神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

トライドラン

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 俺は牡丹に連れられて、ユグドラシルの入り組んだ道管を抜けて、バックドアにたどり着く。
「慎二、ここだ。」
 俺は思わず訊いた。
「分かるのか? 牡丹? 」
「うん、僕はこの呪具の契約者だからね。君を牢から連れ出すことが出来たのも、アジトが襲われた時、全員を引っ張り出すことが出来たのも、この言葉に出来ない能力のお陰だよ。」
「お前凄いな。」
 牡丹は少し顔が赤くなると、それを隠すように俺たちを押し出した。
「早く、バックドアの向こうにはもうプラウドがいるはず。」
「分かった。下がってろ。『繋がる』ってことは、こっちに攻撃も入ってくるし、下手すりゃあ異物が転がり込んでくるってことだろ? 」
「極東の偵察ドローンが紛れ込む可能性も大いにありうるってことね。」
 と伊桜里。
 ドミートリィが牡丹に忠告した。
「ドアを開けて、俺たちを放り出したらすぐに扉を閉めろ。それから変な異物が空間内に紛れ込んでいないか、すぐに索敵しろ。」
「分かったよ。任せて。」
 俺たちは扉を開けると、砂漠に降りさった。

      * * *

 プラウドは急に現れた俺たちを見て。流石に驚くと、「おいおいおいおい、それはねえだろぉお前。」
 と余裕の表情を見せた。
 伊桜里が別の方向に走り出す。多分亜星がアイシャを見つけたのだろう。
「極東がお前らの根城を叩くっていうからよ。そのうちにチョチョイと領土を増やしてやろうかと思っていた矢先……」
 彼は腰からトライドランを抜き構えた。
 鞘から三叉に分かれたセルリアンブルーの剣が顕になった。
「コレは思わぬ誤算だぜ。」
---裏斬レーヴァテイン---
 俺も無言で刀を構える。
「サシなんだからよ。どうなっても恨みっこ無しなッ。」
---hydraハイドラ---
 三つ首の水の龍が剣先から放たれる。
 砂漠の水一つない場所で、あふれんばかりの放出。
 俺は右手を翳し、ハイドラに直接触れると、電流を流し、彼自身に直接ダメージを与えようとした。
「おおっと。」
 彼は放った水を自分の元に引き込むと、それで攻撃をガードした。
 水なら電気が通るはず。
 俺はそのまま押し上げると、前進し、彼のシールドに、もう一度電流を流す。
 だが、シールドに電流が流れている様子は無かった。
「なぁボウズ、なんで水は電気が通りやすいか知ってるか? 」
 俺は下がって雷斬を作り出す。
 そして裏斬と雷斬で必死にシールドを斬り裂く。
「おおう、水を斬るか、大した奴だ。」
 だがシールドはすぐに再生し、元の形に戻ってしまう。
「おおう、攻撃が来ねえな。」
  俺は回り込む。
 シールドが広がれば、強度が下がると思ったからだ。
「無駄だ。」
 無理矢理シールドに割り込むと、彼の首を斬った。
 が、それは液体のようにドロリと溶けて、液体は元の形に戻る。
 それどころか、盾に触れた俺の右半身が吹き飛んだ。
 視界が半分消える。
"奴は……どこに行った? "
 左目で死角のプラウドを見つける。
 さっきとは比べモノにならないほどの速さ。
 右に回り込まれている。
 腕がないので、迎撃も不可能だ。
「水を操るって事は。つまりこういう事だ。ボウズ。」
 脳の断面にトライドランが突き刺さる。
「ブチュ。」
 痛々しい音。
 そのまま首が飛ぶ。
 右半身が回復するや否や、俺は銃鬼を取り出し、脳天をぶち抜こうとした。
「頭、ぶっ飛んでんぜ。」
 強烈な衝撃、多分腹部を思いっきり蹴飛ばされたんだと思う。
 が、「見えない。」
 俺は吹き飛ばされ、砂の上を何度もバウンドすると、背中に硬い岩が突き刺さる。
「ぐあ"。」
 言葉に出来ないほどの鈍痛。
「ストライーク。イケナイ虫はピンセットで止めておかないとな。」
 動けない。
 だが、視界が徐々に回復し始めている。
 頭の再生が速くなっている。
 コレも肋骨のおかげか。
---時空壊クロック・ブレイクを発動させて、右に避けろ。殺人カッターが飛んでくる---
 父の声。
 左手の銃鬼で側頭をぶち抜く。そして右側に飛んだ。
 サッ、ツーン。
 俺の左側を何かが通り過ぎる。
 そこまで来たところで視界が回復し、すかさず燠見を入れる。
「上善如水…か。トライドランの一番の強みは、その柔軟性にある。」
 攻防一体のその能力をどう攻略するか、俺は奴の攻撃を目で追いながら、頭の中ではそのことばかり考えていた。
 そして、何より厄介なのは……
---慎二、かがめっ!! ---
 擦れた傷口から血が噴き出る。
 明らかに異常な量。
 血液量の低下により、貧血を起こす。
 時空壊が解けかけた。
 俺にも奴にも「水」が流れているということだ。
"水の刃にも能力が練り込まれているのかッ"
 目眩、貧血のせいだ。
 その一瞬の隙を突き、奴が俺の懐に潜り込んでくる。
 奴は俺の心臓を狙っていた。
 右手に握られているのは……
 得体の知れないモノであるが、それが何であるかは理解出来た。
 聖なる灰。
 聞いたことある。
 グランディルの聖たちが十年間かけて編み上げた究極の対魔粉塵。
 俺を存在ごと消すつもりか?
「なぁ台与鬼子さんよ。俺の兄貴はお前に消される前、どんな気持ちだったんだろうな。」
"知るかそんなこと!! "
 少なくとも、今の俺の心境とは真逆のものだ。
 俺は恐怖の最中で知恵を絞り出した。
「水に触れてはならないというのなら……」
 俺は流れくる長い走馬灯の中で、打開策を捻り出そうとしていた。
 聖が村にやって来て、母さんを犯した聖どもを皆殺しにしてから、山賊を血の海に還え、亀田の件で謹慎し、凛月と契約して、初めて出したロンギヌスrail・gunそしてそして、得美士遠征……
 奴は雷が効かなかった。ゴムだったから。
 そして俺は……
 思い出せ、あの時の感覚を。
 身体中を駆け巡った電流を。
 物質同士の共振を、あふれんばかりのジュール熱を。
---稲妻爆炎ライトニング・エクスプロージョン---
 俺の来ていた軍服が燃え上がり消える。
 身体が熱い。
 血が焼けそうだ。
 灰が焼けて無くなる。
 トライドランから大量の水が放たれる。
「なんだなんだ? なんなんだよお前は? お前の能力はパイロキニシスじゃねえだろうが!! 」
 奴はダメ元で神聖固有魔術を放つ。
---flood最後の審判---
 この世の終わり、神の天罰。
 世界を飲み込まんとする濁流が俺に襲いかかる。
「うおおぉォォォォ。」
 雷斬に力を込める。
 等身が緋く光りはじめる。
 コレだけでは熱量が足りない。
 俺は虚数電子を裏斬に流し込む。
 虚数物質同士が擦れ合い、裏斬にも熱が生じる。
 濁流を斬り裂きながら進む。
 今度は水が再生する事は無かった。
 俺の身体に触れたところから蒸発する。
 水が触れてから蒸発するまでのわずかな間に、俺の毛細血管が操作される。
 そして、身体の中で暴れ、内出血を起こす。
 血管が破れ、血が溜まり、血流が悪くなる。
「構うなッ!! 」
 そう自分に言い聞かせて、無理矢理血液を流す。
 耳、鼻、目、弱い箇所から血が噴き出る。
 出たところから血が蒸発する。
 すぐに傷が塞がる。
 そして呪いが体を修復する。
 ようやく見つけた。
 濁流の中で、トライドランを掲げて、術を発動している術者を。
「うおおぉぉぉぉ。」
 雄叫びと共に気合いで突っ込む。
 今自分にはそれ以外に何もない。
 持っているカードも、知恵も、パワーも、
 全てが奴に負けている。
 なら。

「このバケモノめっ!!どこからそんな力を出してやがる。水は水は全部イオンを取り除いて、完全な純水なのに、なぜ、なぜ電気が通っている? 」
「なぜ、水蒸気が操作できない? 水素すら……」
「水素? 」
「コレは水素じゃない。おかしいだろ? 原子自体が変わっている? なぜ? 」
 俺はプラウドのトライドランを押し返す。
 そして最後の大技を放った。
---陽雷コ0ナ・プラズマ---
「押し切れぇ。」
 トライドランを押し切る。
 そのままあふれんばかりの熱量を噴出させる。
 核融合を起こした物質がさらに熱を発生させる。
 俺たちは濁流を突き切る。
 そして砂漠の海を焼け野原に変えた。
 炭化した、人だったモノ。
 そこから俺は傷ひとつついていない聖剣を拾い上げる。
 彼は死んでいる。
 だがセイはまた彼を蘇生するだろう。
 再び俺と対峙する事はあるだろうか、それとも……
 脳内に英雄の声が響く。
---慎二、剣を取れ、オリジナルだ---

 

 


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