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第3章【一途に想うからこそ】

20罪 在りし日の過去を垣間見よ・2②

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 そこで初めて皆が驚き戸惑っていた理由が分かった。
 だって、私の髪の毛……黒じゃないんだもん。

「――――え?」

 軽くウエーブのかかった私の髪は生え際から毛先まで黒だったはずなのに、今、私の視界に映っている毛先は萌葱色をしていた。
 目視できる範囲で私の髪の毛が黒から萌葱色にグラデーションが掛かっている様に変色していたのだ。意味が分からなくて間の抜けた声が漏れて、そのまま立ちすくんでしまった。

「なん、で……」

 声がかすれているみたいにか細く漏れた言葉は、そのまま沈黙した空間の中へと溶けていってしまった。
 誰も答えられるわけがない。私だって分からないのに、第三者である皆にわかるわけがない。

――ベ、ル……ちゃ……
――ベル、さ……

「ぇ?」

 聞こえた声に、私はパッと振り返った。だけど、そこには声の主はいなかった。
 私の周りに居るのは、雪達だけだ。他に誰も居ない。

――ここまで……
――来……くだ、さ……

 聞こえる声は途切れ途切れで、だけど凄く切羽詰まったように必死な声に聞こえた。
 そして、同時に感じるのは懐かしいような、苦しくなる気持ち。この気持ちはなんだろう?

「雪ちゃん? どうしたの?」

 心配そうに声をかけてくるヴェル君の反応を見るに、おそらく今の声は私にしか聞こえていないんだ。
 私はなんて説明したらいいのか、凄く困った。だって、姿がどこにもないんだから、納得してくれるように説明するのは凄く難しいはずだ。

「ええと……」

――ベルちゃん。ゑレ妃えれひちゃん……
――ベルさん。ゑレ妃えれひさん……
――僕達は……
――私達は……

 聞こえる二つの似ている声。呼ばれる名前は一人しか分からない。だけど、その一人は私の前世の名前だ。
 意地悪そうで、優しい声。優しそうで、冷たい声。二人の声が脳に響くと、私の心臓がぎゅっと締め付けられる。苦しくて辛くて悲しくて、でも嬉しくて……そんな複雑な気持ちが私の胸の中に満ち溢れていくのが分かった。

――ここにいるよ。
――ここにいます。
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