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燃える極東
お留守番
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慎二が極東遠征に行った後、骨元が業務を取り仕切り、宮内での会議などは、七宝の代わりに槍馬が出席していた。
槍馬が七宝の代役を任されたことには理由がある。
伴をはじめとする側近は、契約者をあまり良く思っていなかったことを、七宝はよく理解していたからだ。
なので、古くから天に仕えていた怪異狩りの一族、坂田家の彼が代わりに赴くことになった。
槍馬といえども、初めてのことだらけで緊張してしまい、声も出なくなってしまうが、皮肉屋坂上のサポートがあって、なんとかプレゼンをやり遂げている。
槍馬は今日も会議に出席し、治安維持の業務を終えた。
外では、幼馴染である美奈と、天の御子息である天子が、仲良く花を積んでいる。
「へぇくれるの? ありがと。」
美奈は俺に気がつくと、こちらに手を振ってきた。
「あ、槍馬が帰ってきたよ。おかえり。」
「あ、槍馬じゃ。今日はいつもより凛々しい顔じゃのお。」
「余計なお世話だ。」
この可笑しな口調は、世話係の老人譲りのものらしい。
老人によると、天子は生まれて間も無く、父と母を亡くし、すぐさま伴の傀儡となった彼が物心着く頃には、自分の存在も、自分が権力闘争に利用されていたことも、理解していたようであったらしい。
そのため、俺に坂田家の人間として、天子を影で支えてほしいとのことだった。
「坂田家か……」
天の側近であった父を思い出す。
「アレが人に頭を下げていたとはなぁ。母さんにも頭を下げねえ頑固野郎のくせに。」
天子が俺の袖を引っ張る。
「なあなあ、伴はもう帰ってくるのか? もう美奈姉やんとはお別れせなあかんのか?」
「ん~あ、伴はあの後坂上極長と個別に話し合いをしていた見たいだけど、もう帰った方が良いんじゃねえか。また書斎を抜け出したってバレたら、お灸据えられるぞ。」
「嫌じゃ嫌じゃ。お灸なんてそえられとおない。じゃが、姉やんとも別れたく無いし、勉強もしたく無いんじゃ。槍馬、助けてくれ。そちはワシの近衛じゃろ。」
俺は天子の背の高さまで屈むと、心を鬼にした。
「俺だって、お前みたいなちんちくりんにこんなこと言いたく無いさ。でもさ。言わなくても分かるだろ。聡明な天子様。」
天子は涙に目を浮かべ、泣き出した。
「そちなんか大っ嫌いじゃ。じいじと同じこと言って。」
「ワシは学問も政治もソチも大嫌いじゃ。」
そう言って彼は、書斎へと走っていってしまった。
「良かったの? あんな言い方しちゃって。」
「そんなこと、誰にも分からないさ。」
「だがな、伴も天子を極東のトップにしようとしている。その事実は変わらない。どこで情が移ったのやら。」
「腹減ったな。」
「せっかく中心街まで来たんだし、なんか食べて帰る? 」
「そうしよう。今日は喉に飯が通りそうだ。」
俺たちは、外食店の暖簾をくぐる。
「へいらっしゃい。」
気のいい兄ちゃんが俺たちを出迎えてくれた。
「二名様、テーブル席ね。」
俺たちはそれぞれソファに腰掛けると、世間話を始める。
「慎二たち、今どこら辺かな? 」
美奈が声を抑えて聞いてくる。
「もう地図の端にいるか、地図の外に出たんじゃねえか? 」
「わー。ねえねえ私たちも行くべきだったんじゃ無い?とても楽しそう。」
「七宝隊長が美奈を任命しなかった理由が分かったよ。」
「いいじゃない!! ちょとぐらい楽しんだって。」
美奈が頬を膨らませる。
「北は過酷だ。今、極東には春がきたが、北の方はまだ雪が溶けてないし危険だよ。」
「槍馬はなんで北がここより寒いって分かるの? 」
「蝦夷の遠征に行った時は、ここより寒かっただろ。地図の外はもっと冷えるぞ。」
美奈は肩を抱えて震え出した。
「やっぱり行かなくて正解だったかも。」
「てかさ、ならなんで慎二を止めなかったの? 」
俺は少し考えてから答えた。
「その方が、慎二のためになると思ったからさ。」
美奈は首を傾げてから、何かを察して、
「へぇ、槍魔は私と二人っきりが良かったんだ。だから慎二を追いやっちゃったのね。もー気づいてあげられなくてごめんなさいね。」
「オマエノジイシキカジョウナンジャネエカ。」
「もう照れなくても良いのに。」
「言わなきゃダメか? 」
「分かるわよ言わなくても、慎二が遠征に出る時の顔、慎二が出兵するときはいつもあんな顔だもん。」
美奈は続けた。
「私は止めるべきだと思った。七宝隊長にもちゃんと伝えた。でも『コレはアイツ自身の答えだ。』って。」
「ねえどうしよう。遠征先で、バッタリ聖と、それもブレイク家と出会したりなんてしたら……」
「美奈、料理が来た。冷めないうちに頂こう。」
俺たちは無言で食事をした。
槍馬が七宝の代役を任されたことには理由がある。
伴をはじめとする側近は、契約者をあまり良く思っていなかったことを、七宝はよく理解していたからだ。
なので、古くから天に仕えていた怪異狩りの一族、坂田家の彼が代わりに赴くことになった。
槍馬といえども、初めてのことだらけで緊張してしまい、声も出なくなってしまうが、皮肉屋坂上のサポートがあって、なんとかプレゼンをやり遂げている。
槍馬は今日も会議に出席し、治安維持の業務を終えた。
外では、幼馴染である美奈と、天の御子息である天子が、仲良く花を積んでいる。
「へぇくれるの? ありがと。」
美奈は俺に気がつくと、こちらに手を振ってきた。
「あ、槍馬が帰ってきたよ。おかえり。」
「あ、槍馬じゃ。今日はいつもより凛々しい顔じゃのお。」
「余計なお世話だ。」
この可笑しな口調は、世話係の老人譲りのものらしい。
老人によると、天子は生まれて間も無く、父と母を亡くし、すぐさま伴の傀儡となった彼が物心着く頃には、自分の存在も、自分が権力闘争に利用されていたことも、理解していたようであったらしい。
そのため、俺に坂田家の人間として、天子を影で支えてほしいとのことだった。
「坂田家か……」
天の側近であった父を思い出す。
「アレが人に頭を下げていたとはなぁ。母さんにも頭を下げねえ頑固野郎のくせに。」
天子が俺の袖を引っ張る。
「なあなあ、伴はもう帰ってくるのか? もう美奈姉やんとはお別れせなあかんのか?」
「ん~あ、伴はあの後坂上極長と個別に話し合いをしていた見たいだけど、もう帰った方が良いんじゃねえか。また書斎を抜け出したってバレたら、お灸据えられるぞ。」
「嫌じゃ嫌じゃ。お灸なんてそえられとおない。じゃが、姉やんとも別れたく無いし、勉強もしたく無いんじゃ。槍馬、助けてくれ。そちはワシの近衛じゃろ。」
俺は天子の背の高さまで屈むと、心を鬼にした。
「俺だって、お前みたいなちんちくりんにこんなこと言いたく無いさ。でもさ。言わなくても分かるだろ。聡明な天子様。」
天子は涙に目を浮かべ、泣き出した。
「そちなんか大っ嫌いじゃ。じいじと同じこと言って。」
「ワシは学問も政治もソチも大嫌いじゃ。」
そう言って彼は、書斎へと走っていってしまった。
「良かったの? あんな言い方しちゃって。」
「そんなこと、誰にも分からないさ。」
「だがな、伴も天子を極東のトップにしようとしている。その事実は変わらない。どこで情が移ったのやら。」
「腹減ったな。」
「せっかく中心街まで来たんだし、なんか食べて帰る? 」
「そうしよう。今日は喉に飯が通りそうだ。」
俺たちは、外食店の暖簾をくぐる。
「へいらっしゃい。」
気のいい兄ちゃんが俺たちを出迎えてくれた。
「二名様、テーブル席ね。」
俺たちはそれぞれソファに腰掛けると、世間話を始める。
「慎二たち、今どこら辺かな? 」
美奈が声を抑えて聞いてくる。
「もう地図の端にいるか、地図の外に出たんじゃねえか? 」
「わー。ねえねえ私たちも行くべきだったんじゃ無い?とても楽しそう。」
「七宝隊長が美奈を任命しなかった理由が分かったよ。」
「いいじゃない!! ちょとぐらい楽しんだって。」
美奈が頬を膨らませる。
「北は過酷だ。今、極東には春がきたが、北の方はまだ雪が溶けてないし危険だよ。」
「槍馬はなんで北がここより寒いって分かるの? 」
「蝦夷の遠征に行った時は、ここより寒かっただろ。地図の外はもっと冷えるぞ。」
美奈は肩を抱えて震え出した。
「やっぱり行かなくて正解だったかも。」
「てかさ、ならなんで慎二を止めなかったの? 」
俺は少し考えてから答えた。
「その方が、慎二のためになると思ったからさ。」
美奈は首を傾げてから、何かを察して、
「へぇ、槍魔は私と二人っきりが良かったんだ。だから慎二を追いやっちゃったのね。もー気づいてあげられなくてごめんなさいね。」
「オマエノジイシキカジョウナンジャネエカ。」
「もう照れなくても良いのに。」
「言わなきゃダメか? 」
「分かるわよ言わなくても、慎二が遠征に出る時の顔、慎二が出兵するときはいつもあんな顔だもん。」
美奈は続けた。
「私は止めるべきだと思った。七宝隊長にもちゃんと伝えた。でも『コレはアイツ自身の答えだ。』って。」
「ねえどうしよう。遠征先で、バッタリ聖と、それもブレイク家と出会したりなんてしたら……」
「美奈、料理が来た。冷めないうちに頂こう。」
俺たちは無言で食事をした。
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