゃあ、カフェオレお願いします!」
「了解」
三島さんはそう言って、厨房へ向かった。
手際よく、牛乳と紅茶を黄金比の割合でいれているのだろう。
「さて、夏休みの宿題、やろうか?」
山内はそう言って、クマのキャラクターがプリントされたエコバックから国語の宿題の束を取り出す。
相変わらず、分厚いな。
「そうだな。国語をメインに終わらせるか」
敦志も国語の宿題を取り出したので、俺も取り出す。
こうして、皆でもくもくと問題を解き始めた。
分からないところがあれば適宜てきぎ、山内に聞いて、解説してもらう。
「その助動詞の『ず』は、打ち消しの意味だから……」
「ラ変はどうだった?」
答えを教えず、適切にヒントをくれるので、こちらの理解が早い。
さすがは、学年一位。
「すげぇな、裕太……。あー、もっと勉強すりぁよかった」
「敦志はまず、活用表を覚えるところからだね。一年生の内容だけど今から覚えれば追いつくよ」
「三石は、助動詞の基礎を覚えようか。やっぱり、一年の内容は頭から抜けやすいよねー……」
俺は山内から教わった通りに問題を解くと、そこの問題は終了した。
あれから、一時間。
キリのいいところまで終わったし、休憩しようかな。
俺は、三島さんがこっそり置いていってくれたカフェオレを一口飲む。
優しい牛乳の甘さと紅茶の味が絶妙にマッチして美味しくて、頬が緩む。
「あっ、三石君じゃない!」
お手洗いの方から、声が聞こえてきた。
そちらの方に振り返ると、花園さんが笑顔で寄ってきた。
彼女は、いつも通りのエプロン姿だ。
「あっ、勉強しているところだったのね。……邪魔しちゃいけない……。そうだ! そろそろ、お昼でしょ? なにか食べていかない? 私が作るわ!」
そう言って、花園さんは力こぶを見せるように腕を曲げる。
なお、力こぶはでていない。
「ん……?」
山内から、疑問符をまとった声が漏れた。
俺も不思議に思った。
花園さんの左手の薬指には照明に反射してキラキラと輝きを放つ指輪があったから。
「花園さん、その、指輪はどうしました?」
山内が恐る恐る尋ねると、花園さんは嬉しそうにそれをさすって、
「あぁ、これ? これはね、かえでがくれたの。結婚しようって言ってね」
「「「えええええ!?!?!?」」」
三島さんがプロポーズ!?
俺たち三人の驚愕きょうがくの声はきれいに重なった。
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