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第6章 二人の愛と少年の嘆き

87時間目 優しい雨に打たれて

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MISHIHANAみしはなで数時間過ごしたあと、俺たちは、敦志の家で遊ぶことにした。
なにやら、新作ゲームを買ったらしく、それで遊ぼうとのことらしい。
ポツンと顔に冷たいものが当たった。
それは、数秒後、また体に当たり、俺は空を見上げる。
すると、青空が広がっていたはずの空は、分厚い灰色の雲に覆われていた。
「雨だ……」
「まじか……」
「ヤバイね。どうする? 敦志の家までまだあるし、ここの辺りはコンビニがないから……」
「とりあえず、走ろう!」
俺たちは、雨宿りが出来るところまでダッシュをする。
しかし、走っている間も、雨脚は強まり、俺たちがずぶ濡れになるのは、時間の問題だった。
「あっ、あそこのベンチとかどう?」
「いいね!」
山内は、やっと休憩場所を見つけたからか、俺たちを追い抜いて先にそこへ向かった。
早いよ。
「はぁ……ッ! キッツ……。久しぶりに全力で走った……」
敦志は肩で息をしながら、ベンチにもたれていた。
「うわぁ、服びちょ濡れだよ……」
「僕も。これ、敦志の家行く前に先に帰らないとね」
「だなぁ。こんなびちゃびちゃだったら、母さん驚くだろうな」
あれ……? そういや、俺の母さん、洗濯物、干したままだったような……。
洗濯物まずいな。中々ついていない。
洗濯物&自分はびちょびちょだし、敦志たちも濡れてる。
ここからは、俺の家の方が近いから、俺の家に来た方がいいのでは……?
「よし、二人とも俺の家に来てよ!」
「「え?!?!」」
敦志も山内も驚いた顔をしていた。
当然だ。だけど、仕方がない。
「とりあえず、ついてきて!」
俺は半強制的に二人を家へ連れ込んだ。

──

いや、こうするしかなかったんだよ。
そりゃ、濡れるけど、すぐに体を温める方がいいでしょ?
「わりぃ、サッパリした……」
敦志が、タオルを首にかけて、リビングにやって来た。
見慣れたリビングに自分と親以外の誰かが居るなんて新鮮だ。
「おかえり。三石、ありがとうね。シャワーと服借りちゃって」
「うん。大丈夫だよ。ごめんねー……。父さんの服しかなくて……。敦志も。俺のサイズじゃ二人ともブカブカだろうから」
「借りれるだけありがたいよ」
「だな。感謝しなくちゃ」
残念だけど敦志、感謝は出来ないよ。
父さんは、もうこの世にはいない。
俺が小さい頃に死んじゃったんだ。
「そうだね。まぁ、なにも無いところだけど、ゆっくりしていってよ」
「遼太郎、そういやドラムってそこに置いているんだ」
敦志が指差したのは、テレビの隣にある折り畳まれたドラムセット。
文化祭のライブの際に使用した俺の宝物だ。
「うん。いつでも触れるようにここに置いてるんだ。練習しなきゃなまっちゃうからね」
俺は、そう言いながら、ドラムセットを開く。
スティックを持って、エイトビートを刻んでいく。
実は、これを触ったのは、二ヶ月ぶり。
基本は、バイトをしていたし、家庭の事をやっていたから触る機会がなかった。
だが、腕は落ちていなかったので、少し安心した。
シンバルを叩いて一通り、演奏を終える。
「遼太郎のドラム聴いてて気持ちいいよな」
「だね。爽快感がこっちにも半端なく伝わってくるし」
ストレートに誉めてくる二人、少し照れる。
「へへっ。ありがとうな! よかったよかった。あ、とりあえず、お茶淹れるわ!」
俺は、少し照れているのを悟られないようにキッチンへと急ぐ。
やっぱり、親友っていいな。
雨が降って、土から芽が生えるように友情もまた芽生える。
優しい雨に打たれて、また、友情の大切さを実感できた。
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