神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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燃える極東

リベンジマッチ

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「こんなところか。」
 何かに縛られ、暴れ出していた心臓は収縮を緩め、元の心拍数に戻ろうとしていた。
 ようやく体に自由が効くようになり、俺は息を吹き返す。
 目の前に転がっている血溜まりを見ながら、息を大きく吐き出した。
 自分の身体が意図せぬ動きを見せたこともあるが、やはりそれよりも、身体が人間の限界を超えた動き(契約者になり、身体が頑丈になったとはいえ)をしたことによるリバウンドが大きいだろう。
「ドクン。」
 再び心拍数が上がり、あの感情が戻ってくる。
"もう終わったんだ。制御しないと。"
 しかし、血圧は下がるどころか、右肩上がりだった。
 さっきよりも強い衝動。
「ええい静まれ!! 」
 そうだ、俺はこの宿命を支配しなければならない。今の俺は、坂田家の呪いに身体を使われている。
「お前らが俺を使うんじゃ無い。俺がお前らを使うんだ。」
 左手の布津御魂がガタガタと震え上がると、刀に押し込められていたドス黒い瘴気が俺の腕の静脈に抉り込み、流れ出した。
 俺の意識が朦朧になるにつれて、目の前の血溜まりが、粘土のように捏ねあがり、やがてカーミラ・ブレイク自身を作り出す。
"さっきと魔力量がまるで違う。"
 布津御魂がただならぬ瘴気を放っているのは、コレが原因だ。
 俺の精神は底なしの沼に沈んでいく……
「ドボン。」
 ついには全身を飲み込まれ、加速する心拍と、息の続かない沼の中で精神だけでなく意識まで持っていかれそうになる。
「起きなさい槍馬!! 」
 凛々しくも優しい、懐かしい声が、真っ暗な沼を明るく照らす。
 沼はその声に浄化されたのか、澄んだ清水へと変わっていった。
「貴方は坂田家の子供。貴方の父も、祖父も曽祖父も、この呪いに打ち勝ち、従えて来ました。」
「でも母さん、俺には無理だよ。」
 母は首を横に振った。
「呪いを制御するのは貴方だけでは無い。」
 握っていた布津御魂から、オヤジ、おじいちゃん、そして、そして、坂田一族の家紋を胸に背負った男たちが、俺の左手に触れ、ドス黒い瘴気を吸収していく……
 オヤジが俺の背中をどついた。
「いけ槍馬!! お前を従えていいのは、天子だけ。坂田家の家紋を背負うなら、何者にも支配されない人間になれ。」
 オヤジが背中を押してくれたおかげで、俺は再び水面の陽へと顔を出すことが出来た。
 息が苦しかった分、より多くの空気を取り入れようとする。
気がつくと、俺はカーミラと戦っていた。
 意識は無かったが、彼と戦っていたことは覚えている。
 彼は剣だけでなく、身体にもその力を宿していた。
---虚斬影タキオンブレード---
 放たれた斬撃は、カーミラの上半身と下半身を真っ二つにするが、斬れた場所の次元が歪み始めると、何事も無かったかのように縫い戻される。
 彼はそれを予期していたのか、捨て身で懐に潜り込んできた。
「しまっ。」
 左腕を刺されるが、あまり痛く無いことを疑問に思い、左手腕を見る。
 俺の左腕には、奴の呪具が刺さっていた。
「しまっ。」
 空間移動の呪術が発動し、俺は明後日の座標に飛ばされる。
 散々身体を揺さぶられ、脳震盪を起こしたところに、極東タワーの支柱へとめり込まれた。
 檜の弾力が俺の身体を押しつぶす。
 刀を動かして脱出を試みるが、内木がみっちり俺に張り付いて動けない。
 刺さった奴の呪具がひかり、カーミラが俺の前に現れる。
「へぇ。吸血牙はこういう使い方もできるのか。」
 目の前の化け物は、俺で自分のエモノの性能を試していた。
 親指が動かなくなった左手で、なんとか布津御魂を振るう。
 当然彼は避けるそぶりすら見せない。
 刀の瘴気を正面から受け止めて、吸収した。
 カーミラは、呪具で運動エネルギーを一座標にとどめると、一気に放出してくる。
 流石にまずいと思った俺は、両手の武器で彼の右脚をガッチリ捉えた。
「グキッ。」
 運動エネルギーは、俺の両腕を通して、支柱の内部に押さえつけられている背骨へと集中した。
 支柱はそのエネルギに耐えられるはずもなく、砕け、俺は地面に向けて急降下する。
 そこへ先回りしたカーミラが再び俺を空へと打ち上げる。
 防御に徹する間も、俺は呪いをその場所に残すことを忘れなかった。
 徐々に俺の周りには、布津御魂の斬影が散らばっていく。
 俺は惨めにお手玉をされている間に、彼の空間転移の法則性を導き出した。
"当たり前のことだが、俺の周りにしか転移してこない。俺が放つ攻撃は、全て真っ正面から受けて、俺に無理やりブレイクポイントを作り出している。"
"また、他の物に触れている時は空間転移を使ってこない。"
"さっき、地に足をついた時に、破片が転移先から降って来たのはそのためか。"
 どうやら、遠距離攻撃に弱いのは、俺だけでは無いようだ。
---秘技ー針鼠ペイン・フォーカス---
 散りばめた呪いを俺の周りに集める。
 俺の後ろに回っていたカーミラが慌てて引き下がる。
 距離が開いたところで、彼へ向けて呪いを放った。
---投射!! ---
 呪いがマシンガンのように打ち出される。
 彼は空間転移を使わず、空中で必死に攻撃を避けていた。
 黒い針が、彼の頬、首、腕を傷つけ始める。
 思った通りだ。
 ああいう便利な能力には、それ相応のデメリットが生じる。
 座標の計算を見誤ると、致命的なミスに繋がりかねない彼は、座標を対象に固定しているのだ。
 常に一点を決めておくことで、そこから算出される計算を二点に省いている。
 その一点とは俺だったという訳だ。
 針を飛ばし、彼を追い詰める中、彼はついに、座標の三点計算を始めた。
 このままではジリ貧だと感じた彼は、極東人ビルの外壁へと転移し、勢い余った運動エネルギーで、壁に強く打ちつけられる。
 その衝撃も、剣の力でどうにか出来ると気づいた彼は、俺の黒い針すらも、剣の力で歪め、無効化してくる。
 俺は光速で移動する彼を自分の術式でなぞった。
 耐久度を失った木造建築たちが次々と鈍い音を立てて倒れる。
 俺は大きく跳躍し、倒れて来た極東タワーを踏み台にしながら、夜空の満月と重なった彼に飛びかかった。
 彼は呪具力を使い、俺の攻撃を避けようとする。
 が、能力が発動しないことに戸惑っているようだ。
「満月。つまり陽の光。吸血鬼が一番苦手とするもの。」
 俺が極東の街を無茶苦茶にしたせいで、周りに建造物は一つもない。
---鬼殺しデモン・ハンター---
 俺は濃縮された時間の中で、頭部に一三、腹部に六十六、左腕に四、右腕に九箇所、左足に十七、右足に五ヶ所の計百十四連撃を叩き込む。
 俺の両腕は、オーバーワークで動脈が破裂し、あちこちから血が噴き出す。
 俺は赤くなる視界の中で、同じく地面にむけて自由落下を開始したカーミラを見た。
「勝った。自分にも、悪霊にも、奴にも。」
 魔の力が収まるにつれて、俺の身体も落ち着いていく。
 急な血圧の低下と、自由落下によって俺は意識を失った。

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