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第8章 〝幸せ〟の選択 ─さよならの決意─
114・5時間目 正月は休むものでも休みはない
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敦志にアドバイスをあげてから。
俺たちはなにもなかったかのように和気あいあいと会話を始めた。
そうそう、これでいいんだよ。敦志には深く悩んだりしている姿は似合わねェ。
誰かが悩んでいるとき、苦しんでいるとき、その場にいるにも関わらず、俺は助けることが出来なかった。
もう、苦しむのは十分だ。もう、悲しむのはこれまでだ。
俺は、初めて出来た後輩の助けになれるように、色々な本を読んだ。
神谷さんの影響で読書を始めたが、これが案外面白いンだよな。
俺の知らない世界が見えるようになると、また新しい世界を求めて、次々と読み進めてしまう。
読書の魔力って恐ろしいだろ? 俺はその沼にハマってしまったンだ。まるでガチャの課金を止められない廃人プレイヤーのようにな。
おかげでここ半年ほどほとんど寝てねェのはさすがに敦志にはないしょだが。
「敦志、お前って本読むか?」
「本、ですか? 全く読まないですね……。あ、でも」
敦志が読書好きの誰かの名前を言いかけたので先に俺は言うことにした。俺が知る限りの敦志の知り合いで読書好きなんて二人に絞られる。でもな、たぶん神谷さんが読書好きってことは知らねェと思うンだよな。あの人、俺にしか言ってねェから。だから、もう一人の読書好きの名前を言うか。
「祐麻だろ? アイツ、小説ばっか読んでるからよ」
「そうです。黒沢センパイ、祐麻のことも結構知ってるンですね。あいつとセンパイが話してるところほとんど見たことないのに」
「まぁ、昔からの付き合いだな。アイツ、青春をすることに対して後悔を抱えてるのは知ってるだろ?」
アイツは、考えすぎる性格だから、あんなことが起きたンだ。あと、周囲の環境も良くなかった。
「えぇ、知ってます。『青春の罪と罰』ですよね」
「そうだ。中学校の三年間で仲良くなれるはずだった部員と大切だった人を傷つけ、傷つき、すべての信用を失った、アイツの後悔の物語だ」
あの頃のアイツは──祐麻は酷かった。
会うたびに瞳から徐々に光が失われて、無気力と絶望に挟まれているそんな状態だったからなァ。
「『もし、出会う時期が違っていたなら、他の人が彼女らを傷つけていた』って祐麻は言うくらいですからね。そう思うと俺たちが今過ごしているこのなにもなくて少し退屈な『当たり前の青春』ってのは、本当は幸せなことなんだなって思います」
「暇ならバイトこいよォ……」
「いや、完全暇じゃないっすから! 勉強で忙しいんですよ!」
いつも通りのやり取りをしていると、俺がお気に入りの店、MISHIHANAに着いたのだった。
***
店内に入り、先に来ていた裕太や遼太郎、神谷さんに新年の挨拶をする。
黒沢センパイはいつも通り、だるそうに挨拶して一人席に座って三嶋さんと話していた。
それにしても、三嶋さんたちってほぼ年中無休で働いてるよな。正月って本来休むものなのに、全く休めてないじゃん。
カフェ特有のベル音と共に、今日やって来る客はいない。みっつの足音と共にやって来たのは三人の女子。
「敦志君! あけましておめでとう!」
「小春! 今年もよろしくな」
カフェの来客は小春、白咲さん、女郎の三人だった。
俺たちはなにもなかったかのように和気あいあいと会話を始めた。
そうそう、これでいいんだよ。敦志には深く悩んだりしている姿は似合わねェ。
誰かが悩んでいるとき、苦しんでいるとき、その場にいるにも関わらず、俺は助けることが出来なかった。
もう、苦しむのは十分だ。もう、悲しむのはこれまでだ。
俺は、初めて出来た後輩の助けになれるように、色々な本を読んだ。
神谷さんの影響で読書を始めたが、これが案外面白いンだよな。
俺の知らない世界が見えるようになると、また新しい世界を求めて、次々と読み進めてしまう。
読書の魔力って恐ろしいだろ? 俺はその沼にハマってしまったンだ。まるでガチャの課金を止められない廃人プレイヤーのようにな。
おかげでここ半年ほどほとんど寝てねェのはさすがに敦志にはないしょだが。
「敦志、お前って本読むか?」
「本、ですか? 全く読まないですね……。あ、でも」
敦志が読書好きの誰かの名前を言いかけたので先に俺は言うことにした。俺が知る限りの敦志の知り合いで読書好きなんて二人に絞られる。でもな、たぶん神谷さんが読書好きってことは知らねェと思うンだよな。あの人、俺にしか言ってねェから。だから、もう一人の読書好きの名前を言うか。
「祐麻だろ? アイツ、小説ばっか読んでるからよ」
「そうです。黒沢センパイ、祐麻のことも結構知ってるンですね。あいつとセンパイが話してるところほとんど見たことないのに」
「まぁ、昔からの付き合いだな。アイツ、青春をすることに対して後悔を抱えてるのは知ってるだろ?」
アイツは、考えすぎる性格だから、あんなことが起きたンだ。あと、周囲の環境も良くなかった。
「えぇ、知ってます。『青春の罪と罰』ですよね」
「そうだ。中学校の三年間で仲良くなれるはずだった部員と大切だった人を傷つけ、傷つき、すべての信用を失った、アイツの後悔の物語だ」
あの頃のアイツは──祐麻は酷かった。
会うたびに瞳から徐々に光が失われて、無気力と絶望に挟まれているそんな状態だったからなァ。
「『もし、出会う時期が違っていたなら、他の人が彼女らを傷つけていた』って祐麻は言うくらいですからね。そう思うと俺たちが今過ごしているこのなにもなくて少し退屈な『当たり前の青春』ってのは、本当は幸せなことなんだなって思います」
「暇ならバイトこいよォ……」
「いや、完全暇じゃないっすから! 勉強で忙しいんですよ!」
いつも通りのやり取りをしていると、俺がお気に入りの店、MISHIHANAに着いたのだった。
***
店内に入り、先に来ていた裕太や遼太郎、神谷さんに新年の挨拶をする。
黒沢センパイはいつも通り、だるそうに挨拶して一人席に座って三嶋さんと話していた。
それにしても、三嶋さんたちってほぼ年中無休で働いてるよな。正月って本来休むものなのに、全く休めてないじゃん。
カフェ特有のベル音と共に、今日やって来る客はいない。みっつの足音と共にやって来たのは三人の女子。
「敦志君! あけましておめでとう!」
「小春! 今年もよろしくな」
カフェの来客は小春、白咲さん、女郎の三人だった。
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