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第一章

5 真剣勝負ってマジですか!?

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対峙する妹と彼女…いや、勇者と精霊王と言うべきか。
既に春美は剣を抜いている、近づこうものなら誤って斬られても文句は言えない。
対する桜は堂々とした出で立ちで待ち構えている。
不安でいっぱいの俺をよそ目に、春美が桜に斬りかかる。
振り下ろした剣は、桜の身体をスルリと通り抜ける。
「ちっ…物理は効かないか…。」
「こう見えて精霊ですから、大抵のことは何でもありです。」
(…なんか、二人ともキャラ変わってないか?)
女は怒ると豹変するとは言うが、これほどの真剣勝負となるとこうなるものか…。
そうこうしているうちに春美は一度バックステップで身を引き、剣を持つ手とは逆の手を前に差し出す。
「火球!!」
春美の声とともに、手から炎の球が現れる。
「魔法だ…すげえ。」
思わず感想がこぼれ落ちてしまう。
炎の球は春美の手から勢いよく飛び出し、桜の方へと一直線に飛んでいく。
「鱗粉の加護。」
桜が羽を前方へとはためかせ、鱗粉のようなキラキラしたものをばら撒く。
鱗粉は飛んできた火球を全面で受け止め、その場で爆ぜさせた。
あまりの爆風の強さに、俺は勢いよく後ろへ吹き飛ばされてしまう。
「のわあああああ!?」
吹き飛んだ先がふかふかの草原で良かったと痛感する。
それでも打った腰はだいぶ痛めたが。
「あーあ、あれはしばらく続くねえ…君、大丈夫かい?」
「へっ?」
後ろから男の声がした。
振り向くと、そこには黒いローブに身を包んだ青白い顔の男がこちらに手を差し伸べていた。
「あ、ああ。ありがとう。」
俺は男の手に捕まり、ゆっくりと立ち上がる。
男の手は異常なほど冷たく、思わず寒気がしてしまうほどだった。
「勇者に精霊王…恋だの愛だのでいがみ合うなんて愚かだねえ。」
「は、はあ…。」
(その恋だの愛だのの原因が俺なんだが…。)
自分で言うのもどうかと思い、俺は口をつぐんだ。
「女心ってのは僕には理解できないねえ、君もそうだろ?」
淡々と喋り続ける男に、少し悪寒を感じる。
「ま、まあ、そうですね。あの…貴方は一体…。」
「僕?ああ、僕はエルゼ。ただのしがない傭兵だよ。…そうだ、ここは危険だから移動しよう。」
「移動…ってどこへ?」
「姫様のところだよ。命令を受けてたんだ、安全なところへお連れしなさいって…最初忘れてたけど。」
(命令を忘れてお喋りしてたのか…。)
激闘をよそ目に、なんだか拍子抜けしてしまいそうだ。
「…けど、あの二人を放っておいて大丈夫なのか?もしどっちかが死んじまったら…。」
「うーん、まあ、大丈夫じゃない?最悪、警備隊が動くだろうし。」
(そういうものなのか…。)
「さ、行こっか。姫様がお待ちかねだよ。」
俺はエルゼが開いた異空間の穴へと入ることにした。

~~~

「…待って、春美さん。」
「なんだよ精霊王。」
互いに攻撃の手が止む。
「どうやら私達、出し抜かれたみたいよ。」
「えっ?…あっ。」
気がつけば辺りに兄の姿が見えない。
「お兄ちゃん…!?」
ヒートアップしすぎたせいか、全く気が付かなかった。
「これは私の失態ですね…。」
「反省は後よ、どうせアイツらの仕業だわ。今すぐ探しに行きましょ。」
(お兄ちゃんをさらうなんて…許さない!!)
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