神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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悪魔の国

鬼影

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「なんだ? この力は? 」
 私は急いで少年から凛月を引っこ抜くと、小太刀の頭身にドス黒い影のようなものがこびりついていることに気づく。
 次の瞬間。少年の傷が黒い影に覆われると、跡形もなく消え去る。
 そして、放り投げられた銃鬼へと話しかけた。
「久しぶりだなかーちゃん。元気にしてたか? 」
---お前は!! 鬼影か? ---
 さっきまで落ち着いていた呪具が、取り乱した様子で鬼影という存在に言葉を返している。
「おい、凛月。銃鬼は少年の呪具では無いのか? 」
---私のせいだ!! 私が自分のことばっかり考えて、慎二を一人にしちゃったから。慎二郎……どうしよう---
「ッチ。」
 私は舌打ちをすると、すぐさま悪魔石を取り出して、ハムサに話しかけた。
「今すぐに、凛月の力を強化しろ。このままでは、お前との計画も台無しになる。」
「んお? いつものクールな貴公子はどこに行った? 随分と余裕がないじゃ無いかい? 」
「当たり前だ!! あんなドス黒くて強烈な魔力、今まで感じたことがない。」
「気をつけろ。お前は元々彼女の契約者では無い。無理はするなよ。なにも無い平面に無理やり鍵を差し込んでいる状態なんだからさ。」
 私の身体に魔力が充填されるのが分かる。
 私は地上へ降りると、鬼影の元へと向かった。
「ハハハハ。シャバの空気は美味いぜ!! 」
 そこへ、交戦中だったリームと契約者の女がやって来る。
 力を少し回復させたカーミラ・ブレイクも彼を止めようとしてた。
「王様? アレは一体? あなたの仕業ですか? 」
「アスィールで良い。私のせいじゃ無いというのなら嘘になるな。」
---どうしよどうしよ、こんな時、慎二郎なら…… ---
「おい、凛月!! 」
---分からない…分からない… ---
「おい!! 」
---はい!! 王様!! ---
 私は碧野双薔とハムサを融合した時に使った術式を思い出す。
「力をよこせ。鬼影を少年と融合させるぞ。」
---でもどうやって? ---
「お前は何もしなくて良い。術の発動も、印を結ぶのも、全部私がやる。」
「ガハハハハハ、人間バイキングだせぇ!! 」
 リームに鬼影が出した影の塊が襲いかかる。
---sunburstサン・バースト---
 彼女の日の光を触媒にした術式で、なんとか攻撃を防いでいるが、満月の夜といえど、今は夜。
 昼ほどの力を発揮することは出来ない。
 私は、彼女たちに割り込み、鬼影の、影を凛月で受け止める。
「凛月ッ。」
 彼は低い憎しみを込めた声でそう呟いた。
「おい、そこのお前? 前の宿主はどうした? 」
「お前が今乗っ取っているソイツだ。」
 鬼影は影を放出させて叫んだ。
「違うぅぅぅぅ 違う!! 違う!! MISTAKE!! 」
 その問いに答えたのは凛月だった。
---慎二郎は死んだよ。殺されたからもうこの世には居ないんだ---
「なんだと……」
---君を産んだ美鬼さんも死んだ。聖に殺されたんだ---
「ちくしょ~俺が閉じ込められていたうちに……みんな…みんな…勝手に……」
「早く!! コイツ鬼影を止めろ!! 」
 少年らしき人格が、あの鬼には、まだ残っていた。
---王様!! 力を貸して? ---
「街で人を食い始める前に閉じこめる。」
 私は再び身体強化をかけると、鬼影の懐に飛び込んだ。
「なんだ? また俺を封印しようってのか? そうは行かねえ!! せっかく出てこられたんだからな!! 」
---影丸カゲマル---
 彼の影から出現した漆黒の狼が、私に襲いかかる。
---雷刃ライジン---
 私はそれを、雷の刃で一刀両断する。
 彼はその隙にすかさず、次の術式を編んだ。
---影結カゲムスビ---
 彼の本体と、影が融合する。
 私は彼に斬りかかるが、水音を立てるだけで、また元通りに繋がってしまう。
 背中から飛び出ている触手の存在に気づき、バックステップで後ろに下がる。
 そこへ、大きな鋏を持った契約者が割り込み、触手を弾き返す。
「オイ、慎二ィ!!僕は、お前が凛月を連れて帰ってくるって言ったから信用したんだぞ。」
 私は彼女へ向けて叫んだ。
「アレは君の知っている少年では無い。」
 カーミラが空間転移を使い、私の元へとやって来る。
「僕たち二人で、あの鬼を抑えます。」
「なら私は、術式を組む。」
 その言葉に二人は頷き、鬼影の元へと走っていった。そこへリームがやって来る。
「リーム、二人のバックアップをしろ!! 」
 彼女はコクリと頷く。
「アスィール様はどうなさるのですか? 」
「双薔に使ったのと同じヤツを使う。」
「成功しますか? 」
「それも彼次第だ。」
---辻斬ツジギリ---
 ---slash of dimensionジゲンザン---
 二人が鬼影の影の部分だけを切り剥がす。
 反動で影が飛び散る。
 リームは慌てて術式を展開した。
---land wallランド・ウォール---
 岩の壁が、影の雫から彼女たちを守る。
 そして、私はその隙を逃さなかった。  

 ---تحويل الطاقة---

 凛月から無数の鎖が溢れ出す。
 私はその反動に耐えきれず、口から血を吐いた。
---アスィール!! ---
「構うな続けろ。」
 鎖はガッチリ鬼影を捉える。
「クソッまた俺は!! あの暗い部屋に閉じ込められてしまうのかよぉ~ 」
 
     * * *

 真っ暗な四角い箱。
 そこに俺は立っていた。アレ? 俺はどうしていたんだけっけな。
 確か凛月に身体を差し出して、彼女に心臓を貫かれて……それから……
 そこへ馴染みのある少女が落ちてきた。
「慎二っ!! 」
 俺はその少女を抱きしめる。
「どうして言ってくれなかったの? 身体がどんどん侵食されていっていたって。」
 俺は少し考えてから答えた。
「正直気づいてほしかったかな? 『お前がいなきゃ死んじゃう。』なんて男が言ったらカッコ悪いだろ。」
 彼女は新鮮な眼差しで俺を見た。
「これからは隠し事無しだよ。」
「ああ。」
 俺は凛月の手を取った。
「なぁ凛月? 心だけじゃなくて、俺の身体も鍵として補完してほしい。」
「ん? 」
「だから!! 銃鬼に取られちゃったんだよ。感情だけじゃなくて、体まで。」
「ムフフ。分かったよ。」
  

 俺は城の瓦礫の上に寝かされていた。
 起きると新潟が俺の肩を揺さぶった。
「オイ、怪我人だぞ。丁重に扱え。」
「……悪かったよ。」
「いや……でも迷惑かけたな。」
 アスィールがそこにやって来る。
「君の魔具の力を少し貰うことが出来れば、凛月は返すつもりだった。」
 俺は彼に問いかけた。
「どうしてこんなことをしたんだ。」
「時が来れば、みんな分かるようになるさ。」

 俺はカーミラ、リームにも礼を言うと、セル帝国を後にした。
 そして、新潟が申し訳なさそうに話しかけて来る。
「お前が凛月と契約したのって?  」
「さぁな。両親から何も告げられてなかったから。父さんが俺の身体に鬼影を封印したなんて……」
「さて帰るぞ極東に、復興の手伝いだ。」
 そこへ極東軍がやって来る。
「禁忌指定魔獣、桐生慎二。お前を極東に連行する。」

 

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