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第3章【一途に想うからこそ】
26罪 ネヘミヤと女王陛下⑤
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「いいのですよ、雪様」
「でも、よく来させてくれたね?」
白卯はこれでも、卯ノ国の妖の長だ。
こんな簡単に国を離れて大丈夫なのだろうか?
「それはもう、私の雪様への思いの強さから……!!」
「ごり押ししたのね?」
「……静さん、それはあんまりです……」
白卯の言葉をバッサリと切るように告げた静の言葉に、白卯はシュンッと肩を落とした。
「ですが、ゐ榛様とゑツ姫様が皆様のことを心配されていたのは本当です。そして、雪様と関係の深い私に皆の後を追うようにと……」
「お二人には感謝しないとだね……」
「ああ、本当にな」
瞳を細め、卯ノ国の王と王妃を思いながら告げる白卯を見つめ、私と真兄は大きく頷きあった。
「まさか、あなたまで来てくれるとは思わなかったわ」
「うん、俺も。思いもよらない助っ人にびっくりしたよ」
(静の表情が一瞬だけ引きつったような気がしたのは、私の気のせいかな?)
一瞬だけ垣間見えた静の表情が気にかかったが、私はすぐににっこりと微笑む静に気のせいだと思う事にした。
親友をそんな見間違いで疑いたくないし。
近くにいたヴェル君も普通に相槌を打っているし、たぶん、私が気にしすぎなんだろう。
真兄といろいろ話をした時から、少しだけ神経過敏になっているのかもしれないな……なんて内心苦笑した。
「とりあえずは、ここを離れましょう」
「ええ。静さんに賛成です」
一歩を踏み出しながら告げる静の言葉に、白卯も他の皆も満場一致で頷き合うと先へ進むべく歩きはじめた。
私はその間、ずっと白卯に抱きかかえられたままだったのだけれど。
でもたぶん、降りたところで私の足取りはおぼつかないだろうから“降ろして”とは言わなかった。
実際問題、地面でシていたから体中が痛いのと、イきすぎて体がだるい。
(……あんまり思い出したくないけど)
自分の体の状態を客観的に把握しようとすると、どうしてもあの行為のことを置いておくことが出来ない。
脳裏に過っては、嫌悪感に吐き気が増す。
だけど、見上げればにっこりと微笑み返してくれる白卯の存在が、私の心を支えてくれているように感じた。
(真兄もヴェル君も、結局は静が一番大切なんだし……)
そう思うと、私には白卯だけだという気持ちになってくる。
もちろん、そんな事ないのは分かってる。
真兄もヴェル君も私のことを大切に扱ってくれるし、心配してくれるし、気遣ってもくれる。
だけど、根本的な所で二人は“静のもの”というイメージがぬぐえない。
(ヴェル君の事が好きなのに、白卯に支えられて大切にされて嬉しく思うのは……なんだか少し、自分の気持ちに対して裏切りのようにも感じるな)
ヴェル君を思いながら白卯にすがる、そんな状況に内心苦笑が漏れた。
どんなにつらい状況でも、どんなに私を選んでくれなくても、一途にヴェル君だけを思い続けられたらどんなにかっこよかったか。
だけど、私には無理そうだ。どんなに大好きでも、どんなに思っていても、結局は静を一番に考えて静を支えるヴェル君だけを思い続けるのは――正直心が折れそうになる事もある。
大好きな人が別の人を見ているのを見つめ続ける、そんなのつらい。
「雪様?」
どうしました? と心配そうに視線をおろす白卯に、私はにっこりと微笑みを返しながら。
「ううん。なんでもないよ」
気丈にそう返すだけだった。
「でも、よく来させてくれたね?」
白卯はこれでも、卯ノ国の妖の長だ。
こんな簡単に国を離れて大丈夫なのだろうか?
「それはもう、私の雪様への思いの強さから……!!」
「ごり押ししたのね?」
「……静さん、それはあんまりです……」
白卯の言葉をバッサリと切るように告げた静の言葉に、白卯はシュンッと肩を落とした。
「ですが、ゐ榛様とゑツ姫様が皆様のことを心配されていたのは本当です。そして、雪様と関係の深い私に皆の後を追うようにと……」
「お二人には感謝しないとだね……」
「ああ、本当にな」
瞳を細め、卯ノ国の王と王妃を思いながら告げる白卯を見つめ、私と真兄は大きく頷きあった。
「まさか、あなたまで来てくれるとは思わなかったわ」
「うん、俺も。思いもよらない助っ人にびっくりしたよ」
(静の表情が一瞬だけ引きつったような気がしたのは、私の気のせいかな?)
一瞬だけ垣間見えた静の表情が気にかかったが、私はすぐににっこりと微笑む静に気のせいだと思う事にした。
親友をそんな見間違いで疑いたくないし。
近くにいたヴェル君も普通に相槌を打っているし、たぶん、私が気にしすぎなんだろう。
真兄といろいろ話をした時から、少しだけ神経過敏になっているのかもしれないな……なんて内心苦笑した。
「とりあえずは、ここを離れましょう」
「ええ。静さんに賛成です」
一歩を踏み出しながら告げる静の言葉に、白卯も他の皆も満場一致で頷き合うと先へ進むべく歩きはじめた。
私はその間、ずっと白卯に抱きかかえられたままだったのだけれど。
でもたぶん、降りたところで私の足取りはおぼつかないだろうから“降ろして”とは言わなかった。
実際問題、地面でシていたから体中が痛いのと、イきすぎて体がだるい。
(……あんまり思い出したくないけど)
自分の体の状態を客観的に把握しようとすると、どうしてもあの行為のことを置いておくことが出来ない。
脳裏に過っては、嫌悪感に吐き気が増す。
だけど、見上げればにっこりと微笑み返してくれる白卯の存在が、私の心を支えてくれているように感じた。
(真兄もヴェル君も、結局は静が一番大切なんだし……)
そう思うと、私には白卯だけだという気持ちになってくる。
もちろん、そんな事ないのは分かってる。
真兄もヴェル君も私のことを大切に扱ってくれるし、心配してくれるし、気遣ってもくれる。
だけど、根本的な所で二人は“静のもの”というイメージがぬぐえない。
(ヴェル君の事が好きなのに、白卯に支えられて大切にされて嬉しく思うのは……なんだか少し、自分の気持ちに対して裏切りのようにも感じるな)
ヴェル君を思いながら白卯にすがる、そんな状況に内心苦笑が漏れた。
どんなにつらい状況でも、どんなに私を選んでくれなくても、一途にヴェル君だけを思い続けられたらどんなにかっこよかったか。
だけど、私には無理そうだ。どんなに大好きでも、どんなに思っていても、結局は静を一番に考えて静を支えるヴェル君だけを思い続けるのは――正直心が折れそうになる事もある。
大好きな人が別の人を見ているのを見つめ続ける、そんなのつらい。
「雪様?」
どうしました? と心配そうに視線をおろす白卯に、私はにっこりと微笑みを返しながら。
「ううん。なんでもないよ」
気丈にそう返すだけだった。
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