神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
77 / 145
拾弍ノ劔

神話再び

しおりを挟む
 僕は首のタグを使い、未来を予測する。
 神から貰った限りなく近い未来を予測する能力。
 バタフライ効果。
 起こりうる世界は枝葉のように無限に存在する。
 それゆえ、ここから遠ければ遠くなるほどその輪郭は薄く、淡く広がっていく。
「ぐっ。」
「どうした? 人間? 未来視それが本来のお前の能力だろ? 」
。」
 いや、その表現には誤謬があるかも知れない。
 彼女以外の全ての事象も、物理現象も見えている。
 だが僕の目は、彼女を見ることを拒んでいる。
 可視光線は彼女に吸い込まれている。
 ゆえに彼女のいる場所には巨大な虚空が出来上がっている。
 だが……
 三百六十度、全方位に黒い塊が浮かび上がる。
 それは青い絵の具の中に落とされた修正液、溶液の中の試験紙だ。
 直接見ていなければ、脳に負荷がかかることは少ない。
---確認の槍カシウス---
 セイのロンギヌスに似た攻撃。
 僕は大きく跳躍し、攻撃を避ける。
「流石代行者様というところかしら。人間の中でもタイプかも。」
「ホルマリン漬……「ダメだ。」
 アスィールは彼女の言葉を遮ったようだ。
 僕は目の前の追尾して来る槍を捌くのに精一杯だった。
 空中なので、力の使い方が難しい。
 固定されていないので、ムーブメントを計算するのが難しい。
「彼は我々の架け橋。必ず生捕にしろ。さもなくば、お前は神になれない。」
「ッ。人間如きが私に指図しやがって、顔が良いから手を貸してやったけど、飛んだ計算違いだったようね。」
「私は決して困っちゃいない。お前が裏切れば、台与鬼子を引き入れるまでだ。」
「生意気ねッ。王の分際でぇ。」
 溢れんばかりの虚空。
 視界が深い闇に染まり、脳が割れそうになる。
 僕は慌てて未来視を切ると、一目散に逃げ出した。
"これはヤバいのが来る。辺り一体の未来がまるで見えなかった。"
 空間ごと干渉するつもりだ。
---雷神砲ライジンホウ---
 彼女の錫杖から、高エネルギー体が放出される。
---dimension fortress障壁---
 次元を斬り、ここでは無いどこかに、高エネルギーを放出させる。
 どこかで星が一つ消えたかも知れない。
 だが、それに気がついた時にはもう、ジゲンキリが発動していた。
 考える暇すら無かった。
 咄嗟に思いついた方法がそれだけだったのだ。
「お前はッ。お前らの国民がどうなってもよかったのか? 」
 ハムサに言葉をぶつける。
「うっせえんだよ。虫ケラ一匹二匹死んだぐらいで。それが世界にどう影響を及ぼすっていうのよ。」
「現に!! オマエ!! 雷神砲から人間を守るために、ここではない関係のない生物を犠牲にしたのよ。結局オマエは自分が一番可愛いのよ。目の前の人間を見殺しにしたくないがために、第三者をの。」
「お前は支配者としての、強大な力を持つものとしての自覚が足りないわ。」
 アスィールが彼女を宥める。
「おい、ハムサ。彼はまだ十八だ。辞めてくれ。三百越えのババアがたかが二十年生きただけの若造に説教なんて……ハタから見ていて恥ずかしいよ。」
「顔だけが取り柄のくせにデカい口叩くんじゃねえぞ。」
        「……この面食いめ。」
 彼女は錫杖を振る。
「あームカつくなぁどいつもコイツも。神の私に向かって御託を並べやがって。」
 彼女は光の速さで移動すると、僕に槍を突き立てて来る。
---雷閃ー百連突きライセン・ヒャクレンツキ---
 僕はアルテマを使い、空中に岩石を浮かべると、吸血牙の空間転移で後ろに逃げる。
 僕の後を、迸る一閃の流星が追いかける。
 下からカシウスが飛んでくる。
 意図的に空中へと押し上げられている。
 空中戦で動きが鈍くなることがバレている。
 空間転移だけでは捌ききれない。
 そうだ。
 脳の処理速度を上げなければ。
 どうやって?
 彼みたいに心臓を弄ることは出来ない。
 時間を引き伸ばす。
 どうやって?
 重力、重力を使って時間を引き伸ばす。
 練り上げろ、イメージを。
 体内時計時計を弄り回すイメージ。
 僕は聖剣に導かれ、アルテマを左手に突き刺した。
 時間が止まる。
 そこに気だるい小さな少女が現れた。
「おはよう。ドミニクは……そうか悪気は無いよ。ただ。眠かった。だから寝てただけ。君が新しい代行者? 僕のご主人様? あー適当にやってて。ドミニクの時もそうだったからさ。なんでって? 別に。君が望むなら。」

  「私の力、貸してやるよ。」

---Gravity Timezグラビティ・タイムズ---
 時間がゆっくりと動き始める。
 彼女の攻撃に無理矢理ジゲンキリを割り込ませると、攻撃を強制終了させる。
 そして、肘で彼女を吹き飛ばす。
 重い腕を思いっきり振り切ると、溜まったベクトルが彼女の腹部にクリーンヒットする。
 吸血牙の能力を使い、彼女の近くに再びワープすると、今度は回し蹴り、移動してからアルテマで斬り裂き、ジゲンキリで突く。
 彼女が母なる大地へ接吻する前に、アルテマの力を解放する。
---rock stoicロック・ストイック---
 地面から巨大な岩の柱が出来上がる。
 それがハムサの胸を貫いた。
「自惚れるなよ。」
 世界にヒビが入り、世界が割れる。
 同じ次元に立ったハムサが僕の腹に槍を突き刺してきた。
 身体の灰化が始まる。
 僕は慌ててそれを引き抜くと、彼女と距離を取ろうとした。
---虚空ー雷嵐ホロウテンペスト---
 雷見に纏い、高速で移動する彼女が僕を追っている。
 僕はセル帝国から十二分に距離が取れたことを確認すると、最後の大技を放った。
---void erasureトル・ツメ---
 僕とハムサの間の空間が切り抜かれる。
---release spaceマテリアル・グランド・バースト---
 空間内に、詰め込めるだけの大地を詰め込んだ。
 そしてそれを近距離でハムサに浴びせる。
---風神雷神砲双極・神風---
 彼女の錫杖と槍から雷と嵐がそれぞれ放出される。
 

_    _     _   _   _  _ _ ________気がつくと僕は宇宙に飛ばされていた。

 息ができない。
 意識が遠のく。
 息をすると肺が凍りそうだ。
 ハムサが僕に手を伸ばしている。
 戦わなきゃ。
 戦え!!
 戦……


      * * *

「私は生捕にしろと言ったが、仮死状態にしろとは言ってない。真空ジップなんて酷いじゃないか。動物愛護団体に訴えるぞ。」
 ハムサはため息をついた。
「こうでもしなきゃコイツを捕らえられないわ。でもどうせコイツ、数時間すれば生き返るんでしょ。定期的に殺してないと危ないわよコイツ。」
「国から距離を取らずに、至近距離でアレをやっていれば、私を殺せたでしょうに。甘い男ねコイツは。」
 アスィールは意地悪く笑った。
「それも彼なりの答えじゃないか。君に対する。」
「私、分かんないわよ。人の痛みとか。」
 アスィールも答えた。
「私もそうだ。痛みを知らぬ者に、人の痛みを分かち合うことは出来ない。」
「それ故に今回の代行者は……」
「王に向いてないわコイツは。精神的にも人格的にも。」
「僕は好きだぞ。青臭い思想が無くなれば、多少はいい支配者になるんじゃないか? 」
「ふん、気持ち悪い。馴れ合いなら他所でやってくれるかしら。」

 
 
 
 
 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】 気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。 大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。 魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。 しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、 気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。 王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。 「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」 異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、 悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。 笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!

【完結】エレクトラの婚約者

buchi
恋愛
しっかり者だが自己評価低めのエレクトラ。婚約相手は年下の美少年。迷うわー エレクトラは、平凡な伯爵令嬢。 父の再婚で家に乗り込んできた義母と義姉たちにいいようにあしらわれ、困り果てていた。 そこへ父がエレクトラに縁談を持ち込むが、二歳年下の少年で爵位もなければ金持ちでもない。 エレクトラは悩むが、義母は借金のカタにエレクトラに別な縁談を押し付けてきた。 もう自立するわ!とエレクトラは親友の王弟殿下の娘の侍女になろうと決意を固めるが…… 11万字とちょっと長め。 謙虚過ぎる性格のエレクトラと、優しいけど訳アリの高貴な三人の女友達、実は執着強めの天才肌の婚約予定者、扱いに困る義母と義姉が出てきます。暇つぶしにどうぞ。 タグにざまぁが付いていますが、義母や義姉たちが命に別状があったり、とことんひどいことになるザマァではないです。 まあ、そうなるよね〜みたいな因果応報的なざまぁです。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...