神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

苦悩

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 あれから俺は、シャワーも浴びずに自室へ引きこもった。
 ずっと考えていた。
 俺がしてきたこの八年間はなんだったのか。
 本当に正しいことだったのか。
 聖に村を焼かれたこと、母が犯され、殺されたこと。
 だが父はドミニクに殺されていなかったし、七宝に殺されてすら無かった。
 いや、父があんな風になってしまった分、まだ殺されていた方がマシだったかも知れない。
 そしてこれからのことだ。
 父とどう対話するか?
 どう戦うか?
 まるで道筋が見えない。
 絶望したわけでも、自分の行いに悔いている訳でもない。
 ただ、この八年間を生き抜いて分かったことは、復讐などというものはただただ無意味なモノで、自分も、歴史の渦の一部に飲まれていただけだという恐ろしくも壮大な世界の真実である。
 これからどうする?
 もし神を殺し、世界を変えたとしても、またその上に壮大な世界が広がっているとして、その自分の行為も、歴史の渦の一部分に過ぎなかったら……
 その時に起こることは、外の世界の人間との争いだろう。
 自分達が支配していた下等生物が牙剥いた罰だ。それが俺だけでなく、ここの世界の人間全てに降りかかる。
 というのは考え過ぎか。
 今はこの教訓を噛み締めて、目的を遂行するだけだ。
 まずは残のクラウソラスを見つけなくてはならない。
 ブレイブ・ブレイク。
 流石にカーミラたちも警戒してくることだろう。
 奴らも馬鹿ではない。
 仮に俺がトライドランと契約出来たとして、俺に神族が倒せるだろうか?
---英雄とは世界をあるべき姿に戻すためのシステム。もちろん神族も例外ではない---
 父の声。
 俺はくすみ上がった。
「わぁぉぁぁぁぁぁ。」
---デカい声を上げるな。オリジナルではない俺だ---
「アンタの声は今聞きたくない。」
---どーした慎二? 反抗期かのぉ? ---
 嘲笑のこもった声が銃鬼から聞こえてくる。
---いつまで過去に囚われている---
 その通りだった。
 俺は過去を捨てると決めた。
 だが未だに過去を捨てきれていない自分がいた。
「うっせえな。分かってるよそんなことは。」
---オマエに悩んでいる時間などない。オリジナルは悩み悩んだ末、中途半端な人生を終えた。そして今は死んで、腐っている---
---オマエは腐らせない。自分が何者であるかを自覚しろ。他の物では出来ない。オマエにしか出来ないことがある---
「ちょっと待ってくれ!! 」
---慎二!! ---
「待てって言ってんだろ。」
 俺は銃鬼を手に取ると、自分の脳天を貫いた。
 世界が歪み、時間が薄く引き伸ばされる。
 俺は何百倍にも加速した世界で、じっくり考えることにした。
 間違えても良い。
 だけど後悔だけはしたくない。
 だから俺には時間が欲しかった。
 俺にはそんな権利などない。
 だが闇雲に進んだ先が絶望だとしても、奈落だとしても納得できるようにしておきたかった。
 そうでもしないと前に進める気がしない。
 このまま諦めてカーミラに殺させるのも良い。
 ハムサがどのような奴なのかは知らないが、神の首がすり替わったって、今より良くなる保証はない。
 それより、神が居なくなったこの世界はどうなるんだ?
 群雄割拠の時代が来るのか?
 分からない。
 だが一つだけ分かることがある。
 それはミシマッシュのみんなが俺を期待してくれていることだ。
 アジトが極東にバレたことも、アウラが七宝に盗まれたことも、糾弾するものは誰も居なかった。
 俺が奴らの中の一人だったら、俺を糾弾していたかも知れない。
 赤の他人の俺をここまで信用してくれている。
 その奴らの夢の中に出てきた蝠岡蝙とは一体どのような人物なのだろうか。
 少し興味が湧いた。
 深呼吸を始め、心拍数を整える。
 伸びた世界が再び縮み、鼓膜が破れそうになる。
 俺は世界に帰って来た。
---答えは……見つかったか? ---
「ああ、俺は英雄だ。誰かに頼まれたのなら、その期待に応えなくてはいけない。奴らは本気で俺を信じてくれている。」
---彼らの盲信にか? それはお前の意志か? 後悔するぞ---
 梯子を外された気分だ。
 だが、彼は試しているのだ。
 俺の意志に偽りがないか。
「アンタだってそうだっただろ。人を助けたいというその気持ちは自分から湧き出した物じゃない。他者から貰った物に、自分の魂が宿った。そうだったんじゃないか? 」
---……そうだ。右も左も分からない俺に、人格と名前をくれたのは剣城と皇帝の天---
「決まりだな。鬼影、それで良いな。」
---投げ出したくなったら、俺に丸投げしても良いんだぜ。慎二郎は俺がちゃんと食ってやるからよ---

---オイオイ、冗談だ。お前との制約、忘れた訳じゃねえぜ---
 俺は立ち上がり、備品の確認をしている亜星の元に出向いた。
 が「汗臭い。」という感想を貰い、また風呂に入ることになる。
「めんどくせえな。」
「戦ったら風呂、戦ったら風呂。一日に何回入らないといけねえんだ。」
 そこに牡丹が入ってくる。
「やっ。慎二。」
「気持ちはありがたいけど……」
「お風呂に入りたいから入りに来たんだよ。」
「アルブさんに、清潔感のない男はモテないぞ。って言われてね。」
「毎日髪の手入れやら化粧やらしている奴の気が俺には理解できないね。」
「慎二、背中洗ってあげるよ。」
「良いよガキじゃあるまいしな。それぐらい自分で。」
「まぁそう言わずに。」
「あのその、お父さんが生きてたこと、嬉しかった? 」
 どストレート。
「んん、どうだろうな。まだ分からん。が、あんな様じゃ死んでた方がマシだぜ。ちょっと殺されかけたぐらいで、極東の犬に成り下がりやがって。」
「そっか。」
「ミシマッシュは居場所を無くした人の集まりだから、家族がいるのは……Mさんぐらいじゃないかな。あの人は謎が多いし、もしかしたらあの人も一人身なのかも。」
「そうか悪かったなこんな言い方して。」
 彼女は手を振った。
「そういうことじゃないんだよ。」
「じゃあどういうことだよ。」
「多分みんな、肉親が生きているって分かったら、ミシマッシュに居られなくなってると思う。君の父さんにとっても、それぐらい君の存在が特別なんだよ。」
「散々ほったらかしてたくせに、今更なんなんだよあのクソ親父は……」
「こんな暗い話は終わり。」
 彼女は立ち上がった。
「さぁ泡を流して、湯船に浸かろうよ。」
「そうだな。」
「今日はアルブさんがアップルパイを焼いてくれてるって、夕飯の後が楽しみだね。」
「なんだ? そのアップパイって。」
「んん? それは出て来てからのお楽しみ。」
「今は、暮れ六つぐらいか? 」
「十七時だね。」
「なんか夕方って感じがしねえな。一日中日が照ってるからよ。」
「あれはね。ユグドラシルのじ………



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