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極東
帰還
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貫かれた得美士は、両手を天に掲げると、宇宙へ向けて叫んだ。
「俺を倒すか。さすが慎二郎の子供だ。」
それから俺の方を見る。
「人生の先輩からアドバイスをくれてやる。」
「世界は嘘とクソに塗れている。そして極東も。」
「自分の目で見て、自分で考えて、自分で答えを出……」
そこで彼の声は身体と共に音もなく消え去る。
宿主を諦めた呪具が、胸の内から飛び出して、空へと消える。
残ったのは、つい数秒前まで得美士だったモノのみだ。
呪具と契約した者は死体すら残らない。
目の前に積もっている鼠色の塵がそれを現している。
俺は立ち上がる気力すら無く、芋虫のように這いつくばりながら、槍馬の元へと向かった。
伸びている彼の元へ着くと、肩で体を突つく。
両腕は動かそうとすると、激痛が走り、上手く動かすことが出来ない。
彼の身体がピクリと動き、とりあえず死んでいないことを確認してから、上半身を下半身の方へと引き付け、顎と膝で無理やり立ち上がった。
そして足を引きずりながら、七宝の場所へと向かう。
「隊長!! 大丈夫ですか? 」
「んっ。」
外傷は槍馬ほど酷く無かった。
「俺としたことが、油断していた。そうだな、得美士も得体の知れない女を助けるようなことをしない。」
その通りだった。わざわざ彼らがリスクを伴う密入国の受け子などやるはずなどない。
彼らはそれ相応のリワードを受け取っているはずであった。
「得美士はどうした? 」
「見ての通りです。俺が倒しました。」
「良くやった。それでこそ十三部隊だ。」
遠くから翔車が羽を打つ音を立てながら、こちらにやってくる。
例田が信号を送ったようだ。
「どうやら迎えが来たようだな。剣の力を使わなくて良さそうだ。」
「隊長。歩けますか? 」
彼は震えた右手をこちらに差し出している。
「ああ、すまない。」
俺は反射的に右手を差し出そうとするが、右手が動くことはなく、二の腕あたりに強烈な電撃が走る。
「ぐっ。」
「手が動かないのか? 電極もショートしているようだな。」
彼は掲げた右手で地を着くと、ゆっくり立ち始めた。
翔車が裂けた丘陵の上に停車する。
馬田や琵琶たちはそれに乗り込む。
俺たちも二人三脚でそれに続いた。
* * *
それから数日後、任務のない俺たちは、悲田院で座学を受けていた。
アレから導線を新調すると、腕の痛みはすっかり消えてしまい、筋肉に違和感のみが残った。
教壇の前で、測量部の人間が算術の公式を黙々と書く。
座学を受けることも、復讐の第一歩であることには変わりない。
だが俺は退屈していた。
周りの契約者たちも同じ気持ちであろう。
隣で槍馬が大きな欠伸をする。反対側では、美奈が必死に筆を動かして、ボード紙に書かれていく図面と数式を書き写している。
前では鏡子が手鏡を取り出して自分の顔に見惚れ、横では新潟が刃の手入れをし、反対側では斥が鏡子のことを一瞥しては、またボード紙を見て数式を写すものの、集中することが出来ていないようである。
早く馬田たちみたいに任務に出たい。
土色の剣を持つ聖に対する情報を出来るだけ集めなければならない。
噂によれば、極長が最近、自動翻訳機の開発に成功したらしい。
噂が本当なら、聖たちからは、もっと多くの情報を引き出すことが出来る。
・
・
・
「パチン」
暗転する世界に、衝撃が飛ぶ。
一瞬何事かと思った。
測量部の人間が異変に気づき、黒澄を問い詰める。
「どうした黒澄? 」
「桐生慎二二等兵を、元の世界に引き戻していたであります。」
彼はため息をついた。
「またお前か。今週で何回目だ。お前は座学の成績も悪い。座学がなんたるかをまた仕込んでやる必要があるか? 」
黒澄のチクリのせいで、また面倒臭いことになった。
正直なところ、お世辞にも俺にそっち系の能力があるとは言いがたかった。
俺は隠密行動や、工作作戦の成績が軒並みに低い。
別に努力しなかったわけでは無いのだ。
その証に、図書館で情報開示ランクが上がるごとに俺の知識は増えていった。
しかし、その知識を応用する機動的な思考力が俺には無かった。
そういう関係のものは、馬田や伊那目に任せれば良いし、彼ら二人いれば十二分だ。
彼らと敵対することは恐らく今後とも無いだろうから。
バケツからボロ雑巾を取り出すと、キツく搾り、両手をつけ、走り出す。
「俺を倒すか。さすが慎二郎の子供だ。」
それから俺の方を見る。
「人生の先輩からアドバイスをくれてやる。」
「世界は嘘とクソに塗れている。そして極東も。」
「自分の目で見て、自分で考えて、自分で答えを出……」
そこで彼の声は身体と共に音もなく消え去る。
宿主を諦めた呪具が、胸の内から飛び出して、空へと消える。
残ったのは、つい数秒前まで得美士だったモノのみだ。
呪具と契約した者は死体すら残らない。
目の前に積もっている鼠色の塵がそれを現している。
俺は立ち上がる気力すら無く、芋虫のように這いつくばりながら、槍馬の元へと向かった。
伸びている彼の元へ着くと、肩で体を突つく。
両腕は動かそうとすると、激痛が走り、上手く動かすことが出来ない。
彼の身体がピクリと動き、とりあえず死んでいないことを確認してから、上半身を下半身の方へと引き付け、顎と膝で無理やり立ち上がった。
そして足を引きずりながら、七宝の場所へと向かう。
「隊長!! 大丈夫ですか? 」
「んっ。」
外傷は槍馬ほど酷く無かった。
「俺としたことが、油断していた。そうだな、得美士も得体の知れない女を助けるようなことをしない。」
その通りだった。わざわざ彼らがリスクを伴う密入国の受け子などやるはずなどない。
彼らはそれ相応のリワードを受け取っているはずであった。
「得美士はどうした? 」
「見ての通りです。俺が倒しました。」
「良くやった。それでこそ十三部隊だ。」
遠くから翔車が羽を打つ音を立てながら、こちらにやってくる。
例田が信号を送ったようだ。
「どうやら迎えが来たようだな。剣の力を使わなくて良さそうだ。」
「隊長。歩けますか? 」
彼は震えた右手をこちらに差し出している。
「ああ、すまない。」
俺は反射的に右手を差し出そうとするが、右手が動くことはなく、二の腕あたりに強烈な電撃が走る。
「ぐっ。」
「手が動かないのか? 電極もショートしているようだな。」
彼は掲げた右手で地を着くと、ゆっくり立ち始めた。
翔車が裂けた丘陵の上に停車する。
馬田や琵琶たちはそれに乗り込む。
俺たちも二人三脚でそれに続いた。
* * *
それから数日後、任務のない俺たちは、悲田院で座学を受けていた。
アレから導線を新調すると、腕の痛みはすっかり消えてしまい、筋肉に違和感のみが残った。
教壇の前で、測量部の人間が算術の公式を黙々と書く。
座学を受けることも、復讐の第一歩であることには変わりない。
だが俺は退屈していた。
周りの契約者たちも同じ気持ちであろう。
隣で槍馬が大きな欠伸をする。反対側では、美奈が必死に筆を動かして、ボード紙に書かれていく図面と数式を書き写している。
前では鏡子が手鏡を取り出して自分の顔に見惚れ、横では新潟が刃の手入れをし、反対側では斥が鏡子のことを一瞥しては、またボード紙を見て数式を写すものの、集中することが出来ていないようである。
早く馬田たちみたいに任務に出たい。
土色の剣を持つ聖に対する情報を出来るだけ集めなければならない。
噂によれば、極長が最近、自動翻訳機の開発に成功したらしい。
噂が本当なら、聖たちからは、もっと多くの情報を引き出すことが出来る。
・
・
・
「パチン」
暗転する世界に、衝撃が飛ぶ。
一瞬何事かと思った。
測量部の人間が異変に気づき、黒澄を問い詰める。
「どうした黒澄? 」
「桐生慎二二等兵を、元の世界に引き戻していたであります。」
彼はため息をついた。
「またお前か。今週で何回目だ。お前は座学の成績も悪い。座学がなんたるかをまた仕込んでやる必要があるか? 」
黒澄のチクリのせいで、また面倒臭いことになった。
正直なところ、お世辞にも俺にそっち系の能力があるとは言いがたかった。
俺は隠密行動や、工作作戦の成績が軒並みに低い。
別に努力しなかったわけでは無いのだ。
その証に、図書館で情報開示ランクが上がるごとに俺の知識は増えていった。
しかし、その知識を応用する機動的な思考力が俺には無かった。
そういう関係のものは、馬田や伊那目に任せれば良いし、彼ら二人いれば十二分だ。
彼らと敵対することは恐らく今後とも無いだろうから。
バケツからボロ雑巾を取り出すと、キツく搾り、両手をつけ、走り出す。
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