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第一章

7 殺すって俺をですか!?

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「こ…殺すって…俺を…ですか!?」
余りに常識離れしたその宣言に、思わず素っ頓狂な声で返してしまう。
「そうじゃ。あの忌々しい勇者の想い人、お主を殺せば名声が上がる。そうすれば次期魔王の席は妾のものという訳じゃ!」
満面の笑みで恐ろしい計画を語る少女の姿に、危険信号が走る。
(…逃げなきゃ!?)
本能の赴くままに足を動かそうとしたが、想像以上に震えが収まらず走り出せない。
「ふっ…逃げ出すことも出来ないか、哀れよのぉ。なぁ?エルゼ。」
「ええ…。まあ、お嬢も叔父貴が亡くなった時は泣き喚いて動けなくなってましたけどねぇ。」
エルゼが友達を小馬鹿にするかのように笑う。
「慎めエルゼ、ここは玉座の間ぞ。」
「お嬢が振ったんじゃないですかぁ…。」
2人のやり取りが続いているが、耳に入らない。
相変わらず足は震えたままだし、考えがまとまらない。
(落ち着け…俺はどうしてこんなことに…。確か、妹の春美が生き返って…それで…?)
こんな時に思い出すのは春美が生きて帰ってきたことばかりで、今の今まで異世界だとかそういうことを全く飲み込むことは出来ていなかったのだ。
異世界というとものを舐めていた、当然の報いか、と思考が諦めかけていた。
(俺…殺されるのか…。けど、俺が死んだら春美や桜はどうなる…?)
俺は唐突に、3年前春美が亡くなった時のことを思い出した。
泣き崩れる父と母、抜け殻になったかのような俺、そんな俺を好きになってくれて、慰めてくれた桜…。
(今俺が死んだら、少なくとも2人は悲しむかもしれない。あの頃の俺と同じ気持ちになってしまうかもしれない。それは…嫌だな。)
なんとか生き延びる方法を考えよう。
そして帰るんだ、2人の元へ。
「な、なぁ、イビラって言ったか?」
「なんじゃ、人間。下級種の分際で妾に話しかけるとは、恐れ多いぞ。敬語を使え、敬語を。」
イビラは余裕そうな態度でこちらを振り向く。
(落ち着け、俺…。こういう時に参考になりそうなアイデアは…。)
魔王、捕まる、解決策、で脳内を検索する。
何かないかと、強い焦りの中で脳をフル回転させ続けた結果、1が見えた。
その選択が本当に正しいかどうか判断する前に、口が言葉を発していた。
いや、
「か、可愛いですね、惚れちゃいました!!」
「…は?」
1つのルート、それは趣味のギャルゲーから得た選択…であった。
「お兄…ちゃん…?」
「春雄さん…あなた…。」
いつの間にか俺の後ろには春美と桜もいた。
私、春雄は本日2度目の修羅場を迎えようとしていた。
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