神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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極東

給餌係

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 鋏子と共に近くの留置所まで連れられた俺は口に何かを押し込まれる。
「んなぐ。」
 弾力のある粒が両頬を破裂させるぐらいに押し込まれ、咀嚼することが出来ない。
 それでも、なんとかしようと口をモゴモゴしせていると、米粒が食道につまり、息が出来なくなる。
 そこへカテキンの激流が押し寄せ、口内の、食道の米粒を根こそぎ胃袋まで流し込んでしまった。
「なんだこれは? 新手の拷問か? 」
 その言葉に千代が顔を真っ赤にして答えた。
「今日は私がエサ係だから。」
 ああ、そうか。大番役の炊事係。その役に彼女が選ばれた。
「主菜と副菜はまだか? 」
「受刑者がそんな贅沢できると思う? 」
 いや、罪人が白米と茶だけって聞いたことねえよ。
「なら買って来てくれ。刑期が一日増えた。このままじゃ持ちそうにない。」
 そう言って彼女に銅銭を渡そうとした。
「あんな身体に悪そうなものダメ!! 」
「知るか。なんで俺がお前に身体の心配をされなきゃならないんだよ。お前は俺のカーちゃんか!! 」
「てかなら、山賊焼でも焼き魚でも良い。なんでも良いから食わせてくれ。」
「おにぎりしか作れないから!! 」
 なんでこんな奴が炊事係なんて引き受けたんだ。
 刑期中は買い物なぞする暇は無い。
 ならば、刑を受ける前に買いだめして置くか。
「隊長に言い付けるよ。」
「あーめんどくせえ。聴取はもう終わっただろ解放してくれ!! 」


 二人千代と鋏子の妨害により、無事、刑期を1日伸ばした俺は、ファーストフード店で鴨蕎麦を啜ってから、ゆっくり役所に行くことにした。
 どうせなら一睡してから行きたいもんだよなぁ。
 でも隊長にバレたら殺されそう。
 俺は役所で手続きを済ませると、羅城門の松明の下に腰をかける。
 日はしっかり沈んでいる。
 まずは朝日が昇るまで。
 この時間帯はイザコザが少ない。それゆえに特筆すべきことはない。
 やってくるとしても、浮浪者か飢えた者たち。
 そう言った人間たちは、門番が全て処理してしまうため、俺の出番は無い。
 大番役はこの時間が一番キツい。ただ座ってるだけ。 
 これが一週間続くのだ。
 寝るとやばい、だが立っているのも辛い。と思い、座ると腰が痛くなる。
 こんなに退屈なら、犯罪の一つでも起きてくれと言う考えが脳裏に浮かぶのも無理ない。
 が悪戯に体力を使うのも良くない。
 契約者といえども、一週間睡眠を取らないのは、流石にヤバい。
 できるだけ体力を残しておかなければならない。
 長い夜を押し退けて、朝日が昇る。
「おはよう咎人よ。お前に神の慈悲を贈ろう。」
 そうやって暖かい珈琲と、弁当を持って来てくれたのは、槍馬だ。
「今日の炊事係はお前だな。良かった!! これでやっとまともな飯にありつける。」
 これで今日が水崎だったらどうしようかと思っていた。
 俺は彼女に嫌われている。理由は後述するが、千代が水崎だったら流石に不味かった。きっと三色ペットフードになっていただろう。
 濃いめのだし巻き卵、焼き魚、ふりかけご飯、相変わらず槍馬の飯はうまい。
「んじゃな。俺も任務があるから帰るぞ。」
「今日は悲田院に寄らないのか? 」
 そうだ、俺たちは軍人といえども、まだ十五歳。
 算術や文術の授業を受けなくてはならない。
 が、任務が別に課せられている人間にそれは免除されていた。
 ふと、内ポケットを探ると……
 軍専用のレーションがタンマリ入っていた。
 味は正直言ってあまりよろしくないが、これを齧れば、人間がグリコーゲンを貯めておける限界まで、空腹感を抑えることができる。
 俺は門番にバレないように槍馬へと合図を送ったら、槍馬も俺に合図を返して来た。
 さあてと。明け6つ。
 極東が起きる時間だ。この時間から、朱雀大路にて徐々に人が増え始める。
 この時間に門番の交代が行われる。商人が店を開け始め、市場に活気がで始める。
 おむすびを口に咥えた女の子が走っていく。今日は安息日であるが、武術訓練であろう。
 コレが極東の日常。これだけ都市が発展したのに、未だに「無駄な人間。」と言うものが存在しない。
 一人一人の人間に生きる意味がある。それがこの都市だ。
「あっ!!鬼のお兄ちゃんだ!! 」
 七歳以上か十歳以下ぐらいの子供たちがこちらに寄って来た。
「何してるの? 」
 一人の女の子が俺に訊ねた。
 ちょっと見栄を張ってやりたり気持ちをグッと抑えて、正直に答える。
「懲罰だ。戦場で軍規違反を行った罰だ。」
「なんでだ? 大人たちはみんな、台与鬼子とよのきしがレーザーをぶっ放したから勝ったって言ってたぞ。」
「いや違うんだ。悪いな、こんなみっともない所見せちまって。」
 男の子の一人が、前の二人の子供を押し退ける。
「僕ね、お兄ちゃんみたいに立派な軍人になるんだ。」
「辞めておけ。殺しって言うのは、あまり誉められた行為ではないからな。」
「じゃあなんでお兄ちゃんは契約者なのさ。」
 なぜ契約者になったのか。
 ふと俺は一人の契約者のことを思い出した。
『強くなってお前の母さんや、伊桜里みたいになってしまう人間を聖から守ろうと思う。そのための契約者だから。』
「俺は……いや、この話は終わりだ。向こうで遊んで来なさい。」
「ぶぅ!! お父さんとおんなじこと言う!! 」
 そう言って少女たちはどこかへ行ってしまった。
 俺が契約者を続ける理由は復讐。
 斥が未来に生きる復讐者なら、俺は過去に生きる死神だ。
 その日は、心なしか犯罪がいつもより少なかった。
 門番たちは「オメエみたいなバケモノが見張ってくれりゃ都も安泰だろうな。」とか言ってたが。
 全く失礼な野郎どもだ。


 
 
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