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第2章【交わる二人の歯車】

16罪‬ 好きな人は大好きな友達の恋人でした⑥

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「ヴェルくんの中ではそれが事実かもしれないけれど、雪ちゃんは果たしてそう思ってくれるかしらね?」
「確かに、雪ちゃんは俺が静ちゃんを好いて付き合ってると思っているかもしれない」

(いや、静ちゃんを好きで付き合ってると思っているはずだ)

 静が居る手前、本当の気持ちを織り交ぜて雪に伝えるなんて手段、ヴェルには選ぶことは出来なかった。静の機嫌を損ねてしまったら最後、静はおそらくいとも簡単に雪たちを裏切るだろう。
 自分を欲する神国に向かいそこで一番を獲得し、雪や真を裏切り二人の気持ちを自分一人に向けさせ、負の感情だとしてもそれで一番になれるのだとしたら己の欲を満たすために静は迷わず突き進むはずだ。

「でも、それは静ちゃんが雪ちゃんにそう思わせるように布石を投じていただけに過ぎないだろ?」

 この結果は、すべて静が仕組んだことだ。確かにヴェルは静のものになってしまっている。雪に静を選んだことを伝えてしまった。
 けれど、ヴェルの思いまでは静の自由には出来ない。心だけはどこまで言っても自由なのだ。ヴェルは、それを言いたかった。

「まあ、好きに言えばいいわ。過程なんてどうでもいいのよ。結果がすべてなんだから」

 どんなに話し合ったとしても、静の考えとヴェルの考えはずっと平行線のままだ。それが分かっていたからこそ、静はこの話をここで打ち止めにして無駄な時間に労力を割くのをやめた。

「そんな事よりも……私の機嫌、早く直さなくていいのかしら? ヴェルくんがこのままずーっと雪ちゃん雪ちゃん言い続けるのなら、私、うっかり裏切ってしまうかもしれないわ」
「……っ。卑怯、だぞ」
「どうとでもいえばいいわ」

 どんな言葉を並べても、静はやめることはないだろう。彼女の望みを叶えない限り、静は絶対に雪たちを裏切る。

(雪ちゃんを傷つけたくないがためにしてきた行動なのに、結局彼女を傷つけてしまってる気がするな……)

 だとしても、ヴェルは雪の心を守るためにやめるわけにはいかなかった。雪を傷つける最後の矛を抜かせるわけにはいかなかった。

「……くそっ」
「ふふ……いい子ね」

 吐き捨てるように声を漏らすと、ヴェルは静の体に手を伸ばした。ヴェルの動き始めた手を確認すると静は嬉しそうに微笑み、唇を大きくゆがませて笑った。
 静の着ていたドレスは脱がしやすい形をしていた。マーメイドドレスは肩の所に布地がない。つまり、そのまま引き下ろせば彼女の豊満な胸が零れ落ちてくる。
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