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大陸遠征
出発
しおりを挟む一週間後、俺宛に霧島からの司令が来た。
<メンバーは決まった、決行は二週間後>
それから二週間、不思議と未知の大陸に対する緊張や、恐怖などは無かった。
俺にあったものといえば、土色の剣を携えた少年(おそらくもう青年へとなっているだろう。)と大陸で対峙する妄想と、呪具のせいか、俺の心から燃え上がっているのか、復讐心がメラメラと、俺の身体をハラワタから火を上げる。
結構日の暁七つ、ここは都から数キロ離れた森林地帯だ。
契約者試験にも使われた場所。
七宝隊長の元には少数の契約者たちが集まっていた。
霧島を筆頭に、馬田や琵琶、熱海、灰弩、羽々斬。
そして鉄の契約者の麻川と、鏡子、斥も志願したらしい。
新潟は家柄か……うるさくなるなぁと思っていたら。
「なんでお前がいるんだ? 」
黒澄がそこにいた。
「お前じゃ危ない。今ならまだ間に合う、七宝隊長に取り繕ってこい。」
黒澄は力なく、ため息をついた。
「どこ目線の言葉なのかしらね。」
「私の親、武家だって前に言ったでしょ。妹が家を継ぐから。」
彼女がここに来た理由は、新潟と同じだということを今知った。
しかし、彼女には新潟のような胆力も無ければ、空中で男の脚を持ち上げて叩きつけるほどのフィジカルもない。
契約者といえども、センター・オーシャンを横断できるほどの体力が、黒澄にあるとは思わなかった。
「だけど、私も足手まといになるつもりはないわ。一応、倒したのよ、あの霧島教官を。」
この感情は彼女に対する気配りからくるものだ。
が、しかしそんな感情を彼女に抱くこと自体がナンセンスである。
そんな気がした。
俺たちは十三部隊、俺は彼女が女だというだけで、いらぬ心配をしていたのかもしれない。
「お互い頑張ろうな。」
<慎二は自分の心配をした方がいい。>
霧島はそう俺に思念を飛ばすと、再び七宝の元へと戻っていった。
「みんな揃ったな。それじゃそれぞれの役割をもう一度確認する。」
七宝だ。
「まず灰弩と、羽々斬、麻川と熱海は、契約者たちの輸送に集中しろ。万が一戦闘になった時も、能力を浪費するな。麻川は機体生成、熱海は動力源。灰弩と羽々斬は交代しながら、エネルギー生成を行え。」
「「はっ」」
「霧島と馬田、琵琶は偵察、情報取集に徹しろ。万が一の時は、前衛をバックアップ。新潟、桐生、志築は、交戦時に、前衛を頼む。」
「「はっ」」
「最後に黒澄と鏡子、お前たちは後方支援を頼んだぞ。」
「「はい。」」
「お前らが居ないと、馬田や霧島たちが接近される。護り切るのがお前たちの仕事だ。」
「「はっ」」
麻川が鉄板を出現させて、契約者たちを乗せる。
後方に形成された動力源に、熱海が熱を与える。
それを、最初は、灰弩が動かした。
凄まじい爆音と共に、機体が飛び上がる。
今の音で、数キロ先の極東人が飛び起きたかもしれない。
気持ちの良い朝の風が、俺の首筋と、ツノを撫でる。
昼下がり、もう数時間水素を放出し続けている灰弩であるが、一向に疲れる様子はない。
先輩方の底力を見せられたというところか。
羽々斬が灰弩に話しかける。
どうやらそろそろ交代するらしい。
灰弩が涼しい顔で「夕方まで頑張れる? 」
と羽々斬に聞く。
羽々斬は「任せて下さい。」と胸を張り、両手を動力源へと掲げた。
夕方、能力施工でクタクタになった羽々斬に連れられたのは、得美士たちのアジトだった場所だ。
「今日はここで野宿をしよう。」
霧島が能力を発動させて、周囲の動物を捕らえる。
それを新潟と一緒に狩りまくり、アジトへと持ち帰った。
帰ると、黒澄たちが山菜や木の実を持ち帰っており、熱海と馬田と琵琶が料理の下準備をしていた。
羽々斬はというと、簡易ベットで伸びており、隣でそれを灰弩と麻川が介抱している。
俺は七宝隊長を呼びにいった。
「隊長、もうすぐ夕飯ができます。」
「ああ、分かった。すまない。」
七宝は空を見上げていた。
「星ですか? 」
「そうだ。お前も覚えているだろうシャルル・アイシャ。星を媒介とする魔術師。彼女の魔術に何か感じるものは無かったか? 」
ああ、覚えている。彼女の発動術式は独特だった。
「なんだか東洋式のモノを感じました。セル帝国のものに近いような。」
七宝はコクリと頷いた。
「ああ、彼女は元々、セル帝国の人質だ。」
「それが今はグランディルの側近をやっている。」
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俺は疑問に思った。
「極東で、誰が代行者の力を受け取るつもりだったんですか? 」
「お前の父親だ。」
父さんが? でもなぜ?
「なぜ、お前の父が、代行者を引き受けられる能力を持っているかを疑問に思っているな。」
「隊長、慎二、夕飯できたぞ~」
「……続きは、また話すことにしよう。さぁ冷めないうちに召し上がることとしようか。」
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