闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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勇者の妹

公式試合

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「イーストランド教皇代理、アスピ・クリスチャン。前へ。」
 彼女は、その声を聞くと、城の中庭に出た。
 彼女の後を追おうとする僕の肩を、フォースがガッチリ掴む。
「お前はまだだ。名前を呼ばれるまで待て。」
「ウェストランド教皇擁立の勇者、アスィール。前へ。」
 僕は物陰から中庭に出た。
 ダンスホールから、テラスへと要人が傾れ込んでくる。
 みんなこの茶番劇を一目見ようと押し寄せているのだ。
 野次馬が十二分に集まったことを確認すると、アスピは、ビギニア王に跪いた。
「アスピどの。コレで良いか? 」
「はい。ビギニア王。ご協力感謝いたします。必ずしも。あの偽勇者を討伐してご覧に入れましょう。」
「偽勇者? 討伐? 」
 僕はわけが分からなかった。
 アスピはテラスの方へ向き替えると、両手を掲げ、野次馬に向けて演説を始めた。
「見て下さい。あの見窄らしい男を。あのような下賎な人間が、世界を救う勇者を名乗り。悲しく思います。あんな便りなさそうな男に私の兄の代理なんて務まるわけがありません。」
 野次馬たちは、体の上に乗った球体をあちらこちらに動かして、ヒソヒソ話を始める。
「でも大丈夫。ご安心下さい。そのためにの私が来たのですから。」
「女神ティアマト様の名の下に、偽勇者を討伐して進んじましょう。」
 僕は分けが分からなくなった。
 感じたことのない悪意。
 向けられたことのない敵意。
 僕はこの場の唯一の味方に助けを求めた。
「フォース。なぁ。何とか言ってくれよ。こんなのおかしいよ。」
 彼は依然として、木にもたれ掛かり、目を閉じ、腕を組むだけだ。
「コレはお前の戦いだ。お前が克服すべき脅威だ。」
 彼女に向き帰り、貰った十字の剣を恐る恐る引き抜く。
 少し遅れて、アスピが杖を構えた。
「貴方も宿命を背負っているのなら、覚悟を決めなさい。」
 その言葉だけが、僕の心に響き、重くのし掛かる。
 教会とは相入れない豪華な装飾の施された杖。
 間違いない。彼女は魔術師メイジだ。
 ならこちらとしてすべき事は一つ。
 詠唱が終わる前に、距離を詰め、一気に近距離戦へと持ち込む。
 再び剣を鞘に収めると、体勢を低くし、腰を捻る。
 居合の姿勢。
 感覚が少し違う。
 多分僕が使っていたエモノは、片刃で、もっと薄くて……
 軽かったはず。
「【珪眼流】」
 【伍ノ拳】

 【紫電一閃シデン・イッセン

 自分の振るう刃に紫色の稲妻が宿り始める。
 彼女は詠唱をやめて僕の攻撃を避けるはず。
 僕の意識は、次の相手の行動へと移っていた。
 バックステップで逃げる彼女に、追撃を与える。
 僕の武術でそれが出来るのは……
 翔鐡ショウテツ!!
 そこまで思考を進めたところで、彼女が僕を避ける気がないことに気がつく。
 それどころか、詠唱を始める気すら無かった。
 もう五メートルは詰めているのに、足元に魔法陣すら現れない。
「もう止まれないよ。」
[ギガ・スパーク]
 突如、彼女の足元に高速で魔法陣が展開し、魔術が発動する。
 彼女の杖から放たれた迸る閃光が、僕の武術を相殺する。
 彼女は呪文の衝撃で打上げられ、一回転して着地すると、スカートをたくし上げて挨拶する。
 そして歓声が上がる。
「あの歳で短縮詠唱を。上級魔術の!! 」
 さっきまで落ち着いていたフォースとはまるで別人だ。
 目をひん剥いて、目の前の俊才に驚いている。
 こうなれば迂闊には近づけない。
 と言っても、近づかないわけには行かない。
 逃げるばかりでは、一方的に追い詰められるだけだ。
---雷神砲ライジンホウ---
 右手でをかざし、掌から電撃を放つ。
[ベル・ファイアー]
 僕の魔術では、彼女の攻撃の軌道を変えることで精一杯だ。
 彼女の攻撃を適切に処理しながら、着実に距離を詰めていく。
 途中からは、右手の剣で呪文を斬り、左手の魔術で、アスピの攻撃を相殺していた。
---雷刃ライジン---
 雷を帯びた刃が、凍てつく刃を斬り裂く。
 今、僕は、剣を右に大きく振り切っている。
 その勢いを殺さずに、そのまま武術へと移行した。
 回転しながら跳躍し、遠心力でさらにベクトルをブーストする。
 回転数は徐々に増していき、ソレがアスピへ届く頃には、周囲に風の渦が形成されていた。
[プロテクト]
 手が痺れる。
「加護神聖術!! 」
 フォースはそう言った。
 彼女はそのまま、加護を身体に纏ったまま、杖で僕を叩く。
 とてつもない、どんよりとした衝撃が僕を襲い、遅れて鈍痛が身体全身を駆け巡る。
 彼女は右手で自分の頬に触り、回復魔術を自分にかける。
「私は確かに魔術師。だけど同時に神官でもあるの。この意味分かるかしら? 」
「さっき、私に手加減したでしょ。」
「じゃないと君が死んじゃうじゃないか!! 」
 彼女はため息をついた。
「私のことより、自分の心配をした方が良いと思うけど。実際そうだったでしょ。」
 そうだ。彼女には隙が無い。
 遠距離も、近距離も、武術が使えるはずの僕に肉弾戦も挑んでみせた。
「じゃあね。君の魔術も悪く無かった。雷の呪文。昔見せてくれたのよ。兄さんも。まだ覚えたてで、小さな線香花火みたいなのだったけど。」
 彼女の短剣が、僕の喉笛に突き立てられるその瞬間。
「クェックエクエクエウクエ。」
 不気味な笑い声と共に、巨鳥がこちらへと滑空してきた。
[バード・ストライク]
 飛行物体が一筋の斬撃を描き、闖入者ちんにゅうしゃを撃退する。
「お嬢様。お怪我はありませんか? 」
 自分の一番の持ち場を、クリークに奪われて、彼女は混乱しているようだった。
「ようやく姿を表したな。ドブネズミめ。」
 でも彼らはどうして魔族が潜んでいるとわかったのだろうか?
「我々が招待された個室には、盗聴用のスクロールと監視スクロールが発動されていた。少し魔術に精通してるモノなら誰でも分かる。」
「この男は聞いてきたのです。『お前はこの部屋に張り巡らされているスクロールに見向きもしないのだな。』と。そりゃそうです。魔法陣に目を凝らせば、こちらが仕掛けた罠だと勘違いされてしまうかもしれない。現に私は、この男を疑いました。」
 彼女は清楚な自分を忘れて、慌てふためいた。
「ということは!! 全部茶番? 」
「この機会を利用して、貴方を煽ったのですよ。その気になっていたお嬢様の姿はお笑いでしたよ。」
 要人たちは、城に魔物が侵入したということに、ようやく気づき、悲鳴をあげて一目散に逃げ始める。
「押さないで。皆さん冷静に。」
 黒服も、このアクシデントには、流石に手を焼かされているらしい。
「行くぞ少年。最初の戦闘任務だ。」
 彼の手を取ると、僕の傷が癒える。
「そういやフォースは神父さんなんだね。」
「クリート。それとエセ神父。バックアップは私に任せて!! 」
 三人で魔物を囲い込む。
 僕の勇者としての初の任務が始まった

 
 



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