神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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燃える極東

取引

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……僕は月下の廃墟で目を覚ました。
 背中に瓦礫が刺さって痛い、よく確認してみると、まだ左手腕は無くて、今は右足首の踝を再生している途中だ。
「ったく世話のかかる弟だぜ。」
 後方で待機していたプラウド兄さんだ。 
 背中から水を放出させて、フライボートのように飛んでいる。左腕には、小さな子供を抱えていた。
「なぁ。最初からこうしとけば……オイ!! 暴れるな。死にてえのか。」
「離せ無礼者!! このワシを誰と心得ておる。」
「んあ? しょんべん臭えガキが!! 今ここでお前を殺しても良いんだぜ。ちょっとは自分の立場を考えたらどうだ。」
 僕は右手で無理やり身体を起こすと、静かに首を振った。
「兄さん……その子を離してあげて。」
「あのクソオヤジが手ぶらで家に入れてくれると思うか? 」
「天子ちゃ~んどこに行ったの~」
 最悪のタイミングだ。
「nige……声にならない声で叫ぼうとする。」
 がそれよりも早くプラウドが彼女に目をつけた。
「神族。それも最後の王族で『継承している方』。」
 僕はプラウド兄さんを止める。
「彼女はレンによく似ているけど、レンじゃ無い。美奈って言う女の子だ。だから兄さん。彼女だけは見逃してあげて。」
 兄さんは僕の胸ぐらを掴んだ。
「今、俺を騙そうとしたな。そんな嘘が通用すると思うなよ養子の分際でよ。」
 兄さんが僕の胸ぐらを離すと共に、支えを無くした僕の体が地面に転げ落ちる。
「グッ。」
「今のは聞かなかったことにしといてやる。」
 もう何回目の言葉だろうか。プラウド兄さんはいつも僕が責められた時、うまく取り繕ってくれる。
 ドミニク兄さんにウボク侵略のことで怒られた時もそうだった。
 今回は台与鬼子がいないからと言うことで、なんとか出してもらえたのに、僕は何をしているんだろうか。
「良いか。お前に後はない。あの少女を捕まえるか、お前が帰還中に馬車から落ちて事故死するかのどっちかだ。」
 兄さんは、彼女の方へ向けて大声で叫んだ。
「おい、そこの女。」
 彼女は振り返ると、角のようなモノを掲げようとする。
「変な気は起こすな。時間操作をしたところで、神器を持っている俺たちには効かない。」
 彼女は天子に気がつくと、叫んだ。
「その子を返して!! 」
「美奈姉やん!! 美奈姉やん!! 」
 天子が兄さんの腕の中で暴れる。
「オイ……」
 兄さんの鋭い目つきに睨まれると、天子は恐怖で体が硬直してしまった。
「オイ、女。取引だ。お前がこっちにこれば、このしょんべん小僧は返してやる。」
「どうする? 」
「貴方が天子を離さなかったら? 」
「俺が嘘をつくような男に見えるか? 」
「ええ、貴方からは嘘の臭いしかしません。」
「嬢ちゃん。この世にはな良い嘘と悪い嘘があるんだ。」
「だとしても嘘をつく人は嫌いです。」
「チッ。」
 兄さんは天子を向こう側に放り出す。
 それを見逃さなかったレンが、天子を抱えて逃げようとする。
 が、兄さんの方が数秒早かった。
「嘘をつく人は? なんだっけ。」
「私は貴方の交渉に応じるとなど一言も言ってません。」
「今言ったなクソアマがっ!! 」
 兄さんは、レンから天子を引き剥がして放り出すと、レンの腹に一発食らわせて気絶させた。
「もうすぐ契約者たちが来る。ずらがるぞ。」
 気がつくと、僕の体は綺麗すっかり治っていた。
「気色悪い体だ。生命に対する侮辱を感じる。」
「兄さん。置いていこうよ。」
「もうコレはお前だけの問題じゃない。俺の命も掛かっているんだ。あとは言わなくても分かるな? 」
 答えることは出来なかった。
 そうだ、僕も聖人君子なんて歌われても、結局自分が一番可愛いのだ。
 自分が危なくなれば、すぐに人を見捨ててしまう。
 僕を斬ったあの少年が言ったように、他人に非道になれない弱い人間なだけで、決して人格者というわけではない。
「飛べるか? 」
 僕は首を横に振った。
「あの青年との戦闘で、帰還する力など残っていないです兄さん。」
(チッ)
「どこまでも世話の焼ける弟だ。」
 兄さんはドライなフリをしているが、根は凄く優しい人なのだ。
 
     僕と違って。


     * * *

 プラウド兄さんに連れられて、宮廷にやって来た時、最初に出迎えてくれたのは、エイレネだった。
 彼女から最初に受けた言葉は、アイシャがどういうわけか祖国のセル帝国に捕まったということ。
「カーミラ、そんな身体じゃ。それにアイシャさんなら大丈夫よ。あそこは彼女の祖国だし、あの人とても強いし。」
 僕はそんな言葉も聞かずに、宮廷を飛び出した。
 魔力切れで飛べないので、馬車を借りる。
 幸い、僕の乗っている馬車が横転することはなかった。
 


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