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第8章 〝幸せ〟の選択 ─さよならの決意─

110時間目 真冬の太陽

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「敦志君!」

 ちょうど、駅のホームから電車がでていったとき、小春が俺を呼ぶ声が聞こえた。

 きょろきょろと辺りを見渡してみると、すぐ近くに彼女はいた。

「小春!」

 俺は思わず駆け出してしまったので、足のブレーキがきかずに小春を抱きしめるような形になってしまった。

 やっべ……。小春がこんな近いところにいるなんて。

 すごくドキドキする。あとめっちゃいい匂いする。

「あ、の、ごめん、ね」

「あ、あぁ、俺こそごめん。ちょっと、勢い余ったというか、その、ごめん」

 かける言葉がでてこず、すぐに離れてお互い謝る形になった。あぁ、絶対顔が赤くなってる自信がある。

 そういえば、恋人らしいスキンシップはやったことがない。手を繋ぐのはすんなりと出来たが、ハグやキスは無理。その先は……いや、これ以上考えるのはやめよう。

「おいおいー、二人ともイチャイチャしてたら電車いっちゃうよー」

「イチャイチャなんかしてないからな!?」

「そ、そうそう! 敦志君の言う通りだよ!? 行こう、敦志君」

 小春に手を引っ張られ、俺たちは車内に急いで乗った。ちょうど席に座ったころ、電車は今日のメインの目的地である水族館に向けて、出発したのだった。

 そして、電車を乗り継ぎ、水族館に到着した。

「あっ、敦志君。クリスマスツリーがあるよ!」

「本当だな。それにすごい人だ」

 水族館前には大きなクリスマスツリーとこの水族館の名物であるペンギンの置物があって、それを背景に写真を撮っている若いカップルや家族連れが大勢いた。

「あとで、写真撮ろうね」

「あぁ」

 小春とのデートの思い出の約束をして、館内にはいり、料金を払った。

 薄暗い館内はどこか幻想的な雰囲気があった。

「くらげだ! 可愛いね!」

 来場者を迎えるくらげがぷかぷかと能天気に、そして、穏やかに浮かんでいた。

 それから歩いていると初めに『神秘の進化』というコーナーにきた。

 そこには35億年前から、現代までの生物の進化を説明する場所だった。

 そこの説明によると、メガロドンと呼ばれる古代のサメの歯の展示やイルカの祖先であるイクチオサウルスと呼ばれる魚竜の復元模型を展示していた。

 正直、ほとんどの内容は初めて知ったものだったが、馴染みのない生物について面白さを感じた。

「古代の魚たちってすごいな。あんなに大きいなんてな!」

 遼太郎が興奮した口調で言った。そういや、こういう歴史とか好きだもんな。

「結構勉強になるし、この水族館いいね」

「だな。小春、次は何を見る?」

「うーん、敦志君行きたいところある?」

「いや、俺はない」

「じゃあ、あそこに行こう?」

 そう言って、小春が指差したのは先ほどから目に入っていた優大小様々の大きさの魚が泳ぐ大きな水槽だった。
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