異世界召喚されたら好きな人を親友に寝盗られた~七つの大罪(グリモワール)の一人だった私は、記憶を取り戻しながら好きな人も取り戻す!~

卯月えり

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幕間

ハッピーバースデーver静⑩

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「雪ちゃんの事、亮さんは『彼女にするには重そうだけど、セフレにするにはちょうど良さそうだから気に入ってる』って言ったのよっ! 雪ちゃんの事、単純で……勘違いさせておけば簡単に股を開きそうだって……」
「う、嘘よ! 亮さんがそんな事言うはずない……」
「嘘じゃ……嘘じゃないわっ……本当に聞いたこと、なのよっ。だから……だから、お願い、雪ちゃん。もう、亮さんと……連絡を取り合うのは……やめてっ」

 あれだけ仲良くやり取りを繰り返し、少しずつ互いを知ってきた雪ちゃんからすれば信じたくないのは当たり前のことだったと思うわ。だけど、私もそこは引けなかった。
 信じられないと言われても、信じさせるしかなかった。だから、私は悲鳴に近い小さな声を上げて雪ちゃんの事を強く抱きしめた。
 小刻みに震えながら、耳の近くで涙を吞みながら。

「本当、なの?」
「……ええ。信じたくないと思うけれど……」
「……静がそんな嘘、吐く理由……ない、もんね」
「信じて……くれるのかしら?」
「信じたくは、ないけど……ね。だけど、私を傷つけるような嘘を……静がつくとは思えないから……」

 答えが見えた瞬間、私は勝利を確証した。雪ちゃんは私の手を取ったと。

「……こんな言いづらい事、教えてくれてありがとうね……静」
「……ううん。信じてくれて、ありがとう」

 雪ちゃんをギュッと抱きしめたまま、鼻声の状態で私は呟いた。
 そして、この瞬間、私が雪ちゃんより下になることはないことが分かった。
 雪ちゃんは、私の言葉を絶対的に信じてくれる。どんなに信じられないような話でも、信じてくれる。
 これで私は、雪ちゃんより上で居続けられる。惨めな思いをさせられずに済む。

 だって。

 私は、

 誰よりも、

 雪ちゃんよりも、

 特別じゃないと。

 私は、特別なんだから。

* * *

 思いがけず最近の事まで思い返してしまっていたことに、私は内心笑ってしまった。
 どれだけ暇だったのだろうか、と内心思うものの……まだ来ないのかしら? と思う部分もある。

 コンコン。

「はーい?」

 聞こえたノック音に、雪ちゃんたちだと私は思った。
 座っていた椅子から立ち上がると、私はドアノブに手を伸ばし開いた。

「静、お誕生日おめでとう!」

 そう言っていたのは、真兄さんとヴェルくんの間に立つ雪ちゃんだった。
 彼女の両手には、私が雪ちゃんに持って行った時と同じようなケーキがあった。
 そして、真兄さんの手にはたくさんのお肉の料理と――――魚料理?
 ヴェルくんは、予想通りプレゼントを人数分持っているみたいね。

「ありがとう、皆。今日みんなを見かけなかったのは、これのせいかしら?」
「バレてたの?」
「バレていたというか……居ないなぁと思って、不安になっていたのよ」

 私の言葉を耳にして、雪ちゃんが驚いたような表情を浮かべた。そしてすぐに申し訳なさそうに眉をハの字にした。
 ああ、雪ちゃんらしい反応。男の子が好きになりそうな、かわいらしい反応。

(前に誰かから言われたことがあったわね。雪ちゃんが真正の可愛いなら、私は作り物の可愛いだ、って)

 それを言われた時、私がどれだけ悔しかったか、きっとその子は知らないだろう。

「それより、いつまで立っているの? ほら、中に入って。お祝い……してくれるのでしょう?」

 にっこりと、嬉しそうに微笑んで私の部屋に三人を招き入れた。
 そうやって、月の塔にいる間に私と雪ちゃんの誕生日は過ぎ去り――――私達は18歳になった。
 そして、旅にでる事で私のアイデンティティが揺らぎ始める事になるとは……この時の私はついぞ知ることはなかった。

 知っていたところで、対処できたわけでもないけれど。
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