神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
75 / 145
拾弍ノ劔

父親

しおりを挟む
「オリジナル? なんだそれは? 」
 俺は満身創痍の身体で裏斬を構えた。
---俺だ、来たぞ。決して背を向けるな---
「俺だ。」
 その言葉が何を意味しているのかしばらくの間分からなかった。
 北から砂煙を上げてこちらに何かが迫って来ている。
 それは一瞬で俺の前に出てくると、チャクラム、それに鎖で繋がれた小太刀を構えた。
「なんでアンタが、俺の凛月を。」
「コレはお前のじゃない。もともと俺の魔具だった。」
 俺は必死に彼女へ呼びかけた。
「オイ、凛月!! どういうことだ!! 」
---……---
 彼女は何も答えない。
「それは俺が友人に譲ったモノだ。なぜお前が持っている。」
 俺が今持っているモノ。さっき手に入れたトライドランのことではないだろう。
「アンタは生身の人間に、こんなものを贈っていたのか。ソイツがどうなるかぐらい分かっていただろう? なぁ!! 」
 男は凛月を構える。
「ああ、知っていたとも。糾弾するないくらでもすれば良い。」
「俺を捕まえに来たんだな。」
「違う。」
「俺の息子は死んだ。列車事故にて死んだことになっている。」
「彼を捕まえて肋骨を返してくれるなら、息子に似た、お前との身の保証は約束しようと。坂上にそう言われた。」
 坂上は、上手い話を餌に、俺を極東に連れ戻そうとしている。
 あとは洗脳するなり、処刑するなり、彼の掌で踊らされるだけだ。
 それを一番知っているのはこの男ではないのか?
「本気で? 本気であの男の言葉を信じているのか? 散々奴に騙されて来たアンタが。」
 男の目から涙が溢れる。
「分かってくれ慎二。もう俺にはお前しか残っていない。美鬼も死んでしまった。俺が優柔不断だったからだ。最初から割り切っておけばよかった。グランディルの人々を切り捨てておけば、美鬼も、お前も、こんなことになるはずは無かったんだ。」
 死んだはずの父親との再会。
 が、今目の前にいるのは、父親でもなく、英雄でもなく、ただの腰抜けだ。
「オイ、さっきから黙っていて!! なんとか言ったらどうなんだ凛月!! 俺はお前にも話しかけている。全部知ってたんだろ? 父さんが生きていたということも。」
---……---
 凛月は何も答えない。もしかしたら俺の声が聞こえていないのかも知れない。
 そうだ。俺と奴はもう契約者と魔具の関係ではない。
 今は敵同士だ。
「慎二、俺はどこで間違えたんだろうか? なぜこんな形で再会しなければならなかったのか? 」
「俺に聞くな!! クソ親父!! 」
 俺は銃鬼で脳天をぶち抜くと、父親に斬りかかった。
 上段からの振りかぶり、
 手首を掴まれ、攻撃が止まる。
"なんだ、今のは……動きが見えなかった。"
 親父がそのまま俺を持ち上げ、振り回すので、視界がグラングランと揺れる。
 投げ飛ばされた。
 素早く天の地を理解すると、態勢を立て直す。それよりも早く、何かがこちらに走ってくる。
 ここは砂漠だ。常人が、なんの身体強化も使っていない生身の人間ができる芸道では無い。
 それより、俺は今、心拍数を極限にまで上げているのだぞ。
 俺は身体を回転させながら、凛月の迎撃を交わした。
 背後の岩肌に気付き、それを交わすと、雷斬で斬り裂き、奴への牽制に使おうとした。
 慎二郎が一瞬光ったかと思うと、岩の破片は、砂のように砕け散った。
 彼はまだ止まらない。
 自分で投げ飛ばしたモノに、敏捷力で追いつこうとしている。
 オセアニア大陸の南側は……ここより地盤がしっかりした乾燥帯だ!! 
 砂漠で能力を十二分に発揮できないから、俺をそこまで追いやるつもりか!!
 なら俺もされるがままではいけない。
 身体を捻り出し、なんとか方向転換する。
 オセアニア大陸は横に長い。
 南、もしくは北に逃げない限り、この砂漠は永遠と続いている。
 俺は地に足をつけると、背を向けず、バックステップで奴から距離を取る。
 慎二郎は凛月を鞭のように振るい、俺に攻撃してくる。
 絡みついてくるような嫌な攻撃だ。
 まるで小太刀が生きているようである。
 ついに彼が俺に追いつく。
 太刀筋が見えないので、ほぼ勘でその攻撃を避けていた。
 というか、それが普通なのだ。
 相手の動きを読むこと。
 俺は身体強化ができることを良いことに、そのタスクを怠っていた。
 そのツケが今自分に回って来ている。
 一度でも触られたら終わりだ。
 そんな恐怖が俺を襲っている。
 それから、百か百十、俺の雷斬が音を立てて砕け散る。
 そして裏斬は彼の小太刀によって弾き飛ばされた。
 俺はダメ元で銃鬼を取り出そうとする。
 終わるのか、俺はッ
「ユグドラシル!! 」
 バックドアが……開いたのだろう。
 俺は気がつくとユグドラシルの根で倒れていた。
 牡丹が俺を助けてくれたのだろう。
 ドアが凹んでいる。
 ドンッ ドンッ という大きな金属音と共に、扉が軋み始める。
 俺はその光景に恐怖すら感じた。
 ユグドラシルの座標が切り替わり、バックドアが切断される。
 それと同時に、軋んでいたドアは静かになった。
 俺は息を荒げている牡丹を見た。
「すまん。迷惑かけちまったみたいだ。」
 彼女は力無く笑った。
「良かったよ慎二が無事で。」
 そこにMがやって来た。
「君の父親はどうやら生きていたようだな。」
 
「良かった。」

「良かねえ。コレでまた問題が増えた。今は牡丹が上手くやってくれたが、次はもう無い。」
 そこに亜星と伊桜里がやって来る。
 俺は影の中からセルリアンブルーの光沢を放つ三叉の剣を取り出した。
「トライドラン、無事取ってこれたのね。」
 あまり良い気はしない。
 コレは俺の武器じゃないし、これには俺じゃない奴の魂が宿っている。
「どうしたの、あまり嬉しそうじゃないけど。」
「この剣は、全部終わったら奴らに返す。」
「すまん。休ませてくれ。色々なことがありすぎた。」
「剣はアルブさん持っていくネ。」
「ああ。」
 そう言って俺は自室を目指した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...