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第3章【一途に想うからこそ】

19罪 引っかかる思いと信じたい気持ち④

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 その優しさが、今は痛いほどに嬉しくて胸に響いた。
 本当なら真兄だって静の隣に居たいだろうに、幼馴染である私にこんなに気を使って心配してくれている。その事が、今の私には救いだった。
 目元を細めて柔らかく笑顔を浮かべながら真兄を見れば、まるでそんな事は当然だとでも言いたげな表情を浮かべていた。

「あの、さ……真兄」
「なんだ?」

 私の声かけに、真兄はキョトンとしたような表情を浮かべて私を見つめ返した。
 そんな真兄を見ると、ちょっとだけ口ごもってしまう。
 私の事を思って、私の事を考えて、凄く痛いくらい優しくしてくれる真兄の気持ちを無下にするんじゃないかと思ってしまう。だけど、真兄の性格を考えると、たぶん、私の考えを口にしたって真兄は別にショックを受けたり、自分の気持ちを無下にするなー!なんて言ったりしないって事は分かってる。真兄は結構大人だ。

「静のところに行きたかったら、気にせずに行って平気だからね?」
「……は?」
「だから……ほら、静とずっと一緒にいるの……今、ヴェル君でしょう? 真兄だって、その……静と一緒に居たいんじゃない?」

 真兄は静の事が大好きだ。本来なら真兄が静を手助けしたかっただろうことは、言葉にしなくても見ていればよくわかる。ふとした瞬間に静のことを見つめている真兄に、気付いていないわけがない。こんな近くにいるんだから、余計目に入る。

「雪」
「ん?」
「変な気を使うな、バカ」

 ぴしゃりと言い切って私の額をピンっとデコピンする真兄に、私は驚いて目を見開いた。少しだけ目が乾く感覚に襲われて、瞼に入れてしまった力を少しだけ抜いた。
 ぱちぱちと何度もまばたきを繰り返しながら真兄を真っすぐ見つめ、歩みのペースが遅くなったことで真兄より二、三歩後ろを歩いていることに気付き、小走りで隣に並んだ。

「……変な気を使ったわけじゃないのに」

 ぽつりと不満そうに呟けば、隣を歩く真兄からため息が聞こえた。
 ちらりと真兄を見つめれば苦笑で口元をゆがめていて、少しだけ恥ずかしさを感じた。
 真兄の気持ちを思えばこそ心配したのだけれど、そういう思いもすべてひっくるめて子ども扱いをされているような気がする。
 確かに真兄の方が年上だし、なんなら精神年齢的には真兄の方が大人びているから子ども扱いされるのは仕方のない気はする。いや、やっぱり子ども扱いされるのはちょっと……いや結構イヤかもしれない。

「必要なことならするが、今すぐ静のもとに行かなきゃいけない何かがあるわけじゃないだろう。だから、大丈夫だ、雪」
「……う、うん」
「変に気にしすぎるな。俺は大丈夫だから」

 そう言って優しく私の頭を撫でてくれる真兄は、本当にお兄さんって感じだった。
 真兄の手が暖かくて、真兄の優しい言葉に胸がぎゅってなる。

(好きなのにままならないのは本当に辛いはずなのに…………真兄は強いな……)
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