神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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悪魔の国

鉢合わせ

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 馬車に乗り、山脈の谷間を抜けると、徐々に広葉樹林が低木に変わっていき、次第に砂の世界が広がっていく。
 僕は月灯を頼りにただ進み続けた。
 さすれば、大理石で出来た金色の城が向こうからやってくるのだ。
 僕は以前、アイシャに連れられて、セル帝国に赴いたことがあった。
 それがこんな形で役に立つとは思っていなかったけど。
 僕は門番にグランディルの紋章を見せてから、中に入る。
 辺りはもう寝静まっていることを考慮し、馬車は止めて、徒歩で城内に入ることにした。
 城門で門番に話をつける。
 門番は
「もう城のものは寝静まってますから。」
 と手を振るが、自分が王子であることを良いことに、それを押し退け、空間転移で、上がっている跳ね橋を飛び越える。
 城の重い扉を開け、広間へと急いだ。
 広間の奥には……
 ステンドグラスの下で十字架を持つ一人の男が立っていた。
 ステンドグラスは、どうやら、この国の象徴である悪魔が、天使の羽を生やして、神に対抗する様子が描かれている。
 なんとも不気味な絵だ。
「こんな夜更けにどうした。グランディルの王子様とはいえ、こんな時間に面会とは、非常識にも程があると思うが……」
「非常識なのは貴方の方でしょ。アイシャが何をしたって言うんですか? 罪状は? 貴方の国のどの法に触れたんですか? 」
「国家転覆罪だよ。アイシャはこの国の神の器を殺そうとした。」
「ふん、人様の国から武器をぶん取ろうとしているセケエ奴には言われたきゃねえな。」
 見覚えのある額の左に角を生やした少年が、裏口から入ってくる。
「私のした窃盗とは比にならない犯罪だ。シャルル・アイシャは、この国の未来を奪おうとした。結果、彼女の覚醒を促進することが出来たからオーライなんだけどね。」
 まるで、彼が来ることを予期していたような口ぶりだ。
「とても嬉しいよ、来客は。僕はこの国から出ることができないからね。」
 僕は理解できないことが多すぎて、思わず彼に聞いてしまう。
「極東から魔具を盗んで何をしようとしていたんですか? 」
「簡単な話さ。力を得るため。それ以上でもそれ以下でもない。」
「野蛮な…… 」
 彼はその言葉を鼻で笑った。
「それは君たち聖も同じことだろう。人類は野蛮だ。君たちのその力は、本当に君自身のものか? 他者から譲り受けたものだろう。そうだ。この世に権利など存在しない。生きる権利も、所有する権利も、全て与えられたもの、他者から奪い取ったものを、権利と言い張っているだけだ。」
 男は続ける。
「昔話をしよう。むかしむかしあるところに、人間が運営する農場が存在した。そこの動物たちは、人間からの重圧に飽き飽きしていてね。ついに蜂起して自分達の国を作った。しかしだね……」
「動物をまとめた豚は、動物の中でも、自分達がさらに平等な動物であるとして、人間になったって話だろう。」
 鬼の少年がそう答えた。
「そうだ。ある人間は『此一門にあらざらむ人は皆人非人なるべし』と言った。獣たちは皆、『人間』になるために立ち上がったのだ。」
 鬼の少年が首を傾げた。
「何が言いたい? 」
「全てはセル帝国民が……いや全世界の獣たちを『人間』に昇華するために。」
 僕は武器を彼に差し向けた。
 鬼の少年も、銃のような魔術具を額に当てている。
「オメエのおめでたい理想なんてどうでもいいけどなぁ。」

    
「他人を巻き込むんじゃねえぞ。意識高い系。」
 
「こい、リーム。」
 男が叫ぶと、二階の吹き抜けから少女が現れ、少年に金色に輝く白刃を放った。
「キン!! 」
 が、それを巨大な鋏のようなものを持った女が弾き返す。
「遅いぞ新潟。」
「ごめん。ペイントを落とすのに時間がかかった。」
「んなもんどーでもいいだろうがよ。」
「だって……凛ちゃんにあんな顔見せられないじゃん。」
 男はため息をついて、足場から武器を取り出す。
「次から次へと……どうやら僕も戦わなければならないみたいだな。」
 
 
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